機械の天才   作:暇人A

3 / 4
気まぐれと気分転換によって手をつけた本作だが知らぬ間に評価されていて驚きを隠せない。ともあれ、

経済流通様、空気読めない人様、ayin様、yuma2017様。

評価とコメント有り難うございました。




ところでこれは本筋と全く関係ないんですが真嶋先生、茶柱先生や星之宮先生と同年代なのに老けすぎじゃないっスかね……(アニメ画像を見て)


予兆

 ―――学べ、さもなくば去れ。

 

 教師とは何も教え導くだけの存在ではない。彼らは今も尚、学ぶ者である。ならば教導者でありながらも教師と言う存在もまた学び続ける学徒の一人である。そもそも学問に果てはなく数学とて正解はひとつではない。否、未だ一つに達していない。―――学問を修めた。大学を卒業し、あるいは博士号を頂いた者はよく学問を修めたといわれる。

 

 だが、これは学問を究めたことに非ず。「修める」とは足りない部分を補い、身に付けたという意味合いであり、断じて学問を究めたことを意味するところではない。そもそも博士をして研究者である。一定技量の学問を修めて尚、さらに突き詰め極めることを望む酔狂な学士である。ならば未だその極みは遠く博士という立場は彼らにとってスタートラインにようやく到達したという意味合いでしかない。

 

 学問に果ては無い。人が一生に学べる知識、解決できる問題なぞ砂漠の砂一つにすら満たないものだ。そうして彼らはその一粒を積み上げて時は既に数億年。現代に蔓延る知識は地球全土を見ても僅かであり、地球の上には宇宙がある。ゆえにその知識、真の意味で砂漠の砂の一粒にしか達していないのだろう。

 

 そしてそれは誰もが同じだ。博士も社会労働者も政治家もそして教師も、世間で言われる学問を修めてようやく半人前。さらに人生と言う残り五、六十年を歩みきってようやく一人前である。残る道行は余命の間に何処までそれを極められるかの求道だけ。ならば完成など程遠く、究極は人の一生には収まらない。

 

 そう、学問を学ぶ学び屋を出てようやく人生と言う長い航路が始まるのだ。ならば何故、教師に縋り、自分の未熟を教師に押し付ける愚か者共がいるのだろか。教師とて人を教え、導く「学問」を究め続ける求道者である。そして求道者であるゆえに完璧には程遠く究極はその姿さえ収められない。ゆえに学べ学徒よ。ここは学び屋であり、半人前へ至る修練場。手助けなどないと思え、自分の未熟を疾く恥よ。

 

 どれだけ道を決められるか。それを決めるのは自分次第。求道の学び屋、学校(ここ)は元来、そういったものであっただろうが。

 

 

 

 

 

 

 

「まずはこの言葉を贈ろう。入学おめでとう新一年生諸君。俺は真嶋、普段は英語科の担当をしている。このAクラスの担任だ。基本的にこの学校ではクラス替えは行われない、ゆえに恐らくこれから三年間ともに過ごすこととなるだろう。よろしく頼む」

 

 幾ら教師であろうともう少し愛想があってもいいだろうに、Aクラス担当の真嶋という教員は全くの無感といっていいほどに様式美の域を超えない自己紹介で口を切った。英語の担当と言う割にはプロレスラーのようながっしりした体型だ。

 

「さて、今から一時間後に体育館にて入学式が行なわれるがまずはこの学校の特殊なルールを説明させてもらおう。既に入学案内と共に配られているものだが確認をするので改めて配らせてもらう。一人一枚、取ったら後ろに回してくれ」

 

 そういって真嶋先生はそれぞれの席の人数分に分けた紙束を先頭の生徒に渡す。無論俺も廊下側一番前の席なので直接手渡して渡された。一枚とって、後ろに回した後、改めてプリントに目を落すとそこにはこの学校のルールが明細に記載されている。

 

 内容は既に通達されていた通り、この学校に入学するに際して生徒全員は寮生活を義務付けられ、外部との接触は肉親、親族含め一切を禁止という内容だ。まあ、俺には一切関係のない内容なのでこの項目に限って明細に目をつける必要はあるまい。我が肉体の遺伝子元の御歴々は今頃、息子の約束された将来に夢うつつで腑抜けているだろうから気にする必要は無いのだ。つまらない話だが、柵が無いのはやりやすくて良い。

 

 というより今になって疑問だが、何故あの夫婦から生まれた俺はここまで馬鹿げた才能を持っているのだろう? 鳶が鷹を産んだどころか、鳶が世界を創造したという位突拍子の無い不可思議な話である。この例を上げれば優生学を正面から論破できるかもしれない。―――おっと、思考がズレたどころか脱線事故を起こしかけたが、先生の話は聞かなくてはならない。俺は基本的に一度聞けば大体覚えるが、聞かなければ覚えようがないし。

 

「続いて学生証カードを配る。これは入学説明でもあった通り、学校敷地内の全ての施設に使えるものだ。無論、これが無いと施設は利用できないので紛失の際には必ず申し出ることだ。それからこのカードは学校内に限って金銭の機能も含んでいる。分かりやすく言うならばクレジットカードだろう。学校側より支給されるポイントを使って売店の利用から敷地内のショッピングモールの利用まで……学校内にある全て購入可能だ」

 

 曰く、Sシステム。これも入学説明の際に説明されたものだ。学校側から支給されるポイントが三年間に及ぶ学生生活での生徒達の現金となる。恐らく学校内で起こる金銭トラブルを予防するために設置されたものなのだろうが……流石、国立。お金の掛かる話だ。学校全土にこのシステムを導入するだけでもかなりの金が掛かるだろうに。

 

「それから肝心のポイントだが、これは毎月の始め、一日に学校のネットワークを通じて配布されることになっている。今回の入学に際して君達全員、平等に既に十万ポイントが配布されているはずだ。ポイントは一ポイントにつき一円の価値がある」

 

 初めてクラスがざわついた。当然だろう、一ポイント=一円、つまり現金十万円を突如としてポンと渡されたのだ。健全な学生生活を送ってきた学生諸君からしたら破格の値であり動揺するのは無理も無い。俺はお小遣い(笑)が月ごとで変動するものの平均して百十何万ほど貰っていたので気にしないが。ああ、時たま指名手配の凶悪犯をしょっ引いていたから場合によってはその倍か。普通の人間からしたら凶悪指名手配犯は恐るべき存在なのだろうが俺からすればただの金づるである。お金に困ったときは凶悪指名手配犯を捕まえろ。うむ、一億円当てるより簡単だ。

 

「この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした君達には、それだけの価値があると言う事だ。これはそれに対する評価と思ってくれて構わない。ああ、それからこのポイントは入学時には回収するので卒業後まで貯めて使うということはできない。学生生活に必要な分を好きに使うのが賢い使い方だろう。但し、これはいうまでも無い事だが学校側はポイントのカツアゲ等は厳しく糾す、その点は留意しておくように」

 

 近年、学校でのいじめ問題は後を絶たない。ここは国立のそれも名門と言っても過言ではない学校だ。その手の問題には群を抜いて五月蝿そうだ。

 

「以上で話を終わる質問があるものは手を上げたまえ」

 

 本件は終わりなのだろう真嶋先生は説明を終え、クラス全体を見渡す。―――バカみたいに広い校舎、外部とは一切の連絡を禁止し、施設等は学生証カード一つで使用可能、入学時間もない一年生に十万円を配る、か。

 

(凄い怪しい。疑問を持たない奴居るのかこれ?)

 

 まず入学説明を聞いたときも感じたがまともじゃないのは間違いないだろう。第一、街一つ分の敷地を誇る高校ってなんだ。大学じゃないんだからそんなもの有り得ないだろう。否、大学ですらここまでの規模のものはないはずだ。それに外部との連絡を封じるのにも意味合いを感じる。こういう場合は機密情報という四文字が関わっている場合が多い。

 

 思い出してみれば入試段階で生徒が得られたこの学校の情報と言うのは恐ろしく少ない。名門校、それも各方面に英才を送り出している学校にも関わらずそれは可笑しい。外から得られる情報など寮への入室の義務付け、外部との接触禁止、名門校ぐらいだ。

 

 それに施設の利用に学生証カードが必要と言う話はともかく、入学時の生徒全員に十万円相当のお金をポンと渡す? 裏がありますよ、と態々教えてくれるようなものだろう。それを示すように真嶋先生は変わった言い回しをした。―――この学校は実力で生徒を測る。ポイント(これ)実力(それ)に対する評価だと。つまり、

 

(入学時点での生徒には全員十万ポイント。つまりこれは学校に入学できた実力に対する評価であるということか)

 

 となれば、このポイントは恐らく―――。思考の海に潜っていく俺を現実に引き戻したのは「はい」というAクラスに良く響くハッキリとした声であった。

 

 不意に顔を上げ、見渡すと一人の生徒が手をキッチリと上げていた。特徴的な生徒である。まず、人が第一印象を受ける顔の造形は特に醜男というわけではなく、寧ろ大人のような精錬な強い意思が窺える顔つきだ。だがそれ以上に目を引くのは失礼だが頭。そこにはあるはずの髪の毛が無かった。詳しく知っているわけではないが先天性無毛症という奴だろうか。確か遺伝子上の問題で生後一、二年で髪が次々と抜け落ち、生え揃わないというものだったか。遺伝子上の問題であるため現代医療では治療不能であるとどっかの本で本読んだような……。

 

「お前は……」

 

「葛城です。質問、よろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わない」

 

 葛城と名乗った男子生徒は真嶋先生に促され、規律しながら質問をする。態々、立つ辺りかなり真面目な生徒に思える。例えるなら学校の係り決めの際に真っ先に手を下げるようなそんな生真面目さ。

 

「先ほどの先生の話では自分達の入学時点の評価に対する報酬がこの十万ポイントであると言いました。では、このポイントは自分達の評価に何らかの直結した効果があると言うことでしょうか? 例えばポイントの使用が成績に対して作用するような」

 

(中々にいい質問だな)

 

 十万円という言葉で皆動揺しただろうに。真嶋先生の話を冷静に聞いていなければこういった質問は出ないだろう。確かに彼の言い回しは評価に対する報酬というようは言い回しで毎月配布ポイントが十万円であるといっていない。まるで評価=報酬という言い回しであった。であるなら、ポイントの使用が成績に影響することがあるかもしれない。否、少なくともポイントと成績評価が何らかのかかわりを持っていることに既に疑いは無い。

 

「少なくとも君達が個人で(・・・)使用できるポイントに付いてはその使用に関する成績への影響は何ら関わりは無い。例え、保有するポイントがゼロになっても成績が悪くなるということはないので安心するように」

 

 真嶋先生の言葉にクラス内に一時満ちた緊張が弛緩する。ポイントの使用で成績が悪くなるなどそんな事実がなかったことに対する安堵だろうが、甘いと言わざる終えない。 

 

(個人で、か。それにポイントが自分達の評価と関わっているかに関する質問は不言及。やっぱり裏があるのは間違いないな)

 

 話が若干ズレた事実に気づいたものは何人居るのだろうか。葛城という男子生徒が主題においていたのは評価とポイントの関わり合い。ポイント使用による成績評価に対する悪影響など例としてあげたに過ぎない。にも拘らず、評価とポイントの関係は言及せずポイントの使用は成績に影響しないとしか応えていない。しかもあくまで個人のと枕詞をつけて、

 

 俺は横目で鋭くクラスメイト達を見渡す。殆どの生徒は安堵の息を吐いたり肩を落としたりしていたが、あの葛城と名乗った生徒は何か考え込むような動作を、坂柳は意味深な笑みを、他の何人かの生徒も各々安堵とは別の反応を示している。

 

 少ない数の生徒が普通の生徒が疑問すら覚えない先生の言葉の真意を読み取り思考に耽っている―――全体的に優秀なのは間違いない。そしてそれは一つの解を俺に与える。

 

(優秀だな。言葉から真意を読み取るなんて学校の勉強じゃ習わないだろうに。つまるところ地頭、素の知性の部分が優れてんだろうな。あの葛城といい、俺のことを知ってた坂柳といい、平凡な学生には程遠いのは確かか。……もしかしたらクラスにも何らかの意味があるのか?)

 

 そう、一見してただのランダムに見えるクラス分け。それがもしかしたら意味がある者だとすれば? 例えば優秀なものはA、劣っているものはDという成績表の評価染みたクラス配置ならば、この不自然な優秀性にも説明が出来る。だが、だとすれば今安堵している連中は何だという疑問が出てくるが。

 

(現時点では測れないな)

 

 情報が圧倒的に不足している。現時点でこの学校の全容を知るのはまず不可能だろう。Sポイント含む様々な要素がこの学校をただの学校とは思わせない謎めいた要素を交えているのは確かだ。それに数多の英才を、しかも分野を問わず生み出している学校だ。その教育方法に秘密があっても全然可笑しくない。まずは知ること。どうせ初日のイベントなんて入学式とオリエンテーションぐらいだし、直ぐに放課後になるだろう。その時に探るべきだろう、この学校を。

 

「少なくとも退屈はさせない学校だってわかったことは収穫か」

 

 ―――それにつまらない(・・・・・)奴ばかりでないことも、か。


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