ヒュドラの毒牙   作:蛇好き

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#8入隊

「海兵になる位、やってやろうじゃないの!」

 

借りた船室で宣言した。

 ダイナしかいないこの空間では、聞くものが誰もいない。

それでも、言ってしまうのは、気持ちが高揚しているせいだ。

 

「しかし、海兵とはねぇ」

 

と、高揚を深呼吸で鎮め、呟いた。

 ダイナの計画では、海賊か賞金稼ぎにでもなろう、と最初は思っていたのだけど、成り行きで海兵になる。

人生とは、おかしいものだ。と気付いた時には、人生の奇妙な奔流に流されている。

 ここで人間に出来ることなんて、奔流で転覆しないように、耐え抜くしかない。

 正義。それは大義名分を備えてしまえば、虐殺なんて『正義』の名の下に、平気で実行しそうな危うさを秘めていた。

特に、赤犬ことサカズキ。ダイナがONE PIECEのキャラクターの中でも圧倒的一位の座に君臨する嫌いなキャラクターだ。

 

「考えても始まらねぇよな」

 

ダイナは楽観的に考えた。

 転生特典がある。普通に海軍やってれば死ぬことはないだろう、とダイナは信じたかった。

 

 

 

一つの夜を過ごし、二つ目の昼を乗り越えた所で遂に基地に到着した。

 その頃には、すでに太陽が水平線に隠れ始めていた。

名残惜しそうに、ダイナは手を伸ばす。右も左もわからないこの場所で今、唯一理解できる物は太陽で、それがなくなると、精神がやられそうな気がしたからだ。

ただ、無情にも、太陽は沈んでいく。

やがて、最後の一片まで完全に水平線に潜ったら、ダイナの頬に、涙が伝っていた。

 

「おい! 新入り!」

 

先輩海兵がダイナの事を呼んだので、全力で返事をして、先輩海兵の元に走る。

 

「ボケッとつっ立ってねぇで荷物を降ろすのを手伝えよ!」

「はい!」

 

船に走り、荷物を持つダイナ。

 

「お、重っ……」

 

あまりの重さにダイナはたたらを踏み、海兵の一人とぶつかった。

 

「すみません!」

 

荷物を持ったまま謝る。海兵は全くの無反応。ダイナにはそれが許しか、許さないかを察する事が出来ない。

 重すぎて、腕が痛くなってくる。その度に地面に荷物を降ろして、回復するのを待ってから、持ち上げて運ぶ。

 その工程を幾度となく繰り返し、やっとのことで一個を倉庫に運ぶ。

 ダイナがやっとの事で一個を運び終えた時には、既にすべての荷物を運び終わっていた。

 

 

 

 

支給された四畳ほどの部屋でダイナは眠り、そして起きた。

 壁はコンクリートが剥き出しで窓の無い、簡素な部屋。

 見れば、まるで独房に近い造りだ。

外からしか鍵の掛からないドアを見て、ダイナは独房であると確信する。

 部屋が足りないからだ、と右から左に流し、ドアを開ける。

 開けると、すぐ目の前に渡り廊下があり、本館の一階に繋がっている。

 朝会があるというので、そこを通り、昨日に案内された、訓練場に向かう。

 もう海兵が集まり始めていて、並びだしていた。

現在の最後尾に付き、開始を待った。

 通告された時刻通りに開始された。

つつがなく終了し、訓練の時間になった。

 ダイナは新兵として訓練に参加することになった。

内容は基礎体力作りと実戦。

 基礎体力作りはランニング10キロと筋トレ。

これを二時間以内に完了しなければならない。

しかもこれはどんなに新兵であろうとベテランであろうとも、等しく与えられるメニューだ。

 それを筋肉がないが、身体強化を以てしてもヘトヘトになるレベルのハードぶりだった。

 こんなに疲労した状態で実戦なんてしたら、それこそ死んでしまう。

 無情にも、ダイナの名が呼ばれ、訓練場にある四角のリングに上がる。

相手は若い海兵。ダイナを除いた中で、最も若い海兵だ。

細い体つきは無駄がなく、まさに動くための筋肉で占められている。

 開始の合図で実戦が始まった。


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