俺がこの世界に転生してから1年程が経った。
この世界ではライ・ラーグという名前を名乗っている。
この1年は自分の力の確認とそれを使いのなすための特訓、生活の為にモンスター退治など冒険者じみたことをやっていた。
ルシファー様から貰った力は白い力と黒い力で、白い力が神聖な魔力で黒い力が魔族的な魔力みたいだ。
白い力は主に防御や回復に向いている、逆に黒い力は破壊に特化している様だ。
一度二つの力を合わせて使ってみたのだが、少量にも関わらずとんでもない破壊力のエネルギーになってしまった。
びっくりして一部のエネルギーが辺りに拡散したけど、一部でも相当な破壊力だった。
残りのエネルギーはなんとか上空に放って事なきを得たが、あれは冷や汗モノだった。
咸卦法とか言って遊ぶんじゃなかった(汗)
白の力と黒の力の合成は余りにも強力なので、使うにしても強敵が現れた時限定で、しかも更に少量の力に限定したほうが良さそうだ。
まあ、強敵なんてそう簡単に現れないと思うけどね。
………………と思ってた時期が俺にもありました。
これは3ヶ月程前の話である。
俺はモンスター退治の依頼を受け、コブリンの集落を破壊していた。
ゴブリン程度なら精霊魔術で十分殲滅できるので、ファイヤーボールを20発ほど空中に浮かべて、ゴブリンの集落に射出したら、それだけで壊滅できた。
楽な仕事だな、と思いつつ引き上げるかと立ち去ろうとした瞬間、背後に今まで感じたことのない強い存在の気配を感じた。
何者かと剣の柄に手をやりつつ、振り向くとそこには赤毛の長髪、高身長のガタイの良い美丈夫がいた。
「強い気配を感じて来てみりゃ、魔族かと警戒してみたら人間かよ。っていうか本当に人間か?」
「失礼だな、当然人間だよ。あんたは?」
まあ、ルシファー様の力はあるが、使っていないので感じとられていないはずだ。
それに目の前の存在魔族っぽいがどうも、おかしい。
魔族の気配を感じるのだが、人間の気配と混じっているというか…
今まで下級魔族と3回ほど遭遇したが、こんな気配は初めてだし、格が違う気がする。
もちろん目の前の美丈夫が圧倒的格上だ。
さて、どう出るかな?
「あぁん?どうもそういう感じしねぇんだが、魔族的な力を感じるし、ただの人間にしちゃアストラル・サイドの存在がでかすぎる。かといってオレの追っ手っぽくもねぇ…てめぇ何者だ?」
「何者も何も、ただの冒険者さ」
あ、返答間違ったかも明らかに相手の気配が変わった。
「ほう、そうか・・・よっ!」
赤毛の美丈夫は腰の剣を抜き、一瞬で距離を詰めて上段から斬りかかってきた。
今までで、一番速い!
が、落ち着いて対応すれば避けられる。
剣の軌道から避けつつ、右回りに移動し自分も剣を構える。
「ほう、今のを避けるたあやるじゃねぇか」
「いきなり斬りかかってくるとは、俺は貴方の言う追っ手とやらじゃないですし、本当にただの冒険者ですって」
「ただの、じゃあねえだろ。オレの攻撃を避けるんだからな。それに、さっきも言ったがてめぇからは強力な力の気配を感じやがる。てめぇの正体暴いてやるぜ」
戦いは避けられないか。
「はああああああああっ!これならどうだ!」
気合の声と共に衝撃波と熱を伴う強烈な赤いエネルギー波を放ってきた。
避けてもいいが、ここは白魔術の結界で防ぐ。
エネルギー波は結界に当たり轟音と粉塵を撒き散らす。
「なにぃ!避けるならともかく防ぐだと!?」
「仕方ない、相手から仕掛けて来る以上抵抗させて貰う!
目の前に光の槍を作りそれを高速で射出する。
さらに、射出と同時に次に備えてエルメキア・ランスを空中に10個ほど作成し始める。
発射した光の槍は美丈夫に対して進む、攻撃直後で体勢を崩しているらしく直撃だ。
「ぐおおおおおおお!?」
叫びを上げつつ美丈夫は吹き飛び膝をつく、どうやらそれなりのダメージを与えたようだ。
「ば、馬鹿な!?ただの精霊魔術しかもエルメキア・ランス如きでこのオレにこれほどのダメージだと!てめえ、本当に何者だ!」
やはりだ、目の前の美丈夫は魔族にしては人間臭すぎる。
相手の出方によっては話してもいいかもな。
「俺が何者かか、説明してもいいが信じて貰えるかわからんが、それでもいいなら教えるが?」
「…………どの道このまま戦うのはヤメだ、オレも本気を出しちゃいないが、てめぇもそうだろう、まったくどうなってやがる頭がおかしくなりそうだぜ、構わんから教えてくれ」
そうだろうな、エルメキア・ランスでダメージを与えたが、それは現実に現れているアストラル体の一部だ、アストラル・サイドにはまだ本体の大部分が温存されているだろう。
本気を出されたら、流石に精霊魔術じゃ通用しない可能性が高い。
となると白い力と黒い力の合成を試すしかなくなるが、流石に相手もこちらの力の底がわからない以上、これ以上の交戦の意思はなさそうだ。
構えを解き、空中のエルメキア・ランスを霧散させる。
「そうか、まず俺はこの世界の出身じゃない」
「…………………」
相手の反応を見てみるが少し困惑した表情が見えるが、話の先を促す仕草を返してくる。
「で、だなこれは本当のことなんだが、この世界の創造主を名乗る人にこの世界で暮らしてみないかと誘われて、それに乗った。まあ、色々端折りまくってるが、そんな感じの理由だ」
「そ、創造主だぁ!?ま、まさかそれはあのお方の…いや、そんな事があるのか?…いや、だがオレを圧倒する途轍もない魔力、それにこいつから感じる謎の気配。懐かしさや暖かさを感じるような気も…おい、てめぇ、なんか証明できるような根拠はあるのか?」
根拠か、ならこれしかないか
俺は左手に白い力、右手に黒い力を発生させる。
「な、なんだと!?神族の力と魔族の力を同時に、だと!」
「これで証明になるか?」
「む、あ、あぁこんな存在はこの世界では聞いたことも見たこともねえ、かといっててめぇの言う事以外の存在なんて想像も付かねぇし、な」
「そうか、なら良かった。しかし、いい加減てめぇ呼ばわりはやめて貰いたいんだが、オレの名前はライ・ラーグだ」
「む、戦うのはヤメだし、手打ちの意味でも構わんぜ、ラーグ。そういや俺の名前も名乗ってなかったな」
と目の前の美丈夫はニヤリとニヒルに笑う。
「オレの名は魔竜王ガーヴだ」