灰色騎士と黒兎   作:こげ茶

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3分割の最後です。
また、レクター少佐がレクター大尉になっているミスを発見いたしましたので訂正させていただきましたことをお詫び申し上げます。あと機甲兵調練じゃなくて教練でした。


小話3:黒兎と水羊羹

 

 

 

―――――アルティナが目を覚ますと、全身に僅かな痛みがあった。

 

 

 

「………鬼ごっこ、でしたか」

 

 

 よくよく冷静になって考えてみれば、最後のあたりでは無駄な力が少なくなっていたような気がする。もしかするとフォームに拘りすぎて無駄な力が多かったのかもしれない。

 筋肉痛も昨日よりは随分良くなって、あの軟膏はとても良く効いたらしい。

 

 

「………」

 

 

 というか、わたしはリィン教官の部屋にいたはずでは。

 ワイシャツを着て自分のベッドに横になっていて、制服は綺麗に畳まれている。

 

 しかしながら、自分の記憶ではワイシャツは脱いでいた。

 ということは、これは誰に着せられたのだろう――――?

 

 

 

「………………っ」

 

 

 

 いや、そんなはずはない。

 いくらリィンさんが不埒だとはいえ。それは、とても、そう――――。

 

 

 

 

(……リィンさんなら、なんとも思わない可能性が?)

 

 

 

 自分の義妹から皇女殿下にまで幅広く手を伸ばすリィンさん―――リィン教官なら、わたしのことは子ども扱いでカウントしていない可能性もあった。というかそうでなかったら、普通にわたしを起こすはずで。

 

 

 

 

「…………………………はぁ」

 

 

 

 胸がもやもやする、とはいえ寝てしまったわたしに原因なわけで。これは流石に不埒だったかもしれません。わたしが。

 リィンさんが不埒だけれど真面目……誠実と言ってもいいのは知っていますし。

 

 

 

 

「……まあ、寝顔を見られたのは二度目ですし。何も無かったのなら別に――――」

 

 

 

 別に、それをリィンさんが望めば。

 きっとわたしは―――――。

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

 自分で、自分が何を考えているのかよくわからない。

 ただ、胸がとてももやもやして――――きっと、同じことはもうできないような気がした。だって、とても、胸が苦しい。心臓が早鐘を打っていて、頭まで毛布を被って丸くなる。

 

 

 

「わたし、どうしたんでしょうか」

 

 

 

 

―――――見られた? リィンさんに?

 

 

 

 頭の中で、色々なものがぐるぐると暴れまわっているような気がする。

 心拍数が跳ね上がって、顔が熱を持っている気がする。

 

 

 

 

「………リィン、さん。リィン教官……」

 

 

 

 いつか、任務で見た笑顔を思い出す。

 

 別に何かされたわけでもないはずなのに、苦しい。もしもリィンさんと会ったらと思うと、リィンさんの顔を見られないのではないだろうか。

 

 

 

 と、不意にユウナさんの声が聞こえた。

 

 

 

 

「アルティナ、朝よー? ……むぅ、疲れてるのかな。リィン教官とトワ教官が運んできたときもぐっすり寝てたし……」

 

「………………おはようございます」

 

 

 

 急激に頭が冷えた。

 

 

「うわっ!? び、びっくりした。おはよう、アルティナ」

「はい。……リィン教官は、何かおっしゃっていましたか?」

 

 

 

 

 どうやら――――本当に何もなかったらしい。

 胸のもやもやが大きくなるのを感じつつも、リィン教官に遠慮する必要はなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『………おはようございます、リィン教官。昨晩は勝手に眠ってしまい、申し訳ありません』

『あ、ああ。そうだ、あの後――――』

 

 

 

『ハーシェル教官にお願いしたとお聞きしましたので、問題ありません。それでは』

 

 

 

 

 朝、リィンがアルティナに会ったところ妙に落ち込んだ様子……というか拗ねている? いや、そんなわけはないので怒っているのか、とにかく様子がおかしかったことに頭を抱えていた。これ以上の不埒な容疑はかけられていないらしいことは―――まぁ、喜ぶべきなのだろうが。

 

 とりあえず今日は機甲兵教練で忙しくなると思われることもあり、宿舎を出て―――ふと、如水庵に立ち寄った。

 

 

 

 

(水羊羹か……これで少しでも機嫌が治るといいんだが)

 

 

 

 とりあえず甘いものが好きなのは分かっているので、悪化することはないはず。そう思って水羊羹を購入すると、不意に声を掛けられた。

 

 

 

「――――ほう、珍しいなシュバルツァー。刀を扱うだけあって東方の食を好むのか」

「ぶ、分校長!?」

 

 

 

 突然現れた分校長の気配をほとんど察知できなかったことに戦慄しつつも、どうしてこんなところにいるのだろうと考え。

 

 

 

「なに、私は少々本屋に用があってな。貴様が深刻そうな顔で歩いていたので後をつけてきただけだ」

「…………さらっと尾行しないで下さい」

 

 

「気にするな。とはいえ、何故そんな深刻そうな顔で菓子を買うのだ?」

「いえまぁ、アルティナを怒らせてしまったので甘いものでも渡そうかと……」

 

 

 

 嘘を言っても看破されたりより面倒なことになりそうだと感じたリィンは素直に打ち明け。分校長はわずかに驚いた後、何やら意味深に頷いた。

 

 

 

「なるほど。ではシュバルツァー、授業の後片付けが終わったらそれを持って茶道部に来い。ではな」

 

 

 

 分校長はそのまま有無を言わさず颯爽と歩き去り。

 後には水羊羹を抱えたリィンだけが残された。

 

 

 

 

 

……………

…………

……

 

 

 

 

 

 機甲兵教練は、それなりの成果を収めた。

 特に問題なく教えることができ、ユウナとクルトは初日とは思えない飲み込みの良さだった。……アルティナはどこか不満げだったが、それでも十分にできていたと思う。

 

 オルランド教官と、そしてティータと協力して片付けを終えたリィンは不審に思いつつも茶道部に向かい―――――半ば空いていた戸から中を覗き。

 

 

 

 

「ようこそお越しくださいました」

 

 

 

 長い銀髪を丁寧に結い、淡い水色の着物を着た少女に出迎えられた。

 儚げな雰囲気と東方の着物が合わさって、どこか浮世離れした魅力を醸し出していた。東方の妖精か何かだと言われれば信じてしまいそうなくらいには。

 少女は顔を上げると、その顔を僅かに驚きに染め―――。

 

 

 

「………リィン教官?」

「えっと、アルティナ……だよな。見違えたというかなんというか、似合っているな」

 

 

 

 言ってから不埒だったかと思うものの、アルティナは数回目を瞬かせるといつもより気持ち小さな声で言った。

 

 

「………………ありがとうございます」

「………」

 

 

 

 

 

 いや、これは。一体どうすればいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 機甲兵教練が終わると、何故か分校長に呼び止められ。

 茶道部の部室に連れて行かれると、そのまま有無を言わさず服を脱がされて東方の着物というものを着せられた。曰く「貴族の子女の嗜み」だそうなのだが、理由も説明させられずにとにかく次に部屋に入ってきたら所定の挨拶をしろという。

 

 

(……流石、情報局でも警戒されているだけのことはありますね)

 

 

 こんなことに何の意味があるのだろうと思いつつも、ついやってしまうのは意思が弱いからなのだろうか。近づいてくる気配を感じ、教えられたとおりに頭を下げる。

 

 

 

「ようこそお越しくださいました」

 

 

 

 さて、挨拶は終わったので帰ってもいいでしょうか――――そんなことを考えながら頭を上げると、何故かリィン教官がいて。

 

 

 

「………リィン教官?」

「えっと、アルティナ……だよな。見違えたというかなんというか、似合っているな」

 

 

 

 ………………。

 僅かに目を見開き、珍しくリィン教官が見とれていた。……何に? わたしに?

 

 

 

「………………ありがとうございます」

「………」

 

 

 

 

 言葉は、勝手に口をついて出ていた。

 沈黙は重いのに、いつの間にか胸のもやもやはどこかに消えていて。

 

 しばらくこのままでも良いかもしれません、と思っていると不意にリィン教官は持っていた包みを置いて言った。

 

 

 

「そうだ。水羊羹を買ったんだが……せっかくだし食べないか?」

「水羊羹……東方のお菓子でしたか。では、頂きます」

 

 

 そのままリィンさんは慣れた手つきでしまわれていた茶碗と皿を出すと、手早くお茶を淹れて並べてみせた。

 

 

 

「……手慣れていますね」

「いや、まぁこの前茶道部でお茶をご馳走になってな」

 

 

 

「……ミュゼさん、でしたか」

「………いや、あの。アルティナ? なんで睨んでるんだ?」

 

 

「いえ、リィンさんのことなので不埒なアクシデントでもあったのではと」

「………いや、そんな頻繁にアクシデントはないからな」

 

 

 

 目を瞑り、咳払いなどするリィン教官。……あからさまに怪しい様子に疑いの目を向けていると、切り分けられた水羊羹が差し出された。

 仕方なく一口食べると、優しい食感と甘さが口に広がり、わずかに驚く。

 

 

 

「これは……美味しいですね」

「ああ、そうだな」

 

 

 せっかくなのでお茶も一口頂くと、丁寧な味と僅かな苦味が水羊羹の甘さとマッチして次の一口の甘さをより感じられるのがわかった。

 ふう、と一息ついて一言。

 

 

 

「……それで、ミュゼさんの着替えを覗いたと」

「―――――げほっ、げほっ。いや、違うからな!?」

 

 

 

 どうやらほぼ図星だったらしい。

 焦って首を横に振っているあたり覗いたわけではなく、遭遇したとかその程度なのだろうけれど。

 

 

 

「不埒ですね」

「いや、だからミュゼは何も見てない―――――」

 

 

 

「……え?」

「…………あ゛」

 

 

 

 ミュゼさん「は」?

 なぜだか頭がうまく動かない。二人で呆然と眼を合わせていると、リィン教官の顔が僅かに赤いことに気づいた。

 

 

 

「語るに落ちると言いますか―――――やはり、リィンさんは不埒だったようですね」

「いや、違う! 頼むから弁解させてくれ――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 結局、アルティナが寝てしまった自分の責任を認めてこの問題は鎮静化することになったのだが―――――その理由が、リィンが自分の東方服姿に見惚れたことで機嫌が良かったからだということは、恐らく分校長だけが知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真面目な話を書きたいので、しばらく筆を置きます。というか誰だこんな話を書いたのは!だから夜中に(ry

思いの外読んでいただいてるので真面目に書かないと……。
で、具体的には1章をやりたいのでゲーム3週目に突入します。 甘いお菓子の後は渋いお茶に限りますね!


アルティナ「パートナーですから(ドヤァ)」
リィン  「だが断る」


 

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