インバース雑貨店から少し歩くと、目的の喫茶店リアランサーが見えた。
店は、一目でこれだと分かる程賑わっており、店内は勿論、オープンテラスまで客で賑わっていた。
「なかなか、いい雰囲気の店だな、インバースさんがオススメする理由も分かる」
早速、店内に入ろうかと思った矢先、店内から剣呑な怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前が、ルナ・インバースか!噂に寄るとどんな猛者だろうが一撃で屠るという剛のものだという噂だが…ハンッ、どうやら噂はとんだ嘘っぱちだったようだな!」
ん?インバース?ってことはリナちゃんのお姉さん?
モヒカンの男がそう言い嘲っている相手を見ると、セミロングの紫がかった黒髪で前髪で目元の隠れた、ウエイトレス姿の少女がいた。
その少女から感じられる気配は…
…マジか!?っぱっと見だからそこまで自信持って言えないが、ガーヴ以上の実力がある様に感じる。
あの細い華奢な体で…歳は12くらいか?
っと、それはともかくあのモヒカン相手の強さも感じられないのか?
多少心得のある奴なら本能が恐怖を上げるレベルだっていうのに。
「このクソお客様、店内でその様な粗相をされては他のお客様のご迷惑になります。店の外でしたら、はんごろ…お相手になって差し上げますので、どうぞ外へ出やがってください」
うお、すごいプレッシャーだ。
このプレッシャーの方が客に迷惑なんじゃないか?
「ヒュー、まーたルナちゃんに挑む無謀な輩か!」
「ルナちゃーん、いいぞやれー叩きのめしてやれー!」
「リア・ランサー名物、ルナちゃんへの無謀な挑戦、これを見なきゃ始まらないってね!」
「ルナちゃーん叱ってくれー」
「ルナちゃん、ハァハァ、俺を踏んでくれー!」
どうやら一般人が逸般人のゼフィーリア、そんなヤワじゃないようだ。
っていうか最後の奴らちょっと待て!変態が混じってるぞ。
「ハッハー、いい度胸だ!よし外でやろうぜ」
そういいモヒカン男は店外へ向かう。
その後をウエイトレス少女ルナ・インバースが着いていく。
店の前に丁度良い広さの広場があり、そこでモヒカンは構える。
「よし、姉ちゃん噂は嘘っぱちだとは思うが、それでも噂の人物を倒せば泊が付くってもんよ、悪いが一発やられてくれや」
少女ルナは目の前の馬鹿に向かって大きなため息を吐くと、人差し指でくいっと向かってこいとばかりの仕草をする。
「いくぜ!うおおおおおおおおおおおっ!ぶげらああああぁぁぁぁっっっ」
一瞬だった、モヒカンがウエイトレス少女の目の前に迫ると、手に持ったトレイで高速に引っぱたくと、モヒカン男はドップラー効果を残しつつ、空に吹っ飛びキランと星となった。
「ヒュー!やっぱルナちゃん最強だな!」
「伊達でゼフィーリア最強と呼ばれちゃいないってことだ!」
「しかし今回の相手は特に弱かったなー」
「ルナちゃーん!オレも吹っ飛ばしてくれー!」
「ルナちゃん、ハァハァ、ルナちゃんの持ってるトレイになりたい…」
だから最後の奴ら!いい加減しにしろ!
「はいはいお客様、馬鹿は去りましたのでさっさと席に戻りやがってください」
少女ルナが手をパンパンと叩きながら促すと、客はササッと訓練された軍人の様に無駄に素早く席につく。
そして、少女ルナはこちらに気づき向かってくる。
「お客様、いらっしゃいませ!お席の方へどうぞ」
少女ルナはさっきの強烈なプレッシャーが嘘の様な可憐な笑顔を浮かべ、見事な接客態度で話しかけてきた。
案内に従い席につく。
「お客様、ご注文をお伺い致します」
「そうだな、ゼフィーリアはブドウが有名だと言うし、ブドウを使った料理なんてあるかな?」
「でしたら、ワインで煮込みブドウソースをかけた肉料理などいかかでしょうか?」
「お、それじゃそれをお願いしようかな、それと適当にパンとかもよろしく」
「ご注文承りました、以上でよろしいでしょうか?」
「うん、よろしく」
「では、少々お待ちください」
少女ルナは華麗にターンし厨房の方へ去っていった。
にしてもさっきの戦いとも呼べないモヒカンとのやり取りだが…
ほんの少しの動きしかなかったが、それでも分かることはある。
強い!圧倒的に。
正直、素の戦闘力じゃ勝てる気がしない。
それに、彼女からはなにやら白の力に似た力を感じた。
確か、白い力は神族の持つ神聖な魔力だとガーヴが言っていた。
となると彼女は神族関係なのかな?気配的には人間に見えたが。
まあ、ガーヴという魔族と人間が混ざった存在がいる以上、人間と神族が混じった存在がいても不思議じゃないか。
考え事しているとそれなりの時間が経ったのか、少女ルナがトレイに料理を載せこちらへやってきた。
「お待たせ致しました、こちらゼフィーリア産の子牛のワイン煮込みブドウソース掛けでございます」
料理からはフルーティな香りがし、見た目も肉が柔らかそうでいかにも美味しそうだ。
ゴクリと喉をならし料理の皿がテーブルに置かれるのを見る。
少女ルナはそれを見て、失礼にならないくらいさり気なくクスリと笑う。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?では、ごゆっくりどうぞ!」
先程と同じ様に洗練された動きで、少女ルナは他の客の注文を取りに去っていった。
料理も来たことだし、食べますか。
フォークを肉に刺し、ナイフで切り取る。
ナイフは力を対して入れずにスッと切り取れた、相当丁寧に下処理され、長時間煮込まれた証拠だ。
程よい大きさの肉を口へと運ぶ。
!!!!!!
「うまいっ!肉はよく煮込まれていて、口に入れた瞬間ホロっと崩れるほど、そして口内に広がるフルーティな香り、何よりもこれは隠し味か?ハーブの特有の香りが…これはラムの香草か!そして極めつけはこの肉にかかったソース!ブドウ特有の酸味と肉の凝縮された旨みが見事に合致し、正に相乗効果といった味わいの深さを見せている。これぞ珠玉の逸品だ!」
気づけば、食べ終わっていた。
皿に残ったブドウソースまでパンで拭き取り食べ、皿は洗ったかのような白さを見せている。
美味かった…
いやー、これほどの料理と出会ったのはこの世界に来て初めてかも。
あまりの美味さに口から光が溢れた気もした程だ。
ゼフィーリアに滞在している間はこの店を使うことにしよう。
この店を紹介してくれたインバースさんには感謝だ。
クスクス
ん?料理に夢中で気付かなかったが、いつの間にか少女ルナが目の前にいた。
「お兄さん、随分美味しそうに食べるのね。うちの店の料理をそんなに美味しく感じてくれたなら嬉しいわ、ありがとう!」
さっきのウエイトレスとしての態度じゃなく、年相応の少女らしい態度で話しかけて来てくれた。
「いやー、本当に美味しかった!俺はエルメキア帝国の方からやってきたんだけど、ここまで美味い料理は初めて食べたよ」
「ありがとう、私お兄さんのこと気に入っちゃったわ。私の名前はルナ・インバースよろしくね!」
そう言い首をコテンと傾けながらとても眩しい笑顔を見せる。
首を傾けた瞬間前髪の隙間から素顔が見えたが…可愛いな
「それは光栄だな、俺の名前はライ・ラーグ。よろしくなルナちゃん」
「うん、よろしくライさん!」
「そういえば、この店を紹介してくれたインバース雑貨店の店主さんの娘さんでいいのかな?苗字同じだし」
「あら、お父さんの紹介だったの、お父さんには後でお礼言っておかないと」
周りの男共からの嫉妬の視線があったが、少しの間ルナちゃんとの楽しい一時を過ごしたのだった。
ちなみに主人公の容姿なんですが外見年齢は高校生くらい、短めの黒髪黒目です。
ルナ姉ちゃんはリナより4つくらい上らしいので、このくらいの年齢にしました。