ゼフィール・シティに滞在し始めて1ヶ月程が過ぎた。
この一ヶ月は魔術の研究などをしていたが、それ以外の時間はのんびり過ごしていた。
リナちゃんと約束通り、リナちゃんと魔道について話あったりもした。
リナちゃんだけど、彼女自分で言うだけあって確かに天才だと思う。
俺の作った魔法の品、魔道具も見せたのだけど――すごい質問攻めにあってしまった。
いや、彼女曰く姉ちゃん―ルナちゃんのことである―と同質の力が何故込められているのかとか――白の力のことだろう――、なんでこの作りでこんな高性能なのかとか、ライ兄ちゃんも姉ちゃんと同じでバグっているなど、結構失礼なことも言われたが…
――最後のは質問ですらないじゃないか、ひどい言いがかりである。
まあ、流石に白の力はともかく黒の力に関しては適当のはぐらかしておいた。
どうやら、この白の力と黒の力を同時に行使できるというのは、この世界では特別な意味を持つらしい、おいそれと話す様な事柄じゃないみたいだしね。
ガーヴの時はあっさり白状したが、あれは状況が状況だったし、何よりもガーヴが信用できると直感で感じたからだ。
別にリナちゃんが信用できないって訳じゃない。
この力は魔族に知られたら確実に狙われるだろう。
俺の場合はよほどの相手じゃない限り返り討ちに出来るが、リナちゃんはそうじゃない。
知っているだけでも、情報源として狙われる可能性もあるのだ。
だから、相手から感知されない限りなるべく秘匿することにしたのだ。
他には、リナちゃんに自分には必要ない黒魔術の魔道書を譲ったり、代わりにリナちゃんから自分の習得していない精霊魔術を教えて貰ったりと、かなりの充実した時を過ごした。
リナちゃんから教えてもらった魔術は爆炎系が多い。
どうもリナちゃんは実用性のある魔術よりも―嫌いという訳じゃない―、派手で目立つ魔術の方が好みの様だ。
最近は食事といったらリアランサーである。
最初に食べた子牛のワイン煮込みも美味かったが、他の料理も最高であった。
あまりの美味さについ食レポじみたことをつい口走ってしまい、その度にルナちゃんにクスクス笑われるのだ。
でも美味しいものを食べたらつい口から光が出たり、饒舌になり解説しちゃったりとかは常識だよね?前世の僅かに残る記憶の残滓にそういう人の記憶もあるし、多分、恐らく常識である。
そういえばルナちゃんがこの間女子会みたいな集まりで、料理の素材を集めに結構危険な怪物が生息する山へ行くとか言ってたので、ルナちゃんの実力なら大丈夫だろうけど念の為に着いていったのだ。
――心配は杞憂であった。
いや、というかルナちゃんが強いのはわかっていたが、他の女子たちもかなりの猛者であった。
山には獰猛な
――ああ、超人の国ゼフィーリアだもんな。仕方ないな。
っていうか料理の素材って
確かにリアランサーのメニューにドラゴンのステーキとかあったけどもさ。
まーそんな感じで緩くもちょっと刺激的な日常を過ごしていたのだ。
そんな取り留めのない事を考えつつ、今日の昼飯を食べにリアランサーに行くかな~と着替えつつ考えていた時――ガーヴに渡した通信用の魔道具に対応する受信用の魔道具に反応があった。
着替え途中のシャツだけ着て、魔道具を起動する。
『おーいライ聞こえるかー?オレだガーヴだ』
「おう、聞こえるよガーヴ。あれから結構経つが落ち着けたのか?」
『いや、それがなあれからフィブリゾの野郎、追っ手の下級魔族・中級魔族に亜魔族を引き連れさせて波状攻撃を仕掛けてきやがってな。しつこいのなんの。しかも下級魔族や中級魔族自体は直ぐに逃げやがるし、使い減りのしない亜魔族を倒しても意味がねぇ。嫌がらせ以外の何物でもないぜ』
「ふーん、助っ人はいるのか?」
『いや、中級魔族程度なら相手にもならないし亜魔族なんてただの的にすぎん。それに驚異ではないとはいえ追われ続けるのもいい加減うんざりでな、一気に長距離をとばしたんで暫くは見つからないはずだ。まあ、落ち着いたっちゃ落ち着いたな』
やはり、あの時の戦いで感知されたのだろうか、まあそんなことを聞いても既に起こったことだし聞かないけども、気を遣わせるだけだからな。
「そうか、なかなか連絡来ないし結構心配してたんだ。何事もなかったなら良かった」
『……………』
ガーヴが急に沈黙する。
「どうした?」
「いやな、今までオレに対して心配してくれる奴なんていなかったからな、どんな反応していいかわからんのさ、なんというか嬉しいもんだな」
フッっと照れくさそうにニヒルに笑う姿が思い浮かぶ。
「それが友ってやつだろ?」
「ハッ、魔族の俺が友情を嬉しく感じるなんてな!普通の魔族だったら大ダメージをうけているところだ!やっぱりオレは人間の要素がつええな」
そうだな、だからこそ俺はガーヴと友になりたかったわけだし。
しかし、ガーヴを追っているという冥王フィブリゾ、前に執拗な相手と言っていたし実際その様だ。
うーん、魔族の追っ手はガーヴの気配を感じたらそれを手がかりに追っているってことだよね、つまりは追っ手が感知できない様に結界系の
まあ、今度少し研究してみるか、あまり期待させても悪いしガーヴに教えるのは目処が立ってからかな。
『ライ、聞いて欲しいことがある』
ガーヴが声のトーンを落とし真面目な調子で話してくる。
「なんだ?」
『追われ続け、ただ追っ手を倒し続けてもジリ貧だ、いつかは無理が来て滅ぼされちまう。根本的な解決をしなきゃならねぇ、だから―――北の魔王を討つ!』
「…本気か?」
「―――ああ」
ガーヴの声色からすると本気の様だ。
北の魔王――凍りづけになっているという魔王シャブラニグドゥの七つに割かれたうちの一つ――動けない魔王自体を倒すのはそう難しくはないだろう。
しかしそれを倒すには、当然高位魔族の妨害もあるだろう。
それを成すには相当の覚悟と準備が必要だろう。
『ライ、お前と出会うまえ考えていた策はあったんだ。だが、今となっちゃその策実行する気が失せた』
「それは?」
『オレの直属の部下が集まったら実行しようと思っていた策なんだが、部下をある国に潜入させてな、その国の乗っ取り戦力にすることを考えていたんだがな、ライお前に出会ってから気が変わったのさ』
「…俺に出会ってから?」
通信魔道具から自嘲の笑いが聞こえると――
『ああ、前まではどんな犠牲があっても自分が生き残るためなら、どんなものも利用してやる、そう思ってた。だがなお前に出会ってから考えたのさ、どんな手段も厭わないどんなものでも利用する――それじゃあ俺を追ってる冥王フィブリゾの野郎となんも変わらないんじゃないかってな』
…そんな事を考えていたのか。
確かに人間の俺としては(力が人外だって?心は人間だから)その様な策はとって欲しくない。
俺との出会いで考えを変えてくれたのは素直に嬉しいが、だがそれでガーヴが危機を回避できなかったらそれは嫌だ。
「そうか、俺としては自分の影響でそこまで考えてくれて嬉しいが、他に策はあるのか?」
『それはだな…今模索中だ』
「―ないわけだな?」
『うっ…』
俺はふっと笑い息を吐く。
「ガーヴ、俺は困ったら助太刀するって言ったはずだ。俺も何か考えてみるからな」
『………ありがとうよ』
やはり照れくさそうな声で返ってくる。
この後、特にいい策も思い浮かばなかったがガーヴと話をした結果、しばらくガーヴは自らを鍛えるという方向でとりあえずは決まり通信を終えた。
何故そんな方向で決まったかというと、本来純魔族というのは、力は生まれつきか他の存在から奪ったり与えられたりしなければ、上下はしない。
だが、ガーブの半分は人間である。
つまり魔族と人間の両方の性質を持つガーヴは成長できるのだ。
人間とは成長する生き物である。
その成長スピードは凄まじい。
その短い――魔族とは比べ物にならないほど短い――生涯の中でまるで閃光のように眩しく燃えて生き抜く、それが人間なのだ。
という事を語ったのだが、魔族であるガーヴには考えも付かなかった考えであったらしく、目から鱗が落ちる思いだったらしい。
ガーヴ曰く、外界から遮断された異界に心当たりがあるらしく、そこなら魔族の追っ手に感知されないだろうということで、そこでしばらく修行してみるということだ。
外界から遮断されているので、魔道具での通信も暫くは出来なくなるが、修行の結果がある程度出たら向こうから連絡するとのことだ。
さて、オレもガーヴが修行を終えた時の為に魔道具の研究を頑張らないとな!
あ、その前にまずは腹ごしらえの為にリアランサーに向かうか。
そろそろ、次話のストックが切れそうです。