IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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物騒なのは一夏か……


物騒な世の中

 一夏の手助けもあり、何とか書類の山を片付けた楯無は、会長の席で突っ伏していた。

 

「お疲れ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 

 一夏が淹れてくれたコーヒーに手を伸ばし、軽く息を吹きかけてから一口啜る。楯無はブラックでコーヒーは飲めないので、ちゃんと砂糖とミルクを入れてくれていた。

 

「やっぱり一夏さんは優しいですね」

 

「なんだいきなり」

 

「だって、ちゃんと私が飲めるようにしてくれてますし、仕事だって手伝ってくれました」

 

「あの量は消灯時間ギリギリまで作業しても終わらない可能性があったからな。いくらお前たちが優秀だと言っても、二人ではやはり限度があるだろ」

 

 

 虚にもコーヒーを手渡しながら、一夏は処理し終えた書類の山に目をやり苦笑いを浮かべる。楯無も虚も同じことを思っていたので、同じように苦笑いを浮かべながらコーヒーを啜った。

 

「布仏妹を真面目に参加させたらどうだ?」

 

「本音が真面目になるとは思えませんし、来たところで仕事を増やすだけでしょうから」

 

「この間見たが、真面目モードの時は仕事できそうな雰囲気だったが?」

 

「あれが長続きすると思いますか?」

 

「無理だろうな」

 

 

 虚に問い返されるまでもなく、一夏も長続きはしないだろうと感じていたので、即答して苦笑いの度合いを強めた。

 

「他に優秀そうな人間で部活動に参加していない人間となると、誰かいるのか?」

 

「千冬ちゃんや箒ちゃんはどうなんですか?」

 

「あの二人が事務作業に向いてると思うか?」

 

「でも、一夏先輩や篠ノ之博士の妹なわけですし、秘められた力があるかもしれないじゃないですか?」

 

「そんな力があるなら、さっさと自立してほしいものだ」

 

「やっぱり大変なんですか?」

 

 

 虚の問い掛けに、一夏は彼女を見詰め返す事しかしなかった。ジッと見つめられて恥ずかしさを覚えた虚は、その視線から逃げるように顔ごと背けたのだった。

 

「虚ちゃん、一夏先輩に見つめられて照れちゃったみたいですね」

 

「別に見つめていたわけではなく、何が大変だと思ったのかと探ってたんだが」

 

「ならそう言ってくださいよ! ジッと見つめられて恥ずかしかったんですから」

 

「悪かったな。で、何が大変だと思ったんだ?」

 

 

 まったく悪びれた様子もない一夏の態度に、虚は何か言ってやろうかとも思ったが、結局何も言わずにため息を吐いた。

 

「千冬さんと箒さんの保護者代理というのは、それだけ大変だったのかと思っただけです」

 

「まぁいろいろとあったからな……あいつらはそんな事思ってないだろうが、あいつらの所為でいろいろと面倒な事があったのは事実だ」

 

「例えば、どのような事が?」

 

「一番面倒だったことは、重要人物保護プログラムを適応させると政府が言ってきた時か。あんなものを適応されたら、あいつらの自由がなくなってしまうと政府相手に少しな」

 

「そこで止められると怖いんですけど……一夏先輩なら何でも出来るだろうからって思って、より怖さ倍増ですよ」

 

「別に法は犯してないからな? ちょっと脅しただけだ」

 

「十分怖いですよ……」

 

「それで、なんて言って脅したんですか?」

 

 

 呆れた虚とは対照的に、楯無は興味津々の様子で一夏に詰め寄る。

 

「大したことは言ってないさ。ただ束から聞いた、当時の担当者の女性遍歴と現状の浮気相手の情報を奥さんに教えると囁いただけだ」

 

「怖いですって……」

 

「というか、担当してたの男の人だったんですね」

 

「奥さんの父親の地盤を継いで議員になったのは良いが、束がISなんてものを発表してからは肩身の狭い思いをしてたらしい。そこに浮気なんてバラされたら、どうなってた事だかな」

 

「まぁ、一夏先輩なら今からでも世の中を創りかえる事が出来ると思いますけどね」

 

「誰がそんな面倒な事をするかよ。そもそも俺は、世間一般からは隔離された世界で生きてるんだ。世の中がどうなろうが知ったこっちゃない」

 

「普通の生活を送りたいとは思わないのですか?」

 

 

 虚の問い掛けに、一夏は肩を竦めて頭を振る。

 

「今更普通の生活が送れるとは思ってないさ。不本意とはいえ世界大会を連覇して、おまけに千冬を攫った連中を血祭りにあげた男だぞ、俺は」

 

「ですが、一夏先輩が優しい人だってことは、私たちは知ってます」

 

「お前たちが知っていても、世間のイメージはそうじゃないだろ? 怒らせたら殺される、とでも思われてるんじゃないのか?」

 

「それはあるかもしれませんね」

 

「おい」

 

 

 笑いながらツッコミを入れる一夏に対して、楯無も舌を出して謝罪した。

 

「一夏先輩が世界を創り直してくれれば、今の行き過ぎた女尊男卑も収まるんでしょうけど」

 

「電車などの公共の乗り物でも、女性が我が物顔で使ってるというのは聞いたが」

 

「自分からぶつかっておいて男性を痴漢として突き出す、なんて事があるらしいですしね」

 

「物騒な世の中になったものだ」

 

 

 本気でそう思ってないような感想を述べて、一夏は残っていたコーヒーを一気に飲み干したのだった。




無自覚攻略中の一夏

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