列車内にて
ラマール本線旅客貨物列車
車内では黒髪の青年と金髪の青年が話し合っていた。
「まさか、パトリックと会うだなんて驚いたな。」
「それはこちらの台詞だ、シュバルツァー。一年間も姿を眩ませておいてこんなところで会うなんて、一体一年間どこで何をしていたんだ。」
「いや、悪いな。少し修行をしていたんだ。」
「なるほど。そのせいか、随分と落ち着いたようじゃ無いか?」
「かなり苦労したからな。それに自分なりの答えを見つけたからかもしれないな。」
「本当に変わったな。大人びたと言うか、余裕が出来たと言うか。(これはまた、シュバルツァーに想いを寄せる女性が可哀想だな。)」
「はは、そうか自分ではあまり分からないが。」
リィンは気づいていなかったが、纏う雰囲気がかなり変わり、余裕のある大人びた感じになっており、もともと顔が整っているのも合わさり少し微笑むだけで周りの女性が顔を赤くなってしまう始末である。
「それと、Ⅶ組や知り合いにちゃんと修行に出る事を言ったのか?」
「あっ、…………い、いきなりだったし、通信も繋がらない場所だったから。」
「ノーザンブリア併合で心配していた上トールズ士官学院を卒業後すぐに姿を眩ますなんてⅦ組やエリゼさん達の心配具合はやばかったぞ。(特に酷かったのは女性陣だったが。)」
「はぁ、これは一発殴られる覚悟はしておかないとな。」
「そうだな、覚悟はしておいた方が良いだろう。(まあ、必要になるのはもっと違う覚悟かもしれないが。)それでトールズ士官学院第二分校に務めるそうじゃないか?もうⅦ組やエリゼさん達はそのことを知っているのか?」
「ああ、多分な。「次はリーヴス、リーヴスです。貨物搬出のためしばらく停車………」と、そろそろ着くみたいだな。俺は着く前に一度ヴァリマールの様子を見てくるよ。」
「ああ、行ってくるといい。」
そうして、リィンは席を立って列車の最後尾に向けて歩き出す。
「ねえ、あれ灰色の騎士じゃない?」
「ふむ、あれが噂の英雄殿か。」
「灰色の騎士てあんなにイケメンだったんだ。」
「なんと言うか纏う雰囲気が変わったよね。」
リィンは思わず心の中で苦笑いする。
一年間姿を消していたから少しは落ち着いたと思っていたんだがな。
だが、何だか女性の視線が多いような……気のせいか。
そうしているうちにもう最後尾に着いていた。
警備をしている人に挨拶し中に入れてもらう。
リィンが中に入ると、リィンの接近を感じてヴァリマールは起動する。
「ふむ……そろそろ到着か?」
「……ああ、窮屈な所ですまないな。本当なら転移で来ても良かったんだが、お前の力はなるべく隠しておきたいからな。」
「構わない。それに、宰相に力を悟られる方が厄介なのであろう。」
「ああ、第二段階もそうだが、第三段階の《《固有能力》》、灰が灰たる所以の力だけは、絶対にバレるわけにはいかない。アレは余りに強力過ぎる。それにまだ、満足に扱えてすらいないしな。」
「うむ……そうだな。当面の目標はアレを制御することになりそうだな。」
「ああ、だな。頼りにしているぞ相棒。お前は俺の切り札なんだから。」
「うむ、任された。」
「と、誰が来るな。」
すると、後方のドアから金髪の少女と赤毛の男性が入って来て、貨物を調べ始める。
「えっと……あっ、ちゃんとありました。」
「ふう、やれやれ。」
「何を警戒しているんだか知らねぇが搬入にも立ち会わせないとはな。」
と、金髪の少女と赤毛の男性が此方を見る。
「え………」
「なに……?」
「……すごい……」
「噂には聞いちゃいたが……」
そう言い此方に向かってくる。
(……この二人は……)
「全長七アージュの人型最新兵器……《機甲兵》だったか?」
「ううん、違うみたいです。《灰の騎神》……ですよね?」
「そいつは……」
「ああ…その通りだ。一般人ましてや外国の人が知っているとは思わなかったが。」
「えへへ……こういうものに、結構興味がある方なので。」
「何が結構だ……一家揃って筋金入りのくせに。それより、よく俺たちが外国人だって気づいたな?」
「ほんの少し、アクセントの違いが。南の方……リベールあたりからですか?」
「あ……」
「クク、ビンゴだ。そうか……お前が《灰色の騎士》だな?」
「(驚いたな…それにこの男……随分とできる。まあ、悪意は感じないし、悪い人では無さそうだ)………ええ、本当によくご存知ですね。」
そう言うと、すこしピリッとした空気が流れ、金髪の少女がオドオドし出す。だか、その空気を壊すように、後方のドアから「シュバルツァー、いるか?」という声と共にパトリックが姿を現わす。
「あと、少しで到着だぞ?準備の方は……」
そこで、パトリックはリィン以外の二人の存在に気づく。
「おや………?」
「問題ない。いつでも降りられる。」
「邪魔したな。こっちも準備するぞ。」
「は、はいっ。……失礼しましたっ!」
そう言い、二人は去っていく。
「なんだ……?一般人じゃ無さそうだが。」
「ああ、外国人で……彼らも次で降りるみたいだ。もしかしたら俺の就職先に関係しているかもしれないな。」
「……なるほどな。色々と胡乱な噂を聞いてはいるが……」
「リーヴス駅、リーヴス駅です。貨物搬出のためしばらく停車いたします。十分ほどお待ちください。」
「着いたみたいだな。話はこの辺で、俺たちも外に出よう。」
リーヴス駅
しばらくすると、《灰の騎神》や《灰色の騎士》の姿を見ようと人が集まり始める。
「フッ……相変わらずみたいだな《灰色の騎士》殿の人気ぶりは。」
「やめてくれ、一年間姿を眩せれば少しはマシになったと思ってたんだ。」
「残念だったな、思惑通りに行かなくて。」
「そうだな。あ、そう言えば礼を言うのが遅れたな。ありがとう、パトリック。二年間、共に切磋琢磨してくれて。」
「シュバルツァー………」
すると、パトリックが右手を差し出す。
「フッ、栄えあるⅠ組の生徒として当然のことをしたまでだ。出席日数はギリギリ、いつも理不尽な難題を押し付けられながらーーー一人で足掻いてやり遂げてしまう。不器用な
「パトリック……」
そう言いと、リィンも右手を差し出し握手する。
「そっちは海都で、侯爵家の名代を務めるんだったか……大変な役目だと思うけど、どうか頑張ってくれ。」
「フッ、アルバレアに後れを取るわけにはいかないからな。」
「君こそ曰く付きの就職先でせいぜい足掻いて頑張るといい。それとエリゼさんやほかの人にも連絡を欠かさないようにしたまえ。また、何も言わず姿を眩ますなんて事になったら、目も当てられないぞ。」
「あ、ああ。肝に命じておくよ。」
すると、ホームに列車が出発する音が鳴り響く。
それと同時に手を離す。
「元気でそのうちまた会おう!」
「ああ、そうだな!」
そう言って列車のドアまで歩いて行くと立ち止まり振り返る。
「そうそう…言い忘れるところだった。二年前に交わされたと言う君たち《Ⅶ組》との約束。無事、果たされるといいな。」
「あ……」
パトリックはそう言いと列車の中に入って言った。
そして、列車が動きだしたのを見送りながら。リィンは決意を改めて固め、力尽く「ああ、勿論だ……!」と呟いたのであった。
最近、閃の軌跡の小説が増えてきて嬉しい限りです。
これからも少しづつ更新、頑張って行きます。
ぐ〜んさん、鳩と飲むコーラさん、泡泡さん、誤字脱字報告ありがとうございます。