部屋に戻ってからシャワーを浴びた千冬は、自分と一夏の関係がおかしいのか考え直していた。その所為でいつも以上にシャワーを浴びていて、箒が心配して様子を見に来てしまった。
「なんだ、逆上せたわけじゃないのか」
「シャワーで逆上せるわけ無いだろうが。ちょっと考え事をしてただけだ」
「考え事?」
「話してやるから、ちょっとそこを退け。服を着てからでいいだろ?」
「あぁ」
浴室から部屋に戻った箒は、千冬が考え事とは珍しいなとその内容を考えてみる事にした。
「(今一番考えられるのは、明日のペアマッチの事についてだが、アイツがそんなことで時間を忘れるとは考えにくい。そうなると一夏さん関係の事だろうが、そうなってくると私には見当がつかないな……いよいよ自分がブラコンであることを認めたのか? それとも、鈴に何か言われてそれが気になっているとか……まぁ、どうせすぐ分かることか)」
髪を乾かし、服を着た千冬がこっちに来れば全て分かることだと割り切って、箒は考える事を止めベッドに倒れ込んだ。
「(それにしても、連携訓練がこれほど疲れるとは思わなかったな……千冬の攻撃パターンは何となく分かるから何とも思わなかったが、セシリアと組んでこれほど大変な訓練だったと思い知らされた……恐らく千冬もおんなじことを思っているのだろうな……いや、鈴とはそれなりに付き合いが長いから、アイツの野生の勘でどうでもなるんだろうな)」
千冬が箒の事を「野生の勘が鋭い」と思っているのと同じで、箒も千冬の事を「野生の勘が鋭い」と思っているのだ。
「(しかし、IS学園に入学してからというもの、毎日これほど疲れる思いをするとは思ってなかったな……一夏さんが出す課題も、それなりに苦戦するし)」
例えIS学園とはいえ、一般教科が無いわけではないので、毎日一夏から課題を出され、漸く授業について行けている自覚がある箒としては、この疲労は仕方が無いものだと受け入れている。だがそれでも愚痴を言いたくなるのは、勉強嫌いな箒としては仕方がないのだろう。
「待たせたな、っておい?」
「……何だ?」
「起きてたか。微動だにしないから寝たのかと思ったぞ」
「寝たいのは山々だが、まだ課題を片付けてないからな」
「そうだったな」
「まぁその前に、お前が何を考えていたのか教えてもらおうか」
体勢を整えて千冬に視線を向ける箒に対して、千冬もその視線を受け止めて箒を見詰める。
「大したことを考えていたわけではないんだ。さっき鈴に言われた事を自分なりに考えていただけだ」
「何を言われたんだ?」
「何時までも一夏兄に迷惑をかけているのはどうなんだ、って感じの事だ」
「(やはりな……)」
自分の考えが当たっていた事に対して、箒はそれほど喜びを感じなかった。それだけ長い時間一緒にいるので、ある程度なら相手の思考を読み中てる事が出来るのである。
「それで、お前はどう答えたんだ?」
「私が迷惑をかけ続ける事で、一夏兄に彼女が出来ないならそれでも構わないと」
「それで良いのか? 一夏さんにだって、誰かと幸せになる権利はあるんだぞ?」
「わかっているんだが、一夏兄が誰か知らない女と付き合うくらいなら、一生迷惑をかけて独身でいてもらいたいと思ってしまうんだ」
「お前は本当に一夏さんが好きなんだな」
「当たり前だろ? たった一人の家族なんだから」
「家族、ねぇ……」
それ以上の感情を懐いているのではないかと疑っている箒からすれば、千冬が言う「家族」という単語は、それ以上考えないようにしているだけのように聞こえていた。もちろん、そんなことを言えばまた口論になるので、実際に口には出さないのだが。
「例えば、そうだな……一夏さんと山田先生がお付き合いを始めたら、どう思う?」
「すぐに肉塊にしてやろうと思うな」
「一夏さんが認めた人だぞ?」
「頭では分かってるんだが、恐らく気持ちが抑えられないな……一夏兄の前では大人しくしてるが、一人になったところを――」
「マジトーンで言うのは止めろ……ついつい山田先生に逃げるよう電話しそうになるだろうが」
「マジだったからな……とりあえず、暫くは一夏兄に彼女が出来るなんて考えられない」
「そうだろうな……一夏さんも、お前が自立するまでは恋人なんて考えないだろうし……(恋人の身の安全のためにも)」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。さっさと夕食にして、課題を片付けて寝るとしよう。明日はいよいよペアマッチだからな」
「そうだな。今回は余計な邪魔が入らないだろうし、本気で戦えるだろうな」
「前回は私たちは参加していないだろうが」
今回は一夏から何も聞かされていないので、束も大人しくしているのだろうと箒も考え、とりあえず食事を済ませる為に食堂へ向かう事にしたのだった。
ただし危ない思考全開ですが……