ヒュドラの毒牙   作:蛇好き

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#9海兵の一日

海兵の左ジャブが飛んでくる。

 ダイナはそれを屈む事で避ける。

戦闘の地力となる筋肉は無いが、戦闘センスや動体視力に身体強化の影響が出ている。

 数秒でカタが付く、と思っていた海兵に驚愕の表情を浮かべる。

その顎をめがけ、カエルアッパー。

 確かな手応えはあったが、海兵はたたらを踏むだけで堪え、指をボキボキと鳴らす。

 海兵が疾駆する。勢いを殺さずに右ストレート。

これを懐に入ってかわし、ボディブローを叩き込む。

 ボディブローの攻撃力に疾駆の勢いが加算された一撃に海兵が苦しそうな素振りを見せる。

 ここまで後の先に徹してきたダイナだが、遂に先の先を取る事を決意し、ゾオン系、ヒュドラの人蛇形態と化す。

 その姿は両の肩口から四本ずつの首が生える。

中央にはダイナ本来の首。

 海兵は一瞬驚くが、すぐにファイティングポーズを取り直す。

 ヒュドラの首は伸縮自在だ。その特性を活かし、二本の足プラス、束ねた首を足にした二本の合計四本で海兵に飛び込む。足の本数が倍になった事で、速度も上がった。

 束ねたまま、ヒュドラの首で掌底の形を左右に二つ、作る。

 

「ゴムゴムのバズーカモドキ!」

 

その一撃が海兵にクリーンヒットし、吹き飛ばした。

 リングのロープに当たり、そしてうつ伏せに倒れる。

 傍観していた海兵が息を飲んだ。「おぉ」と感嘆の声が漏れるのを聞いて、ダイナは思わずガッツポーズ。

アドレナリンが放出されているからなのか、妙な興奮状態に入っていた。

 しかし、身体は疲弊しているようで、足がガクガクと震える。

気を抜くと、今にも倒れてしまいそうだ。

 ――これでまだ午前中とか、ふざけている。

心の中で文句を溢しながら、訓練が終了するという声を聞いた。

 

 

 

「ヤツは監視の対象でしょうな」

 

豊かに顎髭を蓄えた初老の男が口を開いた。

 円卓に四人の男。姿や年齢は違えど『正義』のコートを羽織っているのは全員に共通していた。

 

「それは仕方ないことでしょうね。あまりにも強大な力を持ちすぎている」

「現状は海軍に属している事が幸いだよ」

「一理あるが、もしもヤツが敵に回った時はどうする?」

 

円卓の発言権がぐるりと一周し、顎髭の男に発言権が移る。

 

「殺す、しかないでしょうな」

 

刹那、円卓の空気が凍る。緊張が走り、一斉に空気を吸い込む。

 

「では、そういう事で」

 

会合が終わる。重く暗いテーマだったためか、場合によっては幼子を殺さねばならぬからか。

一様に表情は沈んでいた。

 

 

 

訓練が終了し、食堂で昼食を摂ったら、午後は巡視だ。

 ぞろぞろと船に乗り込む。

前回とは違い、近海の巡視なので、それほど荷物は必要ない。弾薬や火薬は船に積んであるので、荷物はほぼ積む必要がなかった。

 錨を揚げ、出航する。

 大きな船に、ダイナの心が踊った。

 昼食を摂ったことにより、疲労は一気に回復し、なんでも出来るような気分だ。

 果てなく続く青い海。

海軍の象徴であるカモメを帆に掲げて、彼らは今日も海の平和を守るのだ。

 

 

 

巡視は何事もなく過ぎた。

 そして、日が沈む。夜の時間が訪れたら、この基地は学問の時間だ。

 航海術をはじめ、気候の予測方法。

航海に必要な事を頭に詰め込む。

 そしてこの時間にダイナはこの海が東の海(イーストブルー)であると判明し、安心したような、拍子抜けしたような、複雑な気持ちだった。

 もしかしたら、ダイナは自分で思うより、戦闘狂の節があるのかもしれない。

 

 

 

座学を終えて、就寝のまえに一時間半ほどの自由時間がある。

 ダイナは独房の自室に戻り、能力の幅を増やそうと試行錯誤を行うも、あまり良い結果は出なかった。

 そうするうちに、強烈な睡魔がやってくる。

ベッドに半ば倒れる形でその日は意識を手放した。


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