違うクラスの女の子に目をつけられたんだが   作:曇天もよう

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対策

5月も第2週となり、クラスポイントを失ってしまったためにプライベートポイントを一切獲得できなかったDクラスの生徒たちは授業態度を改めていた。以前は私語をし、携帯をいじり、授業中に居眠りをする。これらが至極当たり前のようにまかり通っていたが、今では須藤を除き全てのクラスメートたちがまじめに授業を受けていた。とは言ってもこれが学校教育とはしては当然の話なのだからこの程度で良くなったとは言えないのだが、以前までのDクラスの惨状を見ていた人からすれば、確実に前進はしていると言うだろう。しかしながら、須藤だけは一向に授業態度を改めようとしていなかったため、クラスメートたちから煙たがれていた。

 

「たうわ!?」

 

そんな緊張した雰囲気を醸し出しているクラスルーム内に綾小路の謎の奇声が響き渡った。ポイントが0になってしまったため、減点対象になるような行為に敏感になっているクラスメートたちが綾小路に対して鋭い視線を送っている。

この授業の担当教員である茶柱先生は気にしている様子を示さなかったが、これを減点行為ではないと判定しているかは分からない。そんな中でした行為であったためクラスメートたちは再び減点されないかと怖そうにしていた。

桐生はそんな視線に晒されている綾小路のことを見てみる。すると綾小路を挟んで反対側の住人、堀北がコンパスを持っていたことに気がついた。綾小路が謎の奇声をあげた原因が分かったが、堀北がした凄まじい行為に内心恐れていた。自分が隣じゃなくて良かった…と。実は桐生も少し眠気が来ていたのだ。昨日の晩に図書館で借りた、ウイリアム・アイリッシュ著の『幻の女』を夜更かしして見ていたからだ。寝たら気持ちいいんだろうな…、そんなことを考えていたところであったため、もしも綾小路と席が逆であったなら、あれを受けていたのは自分であったと考えると恐ろしくて眠気も吹き飛んだのだった。

 

ところで、未だに桐生たちはポイントをプラスにする術を見つけれていない。マイナスにしない方法こそ分かれど、プラスに転じるにはどうするのか?それを放課後にクラスの中心メンバーで話し合ってはみたが、成果は得られなかった。その話し合いの結果、取り敢えずは授業は真面目に聞く、遅刻はしない、などを徹底するほかなかった。この意見に対して殆どのクラスメートたちは賛成を示し、現に授業を真面目に受けている。しかし唯一須藤だけはその傲慢な態度を変えることはなかった。その様子から生活態度を改善するつもりはないらしい。しかし、この数日は遅刻をせずに来ている。それだけでもまだいい方なのかもしれない。それでもクラスメイトから後ろ指を指されるということは変わらないが…

 

 

「みんな!先生の言っていた中間テストが近づいてる。赤点を取れば、即退学だということは全員理解していると思う。そこでなんだけど、参加者を募って勉強会を開こうと思うんだ」

 

午前中の授業が終わり、昼休みに入ると平田が教壇に立ってみんなに話し合いの結果を報告する。桐生は日によって参加したりしなかったりをしている。今回の話は聞いていた。

 

「テストで赤点を取って退学してしまう事だけは避けたい。それだけでなく勉強してクラス全体で高得点を取ればポイントの査定だってよくなると思うんだ。だから小テストの点数が良かった数人で、テスト対策に向けて用意をしてみたんだ。だから、不安のある人は僕たちの勉強会に参加してほしい。もちろん誰あっても歓迎するよ」

 

桐生も問題作成に関わっている。というよりも大半を桐生が作ったのだ。このクラスの成績トップ層はおよそ五人いる。今回作成に関わったのはその中でも桐生と平田の2名だ。他三人は話し合いに参加しないメンツであるため、主に桐生が担当することになったのだ。

平田が皆に語りかけるようで実のところ平田の視線は須藤の方向を一点に見つめていた。最後の誰でも歓迎するという文言は、実のところ須藤に宛てたものだったのだろう。しかしながらその考えは須藤には届くことなく舌打ちをして須藤は目を閉じてしまった。

 

これ以上はどうしようもないと思った平田は須藤から視線を外し勉強会の概要を説明する。平田の説明を聞き、赤点組が平田の元へ向かうが、須藤、池、山内の問題児三人衆が向かう事は無かった。平田の事を良く思っていない三人だから仕方がないと桐生は思っていた。

 

 

平田の説明も終わり本格的に昼休みになった。今日は椎名と食堂で食べる約束をしているため、食堂に行く準備をしていると、綾小路と堀北が一緒に外へと向かっていったのだ。この二人は各々一人ずつで、食べていることが多いので珍しい。綾小路とは週1ほど一緒に食べるが、それ以外の人と食べていることは見かけないので珍しいと思ったが、ただでさえ待たせているのに、これ以上椎名を待たせると迷惑だと思って桐生も教室から出て行った。

 

 

 

 

「桐生くんが遅れるなんて珍しいですね。授業が長くなってしまったのでしょうか?」

 

Cクラスの前で椎名と合流する。いつものように待っていたが、やはり少し待ちわびていたようだった。

 

「ごめん、遅れた。クラスで話し合いがあったから遅れたんだ。食堂に着いたら詳しく話すよ。とりあえず席を取りに行こう。」

 

食堂は昼時になると人がとても多くなるため、早めに席は取っておかなければ座れなくなってしまう。すでに桐生は椎名を待たせてしまってるのに、席が取れなくて食べれなかったなんてなったら申し訳ないと思っていた。

 

「そうですね。では行きましょう」

 

椎名とその考えに賛同したため、少し急ぎ目に二人は食堂に向かって歩いて行った。

 

 

「なんとか席を取ることができたな」

 

桐生と椎名が食堂に着いた時、すでに多くの生徒たちが席に座っていたため、席がないかと思われたが、食堂の端の方に二席空いていたためなんとか座ることができたのだった。

 

「座ることができたので良かったです。それでどうして遅れたのですか?」

 

椎名が持ってきたコンビニの袋からおにぎりを取り出して食べる。椎名は料理が得意ではないため、作ることは出来ないため毎日コンビニで買って生活をしているらしい。

 

「ああ、その話ね。それはこれから始まる中間テストに向けてテスト勉強をしないか、という話をしていたんだ。ほら、うちのクラス勉強できない人たちの集まりらしいし…」

 

対して桐生は持参した弁当を開けながら返事をする。持参した弁当といえば見えはいいが、実際のところ夜に余ったカレーなどを詰めてきているため、弁当のために何かを作ったというわけではなかった。たまに作ったりもするが、なるべくポイントを抑えるため、安めにすむ夜ご飯の残りを使っていた。

 

「そうですか。たしかに赤点を取りますと退学になると言われていますから仕方ないですね。私たちCクラスではそんな話出ていません」

 

どうやらCクラスでは勉強をするという話は出ていないらしい。それよりもCクラスについてあまり情報が入ってこないため、分からない。

 

「そうなのか。Cクラスは大丈夫そうなのか?」

 

「分かりません。自分は自分の勉強をするといった方針をしているのであまり他人の勉強事情について分かりません。そちらの卵焼き美味しそうですね」

 

あまり興味がなさそうに椎名は答える。普段から感情が表情に出ない椎名の感情を読み取るのは難しいが、今回もイマイチ何を思っているのか桐生には分からなかった。

 

「卵焼き食べる?俺カレーだけで結構お腹いっぱいだしいるならあげるよ?」

 

「本当ですか。ではお言葉に甘えさせていただきますね」

 

椎名は食堂の箸を使って卵焼きを食べる。よく咀嚼をしてから呑み込み、その感想を述べる。

 

「この卵焼きとても美味しいですね。卵焼きはシンプルですので料理する人の腕前がはっきりと出ると聞きます。そして桐生くんの卵焼きは美味しいですので桐生くんは料理が得意なんですね」

 

「いやいや、そんなことはないさ。というかそんなに褒めても何も出ないよ。」

 

「いえ、心から思ったことを話したまでですよ。もう一つ頂いてもよろしいですか?」

 

「ああ、構わないよ。そんなに気に入ったならこれからも作ってこようか?」

 

「本当ですか?作ってもらえるなら嬉しいですが、迷惑ではありませんか?」

 

「いや、そんなことはないさ。自分が作ったものをそんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があるというものだよ」

 

「それではお願いします。これからも食べてみたいです」

 

「分かったよ」

 

椎名は美味しそうに卵焼きを食べている。普段の彼女からすれば珍しいほど顔に表情が出ていた。そんな様子を見ていたので桐生も満足そうであった。

 

「ところで話は変わるけど、ウイリアム・アイリッシュの『幻の女』を昨日読んだよ。ストーリーに引き込まれて寝るのも忘れて読んでた」

 

椎名は普段から感情が表情に出にくいことは先ほども述べたが、その他のことで椎名に分かりやすい感情が表情に宿る瞬間がある。

 

「本当ですか!?やはりミステリーの素晴らしさを感じられる一冊でしたよね?」

 

「あ、ああ。前半は一般人を使った捜査に疑問を浮かべたが、最後まで見てみるとバージェス刑事の手腕の素晴らしさに脱帽したよ」

 

「はい。存在しないとされる幻の女を追う追跡劇にハラハラしながら読み、途中で読むのをやめられなくなってしまうあの書き方の素晴らしさがたまりません!さらに冒頭のセリフ『夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。』この冒頭がやはり素晴らしいですよね?」

 

このように椎名は大好きなミステリーの話となると、人が変わったように話し、先ほどまでの人形のような一つしかない表情に多種多様な表情が宿る。そのギャップを桐生は見ていて楽しかった。

 

(ああ、これはスイッチ入ったな。)

 

その後昼休みが終わる直前まで椎名と『幻の女』について話すこととなった。

 

 

 

放課後となり、みんなが勉強会に参加するため、移動をしている中、隣から鋭い声が聞こえてきた。

「使えない」

 

「今聞こえたぞ、何て言った?」

 

「使えない、って言ったの。まさかそれで終わりなんて言わないわよね?」

 

何の話だろうか?と気になったので話しかけてみる。

 

「二人とも何の話?喧嘩してんの?」

 

「桐生…いや、実はな……」

 

綾小路がことの発端を説明する。堀北が洋介の勉強会からあぶれた三人衆に勉強を教えるべく、もう一つの勉強会を開こうとしているらしい。その三人衆を集めるため綾小路君がその役割をすることになったらしいが、三人衆は一切応じることなく綾小路は玉砕。まあ、確かにあの三人衆を勉強に誘っても応じないだろうな。それこそ櫛田などが誘わない限り。簡単に説明を終えた綾小路に堀北が再び質問をする。

 

「それで?これで終わりなの?」

 

堀北の辛辣な言葉が綾小路に突き刺さる。普段の綾小路なら心が折れていただろうが今日は挫けずジョークをかます。

 

「そんなわけないだろ。まだオレには四百二十五の手が残されてる」

 

「それだけ残っているなら早く実践しようか」

 

綾小路君は席に腰かけて、何やら考え出す。やっぱり考えはなかったらしくこまっているようだった。その間に堀北に開催することにした理由を聞いてみる。

 

「どうしてまた堀北が勉強会を開こうなんて思ったんだ?堀北はそんなことを思いそうにないが…」

 

「別にどうもしないわ。私の為に必要と判断しただけよ」

 

「自分のため…か。それは支給されるクラスポイントを上げたいって事のためか?それとも…クラスを上げたいからか?」

 

「そうね。ポイントの支給はどうでもいいのだけど、クラスポイントを上げる為ではあるわね。私はAクラスを目指している。そのためなら興味がないこともするわ。」

 

堀北はすぐに答える。その口調から本心であろう。

 

「閃いた!」

目を伏せ考え込んでいた綾小路君がその目を開けて、突然喋る。突然のことに俺も堀北も体をビクッとする。

 

「突然喋り出すのはやめてくれ。びっくりした。それで何が思いついたんだ?」

 

「おっと、すまなかった。ところで堀北、お前が勉強を教える以外に別の力がいる。協力してくれ」

 

「別の力? 一応聞いてあげるけど、何をすればいいの?」

 

「例えば…こういうのはどうだ? もし次のテストで満点を取ったら、堀北を彼女に出来るとか。そうすれば間違いなくあいつらは食いつくぞ。男の原動力はいつだって女の子だ」

 

「死にたいの?」

 

今朝、コンパスを綾小路に向けていた時の鋭い視線が綾小路を刺す。あまりの雰囲気に綾小路がビビる。現に俺もビビっている。

 

「いいえ、生きていたいです」

 

綾小路はすぐに訂正をして謝る。あまりの対応の早さに驚いた。多分俺が綾小路の立場だったなら俺もこうしていただろう。それくらいに堀北の視線はきつかった。

 

「綾小路、確かに着眼点は悪くない。あの三人衆のことだ。そういうことになれば死に物狂いで勉強をしそうだ。だがしかし、彼女になるってのは堀北にとって負担が重すぎる」

 

「その通りよ」

 

「だから、キスをしてあげる、などの優しい条件にしたらどうだ?あいつらはそれだけでも喜んで飛びつきそうなものだが」

 

「はぁ?」

 

桐生の続けた言葉に堀北の表情が一段と険しくなる。

 

「キスと言っても口にする必要はない。別に口にするなんて一言も言っていないから頬にキスするだけでもいいからな」

 

「なるほど。その手があったか。それでいこう。どうだ?」

 

「あなたたち死にたいの?」

 

雰囲気だけで殺されそうな威圧感に襲われた。先ほどよりも増した鋭く射るような視線と、あまりの剣幕に綾小路と共にすぐに謝る。

 

「「生きていたいです」」

 

冗談で乗ってみたが、案外効果はあるんじゃないかと思う。まあ、尤も堀北がそれを了承する可能性はあるわけがないだろうが。

 

「はぁ。早く何とかしなさいよ」

 

そう言って、堀北が席を立つ。堀北はどこへ行くのだろうか。堀北はこのあと行われるテスト勉強には参加しないだろうし、興味すらなさそうだ。

そんなことを考えていると綾小路がデリカシーのかけらも感じさせない発言をする。

 

「どっかいくのか?トイレか?」

 

デリカシーのない発言に手刀で返した堀北は教室を出て行った。クリティカルヒットをしたようで綾小路は悶絶している。流石に今の発言は綾小路が悪かったが、一応心配しておく。しばらくすると綾小路の容体が落ち着いた。綾小路は呼吸を整えると真剣な話を始めた。

 

「三人を誘う方法だけど、桐生は気付いているんだろ?」

 

「…俺は何も気づいていないが?」

 

「またまた、嘘をついて。もう一度聞くけど知ってるんだよな?」

 

意外と綾小路は観察眼がいいらしい。一切語っていなかったのにもかかわらず俺が気づいていることに気づいた。綾小路は侮れないやつだな。

 

「…ああ、可能性があるとすれば櫛田しかないだろう」

 

そう言って、その人物へ視線を向ける。それと共に綾小路も視線を向ける。二人の視線に視線を向けられている矛先、そこにはクラスメイトと楽しそうに喋っている櫛田の姿があった。

 

「その言い分なら綾小路も気づいていただろう?それにもかかわらず、何で堀北にはそのことを言わなかったんだ?」

 

「あー…それはだな…以前に櫛田に頼まれて友達にしようとして相当怒らせてしまったんだ。あのときの堀北も怖かった。何よりも赤点を取ってない櫛田を勉強会に呼ぶのは違うと櫛田が関わることを堀北はまず認めてくれないだろうな」

 

そんなことがあったのか。その友達にしようとしたことが一体どういうものなのか分からないが、堀北はそれを拒否したから出来なかったのはしょうがないな。というか綾小路からも俺と同じ苦労人の予感がすごいする。

 

「堀北が拒否しているにしろ、櫛田にしか三人衆を集めてもらう以外には無理だろうな」

 

「そうなんだよな……仕方がないか。今から俺が櫛田に頼んでみよう。ちょっと行ってくる」

 

「それがいいと俺も思う。三人衆が堀北主導の勉強会に参加すればありがたいからな」

 

そのまま綾小路は櫛田の元へと向かっていった。桐生も他人を気にしていて自分の成績が下がれば本末転倒で、自分も退学になってしまったら意味がない。

桐生も自分の勉強をするために図書館へと移動をしていった。

 


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