違うクラスの女の子に目をつけられたんだが   作:曇天もよう

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気付けばお気に入り登録が100件を超えていたため驚きました。もっと面白くしていけるように頑張ります!


初授業

「ジリジリジリ!!!」

 

甲高い目覚まし時計の音が桐生の部屋の中に鳴り響く。桐生は目をこすりながら目覚まし時計を上から叩いて起きる。布団が変わり、枕が変わると眠れないという人も多いが、桐生は特にそういうわけでもなく、快眠することができた。

スーパーから帰宅し、自分の部屋に入ると、一人暮らしには十分すぎるほどのスペースの部屋が用意されていた。簡単に荷物を片付けて、ご飯を食べ、授業の予習を少しだけやってから、桐生はすぐに就寝した。

昨日の夜に準備しておいた朝ごはんを準備し、早めに支度をして桐生は自宅を出た。

 

早めに寮を出たため、人は少なかったが、少なからず教室へ向かっている人たちがいた。その中に見知った人物が歩いているのを桐生は見つけ、その人物の元へと走っていった。

 

「綾小路か、おはよう。綾小路も朝が早いんだな。」

 

「桐生か、なんだか早くに目が覚めたんでゆっくり歩いているだけだ。」

 

昨日初めて会った時と変わらず気だるそうに歩いているその様子だったが、早起きで、この時間から教室に移動しているあたり、やはり自分と綾小路は似ているように桐生は感じていた。

 

「綾小路は何か新しく得られた情報はあったか?」

 

「…そうだな……昨日コンビニに行ったんだが、須藤が上級生と揉め事を起こしていたくらいか…」

 

「やはり須藤はそういうタイプか…」

 

ここで話している須藤とは桐生や綾小路と同じクラスメートだ。昨日、平田が率先して自己紹介をしようと話をした時にも、その誘いを拒否して教室から出て行ってしまった。

平田がイケメンで行動力もいいため、クラスメートの多くから人気を集めていたこともあり、他のクラスメートたちからも須藤はすでに嫌な奴というレッテルを貼られていたようだった。

ちなみにこの自己紹介の時、桐生は当たり障りのない言葉を話していた。自分の名前、趣味等本当にオーソドックスなことを話した。

しかし、桐生の前に平田が自己紹介をしていたため、特に皆の印象に残ることなく終わってしまった。

 

同様に綾小路も自己紹介をしようとしたが、かみかみになりながらだったので、クラスメートたちから苦笑いをされながら聞かれるという悲しいことになっていた。このことに堀北からは「二人揃って哀れなものね。」と罵られていた。

 

当の堀北は順番が回ってきても自己紹介をすることなく、帰ってしまった。そのため、多くのクラスメートたちから不評を買っていた。本人は至って気にしていなそうではあったが。

 

 

「そうだな。それとDクラスということを聞いたその上級生は急に態度を強くしていたな。そのことからクラス分けは何かしら俺たちを区別する物なのかもしれないぞ。」

 

確かに昨日カフェで坂柳も何かあると話していたな。AからDクラスまである以上、成績の良さなのかもしれない。そう考えると自分が悪い成績だということになって悲しいが…

 

その後も、世間話などをしながら、お互いに昨日掴んだ情報を話していると教室が見えてきた。

教室に着くと、1時間目の準備だけをして、綾小路以外にも話をかけてみる。

 

「おはよう洋介。」

 

「ああ、桐生くん。おはよう。」

 

「俺のことは司でいいって言ったから気軽に呼んでくれよな。」

 

「そうだったね、じゃあ改めて。おはよう、司。」

 

「おはよう。」

 

今日も洋介は朝から爽やかだった。その笑顔を多くのクラスメートの女子たちが見ている。

少し世間話をしてから、昨日誘いをしてもらったが、行けなかったことを今の間に謝っておく。やはり早めに謝っているといいだろうと謝った。(実際のところ、平田たちの誘いは断った身なのにカフェで違うクラスのクラスメートと1時間ほど話ししていたので罪悪感があったからである。)

 

「昨日は誘ってもらったのに断ってしまって悪かった。」

 

「いや、大丈夫だよ。こちらこそいきなり司の用事も考えずに誘ってしまって悪かったよ。また今度あらかじめ予定を決めてから遊ばないかい?」

 

「そうだな。また予定を決めてからの方が確実に遊べるだろうし、そうしよう。」

 

やはり洋介はすごい人だ。こちらが予定を合わせられなかったため謝っていたのに、洋介は俺をまた別の機会に遊ぼうと別の約束を取り付けることで悪かったという気持ちを少しでも減らそうとしている。やはり洋介がクラスの中心になっていくんだろうと俺は思う。

 

そうしていると始業のチャイムがなり、先生が入ってくる。高円寺、須藤の二人は先生が入ってくる数秒前に教室に入って来たが、初日から攻めているなと思った。まぁ、遅刻しなかっただけマシではあるのだと思うが…

 

今日から授業が始まると言っても初日とあって、授業の大半は先生の自己紹介と勉強方針等の説明だけだった。先生たちは進学校とは思えないほどフレンドリーで、多くの生徒が拍子抜けした様子だった。高円寺は手鏡で自分を見ながら、髪などの手入れをしていた。お前は女子か。須藤に至っては一切起きておらず、ほとんどの授業で机に伏せていた。各担当の先生達は須藤のそれに気づいていた様子だったけど、注意する気配は全くなかった。逆にそれを黙認し、意にも介さない様子で授業をしているようであった。

義務教育ではなくなったから、授業を聞くのも聞かないのも個人の自由であり、聞かなくて損するのはお前たちだ。とでも考えていたのだろうか。

 

 

 

授業は先生の教え方が上手だったためか、早く時間は過ぎていき、あっという間に昼休みのなった。生徒たちが初日に作り上げた人脈を使い、教室を去っていく中俺は特に誰かと一緒に食べに行くといったことをするわけでもなく教室に佇んでいた。ただ、全く誘いがなかったわけではなかった、途中洋介がクラスの皆に食堂に一緒に行かないかと言っていた。続々と女子が集まる中、俺はそんな女子たちと食べるのはきついと判断して行くのを躊躇してしまった。洋介はこちらを気にしていたが、女子たちに連れられて教室を出て行ってしまったのだった。

さらに他に仲が良い人といえば綾小路と堀北?くらいだった。今のところ他のクラスメートで仲が良い人はいなく、綾小路と二人並んで机に座っていた。一人で食べるのも虚しいものであるからとりあえず綾小路を誘ってご飯を食べようと、声をかけてみることにした。

 

「綾小路?」

「綾小路くん!」

 

 

桐生が綾小路君を呼ぶと同時に、だれか他の人物が綾小路君を呼んだ。綾小路を呼んだ人物の方角を見るとそこには昨日の朝、バスの中で困っていたおばあさんを助けていた少女と目があった。

 

確か櫛田と自己紹介で名乗っていた人で、学校のみんなと仲良くなりたいと言っていたな。正直言って全員と仲良くなるのは不可能だと思う。人と仲良くするのをあまりよく思ってない人もいる。例を挙げれば堀北なんかは特にそうだ。ああいうタイプはなかなか苦労するだろう。第一に俺も彼女を疑っている。やけに優しすぎて怪しいものに感じるからだ。

 

そんなことを考えていると全員が黙ったままになってしまっていたので、とりあえず自分が話す。

 

「あー、俺のはどうでもいい話だから後でいいよ。櫛田さんが先に話して。」

 

「ううん。桐生くんが先でいいよ!」

 

「俺は別にいいんだ。遠慮しなくて大丈夫だ。」

 

「私も少し聞きたいことがあっただけだから後でいいよ!」

 

 

お互いに譲り合ってなかなか折れなかったが、櫛田が先に用件を言う事になった。

 

「ちょっとしたことなんだけど綾小路くんって、もしかして堀北さんと仲がいいの?」

 

「別に仲良くはないぞ。普通だ普通。あいつがどうかしたのか?」

 

堀北のことを綾小路に聞くということは仲良くなれなかったけど、とりあえず情報を入れて仲良くしようとしているのだろう。そのため、綾小路に聞いているのだろう。

 

その後話を聞いていると櫛田さんが連絡先を聞いたら、案の定堀北は断ったらしい。それで堀北さんがどのような人なのか、一番仲が良さそうな綾小路君に聞きに来たのだと。案外、櫛田さんの本性に気が付いたんじゃなかろうか。

何分櫛田が優しすぎるのは怪しすぎるため堀北も警戒したのだろう。

 

結局、綾小路君も昨日会ったばかりでよく知らないと聞き、「改めてよろしくね」と言いながら握手をして去って行った。ついでに俺にも改めて自己紹介をしてよろしくと握手してから去っていった。普通の人なら今の行動だけで恋に落ちるだろうが、俺には不気味にしか思えなかった。

 

「それで、桐生は何の用だ?」

 

綾小路に呼ばれたため意識を戻して話す。

 

「綾小路を食事に誘いに来たんだ。一人で昼ごはんを食べるというのも虚しいものだからな。」

 

「オレを誘いに来たのか?」

 

「迷惑だった?」

 

「いや、そんなことはない。寧ろ嬉しいくらいだ。是非よろしく頼む。」

 

綾小路も快諾してくれたため、内心ホッとしながら学食へと向かう。

やはり誘って断られると…と思うと怖く感じるが、快諾してもらえると嬉しいものだ。

学食のできる食堂へと向かうと、やって来るのが少し遅かったため、全ての席がほとんど埋まっていた。

待っていると午後の授業に遅れてしまうため、コンビニに立ち寄りパンを買って教室に戻った。数名程教室に残っていたクラスメイト達は机をくっつけて友達同士食べる者から、一人静かに昼食を取る生徒など多種多様であった。

俺は綾小路と席をくっつけて、綾小路君の席で食べることになった。綾小路の席の方を見ると先ほどまで出かけていていなかった堀北が自分の机に座って弁当を食べていた。

堀北は綾小路の方を向くと突然話し出した。

「まさか、綾小路くんが誰かとご飯が食べたいからってポイントで一緒に食べる人を雇うとは驚いたわ。綾小路くんも悲しい人ね。」

 

「何でそうなる。いくら悲しくても人をポイントで雇ってまで一緒に食べたりしない。」

 

「にわかに信じがたい話ね。まさか綾小路くん、寝ぼけているんじゃないかしら?」

 

「もう昼だぞ。寝ぼけているわけがないだろ。」

 

「なんか俺だけ置いていかれてるんですけど…」

完全に蚊帳の外になっていたので割って入る。すると堀北の言葉の矛先はこちらへと向く。

 

「あら、綾小路くんを誘った物好きな人ね。あまりに存在感がなかったから忘れていたわ。」

 

「そういうと、本当に悲しくなるからやめてくれ。それにしてもお前たち仲いいのか?ぴったりの漫才でも見ているようだった。」

 

その言葉が気に障ったのかさらに口撃をしてくる。

 

「どこをどう見て私と綾小路くんが仲が良いと思うのかしら。あなたの目は節穴なの?」

 

「俺には仲が良いように見えた。堀北は人と話さないが、綾小路とは話をする。それだけでも判断材料になるだろう。」

 

堀北はさらに語感を強くしながら桐生に話す。

その間綾小路は気に留めることなくおにぎりを食べていた。

 

「嫌いだったらわざわざ憎まれ口なんて叩かないで無視するだろう?少なくとも俺ならそうする。興味なければ綾小路にどんな友達が居ようが居まいがどうでもいいだろうしな。」

 

「桐生。その言い方は酷いぞ。」

 

ずっと黙っておにぎりを食べていた綾小路がようやくしゃべる。しかし堀北はそれを無視して桐生に言う。

 

「詭弁ね。嫌いだから皮肉を言ってやっただけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

 

これ以上議論をしても終わらないな。堀北はプライドが高そうに見えるため、絶対に自分から折れることはないだろう。あまり長く話しているとこちらが昼ご飯を食べる時間がなくなってしまう。

時計をチラッと見ると昼休みの時間は残り15分になっていた。もうじき返ってくる人も出てくるだろうし切り上げることにした。

 

 

「そういうことしておくさ。」

 

「言い返すことが出来なくなったから逃げるつもりかしら?」

 

意外にも堀北はさらに追求してくる。相手が折れたならもう何も言わないと思っていたから桐生は驚いた。

 

「そんなことはない。言おうと思えば言えるが、何せ俺はまだ昼ご飯を何も食べていない。それに、あと少しもすれば午後の授業は始まってしまうし、クラスメートたちも帰ってくる。その時に口論していると面倒くさそうにも思うからな。」

 

「それは確かにそうね。それならここで終わっておきましょう。」

 

クラスメートたちの注目を浴びるのは流石に堀北も嫌だったらしく引いてくれた。そのため桐生も買ってきたパンをお腹の空いた胃袋の中に急いで詰め込んでいった。


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