デュエルバンドなんてなかった。   作:融合好き

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前半はゼアルになるための理由付けなので読み飛ばしても結構です。割と無茶苦茶やってますので。というか一々本気を出すのに理由がいるとかクッソ面倒だな主人公。アストラル視点が何故か超書きやすくなければ投げ出してたかもしれん。

ゼアル視点(アストラル)というカオス。いつにもまして突っ込みどころ満載なので許容できる方だけお読みください。


反撃! ホープ剣・スラッシュ!

 

『───遊馬。君は本当に、彼女に勝ちたいか?』

 

「え?」

 

 

珍しく。本当に珍しいことに、アストラルから俺にこんな質問をして来る。

 

いつも自信満々な彼が、負けを前提とした提案をすることは滅多にない。だからこそ俺はその言葉に戸惑い………しかし、先の会話と関連付けて俺なりに回答する。

 

 

「…………さっきの話か? 確かに、一理ある、って言うのか? 俺にも思うところはあったけど───」

 

『───遊馬』

 

 

けど、負けられない事実には変わりはない。目の前のこいつに言ってやることは絶対にないが、何だかんだ言ってもこの俺は、アストラルのことを大切な友人だと思っている。確かにトロンのことやあいつが使うカードについて気になって集中できていない自覚はあるが、アストラルのことが懸かっている以上、俺は絶対に勝たなくちゃならない。なのに。

 

 

(───どうしてお前が、そんなこと言うんだよ)

 

 

この場で誰よりも勝つべき(・・・・)理由があるのは彼のはずだ。何せナンバーズに関わる事件の解決が、他ならぬ彼の全てなのだから。

 

彼女の言葉は胸に響いた。これは本当だ。流石はアイドルとでも評すればいいのか、単純な俺の心へと容赦なく直撃してきた。でも、それとこれとは、本当に違うのだ。

 

 

(───俺の頭じゃあ、どうにもうまく言えねぇけど…………)

 

 

どう反論すべきか、そもそも反論してもいいのか。何にどう答えたかったのか。そんなのさえもぐちゃぐちゃで、全くわからなかった俺だけど。

 

ただ一つ。俺にとっての勝つべき理由。アストラルが消えちまわないために、それだけは揺るがず、きっちりと考えて───

 

 

『───遊馬。

 

おそらくだが…………彼女は、ただの一般人だ』

 

「───え?」

 

 

思考が止まる。人は自分の理解を遥かに超えた事態に遭遇すると咄嗟の行動ができなくなると言うらしいが、今の俺はまさしくそれを体現していた。つまりはそれだけ、アストラルが端的に紡いだ言葉は、俺にとっての驚天動地だったのだ。

 

 

「…………何を、言ってるんだ、アストラル?

 

だってあいつは、ナンバーズを。お前が言ってた、謎の───」

 

『───それについては、申し訳なく思っている。

 

彼女に対して、君の不安を煽ったのは私だ。彼女の異常性ばかりに目が行き、彼女の本質を───いや、彼女と私の関連性(・・・)を見抜けなかった私のミスだ。

 

彼女が異様なのは確かだろう。しかし………それはおそらく、我々とは何の関係もない』

 

「なっ…………?

 

それは一体、どういう…………?」

 

『あれらのカードは、私の知るナンバーズではない。ナンバーズの名を冠しているだけの別物だ。

 

…………実のところ、分かってはいたのだ。ただの偶然、ということは流石にないだろうが、すなわち仮に我々が勝利しても私達の得るものはない。逆に、彼女に敗北したところで、失うものは何もないのだ。

 

気づいているか、遊馬。ナンバーズの使い手が相手なのに、ここまでライフを削られた今も、私が消滅する兆しすらも見受けられない異常に』

 

「───!」

 

 

───それは、この私には意味のないこと。………嘘だと思う?

 

 

少し前の会話、彼女が言っていた一言を思い出す。

 

確かに、俺にはあの時の彼女が嘘をついているようには思えなかった。しかし、それと同時に真実を言っているようにも思えず、どうにも誤魔化されている感が強かったというかなんというか。

 

はっきり言って、他ならぬアストラルからの言葉でも、こればっかりは判断できない。アストラルが死なないとはっきり彼から明言されているのは本当に良いことだ。だけど、彼女がどう見ても異常なことも、誰の目から見ても明らかで───

 

 

「あー、いいかな?」

 

「っ!」

 

 

思考を巡らせていると、不意に正面から聞こえて来た朗らかな声に思わず身構える。

 

考えるまでもなくこのタイミングで俺らに声を掛けられる人物なんて一人しかいない。つまりは彼女、俺の対戦相手である蝶野さなぎによるものだ。

 

アストラルへと向けていた視線を戻して反射的に向き直ると、彼女は先程と同じ顔、この場にそぐわないほど柔らかな笑顔のまま告げる。

 

 

「あ、驚いちゃった? いや、ごめんね。なんか相談していたっぽいけど、九十九くんの声が大きめだから普通に聞こえてるんだよね。

 

これが九十九くんだけなら会話の整合性を理解できずに独り言として認識しちゃうのかもしれないけど、私にはそっちの彼の声も聞こえるから───まあ、それはいいや。で、私のこと?」

 

「…………ああ」

 

 

俺は誤魔化すのも誤魔化されるのも苦手だ。だから、素直に回答する。仮に嘘を吐こうにも会話を聞かれていたのなら言い訳のしようもないし、どちらにせよ彼女相手に俺程度の嘘が通用するとも思えないから。

 

だが、ある意味でこれはチャンスだ。なにせ、彼女の方から彼女の正体について口出しがあったのだ。彼女の方が素直に答えてくれるかはわからないけど、聞くだけならタダ、なんて言葉もあるし、この機会にはっきりと聞いておいても良いだろう。

 

 

「さっき、アストラルから聞いた。お前のナンバーズは、ナンバーズじゃないってな。

 

だけど、俺にはどうもそれがよくわかんねぇ。つまりはお前が持つナンバーズは、偽物だったりするのか?」

 

「あ、そこまでわかっちゃう? でも、偽物って言うのはちょっと可哀想だから…………。

 

そうだね。九十九くんはアニミズムなんて言葉を知ってるかな?」

 

「アニミズム?」

 

「付喪神、って言った方がいいかもね。

 

万物には魂が宿っていて、それぞれがきちんと意思を持つ、なんて考えだよ。

 

特にこのゲームはその説の代表例とされていて、君くらいの学生なら習っててもおかしくはないんだけど…………」

 

「そういえば、どこかで…………」

 

 

デュエルに関する授業で、微かに単語を聞いた覚えがある。普段の授業はお世辞にも真面目に受けているとは言えない俺だが、デュエルに関しては別だ。そんな俺にも覚えがあるということは、おそらくそれはデュエリストにとって大切なものなんだろう。

 

 

「うーん。ちょっと専門的過ぎたかな? ちなみに、このゲームの場合、それは『精霊』なんて表現で呼ばれているね。

 

カードの精霊、なんて単語。こっちは流石に一度くらいは聞いたことがあるんじゃないかな。

 

つまり、何が言いたいかというと、私のナンバーズには、全てにその精霊が宿っていないんだ。だけどそれは、決して真偽の証明にはならない」

 

「…………?」

 

「…………要するに、ね。私のカードに君らの言う『力』はないけど、これは私のカードなんだから勝手に『偽物』なんてレッテルを貼らないで、ってこと。

 

これは貴方のナンバーズとは何の関係もないけれど、間違いなく本物のカードであって、貴方の言う偽物なんかじゃない。私にとっては、これこそがナンバーズ。貴方の事情なんて、私にはどうでもいいんだよ。

 

それでもなお、私のことが気になるって言うのなら、私をこの場で倒すことだね。ふふ」

 

 

ニコニコと愛らしい笑顔を崩さず、彼女は一息に、おそらくはこれ以上なく馬鹿丁寧に回答を述べる。

 

いまいち要領を得ていない俺なんかの疑問にも嫌な顔一つせずきっちりと答えてくれるその姿は、彼女が人気アイドルとして活躍している理由の片鱗を伺えた。………しかし。

 

 

「───なぁ、アストラル。つまりは、どういうことなんだ?」

 

『遊馬…………』

 

 

小声でアストラルへとこう聞くと、心底から呆れた声が返ってきた。な、なんだよ。確かに彼女には悪いとは思うけど、わかんねぇもんはわかんねぇんだから仕方ないだろ!

 

聞き返そうにも、あんだけ詳しくしっかりと返されたらまさか「理解できなかった」なんて言うわけにはいかないし、多少の恥を忍んでも、ここはアストラルに意見を求めるべきなのだ。

 

 

『…………。

 

君は、深く考えなくても良い。ただ、彼女の持つ異常は、我々の望むものではなかったというだけだ。

 

───その上で、もう一度聞こう。君は、彼女に勝ちたいのか?』

 

「…………?」

 

『勝つべき理由は既にない。ここで負けても、誰も君を咎めない。少なくともこの場において、君の選択を阻む要素は何もない。

 

…………思えば、私は君に今まで理不尽な重みを背負わせていた。何が起こるかわからないこのゲームで、私は君を『絶対』という鎖に縛り付けていた』

 

「アストラル…………?」

 

『私は、彼女の秘密を知りたく思う。しかし、それを君に強制する気は無い。

 

何故ならそれは、私の使命とは何の関係もない、ただの好奇心だからだ。私は常に、君のことを利用しているのだろう。だが、だからこそこの線引きは、はっきりしておかなくてはならない』

 

「…………」

 

 

常になく真剣な表情で、いつになく饒舌に、アストラルは独白する。

 

それは俺にとっては今更で、彼にとっては当然で、しかし本来、決して無視してはならなかったはずのもの。つまり、俺らの関係の、その不自然さを。

 

………だけど。

 

 

「…………なあ、アストラル」

 

『…………?』

 

「何を今更、水臭いことをいってんだよ。

 

使命だとかどーとか、俺らの関係は、ナンバーズだけで成り立ってるわけじゃねぇ。

 

確かに最初はそうだったのかもしれねぇけど、今の俺にとって、お前は大切な仲間なんだ。それともアストラルは、俺が仲間が困ってるのに見過ごせると思うのか?」

 

『いや。しかし…………』

 

 

しかし、じゃねえ。

 

口には出さねえが、俺とアストラルは文字通りに一心同体だ。こいつは何やら考え込んでるみたいだけど、そんなこと俺にとってはどうでもいい(・・・・・・・・・・・・)。それに。

 

 

(───勝ちたいのは、俺だって同じだ。負けてもいいなんて、それこそ絶対に許さない)

 

 

彼女に倣い、そのような旨の言葉をアストラルへ返すと、彼は一瞬だけ目を見開き、次に何となく不快な笑顔をこちらに見せつけてから、妙に優しい口調で続けた。

 

 

『…………このフィールドは、異世界に似せられて作られた擬似空間。言うなれば、王の鍵と同じだ。

 

つまり、ここでなら、ゼアルになれる』

 

「───!」

 

『強制はしない。それに、このデュエルは今も、大勢の観客が見ている。

 

それでも───』

 

「行くぞ、アストラル」

 

 

アストラルの言葉に被せて、力強く宣告する。

 

悔しいが、今の俺では力不足だ。彼女に勝つには、ゼアルの力しかない。ならば俺の勝ちたい(・・・・)気持ちを通すには、その力を存分に発揮しないといけない。

 

使命ではなく、我儘で。勝つべきではなく、負けたくないが為。俺は俺らの望みをここに掛け合わせる!

 

 

「俺と、

 

『私で、

 

「『オーバーレイ!!」』

 

 

 

 

───エクシーズ・チェンジ、ゼアル!

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「いやぁ、まさか変身なんて裏技を隠し持っていたなんてね。あははは。でも女性をこんなに待たせるなんて、ちょっと減点かな。

 

でも、それでどうするの? 貴方の手札はさっき引いた1枚。フィールドにも伏せカードが1枚だけ。どうやらそれが君達の切り札みたいだけど、こんな状況でこのフィールドを逆転なんてできるのかな?」

 

『「マジック発動! 《逆境の宝札》!

 

相手フィールドに特殊召喚されたモンスターがいて、自身のフィールドにモンスターがいない時、カードを2枚ドローする!」』

 

「っ───。

 

でも、たかだか2枚。それなら如何様にも…………!」

 

 

 

 

 

 

《逆境の宝札》

通常魔法

①:相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 

 

確かに、戦況はこれ以上なくピンチだ。

 

ライフこそ辛うじて上回っているが、相手のフィールドには強力なモンスターが2体も存在する。しかもおそらく、彼女の異常性を鑑みるにそれだけで終わるとは考えにくい。

 

残された伏せは、防御か迎撃かあるいは新たなモンスターを出す布石か。それは今の我々には見切れないが、我々にはしかし、この状態でのみ使える真の切り札がある!

 

デッキトップに右手を重ね、力を合わせて集中する。それは、輝かんばかりの運命の奔流が、彼女を倒せと轟き叫んでいるかのように。

 

 

『「最強デュエリストのデュエルは全て必然!

 

ドローカードさえも、デュエリストが創造する!」』

 

「───っ」

 

「『シャイニング・ドロー!!」』

 

 

この場で我々が引き寄せた(創造した)カードは、レベル4の効果モンスター、ガガガマンサー。

 

単体でもかなり優秀な効果を保有するが、このカードの真価は今我々が伏せているカードとのコンボにある。

 

目には目を、というわけではないが、全てがハマれば逆転と言わず、ここから彼女を下すことも不可能ではない。

 

 

「俺は手札から、《ガガガマンサー》を召喚!

 

そして、効果発動! ガガガマンサーは1ターンに一度、墓地にあるガガガモンスターを特殊召喚できる!

 

蘇れ、《ガガガマジシャン》!」

 

 

 

 

 

 

 

《ガガガマンサー》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻 100/守 100

①:1ターンに1度、メインフェイズに発動できる。

自分の墓地から「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

②:自分の墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。

このターン、自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体の

攻撃力はダメージ計算時のみ500ポイントアップする。

 

 

 

 

《ガガガマジシャン》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1000

①:1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に

1から8までの任意のレベルを宣言して発動できる。

エンドフェイズ時まで、このカードのレベルは宣言したレベルになる。

 

 

 

 

 

 

「ガガガマジシャン? いつそんなモンスターを…………ああ、あの時」

 

 

呼び起こすのは、ガガガガードナーのコストとして墓地へと送られた遊馬のフェイバリット。レベル変動効果を持ち、様々なナンバーズを保有する我々に柔軟な対応をしてくれるカードだ。

 

尤も、遊馬はホープがそれ以上のお気に入りで、レベル4であるこのカードの効果がまともに使用されたのは数えるほどしかないのだが。

 

 

「ランク4…………【ガガガ】ってことは、《ガガガガンマン》でも出すのかな?

 

でも残念だね。私の墓地にある《ダメージ・ダイエット》は、墓地から除外することで受ける効果ダメージを半減する効果もある。

 

ガガガガンマンが与えられるダメージは800。その半分は400で私の残りライフは750。この状況で冷静に私のライフポイントを見定めた慧眼は認めるけど、それじゃあ次のターンに…………」

 

「『それは、どうかな?」』

 

「…………あはは、やっぱり?」

 

 

先程にも違和感はあったが、どうやら彼女の持つ《ダメージ・ダイエット》の効果は遊馬が持っているそれとは違うらしい。

 

これもおそらくは彼女の特異性の一つなのだろうが、今に限ってはそれも構わない。我々の狙いは、端から効果ダメージによる勝利などではないのだから。

 

 

『永続罠、《ガガガミラージュ》を発動!

 

このカードの効果により、フィールドのガガガモンスターをエクシーズ召喚を行う場合、1体で2体分のエクシーズ素材となる!』

 

 

 

 

 

 

《ガガガミラージュ》

永続罠

①:自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスターを

エクシーズ召喚の素材とする場合、1体で2体分の素材とする事できる。

この効果を適用してエクシーズ召喚する場合、1ターンに1度、

モンスターエクシーズが指定する種族・属性の召喚条件を無視できる。

 

 

 

 

 

 

「2体分…………それに」

 

「更に俺は、ガガガマジシャンの効果を発動!

 

このカードのレベルを、7に変更!」

 

「───ランク7?

 

………………………………えーと、何を出すのかなぁ?」

 

 

ここに来て二体ものモンスターエクシーズを召喚しようと試みるのは流石に予想外だったのだろう。先程までとはまるで異なるやや震えた声で笑顔を固めながら彼女が呟く。

 

 

「俺はレベル7となったガガガマジシャン2体分で、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!

 

現れろ、《No.11 ビッグ・アイ》!」

 

 

 

 

 

 

《No.11 ビッグ・アイ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/魔法使い族/攻2600/守2000

レベル7モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターのコントロールを得る。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

 

 

 

 

呼び出すは、ジンと名乗った青年が使用していたナンバーズ、ビッグ・アイ。

 

立場や状況は違えど、このカードの存在はあのホープレイ誕生のきっかけとなったのだ。カオスナンバーズをも所有する彼女に対し、これ以上の適任は存在しない。

 

 

『ビッグ・アイの効果を発動!

 

このカードはオーバーレイユニットを一つ使うことで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールを得る!

 

対象は、銀河眼の光波刃竜!』

 

「むっ…………」

 

 

まずは一体。これで状況は逆転した。だが、これではまだ彼女を削り切るには足りない。

 

ディアブロシスとブレードドラゴンの攻撃力の差は400。ガガガマンサーの攻撃力は100だから最大で500ダメージ。故に我々は、ここから更にもう一体を呼び寄せる必要がある。

 

そして、呼び出すモンスターも既に決まっている。この場面で我々が従えるモンスターといえば、あのナンバーズをおいて他はないだろう。

 

 

「更に俺は、レベル4のガガガマンサー2体分でオーバーレイ!

 

現れろ、《No.39 希望皇ホープ》!」

 

 

 

 

 

《No.39 希望皇ホープ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/ATK 2500/DEF 2000

レベル4モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動できる。

モンスター1体の攻撃を無効にする。

 

 

 

 

 

我らがエース。No.39、希望皇ホープ。遊馬が初めて召喚したモンスターエクシーズで、それからはいつ如何なるデュエルにも参戦し、我々を支え続けた実績を持つカード。

 

ならば、この場面で使うことになんの躊躇いがあろうか。これは確かに我々の我儘だが、だからこそこのカードには、力を貸して欲しく思う。

 

 

(───遊馬)

 

(───どうした?)

 

 

最後の手札をカードが折れないように繊細に、それでいて力強く握りしめながら私は内に潜む遊馬へと語りかける。否、この表現は適切とは言えない。何故なら今は、我々こそがゼアルなのだから。

 

 

(───この決闘、勝つぞ)

 

(───おう!)

 

 

『「バトルだ!

 

俺は光波刃竜で、ナンバーズ89、ディアブロシスを攻撃!」』

 

「っ…………!」 さなぎ LP 750→350

 

 

ナンバーズはナンバーズでしか破壊できずとも、あのモンスターは彼女の【RUM】の効果で強引に召喚されたもの。

 

強力な力には、得てして相応の代償が伴う。あのカードの場合、素材を墓地に送った上で召喚されたモンスターエクシーズの効果までをも無力化せねばならなかったというだけだ。

 

そして、この攻撃で彼女のモンスターは全て退けた。つまり、次がこの決闘における最後の攻撃!

 

 

「『これで、終わりだ!

 

俺は希望皇ホープで、ダイレクトアタック!

 

ホープ剣、スラッシュ!!」』

 

「…………甘いよ。甘い、甘い甘い甘い甘い───!

 

この舞台に立った(トロンの役目を担っている)この私が、まさか奥の手を使わずにこのまま終わるわけがないでしょう──!

 

罠発動!《昇華螺旋》!!

 

この戦闘で破壊されたディアブロシスをゲームから除外することで、ランクが2つ上のエクシーズモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

『なっ…………!』

 

 

 

 

 

 

《昇華螺旋(アセンションスパイラル)》

通常罠

①:このターン破壊された自分の墓地のモンスターエクシーズ1体をゲームから除外して発動できる。

除外したモンスターエクシーズよりもランクが2つ高いモンスターエクシーズ1体を、

自分のエクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

最後のセットカード。これまた彼女以外にはまるで馴染みがないモンスターエクシーズのランクを上げる罠カードに思わず瞠目する。

 

次々と巻き起こるエクシーズ召喚。一体、彼女の技量は我々と比べてどれほどかけ離れているのか。興味は尽きないが、今はそれどころではない!

 

 

(───ここに来て、更なるランクアップとは!)

 

 

ランク9のモンスターエクシーズ。「奥の手」というワード。彼女が使用しているカテゴリ。そして、先程に行われた、彼女とトロンとの決闘。つまり、この場面において唐突に現れるのは───!

 

 

「───闇に輝く銀河よ。

 

とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク9、《超銀河眼の光波龍》!!」

 

『ネオギャラクシーアイズ───!』

 

 

見上げる程の巨体。透き通る美しい肌に銀河の眼をギラつかせ君臨するその姿。どこか、否、カイトの持つ銀河眼光子竜と非常に酷似したこのモンスターエクシーズは、しかしてカイトのそれに勝るとも劣らない迫力を醸し出している。

 

彼女がギャラクシーアイズを保有するのはただの偶然なのか、そうでないのか。カイト本人の反応を見るにそれを確かめられる人物は目の前の彼女しかいないのだろうが───

 

そこで思考を区切り、改めてフィールドに現れたモンスター、超銀河眼の光波龍について考えを巡らせる。

 

超銀河眼の光波龍。攻撃力は4500。その効果はオーバーレイユニットを全て使うことで、相手フィールドのモンスター全てを自らのものとし、ステータスをも超銀河眼の光波龍と同じにする、というもの。

 

なるほど、確かに強力な…………強力過ぎる、とも言えるとんでもないモンスターだ。如何に我々と言えど、正面からその力を浴びてしまえば、あっという間に敗北していたに違いない。───だが。

 

4500。希望皇ホープ。そして、手札の最後の一枚。

 

 

(───だが、これで。勝利の方程式は、ここに全て揃った)

 

 

ならば後は、それを実行するだけだ。彼女が防御札を全て使い果たしたこの一瞬こそ、我々の最初にして最後、そして最大の勝機となる!

 

 

「良くやったね、と言いたいところだけど、残念───貴方の希望皇ホープじゃあ、私の超銀河眼の光波龍は超えられない。

 

ナンバーズが特別だろうとなんだろうと、このゲームでは基本的に攻撃力こそが絶対の目安なんだ。まして今は、バトルフェイズ。戦闘以外にロクな行動を取れないこの時間で、火力の劣るモンスターなんて何の役にも立たない。

 

君のそのモンスターの効果は攻撃を無効にする、だっけ? でも、覚えているでしょう?

 

私の持つナンバーズ、ギャラクシーアイズダークマタードラゴンはギャラクシーアイズを素材にエクシーズ召喚ができ、火力は4000。そして2回攻撃の効果を持つ。如何に君のモンスターが3体並んでいても、攻撃を無効にできるモンスターがいても、一度だけしか無効にできないのなら───」

 

「『───それはどうかな?」』

 

「───え?」

 

 

攻撃を無効にできるのは一度だけ。

 

その通りだ。既に満身創痍な我々は、彼女の攻撃を凌ぐリソースなど残ってはいない。このままターンを明け渡してしまえば、彼女が先に言ったように我々はあのナンバーズによる連続攻撃を受けて敗北してしまうのだろう。───だが。

 

だが、ホープによって無効にできるのは、彼女の攻撃だけではない。そうだ、無効にするのは、たったの一度だけ───それこそが、起死回生の一撃。

 

 

「『───攻撃を続行!

 

俺はホープで、超銀河眼の光波龍を攻撃!」』

 

「え…………。

 

───いや、まさか」

 

『希望皇ホープのモンスター効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、その攻撃を無効にする!』

 

「これは…………いや、なんで(モブ)に───でも!」

 

 

意味のない行動。それに何かを感じ取ったのか。

 

見るからに狼狽える彼女へと、我々は手札の最後の一枚を掲げ、その名を高らかに宣言した。

 

 

「『速攻魔法、《ダブル・アップ・チャンス》、発動!」』

 

「あ───」

 

 

 

 

 

 

 

《ダブル・アップ・チャンス》

速攻魔法

①:モンスターの攻撃が無効になった時、

そのモンスター1体を選択して発動できる。

このバトルフェイズ中、

選択したモンスターはもう1度だけ攻撃できる。

その場合、選択したモンスターはダメージステップの間、攻撃力が倍になる。

 

 

 

 

 

 

 

希望皇ホープの攻撃力は2500。その倍は5000。そして、超銀河眼の光波龍は4500だからその差は500。僅かな差ではあるが、350しか残されていない彼女のライフを削り切るには充分だ。

 

 

「…………あーあ、負けちゃったか。悔しいなぁ。

 

でも、覚えておいて。私の運命力はこの世に数あるランクアップ使いの中でも最弱。ここで私が負けても、あと少しもすれば必ず第二、第三のランクアップ使いが現れて───」

 

「『行け! 希望皇ホープ! ホープ剣・スラッシュ!!」』

 

「って、待ってまだとちゅ───きゃぁぁぁああああ!!!」 さなぎ LP 350→0

 

 

 

ホープの全霊の一撃が光波龍を切り裂き、その体躯を爆散させる。

 

同時にこの大会の主催者、ハートランドからの試合終了合図が響き───私は、事ここに来てようやく勝利の実感を存分に得るのだった。





ちょっとリアルが忙しいので次回更新は遅れるかもしれません。ちなみに次回は多分フェイカー戦です。





最強のナンバーズはビッグ・アイ(確信)

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