ノーゲーム・ノーライフ I am a loser   作:飯落ち剣士

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第1章:敗北ゲーマーはエルキアでひと暴れするようです
開幕戦(スタートダッシュ)


「……って事で、『 』さんは既にこの世界にいる。多分半日くらい前からだね」

 

神のやつから説明を受けた結果、この世界はディスボードという、全てがゲームで決まる世界だということがわかった。

十の盟約に従えば、全てがゲームで解決する。それはまさに、『____』が望んだ『現実から逃げられる』世界だった。

そしてこの世界には、既に『 』が来ている。

 

「『 』より半日出遅らせちゃったお詫びとして、人類種(イマニティ)の国エルキアまでは送ってあげるよ」

 

「……そうか。ここに俺がいるのは『 』からのスカウトだと、そういうことだな?」

 

「正解。彼らが言ったのさ、『____』も入れてやれとね」

 

そう言って神は笑う。

(彼ら……?『 』は集団だったのか?)

神の言葉に違和感を感じつつ、彼はエルキアに到着した。

 

「じゃ、僕はここで。また会えることを祈るよ」

 

そう含みを持たせて言った少年神は目の前から唐突に消えた。

海は特に探すこともせず、エルキアの大門へと足を向けた。日は既に落ちかけ、斜陽が無駄に眩しかった。

「おい待て、そこの者」

が、その足は門番によって止められることとなる。

「あ?なんだよ」

海は苛立ちの演技をし(・・・・)、門番へと振り返った。

「ここを通る許可は貰っているのか」

「いいや?」

俺は否定し、門を通ろうとする。

「……どうしても通るというのなら、私にも考えがある」

そう言って彼は一箱のトランプを取り出した。

「私が賭けるのはここを通る権利」

 

十の盟約【4つ】三に反しない限り、ゲーム内容、賭けるものは一切を問わない。

 

……本当にゲームで全て決まるんだなと、戸惑いつつも海は答える。

「ああ、俺が賭けるのはお前とのゲームで敗北時にここを1人で立ち去り、二度とエルキアには来ないという約束だ。ゲームはオセロな」

 

十の盟約【5つ】ゲーム内容は、挑まれた方が決定権を有する。

 

トランプを持っていた門番を出し抜いて、自らの部屋にあった8×8のマス目が入った板と黒白コイン、要するにオセロを取り出す。彼の持ち物は他にはチェス盤、将棋盤、そしてタブレットとソーラー充電器、スマートフォン。

「では、盟約に誓って(アッシェンテ)

 

盟約に誓って(アッシェンテ)

 

『____』の、異世界における開幕戦が幕を開けた。

 

 

「……双方の約束をお互いに飲むことにしよう」

 

開幕戦は黒白半々の丁度引き分け。双方の約束が履行される。

 

「ここには二度と来ないで貰おう。正門を通る許可はやるがな」

 

そうやってしたり顔で笑う門番に、しかし海は平然と返す。

 

「なに言ってんの?俺ここ通るけど」

 

そう言ってすたすたと正門を通る海。当然門番は止めようとする。

 

「なっ!何故だ!盟約に誓った筈だ!」

 

喚く門番に、しかし海は一言。

 

「俺、敗北時って言ったんだけど。負けてないから俺の約束は履行されないな」

 

ザマーミロ、と。そう言って正門を突破した海。そして門番は気付く。

 

「あの時点で、既に引き分け狙い……?」

 

オセロで引き分けの狙う難しさ。それを想像して呆然とし、門番はただ立ち尽くした。

 

 

「……すごいなこれは」

 

人類種最後の地、首都エルキア。その中心部に位置する場所のカジノで、大々的にギャンブルが行われていた。

そしてそのスペースの一角、青い眼の青年がディーラーの青年相手にポーカーを行なっていた。

 

「前任の王の遺言で、次の代の王は最強のギャンブラーを、って。それでこういうわけです。あ、一敗でもしたら即アウトですけどね」

 

青い眼の青年……『____』海は困ったように笑う。

 

「じゃあ俺には無理か」

 

ディーラーは笑った。

 

「え、ギャンブルに自信無いんですか?自分の全権賭けたポーカーしてるのに?」

 

そう、彼等はまさに賭けポーカー中である。

 

十の盟約【三つ】 ゲームには、相互が対等と判断したものを賭けて行われる。

 

海は自らの全権を、ディーラーは自らの財布の全額を賭けている。双方合意の上なら勝負が終わった後でも賭けるものは変更できるという追加ルールはあるが。

 

「いーや、そんなことはないよ?ただ勝てないだけ(・・・・・・)

 

その言葉に疑問を感じつつも、ディーラーは自らの手札を明かす。

 

「はい、フルハウス」

 

「……ワンペア」

 

賭けコインが全て無くなり、海の敗北が決定した。

その瞬間、ディーラーは『____』の独壇場、『敗北』に足を踏み入れた。

 

「……シャッフルトラッキングと捨て札保持。安っすいイカサマだな」

 

ぼそり、と。そんなことを言う海。

ディーラーは冷や汗をかきながらも、笑みを浮かべ答えた。

---そしてその冷や汗は、人心掌握を極めた『____』の前では致命的だ。

 

「証拠は「あるよ」っ⁉」

 

海はその『証拠』を立証するため、彼の袖口を軽く触った。その袖口は微かに黒く染まっている。

 

「イカサマしてると思って、黒いインクをちょっとだけカードに塗ってたんだなぁ」

 

十の盟約【八つ】ゲーム中の不正発覚は、敗北とみなす。

 

「……これ、カジノ主にバラしたらどうなるだろうな」

 

「……」

 

にっこり笑う海に、ダラダラと冷や汗の量が増えるディーラー。

 

「可哀想だから俺の負けでいいけど……俺の賭けてたもの全権からこの糸くずに変更、あと財布の中身半分よこせ」

 

「……」

 

ディーラーの青年は頷くしかなかった。

 

 

「金ゲット」

 

ディーラーから奪った金でこの街の服を買い着た海。そのローブのお陰でジーンズなどを着ていた時の違和感は消えている。

「ディーラーのやつ、実はそのまま勝てたのにな」

 

十の盟約【八つ】ゲーム中の(・・・・・)不正発覚は、敗北とみなす。

 

ゲーム中はディーラーは袖口が見えないように細心の注意を払っていた。そしてゲームが既に終わったあの時では、海の勝利にはならない。よって海は賭けた物自体を捻じ曲げるような面倒な事をしなくてはならなかった。インクもカジノに置いてあったものを袖口を触った時につけただけだ。

「まっ、あそこで負けててもカジノ主にバラしたらいいんだけど」

そう言って彼はエルキアの郊外へと足を運ぶ。そちらに宿が集まっていると、ディーラーから聞いた。

海はエルキア郊外へと足を進め、やがて人がそれなりに集まる一件の宿を見つける。どうやら酒場も兼ねているらしく、いかにもファンタジーである。その酒場では賭け事に興じている人も多くいた。そのざわめきを見るに、どうやらここでも国取りギャンブルは行われているらしい。

が、海はすぐにはその酒場に向かわず、近くの人に呼びかける。

「なあ、ちょっといいか?」

海が声をかけたのは、大柄でいかにも職人と言った感じの男だった。

「……なんだ」

海はその男に、取引を持ちかける。

「なんか困ってるみたいだな、よければ力になれると思うが。そのかわり少し俺の手伝いをしてくれると嬉しい」

男は自分が困っている事を当てられ戸惑いつつも、目の前の男の話に乗った。

「ああ。明日俺は仕事なんだが、母親に届ける物があってな。それを誰かに代わりに届けてくれないか探していた所だ」

「だったら話が速い。明日この宿屋の前に来てくれればその荷物は俺が届けよう」

そう海が言うが、あくまで男は冷静に問う。

「で?お前の手伝いって?」

海は笑って言う。

「ここの宿屋のチェックイン頼むわ」

 

 

海の頼みに最初こそ不信がった男だったが、それだけでいいならと結局は引き受けた。

そして海はやっと宿にありつく事が出来た。ベットと申し訳程度の家具のみの宿ではあるが。

その間、この世界に来てから5時間。引きこもりには5時間の外出、歩きっぱなしは応えたのだろう。無言でベットに突っ伏す。

彼がわざわざ男に頼んだ理由は単純、ものを知らなさそうな青年は舐められそうだからだ。男が困っていると分かったのは、表情、行動。彼の表情を読み取る力は常人には真似できないところであり、それが彼のプレイスタイルの大きな支えである。

そして、海は荷物を放り投げ、布団を被る。

「結局『 』見つからなかったし、隣がうるさい……」

そう呟きながら、海は眠りにつく。

 

……彼の隣の部屋に『 』がいたことに気付かないまま。

また、『 』達も隣に『____』がいることに気付かないまま、宿を去る。

そして夜は、ゆっくりと更けていった。


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