IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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またしても奴らが……


入学理由

 簪の部屋にやってきた千冬と箒は、ベッドに倒れている着ぐるみを見て首を傾げた。

 

「簪は抱き枕を使ってるのか?」

 

「それ、本音だよ」

 

「本音? 微動だにしないんだが、どうしたんだ?」

 

 

 気になって突いてみたが、本音はびくともせず眠っている。生きているのか心配になるくらいの熟睡で、千冬と箒は勉強どころではなくなっていた。

 

「本音は一回寝ると長いからね……でもご飯の時間になれば起きるから、それまでは放っておいて良いよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「それで、課題で分からないところがあるんでしょ? 早く終わらせないと食堂もしまっちゃうし、お風呂も入れなくなっちゃうよ」

 

「そうだな。早速で悪いが、いろいろと教えてくれ」

 

「別にそんなに恐縮する必要は無いよ。私だって復習になるんだから」

 

 

 そういいながら簪は二人の課題に目を通し、分かり易く解説しながらも、答えまでは教えずに二人に解かせていくのだった。

 

「実に分かり易い解説だな。簪は教師に向いているのかもしれないな」

 

「そうかな? でも、これくらいなら授業を聞いてれば何とかなると思うけど」

 

「私と千冬はISの前知識が無く入学したから、授業についていくことが難しいんだ。それを見かねて一夏さんがこうして課題を出して補習の代わりにしてくれてるんだが、どうにも難しくてな……」

 

「一夏兄や束さんと比べられるのが嫌で、長い間ISの事に触れようともしなかったのが仇となったんだ」

 

「じゃあ何でIS学園を受験したの? 普通の高校に行けば、こんな苦労しなくても良かったんじゃない?」

 

「普通の勉強も絶望的だったからな……多少成績が悪くても何とかなるという噂を日本政府から聞かされて、それを信じて入学してみたらこれだったんだ」

 

「まぁ、織斑先生がいなかったら何とかなってたかもしれないけど、政府の人は織斑先生がいる事を知ってるはずなんだけど」

 

 

 IS界の重鎮の身内を留年させるような猛者が一夏以外にいるわけ無いと簪も思っているが、その一夏がここにはいるのだから、政府の人間の言葉は最初っから嘘だったのだと感じていた。もしかしたら、自分の専用機の目途が立ってなかったので、二人を入学させて束に専用機を用意させようとしたのではないかと邪推する。

 

「簪、何考えているのかは分からないが、そんな難しい顔してたら眉間に皺が寄ったままになるぞ」

 

「えっ? あぁ、ゴメン……ちょっと日本政府の考えを自分なりに考えてたんだけど、どうしても悪い方にしか考えられなくて……」

 

「あの無能たちが何を考えているか、私たちに分かるわけないだろ……たぶん、一夏兄でも分からないだろうし、分かろうともしないだろうな」

 

「一夏さんはマスコミと政治家が大嫌いだからな」

 

「それは聞いたことがある」

 

 

 もちろん、しっかりと働いている相手には敬意を払っているのだが、無能なのを隠そうと周りの所為にしている偽物には徹底して嫌悪感を向け、相手にする事はしないのだ。

 

「ウチのお姉ちゃんも似たようなものだし」

 

「たぶん、一夏さんの影響を受けてるんだろうな。簪の姉さんは、元日本代表候補生だったんだろ?」

 

「そうだよ。日本で織斑先生の指導を受けて、その後自由国籍でロシアの代表になったんだ」

 

「一夏兄が現役だった頃なら、簪のお姉さんもまだ小学生くらいだったろうから、一夏兄の影響を受けていても不思議ではないだろう」

 

「まぁ、お姉ちゃんは織斑先生を心の底から尊敬してるからね。その織斑先生が嫌いな相手を、お姉ちゃんが好きになるとは思えないよ」

 

「それだけ一夏兄の影響力が強いという事だろう。私や箒もマスコミや政治家は好かんからな」

 

 

 昔から一夏や束を見て育ったという事もあるが、自分たちの事を面白半分で採り上げようとしていた記者に出会ってからますます二人のマスコミ嫌いに拍車がかかったのだ。

 

「とにかく、ここで生活していればマスコミに囲まれる事もないし、一夏兄といつでも会えるしということでそのまま通ってるんだ」

 

「まぁ、このままだと通い続けられるか微妙だがな……」

 

「それを言うな……考えないようにしてるんだから」

 

「考えておかないとマズいと思うけど……」

 

 

 簪が二人に同情しながらも少し焦った方が良いんじゃないかという視線を向けたタイミングで、微動だにしなかった本音が目を覚まし立ち上がった。

 

「ほえ? 何でシノノンとおりむ~がいるの?」

 

「勉強を教えてたんだよ。それよりも、どうしたの?」

 

「そろそろご飯の時間なのだ~!」

 

「あぁ、もうそんな時間なんだ」

 

 

 時計に目をやりだいぶ時間が経っていた事に気付いた簪は、納得したように一度頷いてから千冬と箒に視線を戻した。

 

「残りは今までの応用問題だから、部屋でも出来ると思うよ」

 

「そうか、助かったぞ」

 

「それじゃあ私たちも一度部屋に戻ってから食堂に向かうとするか」

 

 

 課題に目途が立った事でホッとした二人は、簪に頭を下げてから部屋に戻ったのだった。




IS学園に通っても勉強しなければいけないのには変わらないのに

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