IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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忙しすぎるからな……


独り身の理由

 一夏から目を通すように言われた書類に目を通し、最後の一枚にサインをしてから、千冬と箒は自分の腕に巻きついているブレスレットに視線を落とした。

 

「普通、こんなことありえないんだよな?」

 

「素人の私たちが専用機を持てるなんて、普通はありえないだろ」

 

「明日、やっかまれるかもしれないな」

 

「姉さんが言っていただろ『歴史上で平等だった事なんてない』って」

 

「まぁ、これは束さんから私たちに贈られたものだからな……国が保有しているコアの数には変わりはない、ということか」

 

 

 かなり強引な手だが、束と一夏が関係しているので、何処の国も文句を言えないだろうと、二人は思っている。一夏としてはなるべく穏便に終わらせたいらしいが、どう考えても一波乱あるだろうと、ISを貰った二人も思っているのだ。

 

「姉さんは問題を起こすだけ起こして、後処理を一夏さんに丸投げするからな……」

 

「二人が高校生の頃、だいぶ束さんに面倒を押し付けられていたからな……」

 

 

 当時の一夏の姿を思い出して、千冬と箒は同時にため息を吐いた。およそ高校生とは思えない程疲れ切っていた一夏に、子供ながら同情していたのだ。

 

「あの時の一夏さんは、バイトに勉強、道場の手伝いに自分の修行と、姉さんの相手をしている暇なんて無かったはずだったのに……姉さんもそれを分かってて一夏さんの邪魔をしてたからな……」

 

「道場の手伝いで得ていた賃金は、私の生活費に充てていたらしいからな……兄さんは早朝バイトや日雇いのバイトで自分の生活費を賄っていたから」

 

 

 千冬が中学に上がったと同時に、二人は織斑家へ戻りそこで生活をしていたのだが、それ以前は篠ノ之道場で厄介になっていたのだ。箒の両親は、生活費などは必要ないと言ってくれていたのだが、一夏はそれに甘えることなく、自分と千冬の二人分の生活費を払っていたのだ。

 

「改めて考えると、私は兄さんにどうやって恩返しをすればいいんだ?」

 

「ウチで生活していた時は、一夏さんがお前の分の生活費も払っていたし、織斑家に戻って半年くらいで、お前の誘拐事件だもんな……その後は仕送りだけしてもらってたんだろ?」

 

「家の事は自分でしていたが、私はバイト出来る年齢じゃなかったからな……」

 

 

 本当ならIS学園に通わずに就職率の高い高校に進学して一夏に恩返しするつもりだったのだが、一夏からの連絡でIS学園を受験し、今に至るのだ。

 

「今は必死に勉強して、少しでもいいIS関連企業に就職できる様にしないとな」

 

「その為には、やはり一夏さんに色々と教えてもらわないといけないがな……」

 

「一夏兄に聞けない時は、簪に聞けばよさそうだな。あいつ、頭よさそうだし」

 

「だが、簪は簪で忙しいんじゃないか? 自分の専用機を自分で組み立ててるみたいだったしな」

 

「もちろん、都合がいい時に聞くというだけで、付きっ切りで教えてもらうつもりは無い」

 

 

 一夏から、今日は課題は良いと言われているので、二人はそのままベッドに倒れ込む。食事は書類に目を通す前に済ませたし、風呂も訓練後にシャワーを済ませているので、今日は入らなくてもいいだろうと考えている。後は寝間着に着替えるだけだが、二人は着替えるだけの体力が残っていなかった。

 

「明日、部屋のシャワーで軽く汗を流して着替えればいいか」

 

「一夏さんに見られたら怒られそうだがな」

 

「一夏兄、そういうところもしっかりしてるからな……どんなに疲れてても、必ず寝間着に着替えてから寝るし」

 

「姉さんなんて三日くらい同じ服なんじゃないか、と思う時があったがな」

 

「束さんは集中すると時間の概念が何処かに行ってしまう人だからな」

 

 

 昔から集中すると部屋から出てこなかったなと、昔を思い出して二人して笑い出す。二、三日引き篭もっていると、一夏が部屋に乗り込んで無理矢理風呂場に押し込んで着替えさせていたのも、二人の記憶に新しい出来事だった。

 

「姉さんは、一夏さんに洗ってもらいたがっていたがな」

 

「さすがにそこまではしなかったし、もし頼んでたら説教がプラスされていただろうな」

 

「女なんてより取り見取りの立場なのに、誰とも付き合っていないのはなんでだ? お前の世話があるからか?」

 

「さぁ……そこまでは分からん。一夏兄は誰かと付き合うつもりなんてないんじゃないか、とは考えたことはあるが、その理由までは考えたことが無いな」

 

「あの実績にあの容姿、そして家事万能なんだから、絶対大勢の女性が一夏さんを狙っているだろうよ」

 

「お前ら姉妹も、昔から一夏兄にべったりだったしな」

 

「わ、私はそんな不純な動機じゃない!」

 

 

 起き上がって抗議しようとしたが、身体が動かず腰を強打した箒を、千冬は呆れながら眺め、同時に笑い出したのだった。




一夏が本気になれば、すぐに結婚出来そう……

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