食事はクラス別々だったが、風呂は二クラスずつ合同で使う事になっており、千冬たちは鈴と合流した。
「なんだ、一夏さんが怒鳴ってたから何事かと思ったわよ」
「あの時はラウラさんが椅子に座ったまま直立不動になってしまい、少し焦りましたわ」
「一夏教官に怒鳴られると、ついつい背筋を伸ばしてしまうんだ」
過去に一夏に指導してもらった事があるラウラは、一夏の言葉に逆らう事は絶対にしないと誓っており、また彼が怒っている時は、背筋を伸ばして黙って聞く事に徹する事にしているのだった。
「それで、千冬と箒は何で怒られたのよ」
「少し大声を出し過ぎたようで、一夏兄に注意されただけだ。怒られてはいない」
「あれで怒られてないって言えるんだから、怒った織斑先生はどれだけ怖いんだろう?」
少し興味がありそうな感じのシャルロットに、ラウラがものすごい速度で詰め寄り肩を揺すった。
「一夏教官を怒らせるな! 死人が出てもおかしくないぞ!」
「ら、ラウラ? いったいどうしたのさ?」
「はっ! す、すまない……昔仲間が怒られた時、そのまま死んでしまうのではないかと思ったから」
「何があったの?」
「戦場で独断で敵地に突っ込み、仲間を危険に曝したやつがいてな」
「なるほど、それで一夏兄が怒ったわけか」
「一夏さんは仲間想いだからな。一人で危険に巻き込まれるならともかく、仲間を巻き込んだとなると本気で怒っただろう」
ラウラの話の途中で、千冬と箒が納得したように頷く。説明の手間が省けたラウラは、二人に感謝して湯船に消えていった。
「よっぽど話したくなかったんだろうな」
「一夏さんの本気の説教は、トラウマになってもおかしくはないレベルだからな」
「そうよね……私たちもこっ酷く怒られた事があるもの」
「と、とにかく織斑先生を怒らせてはいけない、という事は分かりましたわ」
「ボク、良い生徒でいようって思ったよ」
軍人であるラウラや、セシリアたちから見れば人外である千冬や箒が恐れるのだから、自分たちが怒られたら恐らく無事ではいられないだろうと感じた二人は、心に強く誓ったのだった。
「それにしても、箒は何を食べればそんなに成長したのよ」
「ど、何処を見ているっ!?」
「あによ。女同士なんだから隠す事ないじゃないの」
「ボクもそれなりに成長してるって思ってたけど、箒やセシリアのを見ると自信なくすなぁ」
「シャルロットで自信を無くしてたら、鈴など消え去ってしまうではないか」
「千冬、それはあたしに喧嘩を売ってんのよね? 今なら安く買いたたいてあげるわよ?」
「あんまり騒ぐと、後で織斑先生に怒られるよ?」
シャルロットとしては何気なく放った一言だったのだが、千冬と鈴には効果抜群だったようで、二人はその場で動かなくなった。
「成長速度は人それぞれだもんね」
「女の価値は胸だけじゃない」
「あ、あれ?」
「それだけ織斑先生に怒られるという事が恐ろしいのでしょうね……シャルロットさんのお陰で静かになりましたわよ」
「ぼ、ボクのお陰……なの?」
シャルロットは別に、喧嘩を止めようとか思っていたわけではないので、セシリアに褒められてもイマイチ実感が持てなかった。
「というか、女風呂の事を織斑先生が知りようがないと思うんだけど」
「誰かが報告したり、山田先生が聞き耳を立てているかもしれないだろうが」
「それ以前に、ウチの姉さんが衛星を使って覗き見してるかもしれないし」
「あり得そうで嫌なんだが……」
「篠ノ之博士のイメージが、今日だけで大きく変わったよ……」
「お会いしてみたいと思っていましたが、お二人の話を聞く限り、お会いしてもお話できそうではありませんしね」
「というか、話そうとした時点でゴミを見るような目を向けられると思うぞ?」
「あの人は他人を認識しないからな」
何だか重くなった空気を、鈴が無理に明るくしようと立ち上がった。
「千冬、箒。後であたしの部屋に来なさいよね」
「何故だ?」
「何故って、ビーチバレーの罰ゲームよ! あたしをマッサージしてくれるんでしょ」
「あぁ、そうだったな」
「飛び上がるほど痛いマッサージをしてやろうじゃないか」
「……普通の痛くないマッサージは出来ないわけ?」
「あぁ、出来ない」
「そもそも、それ以外のマッサージなど知らないからな、私たちは」
「鈴さん、ご無事を祈ってますわ」
「人を勝手に殺そうとするな!」
既に死が決定しているような雰囲気のセシリアとシャルロットにツッコミを入れたが、鈴自身も無事に朝日を拝めるのかと不安になっているのだ。
「ちょっとは加減しなさいよね?」
「加減したら効果なくなるだろうが」
「安心しろ。かなり痛いが、死にはしないから」
「安心出来ないから言ってるのよ!」
無理に話題変更を試みなければよかったと、鈴は心底後悔したのだった。
死ななければOKじゃないだろ……