なかなか辛かったです…
「全員集まったようだな。それでは概要の説明を始める。一度しか言わないため、しっかりと聞いておくように」
真島先生から解散を命じられた生徒たちは各々の担任の元へ移動し、具体的な指示を仰ぐこととなっていた。
俺たちDクラスはDクラス担任の茶柱先生の元へと移動し、今、まさにその指示を聞くところであった。
「具体的な内容は先ほど真島先生が話した通りだ。それ以上でもそれ以下でもない。そして、お前たちには腕時計を配布する。この腕時計は試験終了時刻まで外すことが許可されていない。如何なることがあろうとも必ず身につけておくように。もしも仮に腕時計を外したのならばペナルティが課せられるため注意すること」
「その腕時計は何のために付けるんですか?」
そこまで徹底して義務付けるには何かしら腕時計に何か仕掛けがあるに違いない。そう思ったため、質問をする。
質問をされた茶柱先生はダンボールの中に入っていた腕時計の一つを取り出し、実際に手にとって説明を始める。
「いい質問だ。この腕時計には時刻を確認する機能だけが搭載されているのではない。体温、脈拍、人の動きを探知するセンサーGPSの機能、少々ながらも音声の録音をする機能も搭載されている。実際に腕時計を配布されたら確認してみるといい。そして、この時計の側面にあるボタンに注目してみろ。このボタンは緊急時に学校側にそれを伝えるためのボタンだ。何かしらの非常事態が起こった時にはそのボタンを迷うことなく押せ」
その説明が終わる頃にはさまざまなダンボールが俺たちDクラスの近くに積み上げられていた。その中の一つであるダンボールから皆が腕時計を取り出し、つける。
「非常時って…クマとかそういうのが出たりしないですよね?」
「これは試験だ。試験内容に関する質問には答えられない」
茶柱先生の返答に皆がざわつく。もしクマなんかに遭遇したらどうしよう…と心配になっているようだ。
しかし、クマなどの危険な生物が生息していることはないだろう。もしも存在していれば、万が一死亡者が出るかもしれない。そうなれば大問題だ。単純に全生徒の体調管理をするためというのが目的だろう。
同じことを平田が皆に伝える。すると少しは落ち着いたようだ。
「でもよ、先生、こんな高機能なやつをつけて海に入ることなんてできないでしょ?」
「問題ない。それは完全防水になっているため、海に入ることも問題ない。さらにゲリラ豪雨などにあっても壊れないことが保証されている。付け加えて言えば衝撃耐性もある。しかし自ら壊すような行為はしてくれるなよ。そして、万が一にも故障をしてしまった場合には試験管理者がやってきて代替品と交換される決まりになっている」
話を聞く限り安全面の保証はされているようだ。とりあえず安心して無茶をすることができそうだ。
「ちなみになんですけど、ポイントを使わない限り俺たちは完全に自力で全てのものを揃えないといけないんですか?」
「ああ。学校側はポイントを使わない限り一切関与しない。食料も水も全てお前たちで用意してもらうことになるだろう。全ての解決方法を考えるのはお前たちだ。私たちの知ったことではない」
それを聞いて再び戸惑う声があがるが、これは主に女子からの声が多かった。
「心配すんなよ!魚とか捕まえて、森で果物探せばいいっしょ!テントは葉っぱとか木とか使えば作れるからな。最悪体調崩してでも頑張るぜ!」
300ポイントを温存してプライベートポイントに回したい池は、不安など全くないといった様子で話した。
しかし、その計画は無理だと思った。一人が生きていくために必要な食料と水を7日間手に入れるのならば、頑張れば大丈夫だろう。しかしながら、これはクラス全体で行う試験だ。少なくとも30人超えの食料を1日3食分、そしてそれを7日分用意しようとするのならば、それはとても厳しいものとなる。どれだけの魚を突かなければならないか、果物をゲットしないといけないか、それはとても大変なものだろう。さらに言えば、魚を手に入れるためのもりなどはどうして手に入れるのか?作るにしてもかなりの時間がかかる。これらを考慮すると池の考えは無理だ。
そんな池の考えにさらに茶柱先生は注意をする。
「残念だが池、お前の考えではダメだ」
突然言われたことに何か分からず困惑している池に説明をする。
「どういうことか分からないって顔だな。配布されたマニュアルの最後のページを開け。そこに今回の試験におけるマイナス査定となる行為などの項目が載っている。確認してみるのだな」
それを確認してみると、大きく分けて4点の項目が記されていた。
その1、著しく体調を崩したもの、大怪我により試験続行不可能と判断された者はマイナス30ポイントとし、その者はリタイア扱いとする。
その2、環境汚染とされるような行為を発見した場合、マイナス20ポイントとする。
その3、毎日午前8時、午後8時に点呼を行うが、その際に欠席をした場合、一人につきマイナス5ポイントとする。
その4、他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物損壊などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収とする
以上の4点がまとめられていた。
なるほど、無理をして我慢などをして体調を崩すのを防ぐためか。それに一般的な人としての立ち振る舞いを守るためのルールでもあるな。
「池、お前個人が無茶をするのは勝手だ。しかし、もしも10人の生徒が体調不良にでもなってみろ?それでアウトだ。それに一度リタイアとされた者は体調が良くなろうとも試験復帰を認めない。それでも強行するというのならば覚悟をしておくことだ」
話を聞いたところ、完全にポイントを使わない生活は不可能のようだ。いかに効率的にポイントを使って、ポイントを残せるかがこの試験のポイントと言えるのだろうな。
「つまりさ、ある程度のポイントの使用は仕方ないってことなんじゃないの?」
ここで篠原が自分の意見を言う。しかし、それに納得のいかない男子生徒たちが噛み付いていく。
「最初からそんな気持ちになるなよ。やれるところまで我慢するべきだ」
そんな意見に平田は難色を示すが、それを聞いても意見は変わらないようだ。
そんな話し合いをしている間に、俺は平田からマニュアルを借り、ポイントで手に入るものを確認する。
見てみると、一食用の食料と水、調理器具やテント、デジタルカメラ、無線機、パラソル、浮き輪など雑多ものがそこには記されていた。ここに何か試験のカギを握るものがあるかもしれないと頭の中に入れておく。
「仮にですが、ポイントを全て使用しきった後にリタイアが現れた場合にはどうなるのですか?」
堀北が質問をする。その質問は気になっていたことのため、助かった。
「その場合、リタイアとなる者が増えるだけだ。ポイントは0となるだけだ」
「つまり、マイナスポイントにはならない、そういうことでよろしいですか?」
「ああ。それと、支給テントは一つの重さが15キロなるため、運ぶ際には注意をすること。破損や紛失に関しては手助けはしないから取り扱いには気をつけろ。ちなみに一つで8人が寝泊まりできるようになってるから、そこも注意すること」
さらにどのようにして点呼を取るのか確認したところ、茶柱先生は俺たちが決めたベースキャンプに常駐するようだ。監督責任というやつだろう。
「なあ、話の途中で悪いけどよ、さっきジュース飲みすぎたからトイレに行きたいんだよ。トイレはどこなんだ?」
須藤が質問をする。少し焦った様子のようであるため、尿意が高いようだ。そんな様子を見て、手間が省けたと言った様子で茶柱先生は再びダンボールの中から小さなダンボールのようなものと紙を取り出す。
「これを使え。クラスに一つずつ支給されるもののため、大切に取り扱うこと」
「はぁ!?」
この説明に女子たちが一斉に声を大にして文句を言いだす。
それもそうだろう。クラスに一つずつということは男女共用ということであろう。それに、そんなダンボールにするなんて嫌だという嫌悪感があるためであろう。実際、男である俺もあれにするのは嫌だと内心思っている。
「まあ、そう騒ぐな。これは災害時にも用いられるものだ。今から使い方を見せるからしっかりと確認してくように」
茶柱先生はブーイングなど気にしないといった様子で手際よく簡易トイレを作っていく。そして、組み立てられたダンボールに内に先ほどの青いビニール袋と白いシートを設置する。
「このシートは吸水ポリマーシートと言って、汚物をカバーし固まるものだ。これにより見えなくなると同時に匂いも抑制する。使い終わった後はシートを重ねる。これを繰り返せば5改善が可能だ。なお、このビニールとシートだけは無制限で支給することになっている。どうしてもだというのならば一度毎に換えても構わない」
しかし、そんな説明を聞いたところで納得できるはずもなく女子たちが主として反論をする。その様子を聞いていた池が我慢しろというが、そんなことはできないと口論を始めてしまった。一応さっき見たマニュアルには仮設トイレがあったが、このことは後で言えばいいだろう。今説明するのはめんどくさい。
同じように思っているのか、茶柱先生も辟易とした様子を示していた。
そんなとき、俺たちのの後方から気の抜けた声が聞こえてきた。しかし、他の人たちはトイレについての論争で気づいていないようであった。
そして、その声の主はBクラス担任の星ノ宮先生であり、いきなり茶柱先生に抱きついた。茶柱先生は嫌そうな顔で何か言っていたが、何を言っているのか、俺には他の人たちの声で聞こえなかった。
なんだかうるさくて離れた場所に行きたいと思っていると、こちらに星ノ宮先生は近づいてきて、俺に声をかけてきた。
「おっ!桐生くんじゃない。久しぶり〜」
いきなり俺に話しかけてきたことに俺は驚き、一歩下がったが、そんなことも意に介さずさらに近づいてきて話をする。
「夏は恋の季節。好きな子に告白するならこういう綺麗な海の前が効果的かもよ〜?一之瀬さんや坂柳さんなら喜んでくれるかな?」
「はぁ…何を言ってるんですか。俺がなぜ告白をすると?それに加えて有栖は船上で待機してるのでここにはいませんよ」
「まぁ!有栖なんて下の名前で呼ぶなんてお熱いこと!」
「別に有栖が呼べって言ってるから呼んでるだけですよ」
「へぇ〜気になるな〜」
話にかなり食いついてくるので対処に困ってるいると、茶柱先生が帰るように脅迫のようなことをする。すると、しぶしぶと言った表情を浮かべながらBクラスの方へと戻っていった。
星ノ宮先生が戻ると、大きなため息を俺と茶柱先生はつき、顔を合わせる。茶柱先生は何も言わなかったが、お前も大変なんだな…と言っているようであった。俺も同じような表情を返しておくと、肩に手を置かれた。完全に同情されているようであった。
そんなことをしていても、終わることのない口論は続いており、終わりは見えないようであった。
そんな様子を見かねた茶柱先生は大きく手を叩いてそちらへと注目をさせる。
「少し注目しろ。これで説明は最後だ。追加ルールについてだ」
追加ルールと聞いて皆がまた声を出す。そんな声を気にせず茶柱先生は説明を続ける。
「島について、自由に散策できるようになっているが、島には複数箇所のスポットが存在している。それぞれのスポットには専有権が存在し、占有したクラスのみがその場所を使用できる。しかし、効力は8時間しかなく、自動で取り消されるため、その都度更新しなければならない。さらに、一つのスポットを一度占有する度に1ポイントを加算するようになっている」
「何すかそれ!?大事なことじゃないすか!」
山内たちが声を大きくして言う。
しかし、説明には続きがあるようで、茶柱先生は説明を続ける。
「ただし、これは試験終了時に加算されるポイントであるため、試験期間中に使用することはできない。そこを把握しておくように。そして、焦る気持ちは分かるが、このルールには大きなリスクもある。そのリスクとメリットを天秤にかけて、利用するのか決めるように。そのリスク、メリットについてはマニュアルに全て記されているため確認しておくように」
マニュアルを持っていた俺はすぐにページを開き確認をする。するとそこには箇条書きでこう記されていた。
・スポットを占有するためには専用のキーカードが必要となる
・1度の占有につき1ポイントを獲得できる。占有したスポットについては占有したクラスが自由に使用できる。
・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合はマイナス50ポイントとする
・キーカードを使用することが出来るのは各クラスに一人設定されているリーダーに限定される
・正当な理由なくリーダーを変更することはできない
その他茶柱先生の説明にあった内容が示されていた。
一見これを見れば全てのスポットを確保してしまえばかなりのポイントを確保できるように見える制度だが、箇条書きに書かれていた最後の文言により、それには多くのリスクが伴うことが分かった。
その最後の一文がこれだ。
・最終日、点呼をするタイミングにて他クラスのリーダーを当てる権利を各クラスに与える。これは権利であるため使わなくても良い。当てることが出来たのならば、その数かける50ポイントをそのクラスには与える。代わりに当てられたクラスは50ポイントを失う。
これにより、大胆に動くことは大きなリスクが伴うことが分かったのだ。もしも他の3クラス全てから当てられた場合、150ポイントを失うことになる。逆に言えば全クラス的中すれば150ポイントを獲得することが出来る。この制度が今回の試験の最重要ポイントということになるのだろう。
「リーダーについては本日夜の点呼で誰にするか教えてもらう。それまでに話し合いをしておくように。もしも決まらないのならば、こちらがランダムに決めさせてもらう。話は以上だ。解散とする」
この最後の説明により、本格的に特別試験が開始となったのであった。