あの約束を果たす為に──巡り回る運命 完結 作:レイハントン
あと3話ですね~
「はぁぁーー。づがれだー」
午前中のバイトを終えて休憩室のテーブルにぐだーと横たわる。アメリカのライブハウスでバイトしてたとはいえ向こうと違う機材のチェック、おまけに女子率の高いカフェの接客。さすがに堪えるぜ………。
ライブがある時はもっと大変だって風間さんが言ってたっけ。つうか夕方にライブあるって言ってたな。ヤッター今日の夜はぐっすりだ。
てか、こんな疲れるのか~バイトって。へらへらしながらなんでもこなす風間さんが羨ましいよ。けどここでいろんな知識がわかるからそんなに苦でもない。辛いって思いより、面白いって思いの方がまさってるからかな? なんにせよここで折れるわけにはいかない。
「頑張るか」
お昼食べようと持ってきたやまぶきベーカリーのメロンパン。これを食うのは何年振りだろうか。袋から取り出して、半分にする。ふわっふわっのパン生地の上には甘い匂いがするビスケット生地。まずは匂いを楽しむ。
「久しぶりだわ~この甘い匂い」
匂いを楽しみ、メロンパンにかぶりつく。口全体にビスケット生地の甘い味とふわふわのパン生地が広がる。いやいや………。
「2年振りのやまぶきベーカリーのメロンパン美味っ! 買った甲斐があるな~」
至福の時間はあっという間に終わってしまう。だがしかし。
「2つ目があったり」
2年振りに食べるのに1つなわけないだろ? ホント最高だわ~やまぶきベーカリー。今度沙綾にお礼言っておこう。でも、買いに行った時に沙綾に会えなかったのが心残りかな。みんな大きく変わり過ぎてなきゃいいけど。んまぁ、香澄があの調子なら大丈夫そうだけどな。
メロンパンを食べていると、休憩室のドアが開いた。入ってきたのは鞄を持った月島さんだ。
「お疲れ様です」
「お疲れ~。あっ! それってやまぶきベーカリーのメロンパン?」
「はい。好きなんですよーあそこのパン」
「美味しいよね!」
さすが月島さん。わかってらっしゃる。
俺の前に座ると鞄から見覚えがありすぎる茶色の紙袋を出した。やまぶきベーカリーでパンを買うと入れてくれる紙袋から取り出したのはチョココロネ。俺も好きなやつだ。
「やっぱこれだよね♪」
「ですね」
チョココロネを見ると頭に浮かぶのは1人しか居ない。俺と同じくらいパン(主にチョココロネ)が大好きなポピパのメンバーの牛込りみ。あんまり話さない印象が強いだろうけど、知らない所で結構話してる(主にパンとギター)。
「どう? ライブハウス。向こうとこっちは」
「ん~まだ慣れないですね。向こうと違って女子率が高過ぎて……」
「やっぱり? ここでバイトした人みんな同じ事言ってた」
ニコニコしながらそう言った。この人結構な頻度で笑ってるような気がする。怖いよりは全然いいけど。
「あっ、そうだ」
すると何かを思い出したのか急いでチョココロネを食べ進め、ひと段落ついたところで、さっきよりも落ち着いた感じで話始めた。
「今日の夕方のライブでpastel*palettesが来るんだけど、リハ来てみない?」
「pastel*palettesですか……。貴重な体験なんで是非行きたいです」
「OK。じゃあ来たら教えるからスタジオに来てね」
「はい」
パスパレか……。ってことは白鷺さんも来るってことだよな? 来なかったらそれはそれでおかしいし。…………気に病む必要なんてない。いつも通りにしてれば良いんだ。変にしてれると、またからかわれるかもだし。
「そうだ。今度、神山君のギター聞かせてくれない?」
「良いですけど……。急にどうしたんですか?」
「こういう仕事してるし、単純に聞いてみたいからかな」
「そうですか」
そうだよな。好きじゃなかったライブハウスで働こうなんて思わないか。
今まで純粋に俺のギターを聞きたいと言ってくれた人は結構稀だ。親が親だから仕方ないんだけどさ。それだけ有名なんだよな……親父は。まぁ話を戻すとああやって純粋に俺のギターを聞きたいって言ってくれるのは嬉しいって事だ。
休憩時間が終わり、俺は午後のバイトへと戻っていった。
外のカフェでの接客をこなしつつCircleに入っていく人をチラチラて見ていた。
別に女の子が見たいとかじゃないからね? 今日の夕方のライブに出演する人かなって感じで見てるだけだから。それ以外に他意はない。
あっ、あの子可愛いな。
おい! というツッコミを入れたいだろう。だがそれをぐっとこらえてほしい。俺だって健全な男の子だ。可愛い子が居れば自然と目がいっちゃうだろ? それと同じだよ。ギター上手くても、親が有名人でも中身は男でーす。
とまぁ女子を敵に回すような言い方をしたのは素直に謝ります。すんません。
心の中で1人芝居をしているとゆったりとした声のお客さんに呼ばれた。
「すいませ~ん」
「はい。ただいま」
どこかで見たことがある灰色のショートカットの子と服の上からでも大きいとわかる胸の女の子が居るテーブルに向かう。
なんか……どこかで見覚えが。はっ! これはもしかしてデジャヴか?! でも夢で見た覚えもないんだよな。ん~気になる。
女の子2人の元に向かい注文を聞きにきたはいいものの、ショートカットの女の子がじーっと俺の事を見てくる。非常に注文が聞きづらい………。
「ご注文は?」
無言。
「あのご注文は……?」
またしても無言。
なんか喋れよー!! 注文聞きづらいでしょうがー! そんなに暇じゃないんだよこっちは!
「ちょっとモカ! じーっと店員さんのこと見ないの!」
小声(普通に聞こえてる)で俺のことをじーっと見つめる子を注意するも無視。いい加減にしてほしいものだ………。
「忘れちゃったの?」
「……えっと。注文まだ聞いてないんですけど~」
「あたしだよ~。モカちゃん。パン屋で仲良くなった」
パン屋で仲良くなった・・・・・それにこのやけにゆるーい喋り方。むむむ。
「・・・・・あ! あの時の?!」
やっと思い出した。そうだそうだ。確か高校生の時にやまぶきベーカリーで出会ったんだっけか。パン好き同士速攻意気投合したな~。懐かしい思い出だ。
「つうか覚えててくれたんだ」
「まぁね~。顔みたらすぐ思い出したよー」
「今の今まで忘れてたよね? それ」
ピンク色の髪をおさげにしている子が、ジト目でそういうと俺に視線を向けてきた。
「フルーツタルト2つお願いします」
「あっ、かしこまりました」
一旦モカ達の元から離れて注文されたフルーツタルトを2つ持って戻った。モカの前に1つ、おさげの子の前に1つフルーツタルトを置く。するとモカはフルーツタルトが乗った皿をそーっとテーブルの上を滑らせ、おさげの子に渡した。
「ひーちゃんが2つ食べるんだよー」
「ちょっとモカ! 店員さんが居るところで渡さなくても……」
頬を赤らめて恥ずかしがるおさげの子。なぜ恥ずかしがる必要がある? 俺は何も言ってないのに。別にたくさん食べるのが悪いとは思わない。むしろ世の中美味しい食べ物がたくさんあるのに、無理して食べないとか正直もったいないと思う。
「たくさん食べるのは恥ずかしい事じゃないよ。俺はそういう子の方が良いと思う」
「あ、ありがとうございます……」
俺の一言でさらに顔を真っ赤に赤くしてしまった。そんな追い込むようなことを言ったかな? そうしてしまったなら素直に謝ろう。
「あーえっと、すいません」
「い、いえ……」
「では、ごゆっくり」
それだけ言い残してその場から急いで離れた。
すごい顔赤かったけど……大丈夫なのか? あんまり余計なことを言い過ぎると良い思いはしないんだよな……。無駄に期待させちゃうとか、勝手に相手に好意もたれるといろいろ・・・・・それはないか。自意識過剰にも程がある。
頭を左右に振って与えられた仕事をこなしていった。
───────☆
さっきの人、すごく優しかったな~。てっきり引かれると思ってたけど、そんなことなくて良かった。顔もまあまあ良かったし、彼氏候補に入れてあげても良いかな~なんてね。でもそろそろ彼氏欲しいよ……。
「いや~。こんな所で出会うとは」
「あの人がずーっと前に言ってたパン屋で出会った人で良いんだよね?」
「そだよー。それにーあの人がポピパが言ってた人だったり」
「えー?! あの人が?!」
周りに迷惑がかからない程度に叫んだ。
2年前にCircleでライブした時にポピパの人達が言ってたすごい人なんだ~。そんな風には見えなかったけど、どこら辺がすごいのかな? 誰にも出来ない特技があるとか?
すごい人と聞いていろいろ妄想していたわたしだけど、一番大事なことを忘れていた。
「ねぇモカ。あの人名前なんて言うの?」
「・・・・・店員さん」
「絶対違うよね?」
「えっとね~。神山……かい?」
「わたしに聞かれても……」
本当に知り合いなんだよね? それで名前忘れるってなかなかひどいねモカ。ん~どうしよう。読んで聞いた方が早いよね?
「すいませーん」
「えっ? ひーちゃんまだ食べるの?」
「違うよ。呼んで聞いた方が早いと思ったの」
さすがにこれ以上食べたら太っちゃうよ……。ダイエットしなきゃ。
少しするとさっきの人が注文をとりに来てくれた。
「お待たせしました。ご注文は?」
「紅茶1つ。モカは?」
するとメニューも見づに少し考えた後、「じゃあーカフェモカ1つ」と昔から変わらない緩い喋り方で伝えた。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい。あの! 名前聞いても良いですか?」
「名前?」
少し困った表情のまま数秒。
「……神山恵、ですけど」
「恵? かいじゃないじゃ~んモカー」
「惜しかったね~。まぁ、そういう事もあるよー」
もーモカはいっつもこうなんだから~。人の名前をその人が居る前で間違うなんて。わたしだったら恥ずかしくて、顔赤くなっちゃうよ。
「(なんだこの状況)」
「あっ、以上です」
「かしこまりました……」
苦笑いを浮かべてそう言うと神山さんは一旦戻っていった。その後ろ姿を視ていると、首を傾げてあれはなんだったんだ? と聞こえてきそうな雰囲気を漂わせている。
悪いことしちゃたかな?
──────☆
さっきのはいったいなんだ? よくわからなすぎて話が全く入ってこなかったぞ。とりあえず俺の名前は神山“恵”だと言うことは覚えてほしい。かいではないです。
つうか聞いてきた本人の名前知らんのだが………。
紅茶とカフェモカをお盆に乗せてテーブルに向かう。紅茶とカフェモカを頼んだ人の前に置いた。
「いやいや悪いね~。わざわざ持ってきてもらっちゃって」
「これが俺の仕事だよ……」
ボケ担当かお前は。普段からこんな感じだとしたら、バンド内でもそういう立ち位置なんだろうな。でもなんだろう……前の日常に戻った気がするのは俺だけだろうか。ボケる人が居て、それにツッコンで。アメリカではそういう感じでもなかった。あいつ元気にしてるかな………。
ずっと話しているわけにもいかない為、仕事に戻ろうと振り返る。
「……………」
俺の視線の先にはニコニコしながら人気女優声をかけてきた。
「久しぶりね。元気だった?」
非日常の間違いだったわ………。
恵「カミヤマラジオ! と行きたいところなんですが。今回からは、少し趣向を変えて、ボツになったシーンを公開しようということです。まず今回は……」
まずはアコースティックギターとエレキギターの違い。簡単に言えば見た目と音の違いだ。見た目は本体に穴があるかないか。
次は音だ。アコースティックギター略してアコギは弦を弾いた時の音が大きい。弾く強さにもよるけど。エレキギター略してエレキはバンドの演奏みたいに大きな音はでない。じゃあ、どうするかというとだ。そこで使うのがアンプ。エレキと繋ぐとあら不思議、大きな音が出るようになるんですね~。そうすると音自体を、変えたい。そう思いますよね? お任せください! そんな時はエフェクターを使えば簡単に音がロック調に変わるんです!! 使い方は超簡単! エレキとアンプを線で繋いで、演奏する際に踏むだけ! お使いの際はエレキとアンプを繋ぐコードも忘れずに。
続いてはピックの説明。ピックには形と硬さがある。たぶんよく見るのがトライアングル型。まさにトライアングルの形をしている。もう1つはティアドロップ型。トライアングル型より少し細い形をしているんです。あとは硬さ。HEAVY、MEDIUM、THINの3種類。前から順番に硬い、普通、柔らかいっていう感じだ。ピック本人の使いやすさで選ぶのが一番。因みに俺はトライアングル型のMEDIUMだ。Simple is the best。
最後にカタポストの説明だ。カタッと付けるからカタポストと言う。付ける場所はギターのネック部分、右手で演奏する場合に左手で弦を抑える部分に付けるんだ。主に曲全体のキーつまり高さを変える時に使う。
とまぁ、ここまで長くギターの説明したけど少しは理解出来ただろうか。詳しいことはおいおい説明します。
恵「俺がひたすらギターの話をするというね」
作者「誰得? と思ったからやめた」
恵「確かに………」