スィーフィード世界で楽しく生きてみよう   作:トロンベ

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第13話 安らぎの日常

 セイルーンに入ってから、暗殺者に襲われている王族を助けるという騒動に遭遇したわけだが、その後プライアム・シティに入ってからは特に何事もなく、普通に観光し、普通にその地のマジックアイテムショップを巡ったり、適当に依頼を受けたりと語るほどの事もないような平凡な毎日であった。

 最近魔道具の開発などはしていない。

 やはり、旅をしながらだとなかなか纏まった時間が取れないのだ。

 そもそも、今のところ特に新しいアイデアもなかったしね。

 

 プライアム・シティに滞在して大体一月程になる。

 だからといって現在俺がいるのはプライアム・シティではない。

 滞在しているのにいないとはおかしいことを言っている様に思えるだろうが、俺には転移の為の魔道具がある。

 何が言いたいかというと今日は、3日に一度のゼフィーリアの屋敷で過ごす日なのだ。

 実は3日に一度というのは正確に言えば正しくはない、通常は3日に一度半日程度滞在してから旅先に戻るのだが、5回に1回、つまり15日に1回は2日程ゼフィーリアでのんびり過ごす事にしている。

 それは、半日程度の滞在ではルナちゃんと屋敷でいちゃいt…ゆっくりするか、街で買い物程度しか出来なく、それではルナちゃんと遠出したり出来ないからだ。

 という訳で半月に1回はしっかりと時間を取り、家族サービスならぬ、恋人サービスをするのだ!

 いや~、やっぱり大切な恋人だし、釣った魚と放置なんて鬼畜行為なんぞできるはずがない。

 まあ、という事でこれは仕方のないやんごとなき理由と言っても過言ではない程重要な事なのだ。

 ちなみに、俺に合わせてルナちゃんもウエイトレスの仕事はお休みである。

 ルナちゃんの勤めている、リアランサーの店長だが、非常に話の解かる人で今では俺ともかなり親密にさせて貰っている。

 それで店長は俺達が付き合っているのを当然知っていて――というか街中に知れ渡ってる――気を使ってくれ、俺が戻る日には優先的にルナちゃんの休みを振り当ててくれるのだ。

 そんな訳で俺達は今日はデートである。

 

 今俺達は、ゼフィール・シティから少し離れた景色の良い湖へ来ていた。

 普段の様に、街で買い物デートも良いが、たまにはのんびりと自然の中でまったりとしたデートも乙なものである。

 

「ふわ~、こんなにいい陽気だと眠くなってくるな」

 

 俺達は木陰で座りながら、景色を眺めてのんびりとしていた。

 あまりの陽気に心地よさを感じてしまい、つい欠伸をしてしまう。

 ルナちゃんはこちらを見て、ちょっと悪戯めいた表情をして寄ってくる。

 

「ライさん、どうぞ」

 

 !!!!

 

 ――なんということだ!

 彼女はいま正座をし、自らの太ももを手のひらでポンポンとしている。

 つまりこれは、彼女の非常に魅力的なハリのある少女の瑞々しい、それでいて大人の魅力をも併せ持つ、一見アンバランスの様かに思われるが実際は美しい黄金比の元に保たれた、非常に神々しくも感じるその太ももの上に俺の頭部を載せろとそういうことなのだろうか!

 チラッとルナちゃんを見る。

 ルナちゃんはまるで聖母の様な見るものを安心させる微笑をし、無言で頷く。

 

「それじゃあ…失礼します」

 

 俺はそう言い、彼女のシルクの様な白くきめ細かい太ももの上に頭部を載せる。

 

「あぁ……桃源郷はここに存在したのか」

「ライさん、桃源郷が何かはわからないけど、毎回毎回膝枕する程度で大袈裟よ」

 

 とルナちゃんは少し呆れた感じで微笑む。

 いやまあ、そうなんだけどさぁ、ほら、本当に美味しい料理は何回食べてもその感動はなかなか薄れないもんだろう?

 そりゃ、毎日食べれば多少は飽きるかもしれないけど、俺達は今は3日に一回しか会えないのだ。

 つまりはたまに食べる上等な料理の様なもの。

 それは無感動にただ享受しているのは、なんというかその上等な料理にハチミツをぶちまけるかの様な冒涜にも感じる行為に思えてならないのだ。

 俺も気づけば、遠くまで来たものだな…

 今なら軽く悟りが開けそうだ。

 

「……………」

「……………」

 

 その後俺達は互いに無言でゆっくりと流れる時間を過ごしていた。

 互いに喋らないが、決して不快ではなく互が互いに対する安心を感じる、とても充実した時間に感じていた。

 その安らぎの時間が時間にして30分程経った頃だろうか――その倍に感じたが――ルナちゃんがふと思いたった感じで言葉を紡ぐ。

 

「私、今幸せよ」

「そうか…俺もだ」

「私はね、貴方に出会う前までは誰にも頼った事もなかったし、頼ろうとも思ってなかったわ。それは反骨心とかじゃなくて、誰にも私の事が受け止められないからと諦めていたから…周りを本心では信じられていなかったのよ。今だから解るけど私そんな現実に拗ねてただけなのよね」

「うん…」

 

 ルナちゃんは自嘲気味に笑い。

 

「貴方に会う前は、リナにも結構酷いことしてたわ。一つ挙げると私が怪談話をしていた時の事、私の話に対してリナは理論的な突っ込みを入れるのだけど、つい情緒がないって鉄拳制裁をしちゃったり、他にも色々。あの子トラウマになってなきゃいいけど…――勿論今はそんなことはしないし、そのこともリナには謝ったわ。今思うと当時の私はいい子にしていた積りでもモヤモヤとした現実にストレスを溜めていて、それを気づかないうちにリナや周りに散らしていたのかも。ふふ、考えたら厄介な子よね赤の竜神(スィーフィード)の力を宿した子の八つ当たりなんて」

 

 まあ、それも事実であることは確かだろう。

 だが、そんな彼女も多少やりすぎな部分はあっただろうが、決して周りを傷つける事や人を悲しませることはしなかったはずだ。

 それはルナちゃんが周りの人々の事を好きだったからだと思う。

 それに…

 

「そうかもね、でも…ゼフィーリアで過ごして一年半と少し。その間ルナちゃんとその周りの人々を見て断言出来ることがある。それはゼフィーリアの人たちはそんなルナちゃんに対して、嫌な感情なんて持ってないし、みんなルナちゃんの事大好きだってことさ」

 

 俺は別に慰めで言っている訳ではなく、これは紛れもない事実なのだ。

 そんな俺の言葉を聞いてルナちゃんは頷く。

 

「うん、解ってるわ。いえ、貴方と出会って受け入れて貰って、心に余裕が出来たから理解出来たのよ。これだけ世界が明るく優しいって事に。それまでの私は斜に構えて甘えていただけだったのね」

「そうだな、元々余所者だった俺だって最初から暖かく迎えてくれたし、本当にいい場所だよ。このゼフィーリアは」

「そうね…」

 

 本当にいい場所だ、だからもしこのゼフィーリアに危機が訪れたら、俺は全力でそれに立ち向かうだろう。

 俺のこの力は余りにも強大だ。

 だからこそ、争うためよりも守るために使うべきだと思うから。

 

 その後、俺たちは再び心地よい沈黙に包まれ穏やかな時を過ごした。

 

 

 

 

 ………ん?

 目を開く。

 どうやら、あの後ウトウトし眠気に負けて寝ていた様だ。

 チラリと上を見上げれば、ルナちゃんもすーすーと規則正しい呼吸をたて寝ていた。

 寝ているルナちゃんの顔は、普段より幼く見えた。

 まあ、実際彼女はまだ14才、幼いとも言える年齢といえばそうなのだが。

 空を見ると、既に日は傾き落ち始めていた。

 それなりの時間寝ていたようだ。

 俺は起き上がり――

 

「ルナちゃん、起きてそろそろ日が落ちてきた」

「ん……おはよう、ライさん」

 

 その後、のんびりと散歩しながら歩き、ゼフィール・シティに着く頃には空は茜色に染まっていた。

 ゼフィール・シティに入り、インバース雑貨店の前まで来ると、丁度店の前にリュートさんとレナさんとリナちゃんが居た。

 リナちゃんはこちらに気付き手を振りながら声を掛けてくる。

 

「ルナねーちゃーーーーーーん!ライ兄ちゃーーーーーーん!おかえりーーーー!」

「リナちゃんただいま。リュートさんとレナさん、只今戻りました」

「リナにお母さん、お父さん。只今ー」

「おう、おかえり!」

「あらあら、おかえりなさい」

 

 改めて、皆を見る。

 この世界に来て、一番大切な存在になった恋人のルナちゃん。

 ルナちゃんの妹で、いつも明るく元気なリナちゃん。

 この街に来て始めの頃からとても親切にしてくれたリュートさん。

 俺に対しても、暖かい母性で迎えてくれるレナさん。

 

 皆、この世界で寄る辺のなかった俺には勿体無い程の、素晴らしい人々だ。

 俺は改めて誓う。

 どんな事があろうと、この人達と俺の幸せを守ろうと。

 


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