「魔竜王ガーヴ…確か魔王の5人の腹心の一人、かつて水竜王と相討ちになったと聞いていたが」
「あぁ、相討ちになったが滅びちゃいなかった、だが水竜王の野郎に同じ竜の属性を利用されて、人間の魂の中に封印されちまってな、転生を繰り返しなんとか今世で記憶と能力を取り戻したんだが、転生の影響か人間の魂と混ざってこのザマさ」
ガーヴは皮肉げにそう言うが、言葉とは裏腹に悲愴な感じはしない。
「まあ、オレもこの人間の姿は嫌いじゃないがな。そんな訳でオレはもう純粋な魔族じゃないのさ、考え方も普通の魔族とは違って滅びより存在を望む様になっちまった。お陰で、今じゃ魔族の連中に追われる日々さ」
なるほど、だから他の魔族と気配が違ったのか。
魔竜王ガーヴ、滅びを望む他の魔族と違って存在を望む魔族、まだ会ったばかりだが好感の持てる男のようだ、魔族特有の嫌な感じがしなく、なんというか信用できると感じた。
「魔竜王ガーヴ、突然こんなことを言うのもおかしいと思うが…俺と友になってくれないか?この世界に来て以来初めて友なんていなかったが、お前さんとは対等にやっていけると感じた」
「友だと?……フッ…ハハハハハハハハッ。まさかこのオレと友となりたい奴がいるなんてな、もの好きな奴がいたもんだ!そうか友か…いいだろう、オレも生きていて対等な友なんて呼べる存在なんていやしなかった」
「そうか、なら俺の事はライと呼んでくれガーヴ」
「おう、よろしくな!ライ!」
まさか、初めての友達が魔竜王ガーヴになるなんてなぁ、そりゃ冒険者やってりゃ知り合いは何人もできたが、それはあくまでも仕事の付き合いでしかない。
こうやって友になる、したいと思ったのは初めてだ。
「それでガーヴ、さっき他の魔族に追われてると言っていたな」
「あぁ、オレは滅びよりも存在を望んじまった、今更滅びを望む連中に契合できない、連中も存在を望むオレが疎ましいのさ。カタート山脈で凍りづけになってる魔王様…いや魔王の命令で追われる日々さ、今は潜伏しつつ嘗ての部下を集めている最中さ」
「そうか、なら友になった証に危機になった時に呼んでくれ、助太刀しよう」
ガーヴは少し驚いた顔をし思案顔になるが直ぐに笑顔になる。
「そりゃ助かるが、いいのか?オレに味方するってこたぁ、ほかの魔族を敵に回すってことだぞ、特に執拗に追ってくる冥王フィブリゾの野郎は陰険だしな」
「ああ、俺も魔族には何回か会って既に滅ぼしてるし、既に敵対する理由も十分だしな。それに折角友となったのに、死んでもらっちゃ寝覚めが悪い」
「そうか…なら頼むぜ!だが、こちらが一方的に力になってもらうのじゃ対等じゃねぇ、オレもお前が困っていたら、オレで力になることなら協力するぜ」
「ああ、よろしく頼む」
俺は手を差し出し握手を望む、ガーヴはニヤッと笑い応じてくれガシっと握手を結ぶ。
「そうだ、連絡用に俺の作った魔道具を渡しておく、魔力を通せばこちらの持つ対応した魔道具と通信できる」
俺は腰につけたポーチから、腕輪型の通信用の魔道具を取り出し、ガーヴに渡す。
「お、すまないな、さて…小競り合いとはいえここで戦っちまったお陰で他の魔族に感知される恐れもあるし、そろそろ行くことにするわ。また、落ち着いたら貰ったコレで連絡するからな」
「おー、気をつけてな!」
互いに軽く手を振りその場から離れた。
と、まあこれが3ヶ月ほど前に起こった出来事だ。
戦いからの出会いだが、この世界で初の友ができた。
結果的には良い事だけで終われたので良かった。
それに、魔王の腹心レベルの存在になると精霊魔術だと心許ないことも解った。
確かにガーヴには通用したが、あれはガーヴのほんの一部のアストラルを削っただけで、本体の大元には大したダメージじゃなかったはずだ。
もしガーヴが本気になれば、例え精霊魔術最高の攻撃力を誇るラ・ティルトであろうとも、決定打にはならないだろう。
しかもガーヴは人間体と融合している関係か多少人間に引っ張られて力が落ちている可能性もある。
つまりは他の腹心連中はさらに強大な力を持っている可能性が高い。
とはいえ、ガーヴも他の連中の下位互換という訳ではない。
ガーヴは存在が人間と魔族の中間にあるせいか、魔族の弱点である精神攻撃に対して、耐性があるように思えた。
魔族というのは、精神生命体であり非常に精神と力に寄った生命体である。
つまりは物質界よりもアストラル・サイドの存在が大きいのだ。
精神に寄るということは極端な話、相手との舌戦において逃げたり敗北しただけでもダメージを受けたり、力を失ったりする可能性もあるほどだ。
もちろん、舌戦でダメージを負う負わないはその魔族の性格にもよる。
その魔族が負けだと自分で思ったらそれがダメージになるのだ。
くだらない子供じみた挑発や悪口でも有効だったりする。
ガーヴは人間体という物質界の性質が強いせいか、人間の部分が魔族の精神的弱点をカバーしている。
滅びより存在を望む時点で生の素晴らしさを語ったとしても、平然としているだろう、むしろ賛同するまである。
そして俺が腹心レベルの存在と関わる可能性といえば…
普通は、そんな存在には滅多に遭遇しないだろうが、ガーヴが困っている時に助太刀すると約束したので、関わる可能性はかなり高い。
そんな連中に対して精霊魔術だけだと心許ない。
俺はこの世界に来て以来、魔術の習得に勤しんだ。
精霊魔術・白魔術に関してはかなりの習得率を誇るが、何故か黒魔術に関しては全然である。
才能の問題か相性の問題かは分からないが、一部の魔術、ルシファー様の力を借りる魔術しか使えないのだ。
これはこの世界に転生するときにルシファー様より知識を与えられていたので使用できる。
ルシファー様の力を借りた魔術は2種類ほどあるが、片方のエネルギー状の刃を作る魔術はともかく、もう片方の魔術はとにかく威力がおかしく、試しに呪文を唱えている最中にあまりのエネルギーの規模に慌てて呪文をキャンセルしたくらいだ。
あのまま発動していたらとんでもない破壊を生み出していた可能性が高い。
キャンセルした時、ルシファー様の声で「チッ」と舌打ちが聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。
色々考え事をしながら、歩き続けると目的地が見えてきた。
今俺は、各地を旅しながらその地の名産を食べ歩いているのだ。
多少はこの世界に慣れ、生きる為の路銀も十分に蓄えたので、旅を楽しむことにしたのだ。
ちなみに稼ぎで一番効率のいいのは、盗賊狩りだ。
依頼されて退治するわけだが、連中から奪った宝を奪われた人に返還して謝礼に何割か頂くのだが、相当に儲かった。
連中の宝も奪った相手が分かる物は返還するのだが、持ち主が分からない物は全部自分のものだからだ。
「さて、次の目的地は…確かブドウの名産地ゼフィーリア王国。この世界に来てブドウはまだ食べてないから楽しみだ」
まだ見ぬ果物を楽しみにゼフィーリアに向けて歩くのだった。
魔竜王ガーヴが初友達!