ノーゲーム・ノーライフ I am a loser 作:飯落ち剣士
底辺からのゲームスタート
唐突だがみなさんは、『勝利』についてどの様な感情をお持ちだろうか。
勝利したくない人はおそらくいないだろう。「別に勝たなくていいし」とか言ってる奴はただの負け惜しみである。かっこ悪い。
そう、勝利が嬉しく無い人間などいない。であるならば、勝利することの出来ない
勝利の瞬間の妄想?他人の勝利の目撃?勝利以外に楽しさを見いだす?否、愚かな1人の人間の選んだ選択は–––。
敗北によって勝利することだった。
*
ディスプレイの向こう側、1人の人間が吹き飛ばされた。
「ふぅ……また『負け』たな」
暗い部屋の中、格闘ゲームに興じる男。黒髪は鳥の巣の如きボッサボサ具合、部屋の中はゴミだらけ。青い眼にはディスプレイの光が写っている。
格闘ゲーム以外にも大量のゲームが部屋には転がっている。
「まあ、相手の垢は凍結だろうが」
相手をチートの挙動になる様誘導したからと、その男は何でも無いことかの様に言う。
彼は海。ネットでのユーザーネームは
にもかかわらず、彼はゲーマー会の頂点、都市伝説にもなった『 』と並ぶほどの知名度を持つ。
曰く、彼に勝つと不幸が起こる。
曰く、勝ったは勝ったが損失はこちらの方が多い。
曰く、勝利を放棄している。
戦略ストラテジーなら敵は攻め落とせたが得られた資源等が少なく、戦闘ゲームなら勝った瞬間アカウントは凍結の末路を辿り、FPSなら撃った瞬間自らも死、ボードゲームなら必ず引き分けに持ち込まれる。
彼は敗北や引き分けによって勝利する、常敗無勝のゲーマーであった。
「あーあっづい。北極に暮らしたい」
……加えて言うと、彼は究極のダメ人間である。
部屋の散らかり様からみても分かる通り、彼はこの2年間外に出ていない。必要なものは全て取り寄せである。部屋唯一の窓はカーテンを閉める閉めない以前に、ダンボールの山で見えない。
そんなダメ人間の彼が唯一認めた人物こそが、先ほど述べた常勝無敗のゲーマー、『 』なのだが、
「はぁ……つまんねぇな、今のゲーマー達は、もうちょい骨のある奴はいないのかね」
その『 』、絶賛失踪中である。およそ半日という短い時間ではあるが、空白がそこまで長い間ゲームをしなかった事はないと言っていい。
そして『 』のいない今、ゲーマー界隈は『____』が一人
しかし、そんな状況は、
『from:新着メールが届きました』
一件のメールにより終わりを迎えた。
「……メール?」
彼は今まさにやろうとしていたゲーム、それが入ったPCを起動するのを止め、着信音のしたパソコンに目をやる。
そのメールアドレスには新作ゲームの情報等しか入ってこないはずであった。しかし開いてみるとそれに書いてあるのは1つのURLと文章
だった。
「『 』と、もっと広い場所で戦いたく無いかい?」
クリックしようとして、彼の頭にウイルスの可能性がよぎる、が。
好奇心に負け、彼はURLをクリックした。
URLの先は、なんて事はないただのチェスゲームだった。なんだそれならさっさと終わらせようと思い、彼はコマを動かす。
が、
「何だコイツ……」
その対戦相手は『 』を思い出させるほどには強かった。
「空白……か?」
しかしその考えを即座に打ち消す。空白の打ち方ではなかった。おそらく空白の方が……。
「上手い」
そう呟き、彼はコマを進めていった。
何者かのコマが機敏に動く。
海の一手がコマを奪い、奪われる。
ポーン、ビショップ、クイーン、キング。駒が行き交う盤上。
そして、ついにその時は訪れた。
「……ふぅ」
海はおもむろに手元のペットボトルに手を出す。
パーペチュアル・チェック。盤面は千日手になっていた。
5時間に及んだ死闘が終わり息をついた彼に、またしてもメールが届く。
『なるほど、君は確かに強い。勝たないのにも関わらず、君は『勝って』いる。あの『 』さんが認めたわけだ。きっと君は思っただろう、生まれてくる世界を間違えたと。
−−–全てがゲームで決まる世界においでよ』
と。
彼は答える、そんな世界があるなら是非お邪魔したいと。
そしてその返答をメールで打ち、送った。
次の瞬間、空間は歪曲された。
「……は?」
間抜けな声を出したが、時すでに遅く。
周りの風景は見慣れた自分の部屋でなく、あたり一面の青空と、
目の前に浮かぶ少年だった。
そして少年は叫ぶ。
「ようこそ!全てがゲームで決まる世界、
そして彼は答える。
「うるせぇここどこだよ!」
そしてその少年は答える。
「僕は、この世界の神さ」
……ともあれ、役者は出揃った。
さあ、ゲームを始めよう。