ノーゲーム・ノーライフ I am a loser 作:飯落ち剣士
「ストレートフラッシュです」
「スリーカード……です」
手札を開示した2人、片方は笑みを浮かべ、片方はその顔を沈めていく。
「では、経済大臣はファルとする」
国取りギャンブルの1日後に行われた、大臣決めギャンブル。もっともこちらは職員とその推薦のみだが。
「……よろしくお願いします」
そして経済大臣代理直々の推薦によって参加した青年、ファルが大臣の座を勝ち取った。
「じゃあ俺は今から経済大臣補佐だ。ギャンブル上位だったものの地位は少しは上げてやる」
そう言って上位だった人の一人一人を呼び、地位をあげていく海。全てが終わったところで今日の仕事は終了となった。
「ファルくん」
帰路を歩いていたファルに、海が話しかける。ファルは思う。
---またか、また悪魔の取り引きか、と。
「今度はなんですか」
そしてこの取り引きの
「前大臣の家、取っちまおう」
ほら、無理そうだけど得はある。
「……はい」
有無を言わさないその取り引きに、ファルは今回も頷くしかなかった。
*
夜道を1人の小太りした男が歩いていた。その男は、ひたすら呪詛を唱えていて、周りの人に怯えられていた。
「あいつ殺すあいつ殺すあいつ殺す……!」
海に大臣を辞めさせられ無職になった男である。彼は今家にあるもののみで生計を立てるべく、家財を質屋に持っていく途中だ。
そしてその男の前に、カジノのディーラーが着るような長袖を着て、鞄を持った青年が立つ。男は足を止めた。
「こんにちは、『元』大臣さん」
「……何の用だ、僕は忙しいんだ」
明らかに自分を煽っているその青年を睨みつけ、また質屋に足を進めようとして、
「現大臣のファルと言います」
その青年----ファルの自己紹介に振り向いた。
「現大臣……⁉︎貴様ぁ……!」
ファルは激昂する元大臣に笑いかけ、
「大臣の座を賭けて、勝負しましょう」
そしてそれを、その近くから見る男が1人。
「かかったな……元大臣さん」
「ゲームは基本的にはハイ&ロー。1枚目より二枚目の数字が低いか高いかを当ててください。交互にやって三回先に当てた方の勝ちです。僕は大臣の座を、あなたは今持っている財産すべてを賭けてください」
大臣の担ぐ家財を指差して、そう言ってのけたファル。元大臣は考える。どうせ負けてもこの家財しか取られない。しかもゲームはイカサマしにくいハイ&ロー。このチャンスに賭けるしか無い、と。
その考えを読んだ海は、近くで笑っていたが。
そして元大臣は答えた。
「いいだろう」
と。そして賭けが始まった。ファルは言う。
「では、ディーラーは交互にやりましょう。最初は私が」
そう言ってファルはトランプを取り出す。バララララと、元ディーラーらしい華麗なシャッフルを始めるファル。
シャッフルを止めて山札の一番上をめくる。5。
「ハイ&ロー?」
山札の一番上を隠すように抑えるファル。
「ローだ」
「正解」
めくったトランプは4。元大臣の勝ちである。
「次は私のシャッフルだ」
そう言ってトランプをファルから受け取り、元大臣はシャッフルを始める。しばらく切ってから辞めてトランプの一番上をめくる。4。
「ハイ」
「……正解だ」
めくられたトランプは12。ファルのあたりである。
トランプを受け取ったファル。そしてここで、海が右手を振った。それに元大臣にバレないよう軽く頷き、シャッフルを始める。
止めてめくったトランプは、
「なっ……⁉︎ジョーカーは抜いてやるものだろう!」
「抜いたなんて言ってませんが。ハイ&ロー?」.
「ハイ」
「数字じゃないのでハイでもローでも関係ないですけどね。はい残念」
「この野郎……!」
明らかなペテン。考案者はもちろんファルではなく、海である。
そしてその海はといえば、ファルから見える場所から姿を消している。その姿を一瞬探すが、目の前でシャッフルを始めた元大臣に、慌てて前を向くファル。
「ハイ&ロー」
2がめくられる。
「ハイです」
「残念だな。ローだ」
1がめくられた。そしてファルのシャッフル。
「ハイ&ロー?」
またしてもジョーカー。
「こんのぉ……⁉︎ローでいい!」
「はい残念」
2枚目は4だったが、そんなことはジョーカーなので関係ない。
続いて大臣のシャッフル。
「……ハイ&ロー」
「不正ですね。ハイ&ローは山札の1枚目と2枚目を把握しなきゃイカサマは出来ないんですよ?素人がそんなことしたらバレるのは当然です」
トランプの1枚目からめくられた11を見もせずに、元大臣の手をひっくり返すファル。その手の平にはトランプの13が握られている。
「ゲーム中の不正発覚。貴方の負けです」
「クソが……」
トランプを地面に叩きつけ、家財を置いて去ろうとする元大臣。それをファルが止める。
「なんでこれだけだと思ってるんですか?財産全部って言いましたよね」
「な……だって、これを指差して……」
「あれは決めポーズです」
そう平然と嘘を吐き、彼は持っていた鞄から何枚かの書類を取り出す。
「小切手としてあなたの銀行に預けてある全額を書いてください。あと住居委託、サインよろしくお願いします」
真っ赤だった顔が真っ青になっていく元大臣に、ファルはペンと書類を突きつけた。
ファルが勝利したその時海は、人気のない路地裏にいた。
彼はそこの道の脇で嘔吐していた。手は震え、顔は青く、足に力は入っていない。
こうなったのは、彼の持病のせいである。海は自分の病気の病名を思い自嘲の笑みを浮かべ、また吐いた。
彼は『勝利恐怖症』。勝利に対する過度なトラウマが、彼にこれらの症状を強制する。勝利目前と勝利後に症状が出るため、彼は勝利目前になるとゲームを続けることができなくなる。これこそが海が
彼に恐怖症を植え付けるほどの勝利へのトラウマ。それを思いだし、自分の着ているパーカーの胸元、そこにプリントされた大きな下矢印を、ゆっくり見つめる。
大きく深呼吸。ため息1つ、小さく吐く。そしてよろよろと、ファルの方へと向かう。
「ファル……終わったか?」
「はい、無事に……ってどうしました?顔色悪いですが」
「なんでもない。で?家はいつ手に入る?」
「明日です」
強がって笑う海。それに気付かないふりをするファル。
「じゃあ、明日までは宿屋に泊まるか」
「え?海さんも元大臣の家に住むんですか」
「当たり前だろ。俺家ないし、何よりあの豪邸に1人は無いよ」
そう言って宿屋への道を歩く海に追従していくファル。そしてファルは反論する。
「僕が家族いるかもしれないじゃ無いですか」
「お前指輪してないし、妻子持ちはディーラーでイカサマなんてしない。黙れ童貞」
しかし海は一蹴。うぐっ、と変な声を漏らしたファルは童貞かどうかはわかんないじゃないですかとブツブツ呟いてから黙る。その後しばらくは無言で歩き、宿屋に着く。
「じゃあ僕はここで」
「ああ、またな」
そしてファルは去っていった。彼は酒場に入り、一杯水を頼む。
ゆっくりと水を飲み干したあと、自分の部屋へと戻る。
そして、彼は万感の思いでこう呟いた。
「やっぱ勝ちたくねぇ……。気持ち悪い……」
他人に任せれば勝てることは分かったが、恐怖症は発症する。もう二度とやらないと、海は決心した。
それに、ファルには勝てない相手とゲームをすることの方が今後は多いだろう。それを考えるとこの手が使えるのは今回のみだと、海は結論付けた。
「やっと家と収入源も手に入れたし……まじ疲れたぁ……」
硬めの口調で話していた海だが、彼の普段の口調はこんな感じである。あれはゲーム中集中するための口調だ。
つまり彼はこの世界に来てからずっと集中力を保っていたわけで。その反動で今は----。
「あーやだやだ。一歩も動きたくない」
ベットに寝転がり、ひたすら愚痴を言っている。
「とりあえずこれで地盤は固まったろ。王になった『 』には見劣りするけど」
ちょっとくらいスタートダッシュしくじるくらいが
*
「じゃーファル、いってらー」
「人ごとみたいに……行ってきます」
元大臣の家、現海達の豪邸の玄関を開けて出ていくファル。
この家に入ってから2日目、ファルが大臣になってから3日目だ。ファルは王----要するに『 』----の元に収集された。なんでも全大臣を集めるらしい。
「あらかた現代知識を教えて財政難と食糧難をなんとかしようってとこだな」
そう想像し、海はよろよろとベットへ向かい、眠りに着いた。
「
「「「「「
そして、会議開始。大臣とジャンケンをし、勝利するエルキア国王、空。
八百長によって盟約で大臣を縛り、自分に嘘をつけなくした。
「それでは、各自報告を」
そして大臣一人一人の報告に的確で画期的な解決策を提示、報告が全て終了する頃には大臣の皆は空のことを歴代最高の賢王だと信じて疑わなくなっていた。
ファルを除いては。
(よし……情報漏洩は盟約で縛られてないですね……これなら報告可能です)
すでに海のスパイとしての活動をすることを確定しているファルだけは、『 』の事を敵と認識していた。しかし海から余計な事をするとバレるということは聞いているので、特に反抗等はせず、ふつうに空の解決策を実行するつもりでいた。
大臣への報告が終わり、解散しようとしたその時、コツ、コツと。
「あははは、なかなか楽しいことになってるみたいだね」
少年が、階段から現れた。
その顔に見覚えのないファルは不審に思い、一歩下がったが、
「よう、
「やだなぁ、自称じゃなくて本当に神様なんだけど」
「テト、それが僕の名前だよ。よろしく、『 』さん」
そう少年----テトが口にした瞬間、神の真名の力か、ファルの全身に悪寒が走る。
しかし国王と王女----空と白は全く気にせず普通に会話を続け、軽口すら叩く。しかもその会話は一つ一つが驚かされるもので。
例えば、王たちは神に勝ったとか。
例えば、王たちは異世界の人間だとか。
内容を覚えることは不可能……というか混乱してよくわからない。ファルは内容暗記を諦めて、自らの右ポケットの膨らみを見つめた。
*
『ところでさー、『____』ってきてるの?』
『……来てるよ、エルキアに、ね。これ以上はフェアじゃないから言わないでおくよ』
「テトのせいでエルキアにいるってことはバレたじゃねえか」
そうぼやく海の前に置かれているのは、ファルに持たせたスマートフォン。
そう、録音機能を利用し、大臣との会議を盗み聞きするつもりだったのである。流石に神が来ることは予想外だったが。
「でも、収穫も多かったな」
「一応聞きますけど、あなたも異世界人なんですか?」
「もちろん」
そう言って、海は録音が流れるスマートフォンの電源を落とし、ソーラー充電器に差し込む。
「なあファル、目標が決まった」
「----なんです?」
すでに嫌な予感がしているファルに、海。
「目標----打倒神様にしよう」
手伝えよ?ファル。
と。あっさりと国王を倒すどころか神を倒すと言ってのけた海に、
「はぁ……言うと思ってましたよ。やればいいんでしょうやれば」
嫌そうな表情を浮かべつつもギャンブラーとして、やる気はあるファル。
「『 』も大陸も神も……最底辺ゲーマーが足元すくってやるよ」
同時刻、『 』。タブPC、そのメール履歴、『___より』と書かれたメールを開き、見つめる。
そして『 』初の
3人は同時に、こう呟く。
「「「次は、完全
第1章、完結。第2章、『敗北ゲーマーは天空都市へ向かうようです』が次回からです。