IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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とても普通とは思えない


普通の家族

 あっという間にペアマッチ前日になり、それぞれのペアは最終確認の為アリーナで訓練をしていた。

 

「千冬、あたしが回避してから全力で攻撃するって話だけど、本当にそれで箒を止められるの?」

 

「実際やって見なきゃ分からん。そもそもアイツは野生の勘が鋭いからな。下手をすれば深追いせずに逃げられるかもしれない」

 

「まぁ何となく野生の勘が鋭いっていうのは分かるけど、アンタがそこまで言うとは思わなかったわ」

 

「何故だ?」

 

 

 鈴が何を思ったか分からなかった千冬は、素直に鈴に尋ねる。尋ねられた鈴は、どう答えたものかと悩んだが、結局は素直に答える事にした。

 

「物心つく前からの知り合いなんでしょ? だったら相手の思考なんて手に取るように分かるもんだと思ってたからさ。実際アンタたちは結構以心伝心な感じだし」

 

「さすがに全て分かるなんて事はないだろ。一夏兄じゃあるまいし」

 

「一夏さんなら全部分かるっていうの?」

 

「だいたいの事は分かるだろうな。あの人は心を読んでいるんじゃないかと思うくらい鋭いから」

 

「そんな感じなのね。でも篠ノ之博士の言動で悩まされてるじゃない? あの人の思考は読めないの?」

 

「束さんの思考は、私たちの常識の中に納まっていないからな……さすがの一夏兄でも、全てを読み切るのは難しいんだろうさ」

 

「そんなものなのね……人外って言われてる理由がなんとなく分かったわ」

 

「無駄話はこれくらいにして、さっさと連携の確認をするぞ。今日はそれほど時間が取れなかったんだから」

 

 

 参加者がそれほど多くないとはいえ皆無ではないので、アリーナを使いたがる人は他にも存在する。ほぼ毎日アリーナの使用許可がもらえたのは、この面子だったからという事が大きいのだ。

 

「参加するだけで点数は貰えるんだから、それほど気合いを入れて訓練する必要もないのにね」

 

「それだけデザート無料パスというのは魅力的なんだろうな。一夏兄のに比べれば一枚も二枚も落ちるが、ここの学食のデザートは美味しいからな」

 

「一夏さんの料理が美味しいのはあたしも知ってるから何にも言わないけど、女子としてどうなのよ」

 

「何がだ?」

 

「男の人である一夏さんに家事全般のスキルが負けている事よ。あたしも人の事言えないけどさ」

 

「一夏兄に敵う人間などそうそういないからな。努力しても結果が出ない事はしない」

 

 

 しっかりと束の影響を受けている千冬だが、鈴はそれが束の影響だという事が分からないので、千冬個人の考え方なのだろうと受け取り、一夏に同情した。

 

「アンタがしっかりしないと、何時まで経っても一夏さんは自分の事に時間を使えないんじゃないの?」

 

「一夏兄に迷惑をかけているのは忍びないが、そのお陰で変な女が寄ってこないのであれば、私は一生一夏兄に迷惑をかけ続ける!」

 

「変な宣言してないで、少しは自立しようとしなさいよね……あの人が一生独身なんて、世界の損失とすら言われてるんだから」

 

「何だそれは?」

 

「IS界において『織斑一夏』という名のブランド力は半端ないのよ? 各国の元代表や有力勢力の女性がお見合いを申し込みたいと日本政府に申し出ている、なんて噂まであるくらいなんだから」

 

「よし、そいつらを全員殺せばいいんだな?」

 

「だから物騒な事を考えるな! というか、一夏さんが既に断ったって話だし、そもそも本当に申し込んでいたのかも分からないんだから」

 

 

 あくまで噂の範疇だと宥める鈴だったが、しばらく千冬は落ち着きを取り戻せなかった。

 

「……すまない。ついつい興奮してしまった」

 

「たぶん篠ノ之博士が聞いてても同じ反応をしたと思うわよ……」

 

「まぁ、あの人も一夏兄至上主義だからな」

 

「とにかく、それだけ一夏さんは魅力的で人気が高いのよ。あの人だって、一生独身でいるつもりもないでしょうしね」

 

「一夏兄が結婚したい相手など、想像もつかないがな……家事も出来て仕事も出来るから、結婚してもメリットが何一つないだろうし」

 

「家庭に癒しを求めるタイプでもないしね……」

 

「そもそも一般家庭というものが分からないからな、私も一夏兄も」

 

「さらっと重たいこと言わないでよね……」

 

「別に気にする必要はないだろ。一夏兄も私も、親がいないなんて気にしたこと無いんだからな」

 

 

 既に開き直っている千冬にとって、鈴が気にする事ではないと思っているのだが、鈴の方からしてみれば、そう簡単に割り切れる話ではないのだ。

 

「って! ぼやぼやしてた所為で、アリーナの使用時間が残り五分だぞ」

 

「仕方ないわね……明日まで頭の中でシミュレートしておきましょう」

 

「こんなんで大丈夫なのか?」

 

「さっきも言ったけど、参加しただけで点数は貰えるんだし、加算点を狙わなければ大丈夫でしょう」

 

「イマイチ安心出来ないが、無様には負けないようにするか」

 

 

 鈴と拳をぶつけて、千冬は先にアリーナを後にするのだった。




参加するだけで十分のメンバーですから

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