特攻と野生の勘でラウラとシャルロットを倒した鈴と千冬は、決勝の相手が誰になるか期待半分不安半分で更衣室のモニターの前に腰を下ろした。
「アンタは箒と戦いたいって言ってたから、セシリアと箒のペアを応援するの？」
「別に絶対に戦いたいというわけではないから応援はしない。そもそも、簪と本音のコンビネーションに即席ペアのあの二人が対抗出来るとは思えないしな」
「意外と冷静に分析してるのね……でも、簪の専用機は第二世代、本音に関していえば訓練機でしょ？ 箒の剣術に加えて、最近成長著しいセシリアを相手にしなきゃいけないんだから、ちょっと不利よね」
「だが簪の分析能力は私たちの中でもずば抜けているし、本音の野生の勘も馬鹿に出来ないと思うぞ？ 箒が冷静さを欠けば、意外といい勝負になると思うんだが」
「だけど、箒の心を乱すようなことを出来るとは思えないんだけど……アンタだったらいくらでも掻き乱す事は出来るでしょうけども」
付き合いが長いから、互いの言われたくないことを熟知している千冬なら出来そうな作戦でも、まだそれほど付き合いの長くない簪と本音ではそれは出来なさそうだと、鈴は小さく頷きながら千冬に答える。
「箒の言われたくない事って、篠ノ之博士と比べられる事？」
「いや、もうそんな事気にしてないだろうな。私が一夏兄と比べられてもなんとも思わなくなったのと同じで、箒も束さんと比べられても気にしなくなっている」
「気にしないってのも問題だと思うけど、必要以上に劣等感を懐く事がないのは良い事なのかしら」
「鈴だって、身体的特徴を指摘されるとすぐ怒るだろ？ 気にし過ぎは良くないと分かってるなら、少しは弾や数馬に対する制裁を弱めればいいだろ」
「アンタや箒は立派に成長してるから気にしないんだろうけど、普通の女子高生は気にするもんなのよ！」
「あっ……」
「あによ？」
「お前と馬鹿話してる間に、試合が始まってるじゃないか」
「うそっ！？」
モニターに目を向けると、既に本音と箒が鍔迫り合いをしていた、セシリアが援護しようとしているところに、簪がミサイルを撃ち込んでそれを妨害し、試合は意外と拮抗していた。
「簪は兎も角、本音もかなりの実力者だったのね」
「簪と組むからラファールを使うのかと思ってたけど、あの子って結構好戦的なのね」
「箒と互角以上に斬り合ってるのを見れば、それなりに稽古を積んできている事は分かるが、箒が本音の事を見下していたんじゃないのか？」
「アンタが一番分かってるんでしょ？ 今の箒は、完全に本気よ」
鈴でも分かるんだから、千冬が分からないはずがない。モニター越しでも感じる箒の気合いに、鈴は表情を引き締めて試合の行方を見守ったのだった。
モニター室でも、本音が善戦している事に意外感を覚えている教師がいる。
「布仏さん、こんなに出来る人だったんですね」
「副担任だろ、お前。担当してる生徒の実力ぐらい把握しておけ」
「一夏さんみたいに、相手を見ただけで実力を把握できる能力なんて普通はありませんよ」
「少し鍛えれば誰でも出来るだろうが」
「それが普通だと思ってる一夏さんって、やっぱり普通とズレてますよね。他のところは常識人なのに」
「普通の生活を送ってこれなかったから、普通じゃないとは思ってるが、そんなにズレているか？」
一夏に問われて、真耶は力強く頷いた。まさかそんな反応をされるとは思ってなかった一夏は、少し驚いた表情を浮かべる。
「そんな力強く頷かなくてもいいだろ」
「だって、こんなことでもなければ一夏さんのズレを指摘できないですからね。一夏さんは気にしてないみたいですけど、かなりズレてますよ」
「世間一般の常識は一応知ってるつもりなんだがな……」
「そう言うところですよ。常識にこだわってるのに、戦闘とかになると非常識すぎるんですから。普通の人は、相手の弾丸を自分の放った弾丸で相殺したり、寸でのところで避けて、まるで弾がすり抜けてるんじゃないかって動きは出来ないんですからね」
「そうなのか？ 俺だって最初から出来たわけじゃないんだから、他の人も鍛えれば――」
「そこがズレてるんですよ！ 一夏さんが出来る事の大半は、普通の人には出来ないんですよ！」
「戦闘に関すればそうなのかもしれないな……」
真耶に強く出られてしまい、一夏は少し困ったように頭を掻く。普段真耶にこんな強気に出られる事が無かったので、こんな時どんな顔をすればいいのか分からなかったのだ。
「とにかく、指導するときもその事を念頭に置いてしてくださいね？ ボーデヴィッヒさんや織斑さんたちは喜ぶかもしれないですけど、他の人はそうじゃないんですから」
「分かった分かったって。だからそんなに大きな声を出すな」
両手を出して真耶を落ち着かせて、一夏は自分のズレを改めて自覚するのだった。
たまには真耶だって強気になるんです