違うクラスの女の子に目をつけられたんだが   作:曇天もよう

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先週の金曜日にこの小説を投稿し始めて1年が経ちましました
意外と一年は早いものですね
本当はこの小説を金曜日に出そうと思ってたのですが、最近忙しくてすっかり遅れてしまいました…

さて、今回は一周年記念で無人島特別試験の裏の有栖についてです。時系列的には特別試験3日目です


試験の裏で

桐生たち1年生が特別試験で無人島での生活をしている中、唯一この試験に参加することなく、豪華客船で一人優雅に坂柳有栖はそのひと時を過ごしていた。

喉が乾けばカフェへ行って注文をし、お腹が空けばレストランに行って食事をする。暇をもて余せば、デッキに置かれている椅子に座って水平線を眺めたり、自室で本を読んだりもした。

 

しかしながらそれらは彼女を満足させることはしなかった。

元々坂柳有栖は平穏無事という生活が好きではない。常に何か行動を起こし、変化を楽しんでいた。

 

例えば入学して間もなく、Aクラス内で早々に勃発したクラスの派閥争いだ。坂柳は入学するやいなや一つの派閥を作り上げた。それは彼女の性格を表しているように、好戦的で他クラスに対しても積極的に仕掛けていくといった派閥だった。だが、それに待ったをかけたのが坂柳の対立派閥を率いている葛城 康平だった。彼は坂柳とは全く相反する穏健、慎重派で、Aクラスを保つことを第一に考えている派閥だった。

 

当然のことながら、彼女たちは対立、派閥戦争に入ったわけだった。そして、好戦的な性格の彼女がこの試験においても何もしないはずがなかった。

今回の特別試験、坂柳は参加できないため、Aクラスの全権を握っているのは実質葛城であった。今回の特別試験に参加できないことを知った坂柳は、責任が全て葛城の方へと向くことに気づき、この機会を絶好のチャンスと考えた。担任の真島に話を聞かされるやいなや、すぐに、神室、橋下に妨害工作を指示し、そしてDクラスながら伏兵として使っている桐生を味方につけてAクラスの内側と外側から葛城の失脚を狙った。

既に試験開始から三日目。坂柳には試験の進行状況は一切伝わって来ないため、今現在その計画がどの程度進んでいるのか不明だが、概ね上手く計画は進んでいるだろうと考えていた。

 

葛城は基本に忠実に試験を進めるだろう。恐らく何箇所かの拠点を確保し続け、他クラスのリーダーを当てに行くようなことは滅多にしない。それこそ、直接リーダーだと証明できるものを確認しない限りは。それが慎重派の葛城という生徒だからだ。そして彼は如何に対立している派閥とはいえ、自身の不利益になるようなこの試験での妨害を坂柳派はしてこないだろうと考えているだろうと坂柳は思った。

 

坂柳にとって、その考えをしているであろう葛城は滑稽でしかなかった。セオリー通りなら、確かに自分にとってプラスになるこの試験で妨害なんてしないはずだ。試験で使わなかったポイントはクラスポイントに還元され、それは自分が使うプライベートポイントとなるからだ。だがそんなセオリーを坂柳はどこまでも嫌っている。自分にとって不利益しかないからこそ、ここで仕掛ける。ミスをすれば一転こちらが不利になるかもしれない。それでも相手を蹴落とすことが出来るのなら、坂柳有栖はそれを躊躇なく使う。それが彼女のやり方だった。

 

まさかここで妨害されることはない思いながら試験を終わり、そして負けてその責任の追及を受けている葛城の姿を想像するだけで自然と坂柳の表情に笑みが零れた。もうあのような自分を楽しませてくれない葛城を相手しなくてもいい、それを思うだけでもとても嬉しかったのだ。

 

そんなことを思いつつ、船のカフェエリアでコーヒーを飲んでいた坂柳だったが、少し人の声がするようになってきたことに気がついた。今船内にいるのは、自分と、ごく一部の引率の教師、船の各種乗組員と、1日目にリタイアしたらしいDクラスの生徒くらいのはずだった。

それにも関わらず、次第にざわざわとした人の声が大きくなっていく。その声を不思議に思いながら、カフェの外側に目を向けてみると、Cクラスの生徒らしき男女が何人も歩いているのがその目に映った。

 

その生徒たちはカフェには目もくれず、進んで行くためこの先のレストラン、もしくはプールのあるデッキを目指しているのだろうと推測できた。彼たちがどうしてここにいるのか、その理由を考えてみるが、恐らくはCクラスを率いている龍園翔の作戦の一つなのだろうと坂柳は予測した。

龍園翔もまた自分を楽しませることのできる貴重な人物であるため、今回のこの試験でとったこの戦略の不可解さに何が目的なのかと考え、楽しんでいると、後ろから扉を開く音とその際扉に付けられている鈴が扉が動いたことで鳴り響き、店内に誰かが入ってきたことが伝わった。

 

「これはこれは、Aクラスを率いているリーダー様じゃないか」

 

後ろから品のなさそうな輩が入ってきたようで、坂柳のことを雑に呼ぶ。本来ならこんな相手ならば話もしないが、今日は気分がいいので坂柳は返事をしてみることとした。

 

「あら、どちら様でしょう。そちらは存じているみたいですが、私は存じていませんので」

 

「あ?俺を知らないってのか?」

 

「ええ、存じませんね。貴方の様な人は私の記憶には残っていないようです。強いて言えば、CクラスにはDクラスの生徒に喧嘩をしかけ、逆に撃退されたという生徒がいたらしいという事実なら記憶に残っていますが…」

 

須藤に喧嘩をしかけ、その結果須藤にボコボコにされた上に、それを訴えた石崎はDクラスの戦略にはまり、その訴えを取り下げることになった過去がある。そのことを言われ顔を真っ赤にした石崎が坂柳に詰め寄ろうとする。

 

坂柳は身体がよろしくないので、石崎のようなガタイのいい男には到底かなわない。それでもなんとかしようと、椅子に立てかけていた杖を手にとって構えるが、石崎は隣にいたアルベルトに体を掴まれて押さえ込まれたのだった。

 

「またかよアルベルト!こいつはバカにしたんだ!止めるんじゃねぇよ!」

 

アルベルトに止められてなお坂柳に噛み付こうとする石崎であったが、アルベルトが無理やりその場から連れ出して行ってしまった。もっともアルベルトにひきづられていく中でも坂柳に対して不満をぶちまけていたが。

 

「全く、これだから面白くありません。葛城君のように全く挑発に乗らないのも面白くないですが、あそこまですぐに挑発に乗るのでは楽しめません。やはり司くん、神室さんくらいじゃないと楽しめません」

 

今はここにいない、二人のことを思い浮かべていると、いつのまにか隣に銀色の髪を腰まで伸ばした女子生徒が座っていることに坂柳は気がついた。先ほどの石田、アルベルトのように入ってくるなら気付くはずだが、なぜか気づかなかったことに少し違和感を覚えながらも、特に何もしなさそうなので無視をしておくことに坂柳はした。

 

先ほどの二人のせいで冷めてしまい、あまり美味しくなくなってしまったコーヒーを飲むと、口の中にコーヒー特有の苦味が広まる。普段はブラックのコーヒーなんて飲まないため、その苦味に慣れずに少し飲むのを躊躇っていると、ふと隣の少女が話しかけてきた。

 

「貴女はAクラスの坂柳有栖さんですか?」

 

「ええ、そうですが?いかがなさいましたか?」

 

「私はCクラス所属の椎名ひよりと言います。突然で申し訳ないのですが、龍園翔くんから貴女宛にメッセージを預かってますので、ぜひ聴いていただけたらと」

 

少女は物腰丁寧に、ゆっくりと話す。それは聴いているこちら側が少し眠気を覚えてしまうくらいだった。

 

「龍園くんが私にですか。面白そうですね。彼は私に何を伝えようとしたのでしょうか?」

 

「龍園くんは、『いつまでも余裕で見下せる立場にいると思ったら大間違いだ。手始めに葛城を落としてやるよ』…と言ってました」

 

相変わらず好戦的で、他クラスとの揉め事を積極的に引き起こす龍園らしい言葉だと坂柳は思った。実際に龍園が自分を楽しませてくれるかは微妙だが、少しながら楽しみはできたと坂柳は思った。

 

「そうですか、分かりました。ではこう返事しておいてください。『それでは貴方の活躍を期待していますよ、ドラゴンボーイさん』…と」

 

「ではその通りに伝えておきますね」

 

椎名も聞いてくれたようなので、坂柳はコーヒーを飲み切って、カフェを後にしようとする。ここはプライベートポイントを使わなくてもいいために勘定が必要ない。そのため、そのまま帰ろうと扉に手を掛けた時だった。

 

「…私個人から貴女に質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

最低限の連絡事項しか話さなかった椎名が始めてそれ以外のことを話した。別に話を聞かず帰ってもいいが、帰ったところで何か予定があるわけでもないので、坂柳はその話を聞いてみることにした。

 

「いいでしょう。私に貴女からどんな質問があるのですか?」

 

坂柳が振り返って質問を促す。

 

すると、その女子生徒も座っていた席から立ち上がって、坂柳の前にやって来て質問をぶつける。

 

「坂柳さんにとって桐生司くんとはどんな人物なんですか?」

 

思いがけない質問に、流石の坂柳も驚いた表情を浮かべる。だが、すぐにいつも通りの少し笑みを浮かべた表情を浮かべて答える。

 

「Dクラスの桐生司くんについてでしょうか?そうですね…私を最大限楽しませる可能性のある人物といったところでしょうか。私自身はっきりと答えは出ていませんが、例えば同じAクラスの葛城くんなどとは違った型にはまらない面白さを持っていると評価していますよ」

 

「…そうですか。わざわざ答えてくださってありがとうございます」

 

椎名は礼を言って、帰ろうとする。しかし今度は坂柳がその帰ろうとする椎名を引き止めるのであった。

 

「貴女はどうしてそのような質問を私にしたのですか?」

 

そんな坂柳の質問に椎名はすぐに答える。

 

「私は桐生くんの一友人として、気になっただけですよ。桐生くんがよく一緒にいるという貴女が気になったんです。それに貴女は龍園くんが特に意識をしているようなので」

 

「あら、そうでしたか。貴女の満足するような回答が出来ましたか?」

 

「ええ。やはり龍園くんとが思っているように面白い方だと思いましたよ。これから試験で同じになることがあればよろしくお願いしますね」

 

そう言って丁寧なお辞儀をして椎名はどこかへ去っていった。

 

会話をしたのはわずかな時間であったが、彼女もまた、少なからず自分を楽しませてくれるかもしれない人物かもしれないと思った坂柳は、一人楽しそうに笑みを浮かべるのであった。




有栖の登場は実は14話ぶりなんですよね
ヒロインなのに…

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