(/・ω・)/<ヤッタァァ‼
このシン国に来た建前としての理由は錬丹術の研究だが、本当の目的はイシュヴァール殲滅戦の徴兵の回避と同時にオリヴィエとの新婚旅行だ。だが例え建前だとしても錬丹術には興味があるし是非研究してみたいとも思っていた
だけどまさか
「すまないがヤオ家には錬丹術に精通している術師はいないんだ」
「え?」
しょっぱなから躓く羽目になるとは思わなかった
話を聞くと代々錬丹術の達人を生み出すチャン家という一族が存在するらしい。だがヤオ家と仲の悪い一族が俺たちの事を押し付けた。ヤオ家も最初は反抗していたが向こうの一族の方が格が高く最終的には渋々受け入れる羽目になったという
そんな事情があるなら仕方ない。逆に押し付けられたのにも関わらずこんなに優しく接してくれてることを感謝しないといけないと思う
という訳で結果的には書物オンリーでの独学となってしまった
なんか初めて錬金術勉強した時のこと思い出すなぁ。六法全書モドキを一日中凝視しながら重要なとこをメモしていたあの時が懐かしい
もちろん本は全部シン国語、というか中国語なので通訳をお願いしてもらった
少しずつ読んでいくと錬金術とそれなりの共通点があったが根本的な所に違いがあった
まず錬丹術は医学に秀でていること
もう一つは龍脈の力を使っていること
そして最後に一番重要なポイントは遠隔錬成ができるということ
この遠隔錬成にはさすがに驚いた。そして幾多の可能性を感じた
これさえあれば流体錬成の大きな欠点の一つの『手を離すと崩れる』というのを補うことが出来るかもしれない
こうしちゃいられない。早く遠隔錬成を試さねば
えーと、なになに?
その一)陣を書いてその陣の端に五角形にになるように鏢を刺す
鏢ってたしか中国版のクナイみたいなものだったよね?オッケー分かった
その二)他の場所に鏢を同じ形で刺す
その三)その一で書いた陣を発動させればその二で鏢を刺した場所で錬成が起きる
なるほどね。龍脈の力を利用し鏢を媒体にして錬成されるみたいな感じかな
……ちょっと待て。これ一体どこで使うの?使い道あるか、これ?
いや、中国四千年の歴史をベースに作られたこの国の術なんだ。なにか俺には思いつきそうもないマリアナ海溝より深―い理由があるはずだ。よく考えろ、俺!
えーと……あっ、ドッキリとかに使えるんじゃね?前世のユーチューバー達が喜びそうな使い方だな、ははは(棒)
実戦じゃ罠ぐらいにしか使えねーじゃねぇか
翻訳さん、この遠隔錬成って実戦に使われることってあります?
え?よく使われる?どうやって?
え?鏢を投げて使うの?それも道具とか使わないで手で?
つまりこの遠隔錬成を実戦で使うためには
その一)陣を書いてその陣の端に五角形にになるように鏢を刺します
その二)自分が錬成したいと思った場所に鏢を五つ投げます。この時、鏢はその一で刺した鏢
と同じ五角形を描かなければならない
その三)その一で書いた陣を発動させればその二で鏢を刺した場所で錬成が起きます
無理ゲーじゃねぇか‼‼
鏢を五本同時に投げてそれが丁度五角形になるなんて絶対人間業じゃない
いや、待てローガン!
思い出せ!永遠と丸を書き続けたあの頃を!あれと同じだと思えば乗り越えられるはずだ
そうだよ。遠隔錬成をマスターすればこの世界での生存率も上がるはず。そう思えば安いものだ
うおぉおおぉおおおおおお!!いけぇぇええ、ローガン!!お前なら出来る!
次の日、前腕が筋肉痛でペンを掴めなくなったのは言うまでもない
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シン国について数か月が経った
最初は色んな所に観光に行ったり色々体験したりして楽しんでいた、が
「暇だ」
うちのお姫様が暇を持て余しているらしい。流石にもうここで出来ることはやり尽くしていてネタ切れ状態だ
でもアメストリスでは丁度開戦して帰国する訳にもいかない
さてどうしたものか
「何かしたい事とかある?」
「どうせ今は帰れないのだろう?ならば体が鈍らなように訓練でもしないと」
流石アームストロング家の長女、海外に来ても全然ブレないな
という訳でフーの爺さんに訓練できる場所があるかと尋ねたら自分たちが毎日している訓練に参加しないかと誘ってくれた
なんとこの爺さん、代々ヤオ家の長を守ってきた一族らしい。俺からしたらただの孫が大好きなだけの好々爺でしかないんだけどね
後日、オリヴィエと一緒に訓練に参加したがそこで衝撃の事実が明らかになった
フーの爺さんって忍者だったんだよ
この国って中国をベースにしてたんじゃなかったのかと思うだろうけど爺さんの服装とか動きとかが完全に忍者のそれなんだよ
なんかアメリカの漫画にありそうだよね。なんか良く分かんないけど中国っぽい舞台なのに主人公が忍者みたいな。忍者とか侍とか大好きだけどよく分かってなくてステレオタイプだけで描いたような漫画
そして気っていうのを使って体を強化したり索敵したり出来るらしい。教えてくれるっていうからメッチャ期待しながら聞いてたら体の中を流れるエネルギーがなんちゃらこんちゃらと訳分かんないこと言ってたから理解できなかった。前世でサブカルチャーに慣れ親しんだ俺でも分からないものだからオリヴィエには更に理解できていないらしく説明中にずっとイライラしていた
気の事はゆっくり覚えていけばいいか
こうして俺の日課に訓練が加わった
それから四年の月日が経った
時間が過ぎるのが早すぎるかと思うかもしれないが俺って学者体質なのか何かに没頭すると時間を忘れちゃうんだよね。この四年間もかなり短く感じた
この四年間で俺はほんの少しだけ気を活用できるようになった。気で体を強化するのは俺には合わなかったらしく気で索敵する練習に切り替えた。おかげで集中すれば半径数メートルぐらいはボンヤリと他の人の気を読めるようになった。オリヴィエは全然出来てなかったけど
そして錬丹術はまったく進歩がなかった
錬丹術も錬金術と同じく術は発動するけど手を離すと崩れてしまう。遠隔錬成の方は言うまでもなく全然出来てない
まぁ、錬金術も十数年かかったしこればかりは焦ってもしょうがない
ヤオ族の将来のリーダーであるリン・ヤオ君も今年で四歳になった。赤ちゃんの時から『お目目はいつ開くのかな~』なんて言われてたけど開くことはなかった。目が開かないんじゃなくてあり得ないまでに糸目なだけだが。本人も開いているつもりらしい。一度、出来るだけ大きく目を開けてほしいと頼んだ時があった。尋常じゃないほど目つきが悪かった。君はもう一生目閉じてた方がいいと思うよ、うん。
ランファンも六歳になった。今は若の護衛になるために爺さんにしごかれている。目の前でこんなに必死に訓練しているのを見ていると、この子がいつか脳筋になってしまうんじゃないかと不安になってしまう
そんな感じでゆっくりと暮らしていたが異変と言う物は突然としてくるものだ
「ローガンさん。アメストリスから軍人さんが来ていますよ。ローガンさんに会いたいんだって」
ある日突然、アメストリスから軍人が派遣された
もしかしたら戦争が終わったのかな?四年も経てば戦争も終わるでしょう
と淡い期待を胸にやってきた軍人と対面した
「『流鉄』の錬金術師、ローガン・アームストロング殿でしょうか?」
「そうだ。こんな所まで遥々ご苦労。それで要件はなんだ?」
「はっ。大総統閣下直々の伝令を持ってきた所存であります」
そう言うと目の前の軍人は丸められた一枚の羊皮紙を俺に渡した
嫌な予感がピリピリする中、俺はゆっくりと紙を開いた
『流鉄の錬金術師ローガン・アームストロングは直ちにセントラルに帰還しイシュヴァール殲滅戦に参加することを命ずる』
え?
という訳で主人公の二つ名は『流鉄』になりました
ごめんなさい。本当に適当に付けました。私にネーミングセンスなんて欠片もないんで
因みにグーグル先生に流鉄って調べたら駅が出てきました
別になんか良い二つ名とかありましたら教えてください。採用するかもしれません
次回は正真正銘のイシュヴァール殲滅戦編です