スィーフィード世界で楽しく生きてみよう   作:トロンベ

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第12話 セイルーンの第一王子

 暗殺者に襲われた馬車から出てきたのは、黒いドレスを着た黒髪の女性だった。

 黒髪の女性は、こちらを向き黒い羽の扇子を口元に当てこちらへ一歩進んで来た。

 俺は貴族に対する作法――永遠の女王(エターナル・クイーン)との謁見の時に覚えた――で迎える。

 

「ほーっほっほっほ、貴方がわたくし達を助けてくれた魔道士の方ね。助太刀を下さり感謝しますわ、正に正義の行い!大義ですわ。わたくしの名はセイルーン王国第一王子フィリオネル=エル=ディ=セイルーンが妻、アイシア=イル=ウルム=セイルーンと申します」

 

 少し甲高い声の女性はどうやら、貴族といっても王族だったようだ。

 

「いえ、自分の助力で王族の方を助けられたのなら、望外の事と存じます」

「あら貴方、無理して丁寧な礼儀作法や言葉遣いなんてしなくていいわよ。見るからに慣れてないって丸分かりだもの。助けて貰って偉そうにするのはわたくしの主義じゃありませんもの。それに、わたくしの一家は親しみを持てる王族として有名なのですわ」

 

 チラっと聖騎士カインの方を見るとこちらに無言で頷く。

 護衛的にも礼儀を砕けたものにしても大丈夫らしい。

 

「えっと、はい分かりました…アイシア様」

「ほーっほっほっほ、よろしいですわ」

 

 風の噂で聞いたことがある。

 なんでもセイルーンの第一王子は民に親しみを持って接するらしく、何よりも民の暮らしと命を第一に考えるとても慈悲深い王子だと。

 その妻である彼女もそうなのだろう。

 

「しかし、王太子妃にしては護衛の数が少なすぎませんか?」

 

 俺は倒れている騎士と生き残りの3人を見て言う。

 

「それはわたくしの我儘のせいですわ…わたくしが、この近くにある精霊の泉に行きたいと言って、夫達の護衛本体から数人を引き連れて来たのですわ。カインさん達や死んでしまった護衛の方々には申し訳ありませんわ」

「いえ!私達は護衛として当然の事をしたまでです!死んだ部下達も本分を全うして立派な最後を遂げて、後悔はなかったはずです。それに今回アイシア様が精霊の泉にいらしたのは、病床中のエルドラン国王の為に白魔術の効果を増幅する薬草を取りに来たが為、精霊の泉は王族以外立ち入れぬ場所。決して我儘などではありません!」

 

 セイルーン王は病床中なのか、一般人の俺の前でそんな情報流してもいいのか?

 それとも一般的に流れている情報なのだろうか。

 

「いいえ、わたくしは気持ちが逸って夫に黙って一人急いで少数で本体から来てしまったのですわ。やはりわたくしの我儘なのです」

「アイシア様…」

 

 聖騎士カインは神妙な顔をしてアイシア王太子妃を見ている。

 なんといっていいか、という表情だ。

 しんみりしている主従2人だったが、アイシア王太子妃はこちらを見てはっとした表情で――

 

「ホホホ、申し訳ありませんわ。恩人を放ってカインと話し込んでしまって。貴方にはお礼をしたいのですが、今わたくしにはお礼できるものがないのです。もう少しして頂ければ、夫の率いる本体と合流できますので、合流したら改めてお礼致しますわ」

「えっと、別にお礼目的で助けた訳ではないので、そこまでして頂かなくても…」

「いいえ!命を助けて貰ってちゃんとしたお礼ができないなんて、王族としての矜持としても到底受け入れられませんわ!」

 

 ううむ、本当に気にしないのだが…

 金銭的にも困ってないし、むしろ魔道具の特許料で使い切れない程の金銭が定期的に転がり込んで来てるし。

 まあ、王族的にはお礼をしないと沽券にかかわるのだろう。

 それに、庶民に親しまれているという、セイルーン第一王子にも興味があるしここは受けることにするか。

 

「えっとそれじゃあお言葉に甘えます」

「良かったですわ。もし受けてくださらなかったら、魔道士協会を通してでもお礼を渡す所でしたわ」

 

 うおい、どうしてもお礼をしたいらしい。

 律儀というかなんというか、エルメキア帝国の貴族達とは全然違うんだな。

 ゼフィーリアもそうだったが、セイルーンも貴族に好感が持てそうだ。

 

 

 それから、襲撃者の死体の処理や――燃やしておかないとアンデットになる――死んだ騎士達から遺品を回収し、丁寧に弔う。

 その作業が終わりに差し掛かろうかとしたとき、街道から大人数の騎士がこちらに向かって来るのが見えた。

 あれが恐らく第一王子の率いる本体とやらであろう。

 その騎士たちの群れを見ていると――

 ――騎士達の中から一人こちらに猛烈なスピードで大声で「うおおおおおおおおお」と叫びながら駆けてくる巨漢が見えた。

 すわ敵かと注意深くこちらに駆けて来る巨漢を観察してみると、筋肉隆々で顔は厳つい髭面一見して山賊かと思われる風貌だ。

 ん、こいつはマジで敵か?

 いや、騎士たちの中から出てきたし、アイシア一行も落ち着いた雰囲気だ。

 もう一度観察してみると、着ている服は上等な物であり、決して山賊が着ている様なものじゃない。

 観察しているうちに、巨漢はこちらに大分接近してきた。

 

「うおおおおおおおおおおおおお、アイシアアアアアアアアアア!無事かあああああああああああ!」

「ダァァァーーーーーーーリーーーーーーーーーン!」

 

 ――カインの傍に居たアイシア王太子妃が駆け出し巨漢の元へいくと、二人は互いに見つめ合い、そして抱きしめあい、人目をはばかる事なく激しいキスを交わし合う。

 

 ええぇぇぇーーーー…

 アレがセイルーンの王子なのか、なんというか王子という言葉に対する女性の夢を砕きそうなイメージブレイカーだな…

 まさか王子が髭面のおっさんとは。

 ま、まあ現王が存命な以上、中年になろうが王子は王子か。

 二人は、十数分ほど抱き合っているとようやく離れ、話を始める。

 そうして、少し立つとこちらを見て、おっさ…王子がこちらへとやってくる。

 そして俺の前にやってきて俺の手を握り――

 

「ワシの名前はフィリオネル=エル=ディ=セイルーン。お主が我が愛しの妻アイシアを救ってくれたという旅の者か!礼を言うぞ!賊に対して正義の行い、なかなか出来ることではない!正に大義!このワシは今感動している!」

 

 目の前のフィリオネル王子は拳を握り締め涙を流しながら力説する。

 どうでもいいが握っている拳、俺だからいいもの、普通の奴だったら下手すりゃ折れてるぞ。

 っていうか顔が近い!むさいおっさんの顔のドあっぷである。

 勘弁してくれ…

 

「えっと、少し前までゼフィーリアで活動していた魔道士のライ・ラーグといいます。今回の事は人が襲われているのをみたら助けるのは人として当然のことですので」

 

 無難な返答をするとフィリオネル王子はカッと目を見開き

 

「ぬおおおおおおおお!お主こそ正義の使徒よ!ワシに出来ることならなんでもしよう!妻を助けてもらった礼だ、なんでも言うが良い!」

「そ、それじゃあ考えておきます」

「うむ!」

 

 なんとか、適当に答えて手を放してもらうと、騎士達の本体がこちらに到着した。

 すると騎士の護衛する豪華な馬車から――

 女の子が飛び出してきて、アイシア皇太子妃に抱きつく。

 

「お母様―――――!」

「グレイシア!」

 

 どうやら飛び出してきた女の子はアイシア王太子妃の娘の様だ。

 年の頃はリナちゃんより少し上に見え、母親譲りの長い黒髪に見るからにお淑やかに見えるいかにも姫様という感じの利発そうな女の子だった。

 母娘が抱き合い話している姿を微笑ましげに見ていると、女の子はこちらに気付きとことことこちらへ歩いて来て、目の前に立つとちょこんと頭を下げてきた。

 

「お母様を助けて頂きありがとうございます。私の名前はフィリオネル=エル=ディ=セイルーンの第一王女グレイシア=ウル=ナーガ=セイルーンです。ライ様、本当にありがとうございました!」

 

 やはり、姫様というだけあって上級教育を受けているせいか、このくらいの年齢の割にしっかりとしている。

 このくらいの年齢の女の子には下手に謙遜するよりも、素直に受け取ったほうがいいだろう。

 

「どういたしまして、俺の力でアイシア様を助けられて良かったよ」

 

 俺は出来る限りの笑顔で応えた。

 しかし、グレイシアちゃんはどうも人見知りするようで、あわあわと顔を赤くしてアイシア様の方へ戻ってしまった。

 む、ちょっと馴れ馴れしすぎたかな、リナちゃんと近い年齢のせいか、同じ感じで接してしまった。

 どうしたものかと考えているとアイシア様はこちらへやってきて

 

「おほほ、どうやらこの娘ったら二枚目の貴方に照れている様ですわ」

 

 などとのたまう。

 いや、二枚目て…不細工ではないと思うが、二枚目ではないと思うのだが。

 きっと母親を助けた人物ということで補正がかかってるんだな。

 

「もうお母様!知らない!」

 

 あーあ、このくらいの年頃の女の子にあんな言い方したら、そりゃスネちゃうよ。

 こうなったらほとぼりが冷めるのを待つしかないのだ。

 フィリオネル王子がこちらへやってきた。

 手にはジャラっと音のなる袋を持っていた。

 

「あー、ライ殿、今は急いでおってな、礼にこれくらいの物しか渡せぬのだ。こんな即物的な礼じゃなくて、ちゃんとした歓迎をして礼をしたいのだが、今はこれで勘弁してくれい。お主がセイルーン・シティに来た際は王宮に是非来てくれい!ちゃんとした礼を改めてしようと思うのでな。この紋章を城門の兵士に見せれば歓迎するように命令しておく」

 

 そう言うと、フィリオネル王子は音からして宝石の詰まった袋と、紋章の刻まれた護符を手渡してきた。

 ここは素直に受け取っておく。

 

「ありがとうございます。一応旅の予定ではプライアム・シティに滞在した後、白魔術を学ぶ為にセイルーン・シティに向かう予定ですので、その時に向かわせて頂きます」

「おお、そうか!正義の使徒よ!セイルーン王家に伝わる正義の白魔術なぞもある!お主がセイルーン・シティに来た際はお主にそれを伝授しよう!」

「えと、ありがとうございます」

 

 正義の白魔術とはなんぞや、少し気になる。

 

「うむ!それではな!」

「ライ様ありがとうございました。絶対にセイルーン・シティに来たら王宮に来てくださいね!」

「ほーっほっほっほ。今回は本当に助かりましたわ!またお会いしましょう」

 

 そうして、騎士達と共にセイルーン王子一行は去っていった。

 ふぅ、にしても型破りな王族だったなぁ。

 セイルーン王家の人々は皆あんな感じなんだろうか。

 

 などと俺は取り留めのない事を考えつつ旅を再開するのだった。

 




ところで、ゾアナ王国ってどこら辺にあるのだろう。
セイルーンの近辺というのは確実だと思うのだけど…


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