あの晩餐の後、何日かするとお礼の「屋敷」の準備が出来たので、見に来てくれと連絡があった。
え?欲しかったのは普通の家じゃなかったかだって?
そう、案内の人についていきそこにあったのは家じゃなくて屋敷だった。
俺が欲しいと言ったのはあくまで普通の大きさの家だ。
だが俺は王族の人たちの感覚と一般人の感覚の差を考慮してなかった、王族のスケールだと家=屋敷だったらしい。
それでその屋敷だが、かなり大きい屋敷だった。
というか、ゼフィーリアの拠点の屋敷より大きかった。
一人で住むのに、この大きさの屋敷とか大きすぎだろ!
この屋敷は、前の屋敷と違い曰くつきではなく、ある貴族が昔持っていた屋敷を売却したものらしい。
屋敷自体は良いものなのだが、郊外であることと、貴族の屋敷なので買える身分の人が少なかったこと、そもそもそれを買える財力を持つ人なら街の中に居を構えるし、値段自体も高価だ。
それらの理由が重なって、なかなか売れていない物件だったようだ。
しかし、この屋敷を一人でどう管理したものかと考えていたのだが、管理のためにメイドを何人か用意してくれるらしい。
この拠点はこの街に居る間だけしか使わないし、旅に出たら放置するので、メイドまで用意してもらうのは悪いと断ったのだけど、その間は屋敷の保守だけすれば大した手間じゃないと押し通されてしまった。
転移の魔法陣は設置させてもらったのだけど、用意してもらった屋敷に設置するのに勝手に設置するのも悪いと思い、信用も出来るフィル殿下には教えてある。
メイド達は敏腕執事エドワードさんの管理するメイド達で、信用できるので問題はない。
転移魔術の事は信用出来る人にしか教えられないからね。
一応、この遠距離転移魔法陣は俺が許可した者以外使えないのだが、それを知らない連中は都合の良い部分しか信じず、無理やり悪用の為に使用を強要してくる可能性もあるのだ。
だからそこらへんは真っ先に確認した。
一応、この屋敷も許可した者以外の進入を拒む結界や、万が一の進入を許した時の為の各種トラップなどを設置したので、よほどの相手じゃない限り大丈夫だろうと思うが。
という訳で、屋敷のセキュリティも万全である。
さて、このセイルーン・シティに来た目的の一つは白魔術である
傷を治す白魔術には
どちらも対象の傷を癒す事には変わりはないのだが、この二つの呪文には大きな違いがある。
まず、
肉体を活性させるということは、被術者の細胞を活性させるということである。
つまりは肉体のエネルギーを傷の修復に使うのだ。
という事は、被術者の体力以上の修復出来ないし、それ以上の回復をしようと試みた場合は、体力が尽きて死んでしまう。
さらに、傷の修復にも出来る限界があって、人間が自然に回復出来るレベル程度の傷までしか治せないのだ。
少々の傷を治すには有用な
しかし、
この白魔術は発動するまでに二段階の発動手順があり、まず術者の魔力を回復の為のエネルギーに変換させる。
これで第一段階。
その回復のエネルギー――魔力をコントロールしつつ対象の肉体へ干渉し注ぎ込む。
これが第二段階、ここまでやって漸く発動する。
この白魔術の最大の利点であり特徴は回復の為のエネルギーは術者依存な事だ。
しかもこの魔術の凄い点は、対象の体力を消耗させないだけではなく、逆に対象に活力を与え、体力を回復させることができるのだ。
だが、対象の肉体を活性化させるだけの
この魔法はとても習得が難しく、白魔術の得意な者の多いセイルーン・シティでも使い手は神官でも全体の2割を切るという。
流石白魔術最高峰の魔法の一つである。
俺は白魔術の素養は精霊魔術と並行してかなり高い、代わりに黒魔術はさっぱりな訳だが――一部を除く――
そんな俺だが、この魔術習得出来るかというと…
結論から言えば出来た。
これは、白魔術の巫女であるアメリアちゃんが俺に弟子入りする代わりに、
「いいですか?ライさん、
「なるほど…慈愛の心」
「回復呪文ならどんどん人に試せるところがいいところです、試しに私に使ってみてください。いいですか?慈愛の心ですよ。大切な人や愛する人を考えながら詠唱すると成功しやすいです」
俺にとっての慈愛の対象といえば、言うまでもなくルナちゃんのことだ。
「ルナちゃん…よし、やってみる。聖なる癒しのその御手よ、母なる大地のその息吹よ、我が前に横たわる傷つき倒れし彼の者に、我ら全ての力もて再び力を与えんことを…」
本当は想像するのも嫌だが、ルナちゃんが傷つき倒れているところを想像し、それを救いたいという願いを込める。
そして、その想いを維持しつつアメリアちゃんの体に干渉し、魔力の通路を確保する。
準備は整った。
「
溢れる光の柱と共に魔力が活力と癒しの力に変換され、アメリアちゃんへと注ぎ込まれる。
「――え?え!?ええええええええええええ!?ちょっとストップ!ストップです。これ以上力注がれちゃうとパンクしちゃうーーー!私溢れちゃうーーーダメェェェェ!」
アメリアちゃんが慌ててるので、魔力の放出をストップする。
アメリアちゃんの慌て具合からして、何かまずい失敗でもしたのだろうか?
個人的には手応えあったのだが…
「えっと、ごめん。失敗した?」
「――違います!成功です!というか私より凄い
「えっと、言われた通りに恋人の事を考えながら詠唱してみたんだけど…」
「そういう事じゃありません!いくら愛する人を考えながらでも、いきなり成功なんてしません!私がどれだけ苦労して習得したと思っているんですか!しかもこの効力は有り得ないです!私、活力が溢れすぎてもうどうにかなっちゃいそうです!というかライさんの魔力どうなってるんですか!?」
アメリアちゃんはすごい勢いでがなり立てる。
どうやらやらかしたらしい。
「んと、俺も一回で成功したのにはビックリしてる、というか白魔術の呪文は色々覚えてきたけど、一回目で成功したのは初めてだよ。魔力は、まあ一応人より少し多いんだ俺」
「人より、多いってレベルじゃないですよ!おかしいです!神封じの結界の外にかつていたいう神族と言われても不思議じゃない程の魔力です!どうなってるんですか…私自信無くしますよ、巫女なのに。私がこの
どうやら、落ち込ませてしまったようだ。
俺の魔力は魂の格だかの話で、どうしてもこの世界だと規格外の扱いになってしまうのだ。
「とにかく!ライさんの
………―――と、この様な事があったのだ。
この後、落ち込むアメリアちゃんを慰め、魔力の事はなんとか誤魔化しておいたのだが、魔力の事に関しては納得してくれたか微妙な所だ。
アメリアちゃん、元気な子だけど頭はすごく良い子だし。
そういえば、前にフィル殿下の言っていた王家に伝わる正義の白魔術というのも教えてもらった。
これも正義の白魔術と銘打ってるだけあって、アメリアちゃんは当然のごとく使えたので、別の日にアメリアちゃんから教えてもらった。
こちらの魔術は
アメリアちゃんがやけにほっとしていた。
この魔術、正確には白魔術じゃなくて精霊魔術だった。
王家に伝わる魔術だからそこら辺適当なのだろうか?
習った魔術は
似た魔術に
そして今、アメリアちゃんの前で実践中である。
手や足に宿す事には成功し、お墨付きも貰えた。
そこで考えた、効果範囲を広げ全身に展開したら鎧みたいに防御手段になるんじゃね?と。
果たしてその試みは成功した。
今度はアメリアちゃんの顔が引きつってた。
解せぬ。
「解せぬじゃありません!
う~む、といってもなぁ魔力のゴリ押しだし。
前世の記憶のカケラに漫画の情報とかが一部あって、それをヒントにしたら出来たんだよな。
そういや、他にもピンポイントバリアパンチとか、念能力の攻防力移動とかあったなぁ、確か念能力の奴は硬だっけ?
「って言ってる傍からそんな体中に
あ、やべ考えてたら既に実行してた。
まーたやっちゃったか。
ま、まあもうアメリアちゃんの前じゃ色々やらかしてるし仕方がないね!
「何、一人で勝手に納得したみたいなしたり顔してるんですかぁ!私は納得できませーーーん!」
それっぽい顔で誤魔化し作戦は失敗したようだ。
ちなみにだが、この後試しに魔力を刃状にして手刀を岩に向けたらバターの様にスパッと切れたし、超圧縮して殴ったら粉々に砕けた。
それを見たアメリアちゃんとまたひと騒動あったのは言うまでもない。