スィーフィード世界で楽しく生きてみよう   作:トロンベ

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第7話 赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)

 それはある日のことだった。

 ルナちゃんが12歳から13歳になってから暫くたった日。

 ()()に直面することになる。

 

 その日俺は魔術の開発を一区切りし、リアランサーにで食事をしていたのだがルナちゃんの姿が見当たらない。

 

「おかしいな、今日はルナちゃん休みじゃないはずだけど」

 

 疑問に思っていると、ルナちゃんの同僚のウエイトレスの女の子が俺の呟きに気がついたのかこちらに話しかけてきた。

 

「ライさん、ルナは昨日から体調悪いみたいでお休みなの」

「え!?」

 

 ルナちゃんが体調悪い…ちょっと想像もつかないと言ったら失礼だな。

 あっ、なんかルナちゃんがジト目でこっち見てる姿が脳裏に浮かんだ。

 ルナちゃん感が鋭いから、変なこと考えてるとバレるな…気を付けないと。

 

 それはそれとして、普段健康なルナちゃんが不調だなんて余計に心配だな。

 

「ふふ、心配そうな顔。そんなに心配なら見舞いにいけばいいじゃない」

「そう、だな――うん、この後見舞いに行ってみるよ」

「うふ、あの娘喜ぶんじゃない?じゃあ私は仕事あるからいくね」

 

 そう言うとウエイトレスの娘は他の客の注文を取りにいった。

 

「う~ん、お見舞い行くのに手ぶらじゃ悪いな、途中の店で果物でも買っていくか」

 

 道中にあるよく果物を買う店の事を思い出し、お見舞いの品をそこで仕入れることにした。

 食事の会計を済ませ、リアランサーを出発し少しすると野菜や果物を扱う店が見えてきた。

 店は所謂八百屋みたいな感じで、粋の良いおっちゃんが気勢の効いた声で客引きをしていた。

 すごい捻り鉢巻の似合うスキンヘッド(決してハゲとは言ってはいけないらしい、剃ってるだけだと力説していた)のおっちゃんである。

 

「よう、ライの兄さん!どうした?」

「んと、お見舞い用の果物を適当に見繕って貰えませんか?」

 

 そう言うと、おっちゃんは少し考える仕草をし

 

「ん?もしかしてルナちゃんのか?」

 

 どうやら、おっちゃんも知っていたらしい。

 俺にも教えてくれればいいのに、そしたら昨日見舞いにいったのに、水臭いなぁ。

 

「はい、昨日から体調が悪いと聞きました」

「そっか、じゃあ今日はサービスするぜ、この前の発明で助かってるしな!」

 

 おっちゃんはニカッっと笑う。

 ゼフィーリアの人は戦闘力は基本おかしいが、いい人ばっかだなぁ。

 余りにも居心地が良くて、この地に長居してしまうのも止むなしだな。

 ちなみに、発明というのは大した物ではない。

 皮むきが面倒でピーラーを作ったのだ。

 偶々見せる機会があって、おっちゃんに見せたら興奮してもっと作れないかと言うので、作るのが難しい刃の部分だけ500個ほど作って渡したのだ。

 え?作りすぎ?いや加工に関しては魔力のゴリ押しで結構いけるのだ。

 基本となるものを作ってそれをプリセットにして、金属を加工複製したので時間的には対してかからなかったのだ。

 一応ギルドを通してある取引である、刃以外の部品は職人任せなので。

 

「ありがとうございます!また今度使える物を作ったら教えますね」

「おう!ピーラーのお陰で野菜が爆売れだからな、有難いってもんよ」

 

 カゴに果物を満載したものを受け取る。

 渡した料金の倍くらいの量を入れてくれたみたいだ。

 もう一度おっちゃんに礼を言いルナちゃんの家へと歩く。

 

 

 暫く歩くとインバース雑貨店に到着した。

 雑貨店の扉を開き中に入ると、そこにはインバースさんがいた。

 

「こんにちは、ルナちゃんの体調が悪いと聞きまして見舞いに来ました」

「ん?おお、悪いな……んー見舞いか」

 

 何やら考え込んでいるインバースさん。

 はて、見舞いをすることになにか問題でもあるのだろうか?

 

「ん?いや、何でもない…ことはないが、お前さんなら大丈夫だろう。これは別に隠しちゃいないし、ある筋じゃ有名な話なんでな、お前さんにも話しておこうと思う」

 

 どうやら真剣な話の様だ。

 姿勢を正して、聞く体勢にする。

 

赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)って知ってるか?」

「えーと確か赤の竜神(スィーフィード)の力の一部をその身に宿した存在でしたよね」

「――ああ、うちのルナはその赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)だ」

「ルナちゃんが…」

「あんま驚いてないな、何か思うところでもあったのか?」

「まあ、少し心当たりがありまして」

 

 初めて会った時からルナちゃんには神族の力を感じていた。

 自分からは聞かなかったし、あちらも何も言って来なかったから気にしていなかったが。

 だが、神族の力があろうとなかろうとルナちゃんはルナちゃんだ。

 

「そうか…それでなルナの奴は赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)としての力は十全に扱えるんだが、問題は力じゃなくてだな…」

 

 インバースさんは苦虫を潰した様な表情をしながら言う。

 

「ルナは赤の竜神(スィーフィード)の記憶も一部持っているらしくてな、この多感な年頃にその記憶は()()らしくてな、精神的に不安定になるんだ。だから大事をとって休ませてたんだが…」

 

 インバースさんは真剣な眼差しでこちらを見る。

 

「もし、お前さんが負担に思わないなら、ルナの奴の()()を少しばっか持ってやってくれないか?なに、少し話を聞いてやってくれるだけでいいんだ。な?頼むぜ」

 

 …そんな事言われたら断れないじゃないか。

 ――いや、ルナちゃんの事なら言われなくても自分からそうする積りだった。

 

「顔を上げてください、ルナちゃんにはいつもお世話になってるし、あんないい娘が苦しんでるのを放っておけません。俺でルナちゃんの力になれるかわかりませんがルナちゃんと話してみます」

「そうか…恩に着るぜ。ルナは雑貨屋の裏手から少し歩いたところにある家にいるから行ってやってくれ。家には勝手に上がってくれ、ルナの部屋は2階だ」

 

 雑貨屋を出て裏手を少し行ったところに家はあった。

 家に入り2階へ登ると、階段の右手の扉に「ルナの部屋」と書いてあるプレートが付いていた。

 ちなみに左の扉には「リナの部屋」と書いてあった。

 

「ふぅ…」

 

 息を整えてノックをしようと手をあげたところで

 

「ライさん…?」

 

 ルナちゃんに気づかれていたみたいだ。

 

「うん、見舞いに来た」

「ありがとう、開いてますので部屋に入ってください」

「わかった」

 

 扉を開けて部屋に入ると女の娘特有の甘い匂いが漂ってきた。

 部屋の中にはルナちゃんがおり、フリル多めのベッドの上に座っていた。

 見回してみると熊のぬいぐるみや、やはりフリルの付いたの服が掛かっており、女の子らしい可愛い部屋だった。

 女性の部屋をあまりじろじろ見すぎるのも失礼かと本題に入る。

 

 

「ルナちゃん、体の具合はどうだい?」

「体の体調自体は大丈夫、問題は私の頭のほう。……お父さんから私の事聞いたんでしょ?」

「ああ、赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)のことなら聞いた」

「私ね、赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)の力に目覚めてから年を取る度に赤の竜神(スィーフィード)の記憶が流れてきて、私が私じゃなくなった様に感じる時があるの、私の記憶が押しつぶされる様な気がするの」

 

 ルナちゃんは落ち着いた様な声色でそう話す、――が俺には解かる、ルナちゃんが必死に感情を抑えようとしていることが。

 だってあんなにも泣きそうな顔をしているんだから。

 

「それにね、力に目覚めて最初の頃は力の加減が出来なくて、暴走して周りのものを壊したり時には人を傷つけたり…」

 

 ルナちゃんは手に力を入れて震える。

 

「私こんな力なんていらなかった!記憶だっていらない!普通の女の子として生きたかった!」

 

 ルナちゃんは感情が溢れたのか涙を流し、嗚咽を漏らす。

 ルナちゃんがこんなに悲しみ苦しんでるのを見ると俺の心も悲しくなってくる。

 俺はこの世界に転生してから感情の起伏が少なくなったと思っていたが、ガーヴやルナちゃん、リナちゃんに出会ってから段々感情が豊かになっていったのを自覚していた。

 俺にその感情を生き返らせてくれたルナちゃんが泣いているのに放っておけるはずがない!

 

「ルナちゃん…俺には本当の意味でルナちゃんの気持ちは分かってあげられないかもしれない。けどルナちゃんが悲しんだり苦しんだりしていると、俺まで悲しいし苦しい…赤の竜神(スィーフィード)の記憶があろうとなかろうとルナちゃんはルナちゃんだ」

「…………」

「ルナちゃんの代わりにはなってあげられないけど、苦しい時や悲しい時は一緒にいるくらいなら出来る…それがルナちゃんの助けになるかは分からないがけど、足しくらいにはなると嬉しい。それに……」

 

 俺は白の魔力と黒の魔力を指先に宿す。

 

「この魔力…ライさんに大きくて暖かくて安らぐ様な力は感じていたけど神族と魔族の力を同時に…まさかあの方の…」

 

 俺がルナちゃんの力を感じ取っていた様に、ルナちゃんも俺の力を感じ取っていたようだ。

 一応、白の魔力と黒の魔力に関しては出来る限り隠蔽する為に最小に抑えていたのだが、源流が同じ性質の力を持つルナちゃんには僅かではあるが感じるものがあったらしい。

 

「やっぱりルナちゃんも薄々気づいてたか、俺にはもしルナちゃんが暴走しても止められる力がある。だから俺がいる限りは支えになる!安心してくれ!」

 

 ルナちゃんは俯き、前髪で瞳は見えないが頬は少し赤く見える。

 この程度の事でもルナちゃんの少しは心を軽く出来ればいいのだが。

 少しすると、顔を上げ涙を拭きクスっと笑う。

 

「ふふ、ライさんありがとう。今まで皆慰めたり励ましたりはしてくれたけど、そんな事言ってくれる人なんていなかったわ」

「ああ、ルナちゃんにはいつも世話になってる、それを少しでも返したい。頼ってほしい」

 

「…うん。ライさんのお陰で気分が落ち着いたみたい。ありがとう」

「そうか、良かった」

「ライさん、良かったらライさんのお話聞かせて?ライさんの事もっと知りたいわ」

「ああ、この俺の事くらいならお安い御用だ」

 

 それから暫く、ルナちゃんと話すのだった。

 転生の事や、ルシファー様の事を話した時はさらに驚いていたが、それでも受け入れてくれた。

 こんなに嬉しいことはない。

 

 この日より俺とルナちゃんは今までより、少し距離が近くなった。

 




この話は非常に難産でした。
他の話に比べて3倍くらい書くのに時間かかりました。

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