外出の許可を貰い、千冬たちは来る臨海学校に向けて水着を買いに来ていた。
「何故わざわざ新しい水着を買わなければいけないんだ? 学校指定の水着があるだろうが」
「ラウラ、あの水着は学校以外で着たら目立っちゃうんだよ?」
「そうなのか? とある情報筋からは、大変喜ばれると言われたんだが」
「一部マニアさんたちには喜ばれるかもね」
最近ラウラの扱いに長けてきているシャルロットに対応を任せ、千冬たちは水着売り場へ向かう。
「そういえば千冬さん」
「何だ?」
「臨海学校にはその、織斑先生もいらっしゃるんですよね?」
「当然だろ? 一夏兄は私たちの担任であり、学年主任でもあるんだから」
「なにー? セシリア、一夏さんに水着を見てもらいたいわけー?」
「そ、そんなことありませんわ!」
「慌てて否定するところが怪しいな~。千冬、問い詰めたら?」
鈴の悪い顔を見て、千冬はため息を吐いて頭を振る。学園内なら問い詰めたかもしれないが、外の世界で問題を起こせば、一夏に怒られると理解しているので自重したんだろうと箒は思ったが、どうやら違ったようだった。
「一夏兄に水着を見てもらいたいという気持ちは、私も分かるからな。それに、セシリア程度の色気で一夏兄を籠絡出来るなら、とっくの昔に束さんが籠絡してただろうから気にするまでもない」
「随分と酷い言い草だね」
簪のツッコミに、セシリアとシャルロットが頷いて同意したが、他のメンバーは千冬の言い分に納得して頷いていた。
「少し気になるんだけど、一夏さんの女性の好みってどんななの?」
「……そう改めて聞かれると、私も知らないな」
「一夏さんは学生の頃から忙しくしてたから、親しい女子なんて殆どいなかったらしいし、その後はISの世界で尊敬される人になってしまったから、ますます女性と付き合う事なんて出来なくなってたからな……まぁ、原因の殆どはウチの姉さんなんだが」
「束さんに付き合ってた所為で、一夏兄も『変人扱い』されてたからな」
「その点に関しては、妹の私から一夏さんに謝った事があるんだ」
箒の告白に、千冬以外のメンバーも興味を示した。
「だけど一夏さんは『箒が謝ることはない』って言って頭を撫でてくれたんだ」
「そんなエピソード、私は知らないぞ? というか、いつの間に一夏兄に取り入ってたんだ、お前は」
「一夏さんは姉さんのように扱われるべき人ではないと思っただけだ。というか、姉さんの相手を押し付けていた負い目もあったから謝ったんだ」
「……まぁ、実の家族であるお前や師匠たちも、束さんの扱いには困ってたからな」
「篠ノ之博士のイメージって、何でも完璧にやるって感じだったんだけど、千冬や箒と知り合ってからは、そのイメージが音を立てて崩れ去ったよ……」
「一夏さん曰く『そんなイメージは幻想でしかない』らしいしね」
「そもそも束さんは、出来ない事の方が多いぞ」
束の実態を知っている千冬からすれば、何処をどう見ればそんな幻想を懐けるのかと首を傾げるのだが、実態を知らない人間からすれば、束の本当の姿を聞かされても簡単に受け入れられはしないのだ。
「そもそもっていうけど、あたしたちからすれば、そもそもの篠ノ之博士なんて知りようがないのよ」
「あの人は世間に興味なんてないからな」
「一夏教官もあまり世間には興味なさそうだがな」
「一夏兄もほとんど興味はないだろうが、束さんのようにまったくないわけではないぞ。一夏兄だって、落ちついて生活出来るのなら、世間一般で生活したいだろうし」
「まぁ、無理でしょうけどね……あの『織斑一夏』が世間に出たら、あっという間に女性に囲まれるのがオチでしょうし」
「織斑先生、実績も凄いけど見た目もカッコいいからね……恐れ多くてボクはお近づきになりたいと思えないけど」
「しかも一夏さんは家事スキルも高いからね……女子として凹むくらい」
「一夏兄と張り合おうとした鈴が悪いんだろ? 一夏兄の家事歴は鈴と比べ物にならないくらいだと先に言っておいたのに」
小学生の頃、料理を始めたばかりの鈴が一夏に料理勝負を挑んだことがあり、手を抜いた方が良いか千冬に尋ねた一夏だったのだが、千冬が全力で叩き潰した方が鈴の為になると言ったために、本当に全力で鈴を叩き潰したのだ。
「まぁ、あの時のお陰で、もっと精進しようって思えたんだけどね」
「でしたら私も織斑先生に料理対決で負ければ――」
「セッシーのは無駄じゃないかな~? さすがの私でもセッシーの料理は食べれないし~」
「あれは酷かったわよね……」
「レーションよりマズいものがあるとは知らなかったぞ」
「な、なんですの皆さん!?」
自分の料理の酷さを自覚していないセシリアは、寄ってたかって酷評するメンバーに驚いた表情を向けるが、千冬たちも無言で頷いているのを見て絶句したのだった。
ラウラのセリフが一番ひどいかも