違うクラスの女の子に目をつけられたんだが   作:曇天もよう

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今回は長めです。
そして一気に2巻の内容を終わらせます。


決着

審議が行われた翌朝、俺は綾小路や、堀北に審議の結果がどうであったのか、それを聞くために二人が登校してきたところで、聞きに行った。

 

「よう、二人とも。昨日の結果、どうだった?」

 

二人に質問をするとまず堀北が答えた。

 

「どうもこうもないわ。昨日の審議では結果は出てない」

 

堀北の言っていることが一体どういうことなのか分からず困惑していると、綾小路が順を追って説明をしてくれた。

 

「まず簡潔に結果を言うが、さらに一日猶予を与えられて、お互いの主張を取り下げさせるような動きをしてみろ、そう言われたんだ」

 

「どうしてそうなった?」

 

「昨日の審議自体は大体こちら側の優位で進んだ。やはり、佐倉という決定的証拠を持った人物がいた事が大きかったのだろう」

 

俺が綾小路に聞いたところら須藤が暴力事件を起こした時、佐倉は偶然にもその現場に居合わせたらしい。しかし、気が弱く、臆病な佐倉であったため、当日になるまでそのことを黙っていた。そのため、Dクラスが用意した証人ではないか、と言われたらしい。しかし、写真として抑えていたため、その現場を見ていることに相違はない。そこでCクラスは和解を求め、譲歩案を出してきた。それはCクラスの生徒もペナルティを受けるが、須藤にも暴力を振るった事実は残るため、2週間の停学でどうか?という話だったらしい。

最初は1ヶ月の停学で全面的に負け濃厚であったため、相手から譲歩案を出させただけでも十分にこちら側の勝ちと言えるだろう。

しかしながら、それでは須藤にとってバスケ部のレギュラーの座を剥奪されることは間違いない。こちら側が考える勝利はこちら側の全面勝利のみ。そのため、堀北は譲歩案を蹴ったようだった。

 

「普通に考えたらおかしいことだよな?」

 

「確かにそうだろうな。譲歩案を引き出してるのだろうから、こちら側の勝利は間違いない。それでも妥協しないってのは普通の交渉ならおかしな話だろう」

 

「何か不満かしら?」

 

「いや、大いにお前らしい。多分こうなるだろうって予想してた」

 

「予想してた?なら、何か手立てはあるのでしょうね?」

 

「ああ。綾小路の言葉にヒントを得た。準備もまかりなく整えている。堀北と綾小路は審議の準備をしといてくれ。俺は相手を引きづり出す準備を整えるから」

 

そんな俺の言葉に堀北はどうな手立てを使うのか説明を求めた。あまり情報を話すと広まってめんどくさい事になるので内密にすることを条件に二人に計画内容を話した。

堀北はその内容にとても驚いているようだったが、綾小路はいつも通り変わらない顔で聞いていた。

 

「驚いたわね…確かにそれは完全勝訴を狙えるけれども…けれどもあなた、必ず遂行できるのでしょうね?」

 

疑って聞いてくるあたり、堀北はまだ信用できないらしい。半信半疑といった様子で怪訝そうに俺のことを見つめている。

勿論俺も、勝ち目があるから仕掛けるのであって、不安はない。そこを説明しておく。

 

「ああ。問題ない。これをするに当たって協力者には心当たりはある。多分協力をしてくれるだろう」

 

「桐生がそこまで言うのならいいんじゃないか?確かに桐生のいう手段はこちらを完全勝訴に持っていくには十分な手段だ。俺は桐生を信用する。堀北はどうだ?」

 

綾小路は納得してくれたようだ。そして聞かれた堀北は少し考え込んでいたが、納得いったらしく首を縦に振った。

 

「分かった。じゃあ準備をするからよろしく。二人は審議の場で問題なく進行できるように準備しといてくれ。あと、結果は決まり次第すぐに携帯で伝えよう。一応その時間は携帯を気にしといてくれ」

 

「分かった。桐生も頼んだぞ」

 

「了解」

 

そう言って、俺は綾小路と堀北の元から離れると、携帯から最近手に入れたばかりのアドレスを探し出し、一通のメールを送っておく。すると、少ししてから返信が返ってくる。内容を確認すると、手はずは整ってる、という内容がそこには書かれていた。

その内容を確認して返信をすると、ちょうど始業のチャイムが、鳴った。携帯をポケットにしまい、先に着席すると先生が中へと入ってくる。

俺は授業を聞きながら、どのようにするのか再確認を頭でするのであった。

 

 

 

 

 

放課後になり、俺は特別棟2階の事件があった廊下へとやって来ていた。相変わらずここは暑い。冷房が完備されている本館と比べると、こんなにも差が出るのかと思ってしまうほどだ。

あまりの暑さにシャツの胸元を掴んでパタパタとしていると、今日の朝、協力をしてもらうために読んだ人物が現れた。

 

 

「やっほー、司。待たせちゃった?」

 

「いや、俺も先ほどきたところだから問題ないよ」

 

口ではこう言ってるが、実際のところは15分ほど前に来て、再確認をしていた。だが言わない方がいいだろうと思ったので黙っておく。

 

「いやー、最初は想定外の発想過ぎてびっくりしたよ。でも、上手く出来れば穏便に済ませることもできると思うな」

 

やはり帆波もこの案には驚かされたらしい。確かに普通なら考えない手段だから仕方ないが。

 

「しかし、帆波はこれに協力してくれるのか?言うなれば嘘をついて相手を騙さらなければならないのだが…多くの人と交友関係を持ってる帆波は少し辛いところがあるけど?」

 

「うん。確かに進んでしたいことではないけど……司が困ってるのだから…私、頑張るね」

 

「…助かる。代わりに今度の休日に一日付き合ったらいいんだよな?」

 

「うん。もともとどこかでご飯食べようって言ってたのを、一日私と出かけるようにしてくれるようにしてくれるなら喜んで付き合うよ」

 

「分かった。そんな条件でいいならいくらでも付き合う。それで例のもの…買ってきてくれた?」

 

「うん。ちょっと待ってね…」

 

帆波は持ってきていたバッグからとあるものを取り出した。

 

「うん。問題ないな。ありがとう、助かるよ。俺はこれを設置するから、少し休憩しておいていいよ。暑かったら俺のカバンの中にジュース買ってきてるから飲んじゃっていいよ」

 

「うん、分かった。気をつけてね」

 

審議開始まで残り50分ほど。あと、20分ほどで準備を整えなければならない。急いで俺は準備に取り掛かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ。そろそろ来るだろうな。帆波、よろしく頼む」

 

「任せて。じゃあ私は少し移動するね」

 

帆波はすぐに出番があるわけではないので、少し離れた位置で待機してもらっておく。帆波がここから離れて10秒としないうちに三人組の男子が暑い暑いと不満を漏らしながらもやって来た。時間ぴったりにやってきたようだ。

 

「……お前誰だ?どうしてここにいる?」

 

「初対面だったか。俺はDクラスの桐生だ。以後お見知り置きを」

 

「てめぇの名前なんてどうでもいいんだよ。俺たちは呼び出しをされてここにきているんだ。お前に用はないからそこを退け」

 

「俺はお前らと話し合いをしに来た。それだけじゃ不満か?」

 

「話し合いだと?…大方お前も須藤の味方ってところか。そんなもの俺たちには必要ねぇよ。どう足掻いても真実は隠せねーんだよ。俺たちは須藤に呼び出されて殴られたんだ。暑いんだから面倒くさいことをするんじゃねぇよ」

 

 暑さからか口調が悪く、暑そうにシャツを掴み、パタパタと仰ぐ。これ以上世間話をしている暇もない。早速本題に移ろう。

 

「大人しく諦めることだな。じゃあな」

 

 俺のことを無視して行こうとする3人だが、ここで聞こえた一言に足を止める。

 

「観念した方が良いと思うよ、君たち」

 

「い、一之瀬!?どうしてお前がここにいるんだよ!」

 

「どうしてって、言われてもね。私もこの件に一枚噛んでいるからかな?そこで君たちを呼び出しただけ。私にも君たちには因縁があるからね」

 

 俺たちDクラスが知らないところですでに衝突は起きていたらしい。おそらくCクラスの連中からちょっかいを出されていたのだろう。

 Cクラスの三人は帆波の登場によって、目に見えて取り乱していた。それが呼び出して来た張本人であふというのに必死に帆波を追い払おうとしていた。帆波はそんなことは気にせず、手配通りに宣言した。

 

「ちゃっちゃっと言っちゃおう!そろそろ年貢の納め時だよ!今回の事件、君たちが嘘をついたこと。最初に暴力を振るったこと、全部お見通しなんだよね。それを明るみにされたくなかったら今すぐ訴えを取り下げるべし!」

 

「は? 訴えを取り下げろ? 笑わせんなよ。何寝ぼけたこと言ってんだ。俺たちは須藤に一方的に殴られたんだよ」

 

「はぁ、分からないのかな?もう少し頭を使った方がいいんじゃない?この学校が日本でも有数の進学校で、政府公認だってことは分かってるんだよね?」

 

「当たり前だろーが。それが狙いで入学してんだからよ」

 

未だ反抗的態度をとる三人であったが、相手を煽るように話す帆波にイライラを募らせているようであった。次第に口調が乱れ始めている。

 

「だったらさ、今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしいと感じなかった?少なくとも私は思ったよ?」

 

「あ?どういうことだ」

 

「君たちが訴えを学校側に出したとき、どうしてすぐに須藤君を罰しなかったのか。猶予を与えて、挽回するチャンスを与えたのか。その理由は何だろう?」

 

「そりゃ須藤が学校側に泣きついたからだろ」

 

「本当にそうなのかな? 本当は別の狙い、目的があったんじゃないかな」

 

「わけわかんねぇ。あーくそ暑ぃ」

 

窓を閉め切った廊下は、夏の逃げ場がなく、蒸し暑くなっていく。それに伴い、集中力が低下していく。さらに苛立ちも加わり、冷静な判断ができなくなる。

それを分かってかどうか知らないが、3人はこの場を離れようとする。

 

「もう行こうぜ。こんなところに居ても意味はない」

 

「いいのか?もしお前たちがここを離れたら、一生後悔するかもしれないが?それでもいいってのなら帰ればいい?尤も返すつもりはないがな」

 

「さっきから何なんだよ、お前ら!」

 

ついに怒りが限界に達したのか三人の中で中心人物のようである人が不満をぶちまけた。ここが絶好のタイミングと考え、ついに俺は話す。

 

「分からないなら教えてやろう。学校側はな、知っているんだよ。お前たちが嘘をついていることを。それも初めから」

 

 Cクラスの面々が俺の言葉に固まる。予想だにしていない言葉に理解が及んでいないのだろう。それでも何とか正気を取り戻したリーダー格の男が反論する。

 

「俺たちが嘘をついてる?それを学校側が知ってるだと?笑わせんじゃねーよ」

 

「お前たちは芸人か何かか?笑わせてくれる。お前たちは学校側の手の平でずっと踊らされてるんだから」

 

「そんな嘘は通用しねえ!」

 

「そう?でも確実な証拠があるんだけどな?」

 

「はっ。だったら見せてくれよ、その証拠とやらをよ」

 

証拠がないと確信しているからこそ乗ってきたのだろう。笑いが止まらない。ここまで想定していた流れた寸分狂わず動いている。でもその行為が敗北につながる。チェックメイトだ。

 

「お前たちはあそこについている物体が見えないかな?」

 

俺が指をさした先。そこにCクラスの面々も視線を向ける。そこを見つめ、発見した瞬間、顔は青ざめ間抜けな声を出す。

 

「……へ?ば、な、何でカメラがあるんだよ!嘘だろ!?だって、他の廊下にはカメラなんてなかった。ここだけ設置されてるなんておかしな話だろうが!」

 

 僕が指をさした場所には特別棟の廊下を、隅から隅へと監視するように、時折左右に首を振る監視カメラがあった。

 

「ダメじゃない。誰かを罠にハメるならカメラのないところでやらなきゃ」

 

帆波の援護射撃に更に動揺は増しているようで、リーダー格の一人以外はすでに顔が青ざめて思考が停止しているようであった。しかし、リーダー格の一人だけは未だ抵抗を続けていた。

 

「…俺たちをハメようったってそうはいかないぜ。アレはお前らが取り付けたんだろ!」

 

「ふーん。だったら後ろ見てみたら?カメラは一台だけじゃないよ?もし私たちが取り付けたんだとして、あっち側まで用意するかな? と言うか、そもそも監視カメラなんて学校から出られない状況でどうやって用意するの?」

 

「そんなはずはねぇ。廊下にはカメラはないはずだ!」

 

「ん?お前ら?知らないのか?職員室と理科室の前には例外的に設置されているんだぞ。お前ら理科室にどれだけ危険な薬品が保管されてるの知らないだろ?硫酸とか無断で持ち出されてみろ。どんな大惨事が起こると思ってんだ?」

 

少しづつ逃げ道を潰され、Cクラスの三人は反論する言葉を失う。もう少しだな。押し込もう。

 

「そ、そんな馬鹿な……そんな、俺たちはあの時確認した……はず」

 

「本当に2階だったのか?別の階を調べたんじゃないのか?だってここには現にカメラがあり、動いている。確かな証拠だろう?」

 

「それに君たち、自分自身でボロを出してるって分かってる?監視カメラがあるかないかなんて普通の人は気にしないし確認なんてしないよ。自分たちが犯人だって認めてるようなものだよ」

 

帆波の言葉に3人は頭を抱えるようにしてふらついた。もはや自ら自白をしているようなものだ。この暑さに加え、突然伝えられた真実により三人は正気を失っていった。冷静な判断なんてもうできないはずだ。

 

「じゃ、じゃあ……あの時のも、まさか……」

 

「まあ、音声はないにしても、お前たちが殴りかかった瞬間は写っているだろうな。お前たち、滑稽だと思わないか?自分たちは立派に演技をして騙せているとでも思っていたのだろうが、実際はそんな演技見抜かれていた。その審議の場で生徒会長とやらはどんな思いでお前たちを見ていたのだろうか。聞いてみたいもんだな」

 

 

「本当は、学校も待ってるんじゃないのかな?君たちが本当のことを話してくれるのを。だから生徒会長自ら審議に参加していたんじゃないかな?今思い返したら、全て見抜かれていたと思わないかな?」

 

 帆波の言葉を聞いて、3人はきっと昨日の審議のことを思い返しているに違いない。当然のことながら嘘を見抜かれていたかなんて俺には分からない。しかしながら、生徒会は中立の立場として、C,クラス、Dクラスのどちらも疑っていたはずだ。だからこそ生徒会長自ら出てきたのだろう。しかし、冷静な判断能力を失っている彼らからすれば、それが自分たちだけに向けられていたと思い込むには十分だろう。

 

「何で俺達がわざわざお前らに教えたと思う?」

 

「…それが何だってんだ?」

 

「それはだな、この事件は起こった時点で、互いに罰を受けることが決まっていたからだ。どちらが先に仕掛けたにしても、結局は罰を受けるんだ。それじゃ、うちも困るんだよ。悪い噂が一つでも残れば、須藤のレギュラーの座は危ない。大会にだって簡単には出られないだろう」

 

「何だよそれ。じゃあお前らだってカメラの映像は困るんじゃねえか。だったら俺たちはこのまま何もしなくていいんだ。須藤を停学にできればそれでいいんだからよ」

 

「…へぇー、君たちは退学が怖くないんだ?」

 

「は?退学……?」

 

完全に頭が回り切ってないようだな。思考能力がゼロにまで落ちているから仕方ないこととはいえ、ちょっと考えれば思いつくことなのにな。

 

「君たちは3人がかりで嘘の供述をしたんだ。停学なんかで済まされるとは思えないよ。もっと重い罰を下されるだろうね」

 

「お前たちは退学をナメていたのだろうけど、考えてみろ?ここは日本政府が直接資本を出しているような高校だぜ?そんなところを退学にされた人間を不思議に思わない人なんていないとでも思ってるのか?」

三人の顔がより一層青ざめていく。ようやく事の重さを理解したのだろう。だが容赦はしない。徹底的に追い詰める。

 

「まあ、大抵のところに就職しようにも出来ないだろうな。そんな国お抱えの高校を退学になっちまうような人材だ。欲しいと思う方が不思議だわな。何をしようにもここを退学にされたという重い足枷は一生お前たちに付いて回る。それを覚悟した上で何もしないなら結構。俺たちはお前たちの人生には何も関係ないからな。好きにしてくれ。」

 

そう言って俺と帆波は出口の方向に歩き出す。敢えてここで突き放す事で、相手は必ず、こちらに条件を提示してくるだろう。その中からさらにこちらに良い条件を引き出す。

 

「ま、待てよ!じゃ、じゃあ、何で学校は俺たちに何も言ってこないんだよ!」

 

「簡単な話だよ。学校側は試してるんだよ。私たち生徒間で問題を解決できるのか、どんな結論を導き出すのかを試してるだね。この学校らしいね」

 

「お前らに最後のチャンスを与えてやる。簡単な話だ。それは訴えそのものを取り下げるって手段だ。訴えが無くなれば誰も処罰を受けることはない。そうだろう?」

 

俺たちに打てる手立ては全て打った。後はこいつら次第だが…。

 

「……一本、電話をさせてくれ」

 

リーダー格の男が最後の悪あがきをする。大方Cクラスを仕切っているという龍園とかいうやつに電話をして指示を仰ぎたいのだろうが、そんなことはさせない。ここで考える時間を与えさせると不利になる。ここで決める。

 

「交渉は決裂したみたいだね」

 

「そうだな。今すぐ学校側に映像の確認をしてもらって、こいつらを退学にしてもらおう。おっと時間ももうないな。急いで審議する教室へ向かわないとな。それじゃあ俺たちは失礼するよ」

 

三人は俺が見た時計を見て、ついに顔が真っ白になっていった。そこの時計が指し示している時間、それは4時55分。審議開始は5時。これだけで何を指し示すか分かるだろう。審議に出なければ心象はそれだけで悪くなる。それに加えて先ほどのことを話している。そこから導き出される答えはただ一つ。退学だ。

 

「まっ、待ってくれ!わかった……取り下げる……取り下げれば、いいんだろ……!」

 

ついに心が折れたようだ。これでうちの完全勝利だな。

 

「了解した。時間もないから急いで審議室にいくんだな。遅れた時、どうなるのか、分かってるだろうしな」

 

そう伝えると一目散に審議室へと走っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。目論見通りに進んで助かったよ」

 

「お疲れ様ー。暑いから帰りながら話そうよ」

 

「分かった。そうしよう」

 

俺と帆波は荷物をまとめて特別棟から外に出た。その際に綾小路に上手くいったことを伝えた。綾小路からは了解した、と簡単な返信が返ってきた。それに俺も返信してから携帯を閉じる。携帯を閉じると帆波が話しかけてくる。

 

「いやー司のやり方は怖いね。完全に心を砕きにいってたでしょ?」

 

「ん?そりゃあ心を砕いておかなきゃ、判断力乱さないからな」

 

「それに、時間も嘘付いちゃってたね。最初なんで時計が早いんだろう?って思ってたけど、まさかそう使うなんて思ってもなかったよ」

 

実は帆波の言う通り、先ほど俺や三人が見た時計は正しい時間を刻んでいない。5分早くしていたのだ。俺の見立てではどんなに会話を長引かせても20分が限界だった。そこで、なるべく長く体感させ、ギリギリの時間であると錯覚させる。そうすれば、更に相手は焦る。それを狙ったのだ。

 

「あと気になってたんだけど、司は全然汗かいてるようには見えないんだけどどうしてなの?こんなに暑いのに?」

 

「ああ、それはコルセットを装着してるからだよ。胸の辺りにコルセットを装着して締めると、上半身の発汗が抑えられるんだ。代わりに下半身が余計に発汗するのが弱点だけどね」

 

「そんなことしてたんだ。でもそれって何か理由があったの?」

 

「それはだな、俺が全然汗をかいてないのに、自分たちは汗が止まらない。すると、自分が焦って汗をかいているのだと少し思って錯覚してしまうからだ。想像して見たら分かると思うよ。自分が汗が止まらないのに相手は汗ひとつかかず、冷静に言葉をかけてくる。するとこの汗が自分の冷や汗なのでは…って思ってしまうんだよな」

 

「…聞いてて隣にいる人が怖くなってきたよ…」

 

「まあ、そうだろうな。今回は仕方ないことだ。帆波にはこんなことしないよ。俺たちの邪魔をしなければ…だけどな」

 

「あはは…善処するね…」

 

帆波がさっきから苦笑いしかしなくなってしまった。やり過ぎてしまったのだろうか?まあ、いいか。俺は俺の仕事をやったまでだ。後は綾小路と堀北がなんとかしてくれるだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、茶柱先生からCクラスからの訴えは取り消されたと伝えられ、この一件は決着となったのだった。

 

 

 

 

 

 




徹底的に石崎たちの心を砕いた桐生でした。
次回は一之瀬さんとのデート幕間を挟んで、3巻、無人島編が始まります。楽しみにしていてくださいね

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