デュエルバンドなんてなかった。   作:融合好き

8 / 15
今回から二期になります。相変わらず突っ込みどころ満載です。熱血指導さんは犠牲になったのだ……。


脅威! バリアンズ・フォース!

 

 

 

 

その後の顛末について、少しだけ語ろうと思う。

 

まずは大前提。あのデュエルの結末について。これはまあ、御察しの通り我々の勝利だった。

 

ナンバーズとは人の心を映す鏡。人々の欲望を汲み取り、最適な形へと抽出するモノ。しかしそれ故、ナンバーズの使い手は一部例外を除いて全てがナンバーズに拘ってしまう悪癖を発症する。ホープ然り、ホープ然りホープホープホープ。

 

無論、フェイカーもその例に漏れず、否、下手をすれば遊馬くん以上に顕著にして代表例であり、私が奪い取った挙句に素材にしたハートアースをどうにかして奪い返そうとしていた。しかし。

 

 

(───相手のエクシーズ素材を特殊召喚する、なんてカード、あるわけないよねぇ)

 

 

後で考えたらあのⅣさんがそんな謎カードを使っていたような気はするが、それはそれ。少なくともあの場面、ランクアップなんてふざけた召喚に対する情報が僅かな期間しか出回らず、更に私への警戒が薄い段階でそんなピンポイントな状況を対策する理由などなかったのだろう。結果として、彼はハートアースドラゴンを奪い返せず、伏せカードで時間を稼ごうとした。

 

デュエルに熱中して忘れそうになっていたが、あの時の彼にとっての勝利条件とはデュエルの勝敗ではなく、スフィアフィールド砲にエネルギーを貯められるか否かだ。かなり早い段階で黒幕へと到達したから(これも後で知ったことだが、私のターン辺りで制御コンピュータとやらが破壊され、更に時間を稼ぐ必要があったらしい)ある程度の猶予はあっても、それは決して長い時間ではない。

 

ハートアースカオスドラゴンの火力が大したことない…………反射効果を受け継いでるんだな、と容易に想像できることも後押ししたのだろう。実際はまあ大間違いだったわけだが、ならばこそ彼は、防御を固めるだけに努め敢えて消極的にターンを譲り渡した。それこそが、最大の過ちだったとは知らず。

 

彼の判断は、間違っているとは言えない。実際にそのようにしてしまったのは大いなる間違いだけど、あの場面ならそう考えてもおかしくはない。むしろ即座にカオスエクシーズの性質を把握し、「ハートアースの進化系」としての力を発揮し辛くする戦法を取ったのはまさしく天才的とまでいっていい。

 

 

(───でも)

 

 

経緯は語らない。語りたくもない。ただ結果として、彼は敗北した。何もできず、何もせず、これ以上なく無様に、決闘者として失格とも言える容易さで。───そして、彼の心は折れた。

 

何もできない。それは、彼がハルトに対して常日頃思っていただろうこと。その無力感、寂寥感、罪悪感や焦燥は、彼をバリアンなんて禁忌に追いやるほど大きなものだった。それを私は、よりにもよってその欲望(エゴ)を意趣返しする形で叩き返したのだ。

 

どんな気分だったのだろう。彼は何を思ったのだろう。そんなこと、神でないこの私に理解はできないことだけど、あれだけ手がけていた計画を放棄………正確には一時とはいえ完全に忘却するだけのダメージを負ったはずだ。少なくとも私は、彼が最後に「ハルト」と発狂したような金切り声で泣き叫んだことを忘れられそうにない。

 

気絶した彼を回収し、ハルトをついでに救い上げ、遅れて登場したカイトさんに諸共投げ渡した。色々言いたいことはありそうだったけど、そもそもからして私は脇役だ。彼が何をしてたのかも知らないし、興味もない。カイトさんにしても、事情を説明することで突っ込まれるかもしれない罪…………自分がナンバーズ関連で人々を廃人にしていました、なんて事実を伝えることは流石に躊躇したのだろう。最後まで何かを言いたそうにはしていたが、結局は押し通した。後は家族の問題だ。私が関与していいのは、あくまでここで彼が引き起こした騒動の解決だけなのだから。

 

その後はまあ…………会場をどうにかして纏めるためにフェイカーのUFO的な乗り物を強奪して会場まで飛び立ち、あちこち崩れそうな会場で逃げ遅れた人を回収したりとか…………この辺りの話はもう、思い出したくもない。結局大会は有耶無耶になってしまったし、優勝者は遊馬くんとはっきりしていても、賞品云々は完全になかったことになってしまった。尤も、フェイカーやハートランドにまともに願いを叶える気があったのか、そもそもそれが怪しいのだけど。

 

遊馬くんに関しては、全てが終結した後に爽やかに去っていった。カイトがあっさり帰ったというのに優勝賞品のことも特に引き摺らなかったし、実に好感の持てる少年だと思う。主人公の名は伊達ではない。小鳥ちゃんがいなければ狙っても悪くないかな、とこの私が思うほどには。…………別れる直前、恋愛云々を抜きに爽やかな握手した我々に対する、彼女の視線が忘れられない。ある意味でフェイカーを上回る衝撃だった。幼馴染コワイ。私、アイドルなんだけど…………いや、だからかな?

 

それで、私については───

 

 

 

「ねぇねぇ、さなぎちゃん!

 

あのランクアップって何!? 凄くかっこよかったけど、私にもできるの!?」

 

「あ、あはは…………どうだろ」

 

 

まずは良いことから。ファンが増えた。それも、物凄く。

 

多分、「アイドルデュエリスト」なんて名乗ってても、所詮はアイドルなんだからとファッション感覚で私のデュエリスト成分を見ていた人が今回の件で見直してくれたんだろう。プロデュエリスト、なんて職業もあるこの世界、デュエルが強ければそれだけ注目も深まる。私のように、見ていて異質なデュエルなら尚更のこと。事務所の人が嬉しい悲鳴を上げていたのが印象的だった。

 

次に悪いこと…………と言っていいのかは分からないが、上記のような質問をされることが増えた。当然である。増えたというより、あの後殆ど全員から似たような質問を一度はされた。スタッフの彼女然り、アイドル仲間然り、事務所の人然りと。

 

特に事務所の人からはかなりしつこく話を聞かれた。なんでも、私のランクアップがあまりに革命的過ぎて問い合わせがあちこちから殺到してるらしい。それだけならまだしも、酷いものになると直接「デュエルさせろ」と言ってくる始末。私のデュエル番組へのオファーも数え切れないほどだったみたいだし、こればかりはこの世界のデュエル脳を舐めていたとしか言えない。握手会にどう見ても堅気じゃない人が現れて決闘を申し込まれたこともあった。プロデュエリストだった。勝ってしまった。プロにならないか誘われた。いや勘弁してよ。私はほら、まだまだアイドルで居たいんだから。

 

 

(───Ⅳさんもあれからまるで見ないし…………本当に、あの闘いはなんだったのやら…………)

 

 

そんなわけで(?)やや忙しい日々を過ごしながらも、私はなんだかんだ楽しい時間(アイドル活動)を過ごしている。…………未だにガチデュエル番組とかにちょくちょく出演しているのは、まあ気にしない方向で。

 

そして、そんな日々が崩される時があるとすれば、それはやっぱり非日常的な何かしかないわけで───

 

 

「私以外のランクアップ使いが現れた?」

 

『ああ、アンタも使ってたバリアンズ・フォースってのを…………』

 

「いやいや、私言ってたよね? アストラル? くんが存在する以上、いずれ第二、第三のランクアップ使いが現れてもおかしくないって」

 

『…………奴らはそれを、バリアンの力だと言っていた。だから、アンタに聞くのがいいんじゃないかって』

 

「あー…………」

 

 

時刻は向こう側が配慮したのか、比較的に暇な時間の多い日の夜中。

 

仕事とも違う、プライベートの回線(Dパッド)から突如として掛かってきた遊馬くんからの連絡に、私は頭を抱えると同時に納得する。

 

 

(───そうだよねぇ。バリアン(ベクター)が出てないから…………)

 

 

そう。実はあの時の闘い、フェイカーの中に潜んでいたであろうバリアンくん(仮)が現れなかったのだ。すなわち必然的に情報の獲得が一手分遅れ、彼にとってのバリアンは「敵」というより「いきなり襲ってきた存在」となる。もしかしたら私がバリアンの力を普通に使ってるのも誤解を加速しているのかもしれない。つまりは、この状況は間違いなく自業自得なわけだ。…………連絡先も交換してたしね。

 

ちなみに、推測でいいならベクターが現れなかった理由もわかる。というか普通に「こんな状況でバトン渡されて勝てるか!」って感じだろう。考えるまでもない。でもベクターくん、そんなものだよ人生って(経験談)。───まあ、どうでもいいや。

 

 

「…………それで、私にどうして欲しいの? あの時の講義の続きでもする?」

 

『いや、それは…………アストラルはすっげぇ聞きたがってたけど、ちょっと…………』

 

 

ちょっと何だ。ちょっと聞きたくないってか。せっかくあの時必死になって捻り出した理論がちょっと嫌だと申したか。そんなんじゃ私、協力なんてしたくなくなっちゃうよ…………。

 

ちょっと、ほんのちょぉっっとだけイラッとしたので巫山戯てそのような旨の言葉を言うと、遊馬くんが慌てて否定し、次いで要件を告げる。

 

 

『さなぎちゃんは、その…………バリアンについて、何かしら知ってるんだろ?

 

だったら、教えてくれないか?』

 

「あー、そういう? 先に言っておくけど、私はバリアン世界について知ってるだけで、バリアンそのものについてはあんまり知らないよ?」

 

『それでもだ。頼む』

 

「いやいや、知らないよ。知りたくもない。だってそんなの、下手したら『なんとなく』かもしれないわけだし」

 

『…………え?』

 

 

通信越しに、呆然とした声が帰ってくる。しかし、これは私の本音だ。いや───私の立場では、そこまで(・・・・)しか想像し得ない、というのが正しいんだけど。

 

 

「悪魔の逸話を知ってる? 千差万別だけど基本、そのどれもこれもがろくでもなく、そして割とくだらないものばっかりなんだよね。

 

もっと言うなら、神様の方は更にくだらない理由で動く場合が多い。どっかの北欧の主神とかがその最たる例だね。

 

案外、アストラルくんの使命とやらも痴話喧嘩の際にナンバーズが散らばっちゃったー回収しなきゃー、とかそんなので、バリアン側はそれを見て茶化しに来てるだけかもしれないよ? 契約だのなんだので、この世界に力を与えてさ」

 

『そ、そんなわけ…………』

 

「ない、とは断言できないよね? だってアストラルくん、どう見ても怪しいし。

 

記憶喪失で、ナンバーズなんてものを集めていて、そのために君を利用している。善意だろうとなんだろうと、私からすれば信用しちゃいけない類のものだよ。

 

そうだ、彼のこともあったね。じゃあ単純に、彼がバリアン側に怨みを買ってる。これで間違いない。だって遊馬くんはバリアンを知らないし?」

 

 

理論を立てて、順当に会話を進める。全てを知る私からすればかなり悠長で冗長だが、彼の立場を考慮するならこれくらいは積み立てなければならない。そうでなくても彼はアストラルを信用し過ぎている。そんなんではいつか痛い目を見るだろうから、少しは相棒の酸い面に目を向けるべきなのだ。

 

 

「で、ここまでが前提。アストラルくんの人格を考慮しない場合の定石。いわゆる勝手な邪推だね。

 

色々言ったけど、私としても、アストラルくんはともかく、遊馬くんに関しては信じたいと思う。だからここは一つ、ちょっとあちらに波紋を入れてみようか?」

 

『波紋?』

 

「あ、そんな大したものじゃないよ?

 

───今の君は、あちらに対して『アストラルくんの協力者』以上の意味を持たない。でも、こちらには私がいる。だから君を、いや、君にそれ以上の意味を持たせたい」

 

『…………?』

 

「あちらがこちらに疑問を抱けば、あちらも対話に出るかもしれない。君は確かにアストラルくんの協力者であっても、本来君はアストラルくんとは無関係な一般人でしかない。なら───あっちの事情を聞いて、もしや話し合いに持ち込むことができるかもしれないね」

 

『───!

 

そ、それって、どうやって!?』

 

「簡単だよ。本来ならあちらにしかないはずの力………カオス化の上、魂のランクアップを、君が体現して見せればいい。

 

尤も───できるかどうかは、君次第だけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なお、ここまで助言しておいてあれだが、真の狙いは分断である。主に私が狙われる可能性を低くするための。だって、私の場合、あの人が来るのはほぼ確定だし、ね。…………諦めてるけどさ。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

───さて、やや唐突にここで記憶のおさらいをしよう。

 

 

 

 

皆さんは覚えているだろうか? この頃のゼアルで、果たしてどんな出来事があったのかを…………!

 

激闘のデュエルカーニバルからしばらくを隔て、彼らの闘いは新たなステージを迎えた。そんな時、新たに登場した味方キャラ(失笑)を塗りつぶす勢いで凄まじいインパクトと共に現れた人物と言えば! さあ、誰だったのかを!

 

 

 

 

 

「そんなわけで、久しぶりだね、遊馬くん」

 

「ん?───って、えぇ!? さなぎちゃん!?」

 

 

 

 

───そう、それこそがこの私、アイドルデュエリストこと、蝶野さなぎである!…………嘘です、はい。正解はまあ、アニメを見て確認してね☆

 

いやぁ、しかしいい反応してくれるなぁ遊馬くん。ちょっとでも強引に様子を見に(学校に)来てみて良かったよ本当に。見た感じでは元気そうだし。犠牲になった(出番を盗られた)宮野さんのことは忘れません。私が来たことで洗脳されなかったならそれでいいような気もするけどね。

 

 

「───どうして、アンタがここに!?」

 

「あれ? 先生から聞いて…………なさそうだもんねぇ、君。まあ、いいや。

 

今日の授業は外部からコーチを呼んで、生徒にデュエル指導をするって話なんだけど…………」

 

「あ、あ、あ、貴女は!?」

 

「んー?」

 

 

最早聴き慣れてしまった驚愕混じりの声に反応して、私は遊馬くんに向けてた視線をその方向へと変える。

 

そこにいたのは、またもや見覚えがある、しかして見覚えのないメンバー達。ぶっちゃけてしまえばナンバーズクラブのみんな。その男性陣が揃っている。確か名前は等々力、裏ノ助、鉄男、だっただろうか。…………なんか違うような気もするけど。まあいいや。後で聞けば。

 

ちなみに、今の時刻は丁度登校時間辺りである。私は今日、この学校の1限目の授業に間に合うように来てるから、そこでたまたま登校していた遊馬くんに声を掛けたというわけだ。他意はない。驚かすつもりはあったけど。

 

そんなことを考えていると、私のことを瞠目して見つめていた青髪オカッパの真面目そうな少年が、いっそワザとらしいくらい説明口調で叫ぶ。

 

 

「貴女は! かの有名なアイドルデュエリストにして、今を輝く時の人! 蝶野さなぎさんではないですか!!」

 

「あはは。そうだね、ありがとう。と言っても、私はそんなに凄いわけじゃないよ。私が輝けるのは、みんなの声援があってこそだからね。

 

───だから、初めまして。私はさなぎ、蝶野さなぎです。君の名前は、なんて言うのかな?」

 

 

いーいリアクションをしてくれたのが嬉しくで、にこやかに手を差し出して挨拶をする。挨拶は大事だ。特にアイドル業だと、まず何よりも名前を覚えてもらう必要があるから。

 

ファンへの感謝と、若干の打算も込めて差し出された手は、初々しい手つきと緊張した自己紹介によって返される。うーん。実に微笑ましい。いいね!

 

 

「等々力くんだね、よろしく。

 

それで、他の人は───」

 

 

周りを見渡し、固まる。それはいつのまにか私達が注目を集めていたことに対するもの…………ではなく、私が気づかなかっただけで、遊馬くんのすぐ近くにいた人物と、私の目が合ってしまったからこそ。

 

オレンジ色の逆立つ髪。柔和な表情に隠された鋭い目つき。間違いない。彼こそは───

 

 

(───ベクター、だよね。やっぱりと言うか、何というか…………)

 

 

もしかしたら、あのフェイカー戦で現れなかったわけだし、真月くんとしての彼も登場しないのでは、と思っていたら案の定そんなことはなかった。流石というか何というか。お勤めご苦労様ですね(?)。

 

まあ、今の彼は猫を被っているだろうし、私にはバリアンズフォースの洗脳も効かないだろうから、無視していれば派手な行動はしないだろう。

 

というか、最近仕事が本当に忙しくて、仕事という名目で無理矢理潜り込んだ今日を逃せばガチでしばらく遊馬くんに会えないし、どうにかして今日の彼の授業の内に、彼にランクアップのコツを教えなくてはならないわけで、正直、(彼に構っている時間なんて)ないです。

 

 

「───いや、今はいいかな。どうせまた、すぐに自己紹介する機会はあるし、学生の貴重な朝の時間を、私が無為に潰すのもね。

 

じゃあ、遊馬くん。またね。今更だけど、約束を果たしに来たから」

 

「あ、ああ…………」

 

 

さりげなく(強調)その場を離れ、なおも感じる鋭い視線をなるべく無視しながら私は学校の来賓用玄関へと向かう。

 

今更ながら、所詮は脇役でしかないこの私が、正しい歴史を無視して彼を成長させられるのかな、などと思いつつも、私は内心で今日の授業のカリキュラム(自己流)を見直すのだった。

 

 

 

……………………

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

(───って予定だったのになぁ…………)

 

 

「───ほら、いいぜ。アンタのターンからだ」

 

「あ、うん。私のターン、ドロー」

 

 

上手くいかない人生を儚みながらも、私は気丈にカードを引き抜く。引いたカードはまあ普通。これはまあ、多分あっちがこちらを警戒しているからだと思う。あるいは、こちらの手を見たいと思ってるのか。まあ、どちらでもいいけれど。

 

 

(───なーんで私、シャークさんと闘ってるんだろう?)

 

 

決まっている。授業だからだ。そして自分が、それを引き受けたから。しかも割と強引に。あとはあれだ。単に見通しが甘かった。これに尽きるだろう。いや、彼と闘うこと自体は別に構わないのだけど(授業だし)、できたらこんなところで彼と因縁ができるのは嫌というか何というべきか。

 

 

(───まあ、ねぇ? 外部から強い人をわざわざ呼んでるのに、一クラスしかそれを受けられない、なんてことはないよねぇ)

 

 

この世界はあのカオス極まりないデュエルカーニバル時空ではないことは確認済みなので、なるべくなら私は彼と関わりたくはない。だってこの人面倒だし。

 

しかし、人生とは画してこういうもの。何事も、思うようにいかないことばかり。それこそが、という人間に私はなれそうにないけれど、まあ、たまには。

 

 

(───この闘いは、所詮『お遊び』だからね。なら、別にいいよね。あ、でも、これだけは聞いておこう)

 

 

「えーと、神代くん?」

 

「くん付けはやめろ。シャークでいい───で、なんだ?」

 

「ではシャーク。貴方は、そうだね、どうして私に挑んだの?」

 

「んん?」

 

「私の秘密が知りたいのなら、私の授業を受けるだけでも十分だったはず。私自身、ランクアップのことを完全に説明できるわけじゃないけど、大まかには理解してるし、実際、君以外の生徒はその概要に満足していたようだった。

 

まさか、私に惚れちゃったかな? なんて自惚れてもみたけど、違う。貴方の視線は、惚れた腫れたの類じゃない。

 

だから、教えて欲しい。明らかに授業に積極的じゃなかった貴方が、実演となると相手役を買って出た理由を。

 

卑怯だと思うけど、これも授業だからね。私の存在によって生徒の心境に変化が生じたのなら、担任の方に伝えなきゃならないし」

 

「チッ…………」

 

 

なるべく真っ当な理論を積み立てて問い詰めると、態度こそは(一応)目上の人間に対するものではないといえ、案外素直にファッション不良なシャークは答える。

 

 

「───あの騒動を、遊馬とアンタが解決したって聞いたからな。どういうことか気になっただけだ」

 

「───」

 

 

ちょっと絶句。それはその内容が想像以上にくだらないというか、多分私の特異性とは関係がないからこそ。

 

 

(───なんだ。単なる嫉妬か)

 

 

つまるところ、彼の理由はそれに尽きる。私の正体とか、私の特異性とか、そういうのを完全に無視して、ただ単に「ポッと出の私が遊馬くんと一緒に騒動を解決したのが気に入らない」という───

 

 

「ぷっ、あははははは」

 

 

なんだかちょっとおかしくなって、小さく小さく含み笑いをする。バリアンの王だとか警戒していても、蓋を開ければこんなものだ。考えてみたら、今の彼は一人の中学生でしかない。私が深く考え過ぎただけなのだ。なんともまあ、情けない。

 

こうなれば、私は真剣に彼の相手をしよう。バリアンだのライバルだのとくだらないことを考えたお詫びと、彼の疑念を少しでも晴らすために。

 

 

「じゃあ…………私は手札から、《光波異邦臣》を召喚。

 

そして、魔法カード《エクシーズ・レセプション》を発動。このカードは自分フィールドのモンスター1体と同じレベルのモンスターを、手札から効果を無効・ステータスを0にして特殊召喚できる。

 

この効果により、私は2体目の《光波異邦臣》を特殊召喚」

 

 

 

 

 

 

《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》

効果モンスター

星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

①:このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「RUM」カード1枚を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

「レベル1…………?」

 

「ん? ああ、別に舐めてるわけじゃないよ。ただ、これは一応『RUMの実演』なわけだし、ランク1からどれだけ登れるかやってみようかなって」

 

 

それに、ランク1だからと舐めてはいけない。前世におけるレベル1フルモンの凄まじい粘り強さと瞬間火力は、ガチデッキですら凌駕しかねないほどなのだから。

 

 

「私はレベル1、エトランゼ2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。

 

顕現せよ。ランク1、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

レベル1モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

自分のエクストラデッキのカードを相手はランダムに1枚選ぶ。

それが「No.1」~「No.99」のいずれかの「No.」モンスターだった場合、

自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 

 

 

ディスクの召喚ボタンを力強く押すと、なんの変哲も無い体育館だった光景が一変し、神秘的な空気を纏う図書館のようなナニカが顕現する。

 

一見してフィールド魔法のようなこれ。これこそがナンバーズ78、ナンバーズアーカイブ。アニメにおける王の鍵の内部をモチーフにしたOCGオリジナルのナンバーズにして、アニメ本編との繋がりを深く感じる一枚である。

 

 

「なんだ、これは…………」

 

「ナンバーズ・アーカイブ。見た通りに、ナンバーズを収める場所だね。

 

多分だけど、アストラル君に聞けば見覚えがあるんじゃないかな。尤も、私のこれと彼のそれが同一とは限らないわけだけど」

 

「…………どういうことだ?」

 

「残念だけど、教える義理はないねぇ。で、この子の効果だけど…………まあ、後のお楽しみ、ということで。

 

私はカードを2枚伏せて、ターンを終了するよ」

 

 

当然のように疑問を抱かれたが、答えるのがめんど………その理由がないので適当に流してターンを明け渡す。

 

得てして女の嫉妬とは、存分に発散させることが一番なのだ。彼は女性じゃないし彼が抱く感情を嫉妬だと彼自身理解していないかもしれないけど、どうせあくまでお遊びではあるのだし、彼にも楽しんでもらうとしよう。

 

 

「俺のターン、ドロー!

 

俺は手札から、《ハンマー・シャーク》を召喚!

 

このカードが召喚に成功した時、このカードのレベルを一つ下げることで、手札のレベル3、水属性モンスターを特殊召喚する!

 

来い、《キラー・ラブカ》!」

 

 

 

 

 

《ハンマー・シャーク》

効果モンスター

星4/水属性/魚族/攻1700/守1500

①:1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

このカードのレベルを1つ下げ、

手札から水属性・レベル3以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

《キラー・ラブカ》

効果モンスター

星3/水属性/魚族/攻 700/守1500

①:自分フィールド上のモンスターが攻撃対象に選択された時、

墓地のこのカードをゲームから除外し、

攻撃モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃を無効にし、

その攻撃力を次の自分のエンドフェイズ時まで500ポイントダウンする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レベル3のモンスターが2体、ね。さて、何が来るのかな?」

 

 

久しぶりに何も考えず、ワクワクしながら次のカードを待つ。

 

特に最近は心労が激しい事案だらけだったので、本当に何も考えずにいられるデュエルはガチで久々なのだ。ならば私も、楽しまなくては。

 

 

「エクシーズ召喚!現れろ!

 

漆黒の闇より出でし赤き槍!《ブラック・レイ・ランサー》!」

 

 

 

 

 

 

 

《ブラック・レイ・ランサー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/獣戦士族/攻2100/守 600

レベル3モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の効果をエンドフェイズ時まで無効にする。

 

 

 

 

 

 

地を割き空を舞いて現れし漆黒の勇士。体躯と同色の黒光りする槍は、単なる武器以上に厳かな雰囲気を醸し出し、獲物を絶対に逃がさない鋼鉄の意思を感じる。

 

そう、彼(?)こそはシャークさんの真の切り札、ブラックレイランサー。かつての世界の巨大な闇(OCG化)に飲まれて忘却の彼方へと消えていった、悲劇の英雄の姿なのである!

 

 

(───なーんてね。ブラックレイランサーはある意味で有名だから、忘れられないんだよねぇ)

 

 

モリンフェン様とかレオウィザードとかエアロシャークとかフリーザードンみたいにアレなカードは記憶に残る。むしろ彼のカードだったらシャークカイゼル辺りの方が忘れられてそうだ。…………いや、どうでもいいけどさ。

 

 

(───確かアレの効果は、効果無効だったかな。でも…………)

 

 

でも、それならば多分、どうにかなるはずだ。…………きっと。

 

 

「ブラックレイランサーの効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使って、モンスター1体の効果を無効にする!

 

対象は、お前のナンバーズだ!」

 

「むっ───」

 

 

ブラックレイランサーが投擲した槍が周囲へと突き刺さり、フィールドを満たした図書館もどきが色を失っていく。

 

それはすなわち、私のナンバーズアーカイブが彼のカードに封じ込められ、単なる無力な背景と化したことを示していた。

 

 

「これで、お前のナンバーズは封じたぜ!

 

バトルだ! 俺はブラックレイランサーで、ナンバーズ78、ナンバーズアーカイブを攻撃! ブラック・スピア!!」

 

「甘い。この瞬間、私は速攻魔法、《RUMーデヴォーション・フォース》を発動。

 

この攻撃の対象となったナンバーズアーカイブをランクアップさせ、新たに召喚したモンスターへと攻撃対象を移し替える」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMーデヴォーション・フォース》

速攻魔法

①:相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターよりランクが1つ高いXモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

その後、相手モンスターの攻撃対象を

このカードの効果で特殊召喚したモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。

 

 

 

 

 

 

 

ナンバーズを封じられても、私は別にナンバーズだけに拘っているわけではない。それはまあ、こんな世界にいるわけだし私もナンバーズはカッコいいとは思うけど、それはあくまで余裕があれば、の話なのだ。故に、容赦はしない。これは遊びでも、適当にやっていいものじゃないから。

 

…………あと、多分、そのままランダムに頼ったら、絶対微妙なことになってたし。

 

 

「私はランク1のナンバーズアーカイブで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

現れろ! ランク2、《No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス》!」

 

 

 

 

 

 

 

《No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク2/地属性/アンデット族/攻2200/守 0

レベル2モンスター×2体以上

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

このカード以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。

このモンスターが表側表示で存在する間、対象の表側表示のカードの効果は無効化される。

②:このカードの①の効果の対象としているカードがフィールドに表側表示で存在する限り、

お互いに対象のカード及び同名カードの効果を発動できない。

 

 

 

 

 

 

 

「まずは一つ、だね」

 

「これが、お前のランクアップか………!」

 

 

進化ではなく、あくまで戦術の一つとしてランクアップを用いる私を見て、バリアンの王は戦慄する。

 

そんな彼に、私はあくまでも彼に教える一人の講師として、ただただ優しく微笑むのだった。

 







遊馬強化イベの筈だったのに、なんでシャークと闘ってるんだ……?

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