ただ思いついて書いたものです。終局特異点が終わった後、こんな事があったかもしれないという妄想です。それでも良ければどうぞ。

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私なりに考えた藤丸立花の心情と良妻な清姫を書きたかった。


人理焼却を止めた彼らは

 7つの特異点を乗り越え、終局特異点『冠位時間神殿ソロモン』と名付けられた地で、これまで縁を結んできた数多の英霊達と共に人理焼却を行った張本人、魔術王ソロモンこと魔神王ゲーティアと戦い、完膚なきまでに完全な勝利をした藤丸立花。

 その最前線であり、拠点であったカルデアでは祝勝会が開かれていた。厨房ではエミヤをはじめとした料理が得意な英霊たちが次々とご馳走を作り、健啖家なサーヴァント達(主に騎士王の系譜)が消化していく。

 これまでの1年間、必死に藤丸立花をサポートしてきた者達も、今だけは心から楽しんでいた。その胸の奥に、たった1人がいない喪失感を無理矢理押し込んで。

 そしてこれまでの主役である藤丸立花も同様だ。数合わせの48番目の適合者、唯一生き残ったマスター候補のどこにでもいるような少年はこれまで共に戦い、時に敵となったサーヴァント達と楽しんでいた。

 そんな彼と共に歩んできた少女、マシュ・キリエライトも母性溢れるブーディカや円卓の騎士達などと楽しんでいる。

 

 特異点に向かった先で、多くの人々の暮らしと生活があった。

 時に逃げたくもなった。

 時に挫けそうにもなった。

 時に絶望し、諦めそうにもなった。

 だけど、それでも彼らは前に進んだ。

 ただ、生きたいから。

 

 祝勝会も終盤に入り、酒に酔って眠る者や、部屋に戻って眠る者、まだまだ飲み足りないと酒を飲む者と三者三様の様相を見せる。

 その中でも部屋に戻った者の1人、藤丸立花は自室の前で立ち尽くしていた。

 そういえばここで会ったんだっけ──と思いながらそっと扉を開く。

 

 はーい入ってまー───って、うぇええええええ!?誰だ君は!?

 

 そんな言葉が、声が、光景が飛び込んできた気がした。それは気の所為ではあるが、気の所為ではなければよかったのにと思う。

 

 「先輩?」

 

 そこへこのカルデアで初めて出会った人物であり、共に旅をしてきた少女───マシュ・キリエライトが声をかけた。

 

 「ああ、ごめん。どうしたの?」

 「いえ、先輩が何やら考えているようだったので」

 「そっか」

 

 この子には隠し事はできなそうだと改めて思いながら部屋に入る。

 

 「そういえば、ドクターはここにいたんでしたね」

 「うん。堂々とさぼり場なんて言ってたよ」

 「そうでしたか」

 

 備え付けのベッドに腰をかけて物思いに耽る。

 ───どうして。

 そんなことばかり頭に思い浮かび、埋め尽くされていく。

 そんな時、突然視界が暗転する。同時に訪れる柔らかな感触と子供をあやす様に撫でる手。それがマシュ・キリエライトに抱きしめられたことによるものであると理解するのに数秒もかからなかった。

 

 「マシュ?」

 「すみません。ですが先輩が辛そうでしたので」

 「辛いだなんてそんな───」

 

 そんな事、言える訳がない。だって、せめてこの子の、マシュの前だけでも我慢してきたのに、今更やめることなんて───

 

 「ここには私達しかいません。誰も聞いていません。ですから───」

 

 ───我慢しなくていいんですよ。

 

 その一言で、藤丸立花の感情は、それを留めていた堰は決壊した。

 次から次へと涙が流れ、マシュ・キリエライトに抱きついて、嗚咽の声が部屋に響く。

 

 「…………怖かったんだ。痛かったんだ。辛かったんだ。だけど、皆がいてくれたから、我慢できて、乗り越えられたのに……。なのに、ドクターだけがいないなんて、それだけでも我慢できないんだ……。時間神殿が終わったら、マシュと作ったケーキを食べようって、言いたかったのに……。なのに、なのに………!」

 

 最早弱音はとどまるところを知らず、次から次へと吐き出されていく。少女はそれを一つ一つ受け止めながら、少年の涙を受け入れた。

 

 気がつけば、藤丸立花は泣き疲れたのか眠っていた。マシュ・キリエライトの胸の中で、子供のような寝顔を見せている。

 彼女も思う所はいくつもある。

 あんなヘタレで、チキンで、それなのに誰よりも戦ってきた彼に、沢山言いたいこともあった。ありがとうから、ただいままで。

  なのにもう、会えないのだ。言えないのだ。そんな彼は、座からも、あらゆる記録からも消えてしまったのだから。今、彼について残っているのは、彼を知っている自分達の思い出だけだ。

 そして、隣の少年の、本音を知った。自分に手を差し伸べて、多くの色彩をくれた彼は、今自分に寄りかかって眠っている。

 ならば自分に出来ることは、と思い、マシュ・キリエライトは藤丸立花に寄り添った。

 

 その光景を初めに見つけたのは清姫であった。第一特異点『オルレアン』から共に旅をしてきた彼女は、自分のマスターである藤丸立花を案じた。話を聞けば、カルデアに来る前まではただの一般人であったと聞き、そんな彼がいくつもの戦いで壊れてしまわないよう、高ランクの狂化というスキルを持ちながらも、藤丸立花の目の届かぬ場所で彼の為に尽くしてきた。

 そして終局特異点での出来事で、直接話をした方が良いと判断した彼女は足を運び、それが杞憂となった事に安堵する。そしてある物を取りに一旦その場を後にした。

 清姫が戻って来ると、マスターの部屋の前には人集りが出来ていた。彼らは藤丸立花の部屋を覗き、牽制しあっている様にも見えた。

 

 「何をしているのですか?」

 

 部屋にいる2人が起きてしまわぬように小声で問いかける。すると彼らを代表してブーディカが答える。

 

 「いや、あの2人がお似合いでね。少し心配していたけど大丈夫だったみたいでさ」

 「そうですか。ですがここは静かにお願いしますね」

 

 そう言って清姫は部屋に入る。その行動に見ていた誰もが驚き、止めようとするが、清姫はそのまま行動を続ける。

 椅子の上に持ってきた毛布を起き、頼光に手伝って貰い、ベッドに座ったまま互いに寄りかかって寝ている2人を起こさないようにベッドへ寝かし、静かに靴を脱がせて床に揃えて並べる。

 静謐のハサンには今この場に不要な物を全て音を立てずに回収してもらう。

 最後に持ってきた毛布を広げ、優しく2人にかける。

 その清姫の行動に誰もが納得し、何も言わずに去っていく。誰も起す様な真似はせず、後からやって来た者達も2人を見ては何かを察して部屋へと戻っていく。最後に残った清姫は2人の寝顔を見て呟く。

 

 「お二人共、これまでお疲れ様でした。マシュさん、ずっとマスターの側に居たあなたが羨ましいです。

 マスターも、これまでの旅路は途方もないものであったでしょう。ですがそれでも、貴方様は成し遂げる事ができました。

 おやすみなさいませ、マシュさん、立花様」

 

 そして部屋の明かりも消え、部屋には静かに眠る2人だけが残った。




私の中では清姫って狂っていても根は優しいいい子だから、普段の安珍様呼びや旦那様(ますたぁ)呼びも、真面目な時は変わるんじゃないかなって。
個人的には、清姫って自分が狂っていることを自覚していながらマスターに尽くすいい子だと思います。
結局狂っていても根っこの誰かに尽くす所は変わらなくて、尽くすと決めた相手の為に、相手が知らないところで行動する子だと思っているんですよね。


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