ここ最近評価があまりよろしくないのでここ最近実力不足を感じています。もっと良い評価を得られるように頑張っていきたいです。
通算UA40000件突破ありがとうございます!
須藤とCクラスがもめた後、桐生は山脇を論破した少女を追って寮への帰り道にやってきていた。桐生の見立てではそんなに遠くまで行ってはいないだろう、そう考えていた。
走って追いかけていると。案の定その少女は近くにいた。桐生は少女の近くへ走りながら声をかける。
「坂柳、少し待ってくれ」
呼びかけるが坂柳は待ってくれない。聞こえなかったのかと再び呼びかけるが、それでも待ってくれない。
「私の呼びかけるにはその呼び方では駄目ですね。本当にその呼び方でよろしいのですか?」
あくまでも独り言のように話す。坂柳は桐生が有栖と下の名前で呼ばないと振り返ってはくれないらしい。しかし桐生は躊躇していた。まだ夕方である以上、周りにも多くの生徒たちが寮に向かって帰っている。そんな周りに多くの人がいる中で女子のことを下の名前で呼ぶことに恥ずかしさを感じていたのだった。
「……呼ばれないのですね。呼ばれないのでしたら私は失礼します」
桐生呼ぶのを躊躇していると、坂柳は再び歩き出して止まってはくれない。このままでは本当に聞いてもらえず帰ってしまう。桐生にはもう有栖と呼ぶ他に手段はなかった。とても恥ずかしかったが、桐生は坂柳の手を取って呼ぶ。
「有栖、待ってくれ。話がしたいからいつものカフェに行かないか?」
「……はい。司くんが誘ってくださるなんて珍しいことですので、是非とも行かせてもらいますね」
ようやくまともに返事をしてくれた坂柳だったが、これからは有栖って言わないと答えてもくれないのかもしれない、と困りながらもいつものカフェへと二人で向かった。桐生は話しかけた時の微妙な間がに気になったが特に気にすることなく店内へと入った。
店内に入ると、手慣れたように、桐生はコーヒーとモンブランを、坂柳はカフェラテと抹茶のケーキを注文する。飲み物こそ毎回二人とも変えていたが、食べるものは毎度同じなので注文が早いのだった。それは店員も分かっているので、すぐに注文を取りに来て、注文を聴くとすぐにオーダーコールをしていた。注文を終えると二人は早速話に入る。
「しかし司くんが誘ってくださるなんて珍しいこともあるものですね。誘ってくださって嬉しい限りです」
「誘ってくださるなんて嬉しい、って言っているけど、実際のところ誘うように誘導しただろ?」
「いえいえ、そんなことはしていませんよ?」
坂柳は意地の悪い笑顔を浮かべる。その様子からも明らかに狙っていたということはわかった。
実際のところ、坂柳は直接桐生を誘ってはいなかったが、言葉遣いによってその意味を伝えていた。それは図書館での言葉、『そこにいる彼の方が聡明でお話がしたいですね。』であった。普通に聞いていれば状況からして多くの人が、ただ山脇を挑発するだけの言葉に聞こえるだろう。しかしながらあの時、あの瞬間だけは桐生を見ていた。そこまでは一切関係のないような人を装っていたのにも関わらずにも。桐生も最初は特に気にしていなかったが、言葉の意味を考えていると坂柳がいつものカフェで待っていると分かったのだ。
「まあ、そういうことにしておくよ。それにしてもどうして図書館になんていたんだ?有栖は本を読んだりはあまりしないだろう?」
「あら、私だって本を読むことはありますよ。ただ司くんが本の虫すぎるだけですよ?私も本を図書館は借りに行くことはありますが、たまたま司くんと会っていないだけです」
確かに桐生の図書館利用率はとてつもない。坂柳とカフェで話をする日以外は基本図書館に出没している。それこそ最低でも週3で行っている。しかし桐生は土日はあまり利用していないため知らなかったが、坂柳は土日に使うことがたまにあった。そのため桐生は知らなかったのだ。
「土日は部屋で、借りた本をずっと読んでるから知らなかったな」
「それでしたら今度から図書館を利用する度に司くんを呼び出しましょうか?それだけ多くの本を読まれているのですから、面白い本を知っているでしょう?」
「……一日中、有栖に振り回されるだけになりそうだから勘弁してくれ」
「ふふふっ、呼び出させてもらいますね。どんな本を紹介してくださるのか、今からも楽しみにしていますね」
これから桐生の土日が坂柳に振り回されることが決まったのだった。坂柳は不敵な笑みを浮かべ、桐生は困った顔をしていた。
「まあ、いいや。それよりもだ。どうしてさっきのような論争に入ってきたんだ?有栖はあまり他人と会ったりすることをしないだろう?それなのにまたあんな目立つところに出てきたんだ?」
「私が人前にあまり出ないというのはどうしてだと思ったのですか?」
このタイミングで注文したものが届いたため、坂柳はカフェラテを飲む。ここだけ優雅な帝室で飲んでいるような雰囲気が漂っていた。
「判断した理由は二つある。まずDクラスのクラスメートである櫛田桔梗と会っていないことだ。櫛田はコミュニケーション能力がとても高い。それこそ学年の多くの人が知っているほどに。そんな櫛田が有栖のことは見たこともないと言っていた。その時点でも怪しい」
坂柳は飲んでいたカフェラテをテーブルに置き、答える。
「櫛田桔梗……ああ、あの裏表の激しそうな方ですね。私のことを利用しようとしている魂胆が見え見えでしたので会っていないのですよ。おそらく裏の顔で私のことを蔑んでいるのではないでしょうか。私はいくらあのような方に蔑まれていても気にしませんけどね」
櫛田について思い出し、その様子を思い出したのか、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。相変わらず観察眼がすごいようで、一度見ただけで櫛田の本性に気づいていたらしい。普段ならクラスで一緒にいる多くの人がその本性に気づいていないのに一瞬見たそれだけで気づくとは恐ろしいものだ。
「へぇ、よく分かっているんだな。確かに櫛田は有栖のことを蔑んでいたよ。それを分かった上で会わないようにして笑ってたんだよな?」
「はい。その対応こそが彼女に似合うと思いましたので。それに彼女の姿を見ていれば、偽りの姿も分かります。彼女はあまりにあざとすぎますから。あ、男性なら気づかないかもしれませんが、女性でしたら多くの方が分かるのではないでしょうか?ですが、私のことを褒めていますが司くんも気づいていたのでしょう?」
そこもお見通しだったらしい。
「なんだ、そこまで分かっていたのか」
「私が見込んだ人ですもの、それくらいできて当然です。そしてもう一つの理由とは?」
「こっちの方が簡単な理由だ。単純に有栖について知っている人が少なすぎる。Aクラスの派閥を率いている二大巨頭の一人なのにおかしくないか?もう一人の葛城というやつはどんな人だって聞くが、有栖に関しては本当に話がされない。そこから判断した」
「ふふっ、間違っていません。全て司くんの予想している通りです。よく少ない情報でここまで断定できましたね。それでは私から話をしましょう。とはいえども簡単な話ですがね」
再びカフェラテを飲んで少し待たせる。桐生も喋ってばかりで喉が渇いたので注文したコーヒーを飲む。砂糖を入れすぎたのか甘すのように感じる。半分ほどのシュガースティックしか使っていないのにもかかわらず、とても甘く感じる。このコーヒーが特殊なものかと思っていたが、シュガースティックの方を見ると中身が全てなくなっているように見えた。
「あら、甘すぎたのでしょうか?次からは気をつけてくださいね」
桐生がシュガースティックを見つけたタイミングで坂柳が話す。明らかにタイミングが合いすぎていてとても怪しい。一応コーヒーにシュガースティックを入れていないのかをすぐには聞かずに返答をする。
「確かにめちゃくちゃ甘かった。有栖はそういったものも表情から分かるものなのか?」
桐生の問いに至って普通の顔で坂柳は答える。
「いえ、私が少し熱弁されている間に砂糖を少々付け足させていただいただけですよ」
案の定坂柳が仕組んだことであった。それにしてもシュガースティック丸ごと入れるというのはなかなか酷いものではないかと桐生は思っていた。
「いや、甘すぎると思った。ここに置いてたシュガースティック全部入れただろ?」
「はい。美味しかったですか?」
屈託のない笑顔で答える。有栖からすれば愉悦に浸れる事かもしれないが、砂糖全てを入れたコーヒーは甘すぎる。もったいないから全てを飲んだが、口の中甘く、他の水分が欲しくなってきた…
「甘すぎて味を楽しめなかったな」
「ふふふっ、面白い顔が見れたので満足ですよ」
「有栖は満足かもしれないが、こちらは満足できないぞ?」
「それでしたら私が別のものを奢らせていただきますよ。もともとそのつもりでしたし。いかがされますか?」
「そうさせてくれ」
即断即決する。正直言って甘すぎる。シュガースティック丸ごと一本は俺には甘すぎた。
「分かりました、そこの店員さん、よろしいかしら?」
相変わらずこの目の前の少女の行動は分からない。突然ふらっと図書館に現れてみたり、人に聞いておきながらその間に砂糖を入れてみたり。なんだか俺をからかって遊んでいるみたいだ。
坂柳の呼んだ店員がやって来たのでカフェモカを頼む。店員も注文を聞くとすぐにオーダーを飛ばすため、戻って行った。
「さて、注文もされたので先ほどの質問にお答えしましょう。答えは単純明快です。純粋にくだらないと思ったからです」
「くだらないとは?」
「彼はC〜Aクラスが僅差だと言いました。そこの時点で全くの見当違いです。確かにDクラスは0ポイントですが、Cクラスも400とAクラスから見てみば変わらぬものです。」
「まあ、Aクラスから見てみれば大したものではないだろうな」
「そうです。ですが、それ以上に愚かである点が1つあります」
有栖がそれ以上に感じた愚かな点ってなんだ?今話したところが一番な理由だと思っていたため、正直言って検討もつかない。
「分かりませんか?…ではお教えしましょう。彼は目の前の人物の力量を測ることのできなかったからです。格上の者へと挑むことを勇敢と言いますが、それも状況を見誤ればそれは蛮勇です」
「私からすればクラスという括りによって人を判断し、目の前の相手の力量を測り損ねるだけでも愚か者であると思いますが、よりもやって彼は司くんを彼は見下した態度を取っていましたね。司くんをバカにするということは私をバカにされているも同然なのです。あなたを見出したのは私ですので。それに彼は私にも気づいていませんでした。愚か者にもほどがあるでしょう」
「要するに自分をコケにされるのが許せないってことだろう?」
「ええ。その通りです。実力も無いものが私をコケにするなどあり得ません。彼は後で徹底的に叩き潰させてもらいましょう」
「物騒なことを言ってるな。まあ、確かに山脇が悪いだろうがな」
「それに司くんももっと強く言えばあの程度の輩、論破することなど造作もないでしょう。ですがあなたはしなかった。ひいては多くのことを率先してしない。そこで決めました。司くんには早速私からの依頼をこなしてもらいましょう」
ついに有栖からの依頼がきた。今までは特になかったが、どのような依頼をしなければならないのか。有栖のことだから無理難題かもしれない。
気を引き締めていると坂柳からその依頼の内容が発表される。
「司くん、あなたにはまずCクラスに上がってもらいます。期限は1年生の間です。これが今回依頼する私の依頼です」
「……えっ?」
想定外すぎて理解が追いついていない。てっきり山脇を徹底的に叩き潰せとかそういった類だと思っていた。正直予想外すぎてイマイチ分かっていない。というか最初のホームルームでDクラスから這い上がったのはかつて存在しないと言われていたのだが…
「…もしそれが出来なかったら?」
失敗した時の条件も聞いておく。流石に聞いておかないと、坂柳のことであるからとんでもないことをさせられそうだからだ。
「出来なかった場合ですか。そんなことは考える必要ないでしょうが決めておきましょうか。そうですね、決めました。この1年の間で達成できなければ、あなたには望んだ進学先を与えません。一生私の右腕として働いてもらいましょう」
「いきなり厳しいのだが!?」
あまりの飛躍具合に思わず大声を出してしまう。桐生の突然の声にカフェにいる全員が桐生の方を見る。すみませんと謝り、席に座る。
「私は不可能なことではないと思っています。そして司くんならできるとも思っています。まさかこの程度で音をあげるというのですか?」
「まだしないとは言ってないけど…」
ここで断ったりすることや失敗してしまうことは、有栖の下で一生働かされることになる。一生有栖に振り回される生活をしていくことになるってことだよな……うん、考えたくないな。そんなことしてたら胃に穴が開いて過労死しそうだ…
「考えは纏まりましたか?」
「…ああ、上げてやろう。このポンコツなDクラスを、Cクラスに。どうせならAクラスまで狙って有栖を引きづり落とそうか」
「ふふっ、目標を高く設定するというのはいいことですね。ですが私に勝つと考えるのは愚かです。まだ土俵にも立っていませんが、司くんと真っ向から火花を散らす対決が出来ること、楽しみにしていますね」
この日一番坂柳は楽しそうな表情を浮かべた。それは側から見ている人には分からないほど僅かな変化であったが、それは確かに坂柳を楽しませていた。現に近くで見ていた桐生もその表情に気づいたのだった。
かくしてこの日より桐生司は本格的にDクラスの下克上に携わっていくこととなったのだった。
坂柳の言葉は聞き様によっては告白なんですよね。一生私の右腕として働いてもらうってそれは…