あの約束を果たす為に──巡り回る運命 完結   作:レイハントン

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こんにちは。

ラストまで書き上がっているので、毎日投稿したいと思います。
最近おたえが妙に可愛い…。今回の星3が欲しい! なのに当たらない………
今回は重要な回かもです。


好きになる瞬間──

 恵に出会う数ヶ月前。この日の学校終わりに香澄の彼氏の優都と合流した私達は蔵に向かって歩いている。楽しく会話を弾ませているみんなとは少し距離をとって1人で考え事をしていた。

 

 私は1人の男にストーカーにも等しい事をされていた。マジで通報しようかと思ったけど、本人に悪気は一切感じられず、香澄達も悪い人じゃなさそうって言ってるし。つうかしつこくされてるのは私なんですけど…………。

 

 そいつの名前は鍋川始。超が付く程のバカ…というよりアホ。女子と話した事がないのかって言いたくなるくらい会話が弾まない。例えると空気がもう少しでなくなりそうなサッカーボールが弾まないくらいに。会話が下手でもこっちから話題を振ればある程度は話せるから問題ないとしても、やっぱり圧倒的にアホ。小さい段差でつまづいたり、言った飲み物とちがうた飲み物買ってきたりする。これをアホと言わないでなんて言う?

 

 おたえと沙綾と香澄は面白い人じゃんって問題視してねぇし。優都とりみは心配してくれるけど、悪い人じゃないってる。みんな人事みたいにさ………。

 

 香澄なんて私達が居るのにイチャイチャして幸せそうな顔してるんだよな~。……………恵が居たら私もあんな感じに・・・・ならねぇな。恥ずかしいし。

 

 てか、なんで私なんだろう……。沙綾とかおたえとかりみとかならわかるけどさ。私なんか素直になれない上に口も悪い。こんな私のどこが良いのかな? もの好きな奴。

 

「有咲大丈夫?」

 

 距離をとって歩いていると沙綾がふらっと私の隣にやってきた。

 

「え? あ、うん……」

 

「大丈夫そうじゃないね。またあの人の事考えてた?」

 

「まぁ……」

 

 沙綾はこういう時にはちゃんと気遣ってくれる。恵が居なくなってからは余計に。なんでそこまで気遣ってくれるのかって聞いた時、『なんとなくかな~』って言ってたけどそんな事はないと思う。サポートするのが好きな沙綾の事だから根かいもそれかな。

 

「良いね~有咲は。自分を好いてくれる人が居て」

 

「それなんも嬉しくねぇ。アホに好かれても………」

 

 そっぽを向きながらそう言うと、沙綾はふふっと微笑む。間を開けて答えづらい質問を投げかけてきた。

 

「やっぱけいちゃんが良い?」

 

「………どうだろう」

 

 恵が居なくなってから最初の1ヵ月は凄く会いたかった。さすがに1年以上経つと気持ちが薄れるっていうか……平常に戻ったというか。好きな気持ちは変わらないけど、今すぐに会いたいってわけじゃない。

 

 つまりあのアホと恵は比べるまでもないってこと。10対0でコールド負け。

 

「そんな事言ってると、あたしが取っちゃうよ~?」

 

「前にそれで騙されたからやめてくれない?」

 

「あの時の有咲スゴい顔赤かったよね~」

 

 もうマジでやめてほしい。沙綾の罠にはまって恵に対する気持ちがバレた。別に隠したかったわけじゃないけど、話す気もなかった。だって……恥ずかしいじゃん。2人の秘密にもしたかったし……。

 

「早く帰ってると良いね」

 

「うん」

 

 前なら『別に』って言ってた。でも今は早く帰ってきてほしい。

 

「アリサさーん!! 見つけましたよー!!」

 

 うわっ来たよ………

 

 走ってきたのか息を切らして私達の目の前に立つ。そのアホずらを見るのは何回目だろうか。いい加減にしてくねぇかな。今日こそはしっかり断らないと。

 

「あの。もう付きまとわないでくれま───」

 

 いざ注意しようとしたのに、言葉を遮るように告白してきた。

 

「付き合ってくださーい!」

 

「話聞けよ!!」

 

 今ので15回目なんですけど……。普通1回断られたら躊躇すると思うんだけど、コイツに至っては躊躇どころかそこから加速していった。マジでふざけてる。

 

 アホを睨みつけていると、優都が笑顔でとんでもない事を言った。

 

「あ、また来たんだ。負け戦大変だね」

 

「んだとゴラ!! カスミさんと付き合えてるからって調子乗んなよ!」

 

 顔に怒りマークが見えるくらいの表情で優都に対抗するアホ。これもいつもの光景なんだよ。

 

「調子に乗りっぱなしなのは君だよね?」

 

「ちげぇし!」

 

 違わねぇよ。調子に乗ってるのはお前だって。

 

「とりあえずあの声マネやってよアホ川くん」

 

 おたえもドストレートに悪口を正面から言った。うちのバンドメンバーには常識人は私とりみと沙綾だけって事はわかる瞬間だな。

 

「し、仕方ないっすね~。姉御がそう言うなら」

 

 結局誰でもいいんじゃねぇか。私の事を好きって言う割には誰にでもデレデレするんだよなコイツ。なんかムカつく。

 

 一旦後ろに向いてから咳払いをして前に振り向いた。表情は、星の玉を7つ集めると願いが叶うアニメのプライドの高い王子の顔に似せにいってる。

 

 

 

「クソったれがーー!!」

 

 

 

 そして沈黙。

 

 最初に口を開けたのはおたえ。

 

「この言い方は似てるけど、声は全く似てない感じがアホ川くんだよね」

 

「おたえちゃん……それは言い過ぎだよ~。本当かもしれないけど」

 

「りみ。普通にとどめさしただけになってる。もうアホのライフは0だぞ」

 

 フッたおたえもおたえだけど、こうなる事がわかってて乗るアホもアホ。いつになったら成長するんだよ。

 

 こうして私への告白は毎回のように失敗。こうなると普通、顔も合わせたくないと思うんだろうけど生憎、アホにはそういう感情はない。毎日、帰りに告白しては振られ告白しては振られるの毎日をループしている。同じ時間をぐるぐるてるんじゃないかって錯覚してしまうほどに。

 

「じゃあ楽しませてもらったし、そろそろ行こっか?」

 

「そうだね♪」

 

「じゃあね。アホ川くん」

 

「あっ、はい! では!」

 

 笑顔で私達を見送るアホの横を通り抜け蔵へと歩きだした。これは新しいパターンじゃね? 笑顔で見送ってるのに置いてかれるアホも気付かないんだ。

 

「あれ? おれ置いてかれてる?」

 

 気付くの遅っ!

 

 

 

 

 

 

 結局、蔵練にアホも付いてきた。優都はギター弾けるから、香澄とおたえとりみの4人でギターパートの事を話したりしてる。その間、私と沙綾はそれぞれ1人で確認。対してアホは買い物に行かせたり、ガヤ担当だったり不遇な扱い。なのにそれでも楽しそうにしているアホを見ていると、楽しい気持ちになってくる。

 

 それを正面するように私以外はみんな笑ってる。その笑いがバカにしてる笑いなのか、面白くて笑ってるのかはわからないけど……たぶん面白くて笑ってるんだと思う。

 

 

 

 はぁー・・・・もうわかんねぇ。

 

 

 

 アホに対する気持ちの変化に自分でもわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

 蔵練が思ったよりも長引いて気付けば遅い時間になってた。片付けは私1人でやると押し通してみんなには帰ってもらった。1人で考える時間が欲しかったからちょうど良い……。

 

 お菓子の入ってない袋をゴミ袋に入れていると、階段を下ってくる足音が聞こえた。視線を向けるといつもと変わらぬ笑顔で言った。

 

「やっぱ手伝いにきた」

 

「帰れよ」

 

「相変わらず冷たいね~。でもそこがまた」

 

「キモい」

 

 アホを無視して部屋の片付けを再開すると、私の横でガサゴソと片付けを始めた。

 

「なんで……私に付きまとうわけ?」

 

「なんでって。理由は1つ。アリサさんが好きだから」

 

 普通に息を吐くように言ってくる。一瞬ドキドキしたけどそれが逆に苛立った。

 

「だからっ! ……前に話したじゃん。好きな人が居るって」

 

「でもその人は今ここに居ない。アリサさんを置いて外国に行って……おれはそんな事にぜーったいにしない! それだけは約束出来る!!」

 

 迷いがない瞳で私の事をじっと見つめてくる。その瞳からは嘘は全く感じなかった。ダメなのはわかっていても、ちょっとだけならと心を許した。

 

「それに……こんなバカなおれでもちゃんと見てくれるのが嬉しかったんすよ」

 

「べ、別に……お前がしつこいから……」

 

 

 

 

 ごめん……恵。

 

 

 

 

 最初はうざいだけだったのが最近は少しずつその気持ちが変わりつつあった。今まで男の人で真っ正面から『可愛い』とか『好き』とか頻繁に言ってくる奴なんて居なかったから、妙にそれが嬉しくて……心に響いた。

 

 

 

 

 

───────☆

 

「痛っ」

 

 リビングのソファーでギターを弾いていると、突然プツンという音と共に弦が2本切れる音が響いた。その拍子に左手の親指を切ってしまい、血が溢れてくる。

 

「あんちゃんどうかしたの?」

 

 近くで本を読んでいた雅史が本にしおりを挟んで俺の元にきた。

 

「ん? ああ。弦が2本も切れた……」

 

 傷口から出てくる赤い血を近くにちょうどあったティッシュでふき取りながら答えた。

 

「一昨日、交換したばっかだよね?」

 

「そうなんだよ。まぁ、切れたもんは仕方ない。また交換するさ」

 

「そっか。救急箱持ってくれね」

 

「サンキューな」

 

 とりあえずギターを下ろして雅史が戻って来るのを待つことにした。ふと外を見ると真っ黒な雲が押し寄せている。まるで不吉な何かを暗示しているかのように。

 

 なんだろう……この胸に突っかかる感じは。

 

 

 

───────☆

 

「って話」

 

 ありさの過去の話が終わったけど、誰も言葉を発さなかった。何かを言わないといけないのに、何にも言葉が浮かんでこない。ちびちびアイスコーヒーを飲んでいると、つぐちゃんが口を開いた。

 

「なんか……複雑な話だね」

 

「うん。つぐちゃんの言ってる事は合ってるよ。でもね………これはあたしの勝手な願いだから適当に聞き流して」

 

 何にも言葉が思いつかない中、ありさが付き合い始めた頃に思った事を打ち明けることにした。自分勝手な事ばかりで、嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないけど……これだけは伝えたい。

 

「けいとありさが仲直りした時にね。2人が仲良くこの先、ずーっと一緒に居てくれたら嬉しいな~って。あたしのせいで仲悪くなっちゃったし」

 

 すぐにありさの顔を見ることが出来なかったあたしはアイスコーヒーをストローでゆっくりかき混ぜた。カランカランと氷同士がぶつかる。

 

「ゆいの気持ちはわかった。その……心配してくれてありがとう」

 

「ううん。あたしの方こそ本当にごめん。幸せになってよね、ありさ」

 

 いい雰囲気の中、あたしの隣でつぐちゃんが涙を拭っていた。

 

「ごめんね。なんか感動しちゃって」

 

「も~つぐちゃんは涙もろいもろいんだから~」

 

「私とゆいの間にあった事を話した時も泣いてなかった?」

 

「あ~確かに」

 

 本当につぐちゃんは優しいね。けいとありさと仲良くなってから友達って呼べる関係の人が増えたな~。彩先輩に何度も謝った時は、すごい困ってたっけ。

 

「どうしたの? 遠くを眺めて」

 

「ううん。なんでもない」

 

 

 

 

 この日常がずーっと続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

───────☆

 

 遠い未来。

 

 薄暗い森の中。今、私の目の前にはかつて好意を寄せていた彼が真っ黒なスーツの上にコートを着て、拳銃を迷う事なく私の額に照準を合わせて立っている。後ろにはその彼に怯えて地面に座り込んでいる男が1人。

 

「一度しか言わねぇぞ? そこをどけ……有咲」

 

 私を容赦なく睨みつける目には一変の曇りがない。恵が撃つ気になれば本当に撃たれる勢い。ゴクリと唾を飲み込み、目を逸らすことなく言った。

 

「やだ」

 

 その瞬間、拳銃が大きな音を立てて弾丸が地面に向けて放たれた。拳銃からは白い煙が出て、嫌な匂いが鼻をつく。それでも私は少しも引かずにそこに立った。ここで恵を行かせてしまったら本当に戻って来れない気がした。これ以上恵に人を殺してほしくない。私の頬にそっと触れた、大きくて暖かい手が血にまみれていくのが怖かった。

 

「次は……当てる。最後の警告だ。そこをどけ」

 

 低く唸るような声でどくよくに指示されるも、無言でじっと恵の事を見る。お互いを見つめ合うというラブコメのような展開の中、一瞬だけ恵の視線が左にそれた。その瞬間、私は左手ぐっと引き寄せられ、視界左に大きくずれる。

 

「死ねーー!!」

 

 大声の次に銃撃音が響きら衝撃が私の体を襲った。なにが起こったかわからないまま3回目の銃撃音が響く。

 

「ぐ! がっ?!」

 

 地面に横たわりながら撃たれた男の人を見ると右肩から真っ赤な血をダラダラと流していた。テレビ越しやスマホの画面越しで見ていたものと同じ血。鉄が濡れた時のような匂いが漂ってくる。酸っぱい胃液が少し上がってきたのをこらえながら上半身を起こした。

 

 私を庇ってくれた恵は怪我1つない様子で、男の人が持っていた拳銃を回収してコートのポケットにしまい込んだ。

 

「有咲越しに撃つ……か。それがお前の答え、なんだな?」

 

 今度は右の胸ポケットから西部劇でよく見る銃を取り出した。それを私に向けた時と同じように男の人に向けると、躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 4回目の銃撃音。

 

 男の人は額から赤い血を流してピクリとも動かなくなった。強い吐き気が襲ってくる。思わず口に手を当てて死体から目を逸らした。

 

 私の好きな人はどこで道を間違えたのか無表情で躊躇いもなく人を撃ち殺す人になってしまった。

 

「あと……8人」

 

 ボソッとそんな言葉が聞こえたつかの間、何かで口と鼻を抑えられた私はなんの抵抗も出来ずにまぶたを閉じ、眠った。

 

 




恵「カミヤマラジオ! 今日のゲストはこの方です!」
千聖「ベース担当の白鷺千聖です」
恵「はいもう作者に悪意しか感じないー」
千聖「そう? 優しい作者さんじゃない」
恵「この作品のメイキャラを出そうとしないのはなぜ?」
千聖「きっと都合があるのよ。作品さんのことも少しは考えてあげないと…ね?」
恵「は、はい…。それにしてもなんだよアホ川ってやつは」
千聖「あら。妬いてる?」
恵「そんなんじゃないです。ヒロインとられた主人公になんの需要があるのかって話です」
千聖「ないんじゃないかしら」
恵「笑顔でどぎついこと言うんですね………」
千聖「神山君が落ち込んだ所で、感想、評価等よろしくお願いします♪」
恵・千聖「次回もお楽しみに!」


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