スィーフィード世界で楽しく生きてみよう   作:トロンベ

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第15話 王宮へ

 セイルーン・シティに着いて1週間、俺はジェフさんの店ジェフトに通いつめカレーの研究に没頭していた。

 魂の料理、そう、ソウルフードと言っても過言ではないカレーの研究だ。

 ジェフさんの知り合いの業者に頼んで、米かもしれないという穀物を仕入れたところ、正に米であった、ライスであった。

 米自体の味は品種改良されていないにも関わらず、結構美味かった。

 少しは米の味がそれ程でもないかもしれないと覚悟していただけに、嬉しい誤算だ。

 それでカルィーと組み合わせて見た結果だが、これこそ我が正に我が魂が記憶している究極の組み合わせ!最高の組み合わせだった。

 

「ジェフさん!やりましたね!」

「ええ!まさかこれ程相性がいいとは…」

「それに付け合せの福神漬けも出来ましたし完璧ですね!」

「はい、それもこれもライさんの協力あってこそです!セイルーン・シティに滞在している間は、当店の料理は全て私が奢らせて頂きます!いや、この程度では対価として釣り合わないかもしれませんが…」

「いや、この料理を食べられるだけで、俺は幸せですので!」

 

――ガシッ!

 

 俺とジェフさんは固く握手を交わす。

 これぞ正に男と男の友情…!

 

 後に、セイルーンから発祥した料理「カルィー」はジェフさんのカルィーに心酔し、弟子入りした者達がジェフさんから皆伝を貰った後、各地に広め色々な地域の人々に親しまれる料理となるのだった。

 

 

 

 ふー、この一週間カレーの研究ばっかで忘れてたけど、セイルーン・シティに来たら王宮に行く約束してたんだっけ…

 本当はセイルーン・シティに着いた次の日に行く予定だったんだけどなぁ、たまげたなぁ…

 まー、仕方ないよね。

 カレーに出会っちゃったんだから…

 俺と同じ境遇の人だったら誰でもこうなるはずさ…

 俺と同じ境遇の人がいるかいないかは別として…!

 

 という訳で王宮に向かいますか、一応王宮に行くということで、前回の転移の時に持ってきた称号の服(ディグリー・ローブ)を着ていくことにする。

 というか称号の服(ディグリー・ローブ)はこういう時にこそ着るものらしいので。

 流石に貰っておいて、ずっとクローゼットの肥やしにしておくのもなんだかなぁーと思っていたので丁度いい。

 で、着た姿を鏡で見ているのだが、なんつーか似合わない訳ではないが、なんか着なれてない感が滲み出てるというかなんというか…

 そう、言い表すなら入社一年目の新入社員がスーツに慣れてない感じのアレだ。

 

「う~ん、普段から着てれば多少は着こなせるのかもしれないけど、基本これって予備貰えないしなぁ、かと言って自分で予備を作るのも面倒だし。それに、正装に使えるってだけで特殊な効果もないし、やっぱり普段はクローゼットだな…」

 

 こういう理由から皆称号の服(ディグリー・ローブ)を貰っても仕舞いっぱなしにするのだろうな。

 まあ、魔術師協会も特に拘りもないみたいだし、本当に不憫だな称号の服(ディグリー・ローブ)

 

 

 さて、王宮の前まで来たわけだが、確か門番に紋章入りの護符を見せればいいってフィリオネル王子は言ってたな。

 門を見ると、兵士が入口のところに左右に一人ずついる。

 とりあえず、話は通ってるということだし行ってみるか。

 

「すいません、少しよろしいでしょうか?」

「――む、これは魔道士殿?如何いたしましたか?」

 

 一応、魔道士協会発行の称号の服(ディグリー・ローブ)を着ているだけあって、いきなり話しかけたにしては丁寧な対応を返してくれた。

 まあ、折角持ってきて着たのだから、この程度の効果ないとね。

 

「はい、こちらを見ていただけないでしょうか」

 

 俺は懐からフィリオネル王子から貰った護符を取り出し、門兵に見せる。

 門兵は、最初訝しげにその護符を見ていたのだが、少しすると何かに気付いたのか慌てて態度を変え、こちらに敬礼までし始めた。

 

「――あなた様は、フィリオネル殿下のお招きしたお客人の方ですね。殿下より聞き及んでおります!直ちに伝令のものを遣わし、殿下にお知らせ致します!客間に案内しますので、そこでしばしお寛ぎになりお待ちください!」

 

 おおぅ、約束から半年くらい経ってるのに、すぐ気づくとは徹底してるなぁ。

 兵士自体の質が高いのか、上司が命令を頻繁に確認しているのかは解らないけど。

 対応してくれた門兵の案内に従い、城内に入り中を見ると、流石大国セイルーンと思わせる見事な内装で見るものを威圧するのではなく、歓迎をしていると入ったものに感じさせる上品さがあった。

 それに、美術的価値だけではなく魔術的にも効果な品が其処らに配置されている。

 そこらに設置してある壺一つをとっても、庶民の所得ではとても手が出ない様な代物だ。

 兵士の案内で応接間らしい部屋に通された。

 

「この部屋にて暫しの間お寛ぎください。直ぐにメイドにお茶を用意させますので少々お待ちください。では私は任務に戻りますので失礼をさせていただきます!」

 

 敬礼をし、兵士は部屋から出ていく。

 やはり、ここまで来る途中で見た内装と同じく上品でバランスの良い見事な内装だ。

 部屋を眺めているとドアからノックの音がする。

 

「はい、どうぞ」

「失礼いたします」

 

 中に入ってきたのはメイドで、さっき兵士が言ってたお茶のメイドだろう。

 メイドは素早い手際でお茶の用意をすると、お辞儀をし部屋から出ていった。

 暫く用意してもらったお茶を飲みつつ待っていると――突然扉が開いた。

 

 ん?誰だろう、ノックがないってことはメイドとかじゃないだろうけど。

 ドアの隙間からピョコっと顔を出したのは、左右にフワッと広がったボブヘアで黒髪のリナちゃんくらいの年頃の女の子だった。

 女の子は、きょろきょろと部屋の中を見回しこちらを見、俺を発見すると部屋の中に入ってきてこちらへやってきた。

 さっきは顔だけで見えなかったけど、服はピンク色のドレスを着ている。

 女の子は俺の前までやってくると、ニコっと笑って――

 

「お兄さんが、お母様を助けてくれた正義の味方ですね!」

「え、正義の?」

 

 正義の味方が何かは解らないけど、お母様を助けたと言ってるってことはアイシア様の娘さんかな?

 

「旅の魔道士のライです。よろしくお嬢さん」

 

 すると、女の子は気づいたかの様に自分の頭をコツンと叩き。

 

「私としたことが、名乗りを忘れるとは正義とは反した行い、反省せねば…!失礼しました、私の名前はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。フィリオネルお父様の娘です。ライさんはお母様が襲われている所を、命懸けで助けたと聞きました!私、正義に憧れる者として感動しました!是非弟子入りをさせてください!」

 

 うん、見た目は兎も角、言動はフィリオネル殿下にそっくりだ。

 正義云々とか言ってる点が特に。

 流石は親娘か…

 しかし、弟子入り?

 

「えっと、アイシア様の事に関してはどう致しまして。それで弟子入りとは?」

 

 アメリアちゃんはフンスとドヤ顔になる。

 

「決まっています、正義の味方のです!暗殺者に襲われ、あわや此れまで――と覚悟していた所に颯爽と現れ、獅子奮迅の活躍で暗殺者達をメッタメタのギタギタにし、お母様の命をお救いになったとお母様から聞きました。正に御伽噺に出てくるような正義の味方!私、正義の味方に憧れているのです!」

 

 いや、正義の味方の弟子入りって…

 仮に受け入れたとしても師匠として一体何を教えるのだろう?正義の心得とか?

 アメリアちゃんはキラキラした目で期待した表情をしこちらを見ている。

 うっ、断りづらい!

 けど、正義の味方の師匠って…

 どうしたもんかと悩んでいると扉からノックがあった。

 

「どうぞ」

 

 ドアから入ってきたのは、the執事といった見た目の初老の男性だった。

 とりあえず彼のことは心の中でセバスチャン(仮)と呼ぼう。

 

「ライ様、フィリオネル殿下の準備が整いました、ご案内致します。…おや?アメリア様、どうしてこちらに?」

 

 セバスチャン(仮)はアメリアちゃんに気付くと、どうしてアメリアちゃんがここにいるか疑問に思ったらしく質問してくる」

 

「私は、正義の味方であるライさんに弟子入りを希望するべく、お願いに来たのです!エドワード、私もお父様の所へ一緒に行きます!」

 

 残念、彼の名前はセバスチャンではなくエドワードだった様だ。

 セバスチャン改めエドワードさんはこちらをチラっと見て。

 

「ライ様、アメリア様もご同行してもよろしいのでしょうか?」

 

 あくまで、俺に聞くんかーーい!

 いや、まあそうだよね執事としてはそうするしかないよね。

 チラッとアメリアちゃんを見る。

 先程と同じキラキラとした期待した目でこちらを見ている。

 

 うん、まあ俺に無垢な子供のお願いを断るなど所詮無理なのだ。

 

「ええ、アメリア様もどうぞ」

「ありがとうございます!ライ様弟子入りの件も是非!」

「あはは、それはまたあとで…」

 

 そんなこんなで、執事のエドワードさんの案内でフィリオネル殿下の待つ場所へ向かう俺とアメリアちゃんなのだった。

 

 




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