学年別トーナメントを見学させろと政府の人間が言って来ているのに対して、学園側は頑なに拒否し続けている。その所為で毎日抗議文書が送られてきているのだが、何故か宛先は理事長ではなく生徒会宛だった。
「何で私たちに文句を言ってくるんでしょうね……」
「そんなの私に言われたって分からないわよ……というか、この間のクラス対抗戦の際に一夏さんに怒られたっていうのに、政府の人間は本当に学習しないわね……いっそのこと腐った政府の人間の秘密を暴き出して、世界中に拡散してやろうかしら」
「そんな事に暗部の力を使おうとしないでください」
虚に怒られ、楯無は再び不貞腐れながら書類に目を通していくと、一枚の報告書が目に留まった。
「あれ? これって一夏さん宛の書類じゃない……何で生徒会室に紛れ込んでいるのかしら」
「織斑先生宛というより、学園宛ですね。生徒会にだけではなく、織斑先生にも文句を言って来ているようです」
「そもそも見学させるような事でもないし、基本的にIS学園は何処の国も不可侵になってるはずなんだけどね。一夏さんが拒否し続けてるわけでもないのに」
一夏が役人嫌いだから見学を断っているわけではないという事は、楯無も虚も理解している。この間のように子飼いの技術者などをぞろぞろと連れてこられるのが困るので、学園全体の意思として拒否しているのだ。
「仕方ない。職員室に持っていきましょう」
「お嬢様、そういって逃げ出そうとしているわけではありませんよね?」
「そ、そんな事考えるわけ無いじゃない」
「図星ですか」
急にたどたどしくなった楯無を見て、虚は呆れたような視線を楯無に向ける。
「お嬢様、分かっているとは思いますが、お嬢様がサボればサボる程、後々大変な目に遭うのはお嬢様自身なのですからね? 織斑先生に怒られるのも、お嬢様一人なんですから」
「何で一夏さんの名前がここで出てくるのか分からないけど、別にサボろうって考えてるわけじゃないわよ。ちょっと息抜きしたいな~って思ってるだけ」
「お嬢様の場合、それがサボりに直結するんですからね! この書類の山を見て、そんなこと思うなんて普通じゃありませんよ。簪お嬢様が呆れるのも仕方ないです」
「簪ちゃんは関係ないじゃないのよ! というか、虚ちゃんが簪ちゃんに余計な事吹き込んだわけ!?」
「お嬢様がサボり魔だという事を簪お嬢様に教えたのは織斑先生です。文句があるのでしたら織斑先生に仰られては如何でしょうか?」
「一夏さんに文句なんて、言えるわけ無いでしょうが……一夏さんにはお世話になってるんだし、簪ちゃんのIS操縦士としての寿命も伸ばしてくれたんだし」
「そうお思いでしたら、もう少し織斑先生に負担をかけないようにされては如何でしょうか? お嬢様がサボればサボる程、織斑先生に尻拭いさせているのですから」
生徒会の仕事が多いのは今年の新入生が話題性に富んでいるからであり、その責任は学園が負うべきものだと言って手伝ってくれているのだが、楯無がサボらなければあれほどまでに一夏に頼る必要はなかったのではないかと虚は感じているのだ。
「そんなこと言ってもさ~……虚ちゃんだって一夏さんに会えるのを楽しみにしてるの、バレバレだからね?」
「なっ!?」
虚だって年頃の女の子だ。気になる異性が出来ても不思議ではない。ましてや一夏の包容力は、さすがの虚を以てしても惹かれてしまうのは無理もないと楯無も思っている。
「虚ちゃんも一夏さんの魅力に絆されちゃうし、競争率高めだよね~」
「わ、私は! お嬢様と違い、不純な気持ちで織斑先生にお手伝いをお願いしているわけではありません!」
「はいはい、分かったから早いところこの書類を一夏さんに届けましょう。一夏さんだって暇じゃないだろうし」
「その必要はない。見当たらないと思ったら生徒会室にあったのか」
「一夏さん!? 相変わらず音もなく現れないでくださいよ……心臓に悪いですから」
「普通に入ってきたつもりだったんだが……ところで、布仏は何でそんなに顔を真っ赤にしてるんだ?」
「それはですね~って、虚ちゃん、怖いから無言でキッチンから包丁持ってこないで!?」
さすがにからかい過ぎたと反省した楯無は、余計な事は言わずに一夏に書類を渡した。
「それでですね、また手伝ってもらえないかと思ってるんですけど……」
「政府連中の抗議文書など、シュレッダーに掛けてやればいいと思うんだがな……まぁ、そんなことすればまた余計な事を言ってくるだろうから、仕方ないか」
自分の書類を一瞬で片づけた一夏は、生徒会に来ている抗議文書に目を通し、返事をした方が良いものとそうではないものに分け始めた。それを見た楯無と虚は、一夏に見惚れながらもすぐに現実に復帰して処理を続けたのだった。
少しは自重しろっていうのに……