オレの名前はガーヴ。
この世界じゃあちっとは名が売れてる魔竜王ガーヴってもんだ。
オレは千年と少し前、水竜王と北の魔王レイ=シャブラニグドゥとの戦いにおいて、北の魔王の野郎に捨て駒にされた挙句、瀕死の水竜王によって人間の魂の中に封印されちまったのさ。
転生を繰り返すこと数百年――実際何回転生したかなんて覚えちゃいないが――なんとか魔竜王としての記憶と力の一部を取り戻すことに成功した。
だが、全盛期の力と比べれば万全とは言えねぇ。
大抵の相手なら十分だが、他の腹心連中には勝てないだろう。
特に、俺を執拗に追ってくる冥王フィブリゾの野郎は全盛期のオレよりも少しばかり実力がありやがった。
いまのオレじゃあ、遭遇したら逃げるくらいはできるだろうが、勝つことは不可能だろう。
オレは、人間体に転生した影響からか魔族にあるまじき、「生」というものに執着する様になっちまった。
オレ自身はこの人間の考え方や、生き方は今では気に入っている。
だが、そんなオレの在り方を他の上位魔族連中は認められない。
俺が取るに足らない下級魔族なら、どうとも思われなかっただろうが、俺は仮にも魔竜王ガーヴ。
そんな、魔族の象徴の一人であったオレが生に執着する姿は、とても疎ましく思えたのだろう。
北の魔王の命令で俺は追われる日々だ。
だが、オレだって生きたい。
その為に各地に散らばっている、俺に従ってくれる嘗ての部下を探し集めている最中だった。
神封じの結界内だけでなく、結果外の世界も探した結果、何人かの部下とエンシェント・ドラゴンの生き残りであるヴァルという青年を自らの陣営に引き入れる事も出来た。
ヴァルには死にかけの所にオレの力を分け与え、魔族にしてやった時にオレの名を与え、ヴァルガーヴという名を名乗らせた。
ヴァルや部下達は、現状は迂闊に動けないので潜伏しながら慎重に行動する様に命令してある。
そんな中、俺がエルメキア帝国にて潜伏しながら探索していた時の事。
突然強い気配を感じ、追っ手の可能性を考えその気配の元へ向かった。
物陰から見た強い気配は人間でありながら、神族や魔族に近い気配を洩らす、摩訶不思議な存在だった。
そうして、奴との問答の末戦闘をしたのだが、逆にあいつの異常性が浮き彫りになった。
このまま戦闘を行うのもマズイと感じたオレは、あいつとの戦いを中断し、話し合うことにしたのだが…
結果解ったあいつの正体はとんでもないものだった。
あいつ、ライは元は異世界の魂だと宣い、あのお方に転生させてもらった上、あのお方の力を一部とはいえ其の身に宿していたのだ。
それであいつは、オレと友になりたいとかいいやがった。
オレは長い間生きてきたが、そんな事を俺に言った奴はあいつが初めてだった。
ライの目は本気だったし、おれも悪い気はしなかった。
ハッ、魔竜王ガーヴともあろうものが、友情とやらを喜んでるなんて転生前のオレが聞いたら、とてもじゃないが信じないだろうな。
その後、ライと別れた後はライとの戦いで気配を察知されたのか、追っ手の魔族のしつこい追跡や嫌がらせにあったのさ。
この執拗さは間違いなくフィブリゾの野郎だな。
それをなんとかふっきった後、ライに貰った通信の魔道具でライに連絡をした。
オレには計画があった。
その計画は神封じの結界内にある国家を調べ、その国家の中枢に部下を潜り込ませ傀儡にし、オレの力になる戦力を集め北の魔王を討つという計画だ。
だが、オレはフィブリゾの陰険なやり方を見、さらにはライという友を得た時に感じたのだ、このやり方はフィブリゾのやり方と何も変わらん姑息な手だと。
それに、ライの奴に顔向け出来ないような計画はやりたくもなかった。
オレは少し、照れもあったがライにその事を話し、相談した。
だが新たな計画など、そう簡単には浮かぶものでもなく、暗礁に乗り上げたかと思った時、ライの言葉を聞いたのだ。
「修行して力を付けるのはどうだ?ガーヴは半分は人間なんだろ?つまり成長出来ると思うんだ。人間というのは成長出来る生き物だ、その成長スピードは凄まじいものだ。その短い生涯の中でまるで閃光のように眩しく燃えて生き抜く!それが人間なんだ!」
ライのその言葉を聞いてオレはとてつもない衝撃を受けた。
魔族のオレは今まで修行して成長するなど考えもしなかった。
確かに今のオレの半分は人間、修行すれば確かに力を増やすことができるかもしれねぇ。
ヘッ、あいつの言葉にまた救われたかもしれんな。
問題は修行の場所だが、オレにはちょうどいい場所の心当たりがあった。
かつてある地で、
人間達は、
そんな
前は、水竜王の記憶の残る場所など行く気にもならなかったが、オレもライに出会ってから考えが変わった。
水竜王は俺を封印した奴だが、今は恨んじゃいない。
逆に人間として生きているオレは感謝しているくらいかもしれない。
という訳で、
オレが今回使うのはその一つだ。
「ここが、
「水竜王よ、そこにいるんだろう?」
そうオレが言うと、目の前の空間に老婆が現れる。
「魔竜王かい、なんの気紛れでこの空間に来たんだい?あたしへの復讐ってわけじゃあないんだろう?」
「ハッ、封印される前のオレだったらそれも考えたかもしれないな、だが今のオレはお前に恨みを感じちゃあいない。この空間を少し貸して欲しくてな、頼むぜ」
「あんた…変わったね、昔のあんたなら他人に頼みなんてしなかっただろうに、随分人間っぽくなったじゃないか、この空間で何をするんだい?」
水竜王の奴はこちらを見て、息子を見るような目で見やがる。
チッ、そういう目はいらねえんだよ…
「ちょっとな、ここでフィブリゾの野郎や北の魔王を討つ為に修行して力を付けようと思ってるのさ」
「ほう、あんたが魔族を離反したのは知っていたが、そこまでの覚悟があるんだね…なら好きにしたらいいさ。この空間の中ならあんたが多少無茶しても大丈夫だろうしの。それに修行とはの、人間のいい部分、成長というやつだね。まあ、今のあんたもあたしから見たら既に随分成長しているようにみえるわ、いい出会いでもあったのかの」
――チッ、いちいち見透かしやがる。
気に食わねえが仕方ねえ、こいつの空間を使わせてもらうんだから多少は耐えるか。
その後、オレは初めての修行とというものに戸惑っていたが、なんの気紛れか水竜王の奴が、修行のやり方を教えてくれやがった。
あいつは知識はとんでもないからな、伊達にあいつの知識が
そんな、修行をしていて気付く。
確かに自分の中の力が日々強くなっていくのを感じるのだ。
「あんた、段々力が上がってきたね。このまま修行を続ければそう遠くなく、嘗てのあんたの実力は取り戻せるだろうね。だけど、それ以上の実力を得ようと思ったら長い修行が必要だよ。あたしが修行を教える以上キツくいくからね。覚悟しとくんだね」
「クッ、だがたしかにおめぇの教える修行法は効果ありやがる。気に食わねえが背に腹は変えられねぇ、あいつのためにもオレは力をつけなきゃならねえんだよ」
人間の要素があるオレが成長できることは確定した。
オレが力を分け与えた為に、人間と竜と魔族の要素を持つヴァルも成長出来るということだな。
あいつもこの空間に呼んでみるか、組手相手も欲しかったしな。
ライよ、オレはここで力を付けて、オレに力を貸してくれる、味方をしてくれるというお前の言葉に甘えるだけじゃなく、俺自らも力を付け、いつかお前の力になってやる。
だから、オレが修行が終わるまで待ってろよ!
必ずフィブリゾの野郎より強くなってやるからな!