旅行へ向かうバスの中では、クラスメイト達が楽しみと不安が入り混じったような感情でお喋りをしている。
「何でもう少し痩せられなかったんだろう」
「あれだけお菓子とか食べてたら痩せるわけ無いじゃないの」
「ホントホント! というか、絶対痩せる! とか言ってたのに意志が弱いよね~」
「何よ!? 貴女たちだって大差ないじゃないのよ!」
「うっ……それを言われるとなぁ……」
あちこちで悲鳴が上がる中、千冬と箒は何故そんなに痩せようとしているのかが分からず首を傾げていた。
「なぁ箒。最近はダイエットブームなのか?」
「私が知るわけないだろ」
「まぁ、私と箒とじゃ、交友関係殆ど変わらないからな……なぁシャルロット」
「えっとね、ボクも良く分からないんだけど、女子は水着になる時、少しでも痩せたいって思うみたいだよ」
「普段から節制していれば、それほど太らないだろ?」
「千冬や箒はそれが出来るんだろうけども、普通の女子は甘い物の誘惑に勝てないものだって、セシリアが言ってたのを聞いたんだよ」
「ちょっと、シャルロットさん!? 私は別に太ってなどいませんわよ!?」
「私は余分な脂肪がつかないようになっているから、ダイエットなどしたことがないな」
堂々と言い放ったラウラに、クラスメイトから視線の集中砲火が浴びせられ、ラウラは視線の意味が分からず怯えながらシャルロットの陰に隠れる。
「な、なんだというんだ……」
「ラウラの発言が自慢に聞こえたんだと思うよ?」
「自慢して意味があるのか? 余分な脂肪がつかないという事は、胸がこれ以上成長しないと言っているようなものだぞ」
「でも、ラウラって触るとぷにぷにしてて気持ちいいんだよね」
「なっ! 止めろ、シャルロット!」
同室だから普段から触ったことがあるのだろうと、千冬と箒も好奇心からラウラの頬っぺたに指を突き立てた。
「確かに、適度に柔らかく、これは癖になるな」
「突き立ての餅みたいで気持ちが良いな」
「何故千冬と箒までっ!?」
「では、私も触らせていただきましょう」
「セシリアまで、ちょっとやめろ!?」
四人に突っつかれて、ラウラは割かし本気で困っている様子だが、誰も助けてはくれなかった。
「お前たち、旅行ではしゃぐのは仕方ないが、少しは静かに出来ないのか。念のために言っておくが、一応学校行事であるという事を忘れるな」
「も、申し訳ございませんでしたわ!」
「ゴメンなさい、織斑先生……」
「「すみませんでした」」
「ボーデヴィッヒも、本気で抵抗すれば抜け出せただろうが」
「怪我をさせる恐れがあったものでして……」
「今回は注意だけで済ますが、次同じような事をすれば、容赦なく岩場で正座させるからな」
一夏が冗談で言っているわけではないと理解した五人は、もう一度深々と頭を下げた。
「一夏さんが来るとは予想外だった……」
「担任だからバスにいるのは当然だが、一番後ろまで叱りにくるとは思ってなかった……」
「織斑先生に怒られるなんて……」
「怖かったですわ……」
「何だ? 教官は随分と加減してくれていたというのに、セシリアとシャルロットはあの程度でも怯えたのか」
「一夏兄が本気で怒ったら、このバスの窓ガラスすべてが怒気で割れていただろうな」
千冬の発言に、箒とラウラは首を縦に振って同意し、セシリアとシャルロットは驚き過ぎて固まってしまった。
「おーい?」
「駄目だ、完全にフリーズしている」
「叩けば直るんじゃないか?」
「そんな昔の電子機器じゃないんだから」
「じゃあくすぐってみるか」
ラウラがシャルロットとセシリアの脇をくすぐると、漸く二人は反応を見せた。
「そんなに驚く事か?」
「お、驚くに決まってるじゃないか! 怒気で窓ガラスが割れるなんて、マンガじゃないんだから」
「一夏教官ならそれくらいは可能だと思わないのか? あの人は生身でISの攻撃を凌げるんだぞ」
「それもどうかと思いますが、私やシャルロットさんは、織斑先生との付き合いが長いわけではありませんので」
「昔姉さんが一夏さんを本気で怒らせて、ラボの機械を全て怒気で壊されたと聞いたことがあるから、窓ガラスくらいは簡単なんじゃないか?」
「お、織斑先生って人間だよね?」
「? 何当たり前のことを聞いているんだ? 何処からどう見ても人間だろうが」
「いや、話を聞けば聞くほど、人間じゃないんじゃないかって思えてきたからさ……」
「確かに、本気で怒った時は鬼なんじゃないかって思う時もあるが、普段はどう見ても人間だろうが」
「うん、そうだよね……たまに胃が痛そうにしてるし」
とりあえずそれで自分を納得させることにしたシャルロットは、一夏が座っている席に視線を向け、一夏が呆れたような視線を自分たちに向けている事に気が付き、慌てて一礼して視線を逸らしたのだった。
ラウラのほっぺ、ぷにぷにしてみたい