スィーフィード世界で楽しく生きてみよう   作:トロンベ

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第11話 セイルーンの道中にて

 

 旅に出て1週間程、既にセイルーンとゼフィーリアの国境を超え暫く経った。

 ここで今から向かうセイルーンの説明を軽くしようと思う。

 セイルーンは周りをゼフィーリア王国、カルマート公国、エルメキア帝国、沿岸諸国連合、ラルティーグ王国の五カ国に囲まれている大国である。

 五カ国に囲まれているにも関わらず、各国との諍いなどの話が一切聞かれないのは、大国としての高度な政治力を伺わせる。

 セイルーン王国は白魔術で有名な国であり、聖王国とも称され首都であるセイルーン・シティは白魔術の施設が非常に多い事から、別名白魔術都市と呼ばれているらしい。

 セイルーン・シティは都市そのものが魔法陣となっており、都市と結界の中心には王宮が存在しているという。

 

 さて、そんなセイルーン王国なのだが、俺は今騒動に巻き込まれようとしている。

 事の始まりは何事もなく道中を進み、プライアム・シティに差し掛かろうという頃に起こった。

 突然、女性の悲鳴や男のものと思われる怒声が複数聞こえてきたのだ。

 俺は咄嗟にその声のする方へ向かったのだ。

 自分から厄介事に首を突っ込むのもどうかと思うが、性分みたいなものなので仕方がない。

 木々の間を抜け進むと見えてきたのは、豪華な馬車とそれの周りを守る傷だらけの騎士と思われる者達、騎士達は満身創痍で既に複数が倒れていた。

 それを取り囲むのは、騎士達よりも大人数の黒ずくめのアサシンめいた格好の連中だった。

 これは…どう考えても囲んでいる連中が加害者で悪者に見える。

 いや、実際は囲んでいる連中が善人の可能性が那由多の中の欠片ほどあるのかもしれないが、自分の直感でも間違いなくそういう家業の人間に見える。

 状況を見るに明らかに騎士達が不利、しかも守っているのは豪華な馬車。

 貴族などを襲う暗殺者と見るのが妥当な所だろうか?

 ――よし、襲われている方に助太刀しよう!

 そう、一瞬で思考し判断を下す。

 広域呪文で対応するには、黒ずくめが馬車に近すぎるので止めておいたほうがいいだろう。

 となれば…

 

炎の矢(フレア・アロー)!」

 

 俺は炎の矢(フレア・アロー)を複数空中に展開し即座に前面にいる暗殺者共に発射する。

 

「ぐわっ!」

「うぐぅっ」

「ぐふっ」

 

 発射した炎の矢は前面にいた暗殺者三人に命中し、命中した三名は倒れる。

 

「――何者だ……!」

 

 暗殺者の中のリーダー格らしい奴がこちらに気付き警戒する。

 即座にリーダー格は部下に指示を出し、数人が馬車をそれよりも大人数でこちらに対峙する。

 リーダー格の暗殺者の気配から見ると、かなりの実力者の様だ。

 恐らく人間の中では上位に位置する実力者だろう。

 部下も一般的には上級に位置する実力があるだろう。

 一見すると隙が全くない様子でこちらを伺う。

 これは、かなりの実力者でも相対すれば、お互い隙の探り合いになることが間違いのない状況なのだろう。

 その間に警戒している者以外が暗殺を実行する。

 なるほど、まさに玄人(プロ)の仕事だ。

 これほどの人数と対峙すれば、よほどの実力者じゃない限り一方的に囲まれその命を散らす事になることだろう。

 だが、それはそれなりの実力者に対して通用するかもしれないが、俺には通用しない。

 っていうか、ルナちゃんとの模擬戦と比べればお遊戯みたいなものである。

 まあ、とはいえ油断など卵のカケラ程もしないが。

 

「さて、不気味な暗殺者さんに名乗る名はないってね」

 

 俺は言いつつも暗殺者に向け駆け、魔力による身体強化をかけつつ剣を抜き、近くにいる暗殺者を切り伏せる。

 

「貴様っ…」

 

 更に、駆けつつも高速で呪文を唱える。

 

雷撃破(ディグ・ヴォルト)!」

 

 雷撃破(ディグ・ヴォルト)は術者の手から電撃を放つ呪文であり、殺傷能力はかなり高い。

 本来、精霊魔術は精霊に語りかけるワードを唱えたほうが威力は高い。

 だが俺の場合、大量の魔力のゴリ押しでワードなしでも高威力で撃てるので基本的にワードは省いているのだ。

 というか、ワードまで唱えると威力が高くなり過ぎな傾向にある。

 ちなみに雷撃破(ディグ・ヴォルト)の正式な詠唱ワードは「風よ、赤き炎よ、我が手によりて雷となり、裁きの力を解き放て」である。

 

 俺の手から雷が迸り、暗殺者一人に命中し、それだけじゃ済まず雷は暗殺者から分岐し、近くにいたもう一人の暗殺者に命中する。

 命中した暗殺者二人は雷の威力に倒れ発火した。

 ふむ、詠唱なしでも威力が高すぎかもしれない、雷撃破(ディグ・ヴォルト)は対人には止めておいた方がいいかもしれん。

 

「かかれっ!」

 

 俺が雷撃破(ディグ・ヴォルト)で攻撃を仕掛けている間に、他の暗殺者は俺を取り囲んでおり、リーダー格の暗殺者の命令で一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 攻撃を仕掛けて来たのは暗殺者5人程、5人共武装はダガーである。

 あえて前面の暗殺者の方へ進み、前面右からかかってきた暗殺者のダガーが届く前に素早く剣で切り伏せ、左正面から来た暗殺者の攻撃ダガーを躱し、左拳で打ち抜く。

 右正面の暗殺者は力尽き倒れ、左正面の暗殺者は、素手とはいえ俺の身体強化を受けた拳、腹には穴が空き口から血を吐き倒れる。

 前面に移動したことにより、少し遅れて左後ろ、右後ろ、真後ろから暗殺者がやってくるのを気配で感じ取り、倒した暗殺者の持っていたダガーを両手で一つずつ拾い、振り向きざまに投擲、左後ろと右後ろの暗殺者に命中し倒す。

 真後ろの暗殺者は正面に向き直り剣で切り伏せた。

 5人が襲ってきて数秒の出来事である。

 油断はせず周りを見渡す。

 残りの暗殺者はリーダー格と騎士が相手をしている奴を合わせて4人か。

 このまま相手を全滅させてもいいが、一応話しかけてみるか。

 

「さて、暗殺者さん?このまま俺の相手をするか、それとも逃げるかどうする?」

「…………聞くまでもないことよ」

 

 その言葉と共に、騎士の相手をしていた3人が俺に向かって一斉に迫ってくる。

 俺は先程の5人の暗殺者と同じく冷静に対処しようとする――が暗殺者から不自然に膨張する魔力を感じ取る。

 

「これは…!」

 

ドォォォォォォォォォン!

 

 轟音と共に俺を爆発が包む。

 奴ら自爆しやがった!いくらプロとはいえ、こうも簡単に命を捨てるとは…

 俺は爆発前に咄嗟に風裂球(エアロ・ボム)を展開する事で爆発を防いでいた。

 爆塵が辺りを包む中、左方から気配を感じる。

 左を向くと、リーダー格の暗殺者が爆塵の中から現れ腕をこちらに振り下ろしていた。

 これは…極細の金属の糸か!

 俺は咄嗟に身体強化の比率を対人間用から一気に引き上げ、金属の糸を素手で掴む。

 リーダー格はニヤッと笑い

 

「かかったな!雷撃(モノ・ヴォルト)!」

 

 リーダー格の暗殺者が雷撃(モノ・ヴォルト)を唱えると、金属の糸を伝って俺の体に電流が流れる。

 だが、その程度の電撃俺の魔法抵抗力にはなんの痛痒も齎さない。

 

「残念だったな、俺にはその程度の魔法は効かない」

 

 俺は手に掴んだ金属の糸を強引に引き寄せリーダー格の暗殺者をこちらへ引っ張る。

 するとリーダー格の暗殺者は、部下が倒されても見せることのなかった驚愕の表情を見せる。

 

「俺が偶然通り掛かるなんて、運がなかったな」

 

 そう言い、リーダー格の胸部に剣を刺しトドメを刺す。

 リーダー格は驚愕の表情のまま物言わぬ骸となった。

 

「ふぅ……」

 

 俺は残りの暗殺者が居ないことを確認して一息付き、周りを見回してみる。

 辺りには暗殺者の死体以外に騎士の死体が数体、生き残っている騎士は3人程の様である。

 騎士達は、突然暗殺者達を倒した俺を見て最初は唖然としていたが、こちらを見て警戒をしている。

 その中から隊長らしき人物がこちらへやってくる。

 

「まずは礼を言おう。私はセイルーン聖騎士カイン、この隊の隊長だ。とはいっても生き残りは私を含めて3人しかいないのだが…だが、君が加勢してくれなかったら我らは全滅していたことだろう。馬車に乗っている高貴なお方も無事では済まなかった事だろう。…それで、助けてもらってこういうのもなんだが君は何者だ?暗殺者を倒した所から見て、暗殺者の仲間でないことは分かるのだが…」

「えっと、ゼフィーリアから来た旅人です。魔道士なので白魔術で有名なセイルーンで魔術について啓蒙を受けられたらとやってきました。身分証?になるかはわかりませんがこれを」

 

 俺は懐から魔術協会から称号を貰った時に一緒にもらった勲章を見せる。

 

「おお、あなたは!黒の称号を得たという黒のライ・ラーグさんでは!」

「え、ええまあそうです」

 

 どうやら、俺の二つ名は称号と同じく黒で隣国まで名が広まっているらしい。

 隊長さんと話していると生き残った騎士の一人がこちらに来て隊長さんに耳打ちをした。

 隊長さんは頷きこちらを見て――

 

「ライさん、馬車に乗ったお方が貴方に直接お礼を言いたいそうです。本来騎士としては止めるべきなのでしょうが、あなたの身分は証明されました。それに我らを救ってくれたお人、信用することにします。どうかお礼を受けて頂けますか?」

 

 お礼は別にと思ったが、この状況で礼を受けないのは逆に不自然だし、失礼だと思い受けることにした。

 

「わかりました。お受けします」

 

 そう言うと先程隊長に耳打ちした騎士が馬車の方へ行き、いつの間にか馬車から出ていたメイドらしき女性に話しかけていた。

 

 メイドは騎士から話を聞くと馬車の中へ入っていった。

 そうして暫く待つこと数秒、「ホーッホッホッホ」という笑い声と共に馬車の扉が開きメイドと共に出てきたのは、黒いドレスを着た黒髪の女性であった。

 




全巻セット買い直したいんだけど、Kindle版のスレイヤーズの全巻セットが安い時に買い損ねたのが痛い。orz
また安くなるのを待つかのぅ



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