ヒュドラの毒牙   作:蛇好き

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#5幸せの終わり

「出来たぞ」

まさに船職人の技術は『神業』と称するべき腕前だった。

 瞬く間に部品と部品を繋ぎ、船を造っていく。

繋ぎ目の脆い部分は金属で補強して。

一時間と経過しない内に、立派な船が完成していた。

 

「出来た!」

「そうだな」

 

これから漁に出るのが楽しみだ、と心を躍らせる。

 

船職人は彼の横にあるボタンを押すと、壁に見えていた物が倒れ、海へ続く道になる。

 船職人が船を渾身の力で押し、道に乗せた。

敷かれた木のころが船を海に導く。

その勢いのまま、着水。朝日に照らされて、彼らの新しい船は美しく見えた。

 

 

 

「船も出来たことだし、帰るか」

 

乗り込んだ父親は、出航準備をしながら言った。

 返事をしたダイナは船首に移動して、危険がないかを確認。父親に伝えた。

 帆を張る。風は完璧なまでに追い風。

これ以上ない出航日和だ。

 スウ、と海を進む。以前の舟とは桁違いに滑らかで速い。

 

「とうちゃんすごいね!」

「ああ、これは想像以上だ」

 

もうすぐ着く。そんな距離まで、日がさほど昇らぬ間に来た。

 父親も以前までは帆とオールを使っていたので、帆だけで進むこの船に乗って、楽そうだ。

 

「ほら、着いたぞ」

 

港に接岸し、ダイナを抱きかかえ、陸におろす。

 その後、家から釣具を持ってくると、船に積んだ。

 

「お前も来るか」

 

ダイナはすぐさま頷く。

 すぐさま二度目の出航だ。

 今日はダイナが行ったことのあるスポットに加え、もう少し魚が捕れそうな場所に行く。

 

「捕れた場所を記録してるんだ」

 

ノートに視線を落とし、一心不乱にペンを走らせる。

 普段は適当そうに見える父親がガラになく、真面目な表情をしているのでダイナは驚いたのを見て、父親が説明した。

 

「とうちゃん、案外マトモなんだね」

「案外ってなんだよ」

 

父親は三歳児からでた辛辣な言葉に苦笑した。

 その日は、いつもより捕れたことは言うまでもないだろう。

 

 

 

そんな生活を続けて七年。

 ダイナは操舵を任されるようになり、基礎的な船の動かしを覚えた。

 独自に天候と船の動かし方の関係を学ふ。

そのうちにダイナは一人前の操舵主になっていた。

 けして裕福とは言えないが、ダイナにとっては充分に幸せだった。

 なのに、突如として、不漁になった。

 理由はわからない、ただ不漁としか言いようがないのだ。

 天候や海の状況から見ても、一切、異常はない。

なのに、不漁なのだ。

 しかし、ダイナの家庭には関係がなかった。

その漁船で遠洋まで出て、漁をしていたから、不漁以前と変わらないどころか、以前を上回る程の漁獲量を誇っていた。

 やがて、島民は、不思議に思い始めた。

なぜ、漁獲量は変わらない。

なぜ、それどころかふえていくのだ。

なぜ、それにも関わらず我々は減っていく。

なぜ、なぜ、なぜ。

 積もり積もった疑念は一つの推測を生んだ。

『ヤツの家が我々の魚を取ったせいだ』と。

疑念は恨みに変わり、恨みは殺意に変わる。

『ヤツらを殺せば、漁獲量は戻る』という案が、どこからともなく、生まれ出た。

 そして、すべてを崩壊させるあの日が来る。


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