デュエルバンドなんてなかった。   作:融合好き

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何故続いたし


突撃! デュエルカーニバル!

 

『俺はシャークドレイクバイスで、デステニーレオを攻撃!

 

デプス・カオス・バイトォォ!!』

 

『ぐぉぉぉぉおおおあああああ!!』

 

 

(…………)

 

 

食い入るように見つめていた画面から目を離し、視線を中空へと彷徨わせる。

 

内より浮かび上がる感情は、諦観。それはこの結果を私が、「こうなってしまった」ではなく、「こうなるんだろうな」と半ば理解していたからこそ。

 

 

───1回戦第4試合、神代凌牙vsⅣ。

 

 

実のところ私は、この大会で私と彼が闘う可能性は低いと思っていた。

 

その根拠は、単純な実力。言ってはなんだが、この時点での彼の実力は、決して高い方だとは言えない。勿論、主人公のライバルにしてラスボスである神代くんを追い詰める程度には強いことはわかっている。しかし、それでも彼がこの大会でトロンやゼアルを超えられるかといえば、別の話。

 

一縷の望みにかけて彼らの試合を観戦していても、結果はアニメとまるで同じ。これが修正力というものなのかは私にはさっぱりだが、彼が負けた事実に対してはなんの不思議もない。

 

この世界は意外にも、少年漫画的なアトモスフィアが潜んでいる。つまりはそう、正義こそが最後に勝利を収めるのだ。ならば典型的な小悪党でしかない現段階の彼が、曲がりなりにも主人公一味である神代凌牙に勝てる可能性なんて、きっと闘う前から無かったのだろう。

 

いや、それとも。

 

 

(───この世界は完全なシナリオ形式で、そこに私という異物が紛れ込んでいるだけなのかも)

 

 

あまり考えたくはないが、そういうこともなくはない。なにせこの世界には「原作」なんてふざけたものがあるのだ。そうなってる(・・・・・・)可能性を、全てが作り物であることを、最大のイレギュラーたる私が否定できようか───

 

 

(───まあ、ないとは思うけどね)

 

 

嫌な可能性を切り捨てて、これからについて目を向ける。

 

くじ運がなかったせいでいきなり最大の目的が消滅してしまったが、大会そのものが終わったわけでも、私が失格になったわけでもない。

 

棄権は論外。その理由がないし、不本意ながらこの大会には、私を見てくれるたくさんのファンがいるのだ。デュエリストとしての私が信条を曲げるのは良くても、アイドルとしての私は彼等を裏切れない。故に不可能。

 

良いところで負ける。これは理想だが、今はもうできない。結果論でしかないが、カイトさんに負けて綺麗に退場することが、おそらくは私の最善の手だったように思う。しかし、Ⅳさんと戦える僅かな可能性を捨て切ることは、あの時の私には不可能だったのだ。

 

ならば次は、と思っても、それは最悪の一手になる。何故なら───

 

 

(………次の相手は、あのトロンなんだよね。あーもうめちゃくちゃだよ)

 

 

この世界が順当にシナリオ通りに進んでいるのなら、カイトさんを打破した私が彼と闘うことになるのはむしろ当たり前の話。

 

彼はこの大会を利用して感情を集めていて、負ければ感情を抜きとられるとかそんな感じだったはずだ。ならば当然、この私も例外であるはずはなく、負けてしまうと私は廃人となってしまうのだろう。

 

 

(───なら、やっぱり)

 

 

実のところ、改めて考えずとも答えなんて既に出ている。

 

逃げられず、負けられないなら、答えは一つ、勝てばいい。それが容易いかは別として、私にはその道しか残されていないのだ。

 

 

(───それに、逃げてもね)

 

 

あれだけ大々的にナンバーズを使用したのだ。ナンバーズを集めている九十九遊馬にナンバーズハンター達、トロン一家が私を見逃してくれるわけがない。

 

自慢になるが、私は有名人だ。大会には本名で参加しているから調べれば即座に身元も判明するだろうし、今逃げて後々周囲が巻き込まれる可能性を鑑みればますます逃げは有り得ない選択となる。従って私は、この大会でトロンを倒し、更には出来たら決勝で相見えるだろう主人公を打ち破ったりしなくてはならないわけで…………できるんだろうか、私に。

 

まあ、最悪主人公はどうでもいい。私の私物(偽ナンバーズ)が強奪されるのは物凄く嫌だが、嫌なだけだ。アイドル業には、なんの支障もない。

 

やはり問題となるのはトロン。アニメでカイトを破った経緯やゼアルをあれだけ追い詰めた実績からして、私がギリギリで打ち崩したカイトさんより純粋な実力が高いと見ていい。そして私は、そんな化け物を倒さなくてはいけないのだ。

 

 

(やっぱり、きついなぁ。───でも)

 

 

この世界が神様の脚本通りだと仮定しても、私だけは違う。カイトさんに勝てたからには、トロンに勝てる可能性だってまたあるはず。

 

そもそも、「負け」を前提に物事を語るのはナンセンスだ。私だって、そこそこには強い。それは、私が倒したカイトさんの存在からも明らかで、そんな彼はこの世界において(アニメの中で)、トロンを追い詰めるほどに強かったんだから。

 

 

「…………よし」

 

 

傍に置いてあったデッキを片手に、私は控え室をゆっくりと後にする。

 

そんな私を励ますかのように、手の内にあるデッキが怪しく輝いたような気がした。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

『会場を包む天使の歌声! 優勝候補の天城カイトを下して現れたのは!

 

かの有名なアイドルデュエリスト───蝶野さなぎだ!』

 

 

会場に入ると、万雷の拍手が私へと舞い降りる。

 

どれだけ経験しても、この瞬間は素直に嬉しい。所詮は人間でしかない私が偶像として輝けるのは、周囲の応援があってのこと。不本意な大会であろうとも、それを体感できる機会に恵まれたなら、気分が高揚して然るべきなのだ。

 

カードパワーに頼っているだけの私が、過剰な煽り文句と共に讃えられるのは恥ずかしいけれど、悪い気はしない。たとえそれが、なにかの計画に利用されてるだけだとしても、ね。

 

 

『対するは───経歴不明! 突然現れたシンデレラボーイ!

 

その名は…………トロン!』

 

 

ファンに対応しながら会場の中心まで歩み寄ると、私よりもやや早くフィールドに辿り着いていた鉄仮面の少年が、こちらを品定めするようにじっと見つめる。

 

いや、ように、ではなく、まさしく彼はこちらを品定めしているのだろう。私の価値を、私の実力を見計らうために。

 

しかし───何度も言うように、私は彼のそんな事情など知りはしない。彼がこの大会を通して何を企んでいようとも、それはアイドルたる私の管轄外だ。ならばこそ私は彼に対して、あくまでもアイドルとして正対する。

 

 

「えーっと、トロンくん、でいいのかな?

 

私はさなぎ、蝶野さなぎです。よろしくね」

 

「ああ───うん、よろしく」

 

 

(───まだ、図りかねてる…………かな?)

 

 

今の言葉、はっきりとわかる程度には違和感があった。メタ情報からの推測だが、おそらく彼は私に対し、どちら(・・・)として対応するのかを悩んだのだろう。要は、関係者か、そうでないのか。

 

先のデュエルを見る限り私はどう考えても怪しいが、私の経歴はこれ以上ないくらい真っ白だ。ギャラクシーアイズがバリアンのものと知ってる天城家ならともかく、トロンさんにとっての私は「たまたまナンバーズを拾っただけの、カイトさんと同じギャラクシーアイズ使い」なんて評価に落ち着いているのだろう。

 

観察眼には自信がある。彼もそういう目を隠す気はないようだし、そう外れていることはないはずだ。

 

 

(───まあ、だからといってなんだ、という話ではあるのだけど)

 

 

むしろ完全に獲物としてしか認識されていないのなら、なんかの気まぐれで見逃してくれる可能性までなくなってしまう。そうなると───いや、考えるな。勝つんだ。最悪を想定するのは、ピンチになってからでも遅くない。

 

 

「じゃあ…………」

 

「ああ…………うん、始めようか───」

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

(───うーん)

 

 

先行は私。手札は悪くない。むしろ私の想定している中では理想と言っていい。

 

分かりやすく強力なモンスターを出せて、分かりやすい形で防御札を残せる。この手が理想的でなければそれはおそらく、先行ワンキルなどの捻くれたデッキだけだろう。

 

 

(───悩むなぁ)

 

 

偏見だが、初手でエースを出すのは死亡フラグだ。勿論、予選ではそんなくだらないジンクスなんて踏み潰したからそんなのあってないようなものであるが、どうにも嫌な予感が拭えない。

 

 

(───様子見、だよね。彼は。だって)

 

 

だって、こんなにも手札がいいのだから、(・・・・・・・・・・・・・・)彼はしばらく防御に専念するはずだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そうなれば、私の取り得る最良の未来、最善の戦法はやはり。

 

 

(───ちょっと不安だけど、これしかない、か)

 

 

目を付けられるなんて、今更だ。廃人になることと比べたら、徹底的に警戒されてしまう方がまだいい。

 

彼にとっても誰に対しても、このカードは想定外のモノ。となるとカイトさんの例からして、おそらくはうまくいくはずだ。

 

 

「私は手札から、《光波双顎機(サイファー・ツインラプトル)》を召喚!

 

更に、《光波翼機》は自分フィールドにサイファーモンスターがいる場合、手札から特殊召喚ができる!

 

そして、光波翼機の効果発動! このカードをリリースし、サイファーモンスターのレベルを4つ上げる!

 

そして、サイファーツインラプトルをエクシーズ素材とする場合、一体で2体分の素材とすることができる!」

 

 

 

《光波双顎機》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1600/守 800

①:エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在し、

自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

②:このカードを「光波」XモンスターのX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。

 

 

 

 

 

 

2体分。OCGでは終ぞ現れることなかった効果だが、この世界では別だ。ならば当然、使えるものは使う。だって私は、負けたくないから。

 

 

「おっと、もう来るのかい?」

 

「私はレベル8、2体分となったサイファーツインラプトルでオーバーレイ!

 

2体分のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

茶化すようなトロンさんの声を敢えて無視して、エクストラデッキより我が最愛のエースモンスターを引っ張り出す。

 

 

「闇に輝く銀河よ。

 

今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ!

 

エクシーズ召喚! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

私のエース、銀河眼の光波竜。かつての私が何となしに当ててずっと使ってきた、文字通りに前世から付き合いのあるカード。だからこそこのカードはカードそのものとしての強さとはまた別に、単に想い出のカードとしても私の中で居場所を築いている。

 

 

「実際に見るまでは半信半疑だったけど───」

 

 

力強く吼える光波竜を眺め、トロンさんが寒気のする声色で言葉を紡ぐ。

 

それは、人の感情を奪ってきた彼の冷酷な面。感情を失い、取り戻すためにただひたすら寂寥感と戦い続けたその証。でも。

 

 

「本当に、カイトのモンスターを使うんだねぇ、キミ?」

 

 

(───知らない。関係ない。だって、この私は)

 

 

わかっている。この考えが思考放棄だと、現実から目を背けているだけなんだと。本当はしっかりと理解している。

 

だけど私は、そうしなくては立ち上がれない。現実に屈し、陰謀に呑まれ利用されるくらいなら、何もかもを搔きまわす愚者として在り続けるのがずっといい。

 

考えるな。理解するな。私は何も、なんでもない脇役だ。たまたまこんな大舞台に立っているだけの、単なる一人のデュエリストだ。だけど、だからこそ。

 

 

(───私にだけは、この世界で好き勝手にする権利がある、はず)

 

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンを終了するね」

 

「無視? へぇー、ま、いいけど。

 

───さて、僕のターン、ドロー!」

 

 

…………そういえば、【紋章獣】ってどんなデッキだったかな。

 

彼のドローする姿を確認し、今更になってそんな疑問を抱く私。敢えて考えないようにしていたとはいえ、ちょいと気が抜けすぎじゃないだろうか。

 

…………。…………まあいいや。多分だけど、なんとかなるよね!(慢心)

 

 

これは、きっと、フラグでは、ない。

 

 

 

「手札の《紋章獣アンフィスバエナ》は、手札にある他の紋章獣を捨てることで、手札から特殊召喚することができる。来い!紋章獣アンフィスバエナ!

 

更に僕は、《紋章獣ユニコーン》を通常召喚!」

 

 

(───レベル4の【紋章獣】が2体)

 

 

ならば、出すのはおそらく。

 

 

「僕はレベル4の紋章獣2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

現れろ、《No.8 紋章王 ゲノム・ヘリター》!」

 

 

 

 

 

《紋章獣アンフィスバエナ》

効果モンスター

星4/風属性/ドラゴン族/攻1700/守1100

①:自分のメインフェイズ時、手札からこのカード以外の

「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

②:1ターンに1度、手札から

「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。

 

 

 

《紋章獣ユニコーン》

効果モンスター

星4/光属性/獣族/攻1100/守1600

①:墓地のこのカードをゲームから除外し、

自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

 

《No.8 紋章王 ゲノム・ヘリター》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/サイキック族/攻2400/守1800

「紋章獣」と名のつくレベル4モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードのエクシーズ素材1つを取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。

この効果は相手ターンでも発動できる。

●このターンのエンドフェイズ時まで、このカードと戦闘を行う相手モンスター1体の攻撃力を0にし、

このカードの攻撃力はその相手モンスターの元々の攻撃力になる。

●このターンのエンドフェイズ時まで、相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体のモンスター効果を無効にし、

このカードはその相手モンスターの元々のモンスター効果を得る。

●相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その相手モンスター1体のモンスター名を「アンノウン」とし、このカードはその相手モンスターの元々のモンスター名を得る。

 

 

 

 

 

───紋章王、ゲノムヘリター。紋章デッキのエースにして便利屋で…………効果は忘れました。いや、なんだっけ? 能力やステータスをコピーするんだったかな?

 

でもまあ、エクシーズキラーだった気はするし、この場面で出すということは少なくとも私のサイファードラゴンを突破できる能力を持っているんだろう。

 

そして同時に、あのカードは彼の切り札とまでは行かずとも、エースとして相応しい力を所有していたはず。私の方も、微かながら勝利への道筋は掴めているとはいえ、気合いを入れて行かないと。

 

…………そうだ。姑息な手だけど、この機会に保険を入れておこうかな。

 

 

「おお! キミもナンバーズを持ってるんだね!

 

私はたまたま手に入れただけだけど、全然持ってる人がいないし、何か特別だったりするのかな?」

 

 

保険。別名、露骨な嘘、とも言う。効果があるのかも、どう作用するのかも、割と適当だけれども。

 

しかし、トロンさんは意外にもそんな私の言葉にある程度の反応を示し、感情が無いくせして妙に誇らしげに告げた。

 

 

「特別…………そうだね。確かに、特別なモンスターだよ、これは。

 

でもまあ、正直なところ、キミには全く関係ないけどね」

 

 

(なら、見逃しては…………くれないよね。

 

あーあ。怖いなぁ、ホント)

 

 

実際、さっきから運気の偏りがやばい。

 

彼がエースを召喚したからだろうか。場にある全ての運命が、彼の中へと収束しているのがはっきり見て取れる。

 

運命力は基本的にドローに影響するから今はいいにせよ、このまま放置していれば彼はカイトさん同様、手を付けられないことになる。故に。

 

 

(───勝負は、このターン)

 

 

正確には、次の彼のドローまで。おそらくは、そこまでがリミット。

 

そして、現状の運気では、次のドローにも期待はできない。だからこそ、このターンが全てのキーとなる、はず。

 

 

「僕はゲノムヘリターのモンスター効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使うことで、相手モンスター1体の攻撃力を0にして、このカードの攻撃力をその相手モンスターの攻撃力と同じにする!」

 

 

(───来た)

 

 

ここまでは、理想的な流れ。最悪はサイファードラゴンの効果をコピーされることだったけど、やはりと言うかこの期に及んでも私のことをどうでもよく思っている彼は、まずはダメージを優先して来たみたいだ。

 

そうすると当然、次の行動は───

 

 

「バトルだ!

 

行け! ゲノムヘリター! フラッシュ・インパクト!」

 

「…………」

 

 

光波竜を模したゲノムヘリターが、攻撃力を奪われて力なく項垂れている私の光波竜へと迫り来る。

 

私は、それに対抗するためにディスクの発動ボタンを押そうとし───直前で様々な思考が過ってやや躊躇し、しかし勝利のためにと改めて力強く、私の特異性を存分に主張するカードを発動させた。

 

 

「───ゲノムヘリターの攻撃宣言時。

 

私は速攻魔法、《RUMー光波衝撃》を発動」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUM-光波衝撃(ランクアップマジックーサイファー・ショック)》

速攻魔法

①:自分フィールドの「光波」Xモンスター1体を対象として、

そのモンスターが戦闘を行うバトルフェイズにのみ発動できる。

そのモンスターはその戦闘では破壊されず、

このカードの発動時にフィールドに存在する全てのモンスターの効果はターン終了時まで無効化される。

対象のモンスターが戦闘を行うダメージ計算後、バトルフェイズを終了し、

対象のモンスターよりランクが1つ高い「光波」Xモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

(──あー…………。今更も今更だけど、やっぱり早まった気がするなぁ。流石にこれは、ちょっとまずいよねぇ…………まあ、いいか)

 

 

今日だけで私は、一体どれだけ泥沼に身体を沈め続けているのか。体感では既に身長の4倍くらいは沼に浸かっている気がする。マリオのジャンプより少し低いくらい。なんだ。大したことないじゃん(錯乱)

 

 

「ランクアップ、マジック…………?」

 

「このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドの光波エクシーズモンスターを対象に発動。

 

発動時、フィールドの全てのモンスター効果を無効とし、対象モンスターはその戦闘では破壊されず、また、戦闘終了後にバトルを終了させ、そのモンスターを一つ上のランクのエクシーズモンスターへと進化させる」

 

「なんだ………そのカードは───?」 トロン LP 4000→3400

 

 

(───当然、答える義理はなし。だって、お互い様、だからね)

 

 

内心だけで補足して、トロンさんへと満面の笑みを向ける。

 

アイドルとしての神秘性を顕著にする、私個人の真実を綺麗に覆い隠すヴェール。普段ならそれこそアイドル業にしか使えないこの技能(?)も、使いようによっては効果があるのかもしれない。わからない。どうでもいい。

 

 

「私は、ランク8のサイファードラゴンで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ」

 

 

力を失っていた光波竜が咆哮と共に起き上がり、ゲノムヘリターをその閃光で溶かし尽くす。

 

ナンバーズであろうとも、効果を消されて火力が足りないなら壁にしかならない。耐性に甘んじてコンバットトリックを想定していないのが悪いのだ。

 

 

「闇に輝く銀河よ。

 

とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ。

 

降臨せよ、ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

 

 

 

 

《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000

レベル9モンスター×3

①:このカードが「銀河眼の光波竜」を素材としてX召喚に成功した場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を全て取り除いて発動できる。

相手フィールドの全てのモンスターのコントロールを可能な限り得る。

この効果でコントロールを得たモンスターのカード名は「超銀河眼の光波龍」として扱い、

攻撃力はこのカードと同じになり、効果は無効化される。

また、そのモンスターはこのターン攻撃できない。

●表側表示のこのカードがフィールドから離れた時に発動する。

このカードの効果でコントロールを得たモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る。

 

 

 

 

 

この時期にはあり得ない過程を経て、進化した我が勇士が咆哮をこの地に轟かせる。

 

辺りを見渡せば、この反撃によって、彼へと収束していた運気が和らいだような気もする。ならばおそらく、この反撃は彼の予想を遥かに上回り、文字通りに彼の気を削いだ(・・・・・)んだろう。

 

 

(───掴んだ)

 

 

正直、今の今まで希望的観測でしかなかったが、事ここに来てようやく勝利への道筋を照らし出せた。後は、詰めを誤らなければ。

 

 

「っ、なら!

 

僕は手札から魔法カード、《高等紋章術》を発動!」

 

「させないよ。カウンター罠、《神の忠告》。

 

ライフ3000と引き換えに、その効果を無効にする」 さなぎ LP 4000→1000

 

 

 

 

 

《神の忠告》

カウンター罠

①:自分の魔法&罠ゾーンにセットされているカードがこのカードのみの場合、

3000LPを払って発動できる。

●モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。

その発動を無効にして破壊する。

●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。

それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

 

 

 

私は魅せを重視していないから、危険なカードは発動前に潰すことができる。

 

以前はカードパワー云々と言っていたが、案外これこそが、私の持ち得る最大の強みなのかもしれない。

 

 

「…………墓地の紋章獣、ユニコーンの効果発動!

 

墓地のこのカードを除外し、墓地よりモンスターエクシーズを特殊召喚する! 蘇れ、ゲノムヘリター!

 

僕はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

(───手札をフルに使った。それはつまり)

 

 

これで、打ち止めか。素晴らしいデュエルタクティクスだったけど、様子見ならせいぜいこんなものだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

これでおおよその順路も定まったが、まだ不確定要素(伏せカード)もある。最後まで、気を抜かず。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 

引いたカードは役立たず。運命力がなくては、私なんてこんなものだ。でもまあ、多分問題はない、はず。

 

 

「私は、超銀河眼の光波竜のモンスター効果を発動。

 

オーバーレイユニットを全て使い、相手フィールドのモンスター、全てのコントロールを奪う。

 

そして、奪ったモンスターをこのカードと同じモンスターとして扱い、その攻撃力もこのカードと同様となる」

 

「させるか!

 

罠発動!《紋章の記録》!」

 

 

 

 

 

《紋章の記録》

カウンター罠

①:エクシーズ素材を使用した効果を無効にする。

 

 

 

 

 

(───破壊、しないんだ?)

 

 

少しばかり予想外だが、これこそどうでもいい。なんかモヤモヤするけど、手札が節約されただけ喜ばなくては。

 

 

「───なら、バトル。

 

私は、超銀河眼の光波龍で、No.8、紋章王ゲノム・ヘリターを攻撃。

 

鮮烈の、アルティメットサイファーストリーム」

 

「くっ…………!」

 

 

本来ならナンバーズには須らく耐性を保有しているが、ユニコーンの効果で呼び戻したあのカードは効果が無効となっている。ならば、火力で勝ればなんの問題もない。

 

まあ、守備表示だったから、ダメージは与えられないけれどね。

 

 

「続いて、速攻魔法《銀河眼新生》を発動。

 

超銀河眼の光波龍をリリースし、墓地から【銀河眼】モンスターを特殊召喚する。

 

戻って来て、銀河眼の光波竜!」

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 

 

 

《銀河眼新生(ギャラクシーアイズ・ノヴァ)》

速攻魔法

①:自分フィールドの「銀河眼」モンスター1体をリリースし、

自分の墓地の「銀河眼」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

 

 

 

発動せしは、分かりやすい形でのバトル中におけるモンスターの入れ替え。言うまでもないことだが、これはバトル中の特殊召喚なので、そのまま追撃が可能となる。それに───

 

 

「そして、バトルを続行!

 

私は蘇った光波竜で、トロンくんに直接攻撃!

 

殲滅の、サイファーストリーム!!」

 

「うわぁぁあああ!

 

───なんてね。トラップ発動!《エクシーズ・リボーン》!

 

墓地からゲノムヘリターを特殊召喚し、このカードをゲノムヘリターのオーバーレイユニットとする!」

 

 

 

 

 

《エクシーズ・リボーン》

通常罠

①:自分の墓地のXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚し、このカードを下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

 

(───エースの蘇生。やっぱり彼は、あのカードを相当信頼しているんだね)

 

 

微かな記憶を掘り起せば、彼は原作でも、基本的にナンバーズばっかりを使用していた印象がある。流石にこの段階では後頭部アームズは出せないみたいだけど、だからこそ彼は、あのカードを信頼し、デッキの基軸として扱っているのだろう。

 

それは、本来ならば望ましいことだ。私にとっての銀河眼の光波竜のように、信じたカードはそれ相応の反応をしてくれる。故に、彼のそのこだわりは、私が否定していいことではない。しかし。

 

 

「だけど、攻撃力はこっちが上だよ!

 

私は銀河眼の光波竜で、ゲノムヘリターを攻撃!」

 

「忘れたのかい!

 

僕はゲノムヘリターの効果を発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、このターンこのカードと戦闘を行うモンスターの攻撃力を0にして、このカードの攻撃力をそのモンスターと同じにする!」

 

「…………あっ!?」

 

 

彼の信頼に報いようとしたのか、些か以上に張り切った雄叫びを上げたゲノムヘリターが、私の光波竜の光線を吸収して、逆にこちらへと撥ね返そうとしてくる。

 

先のカードのライフコストで、私のライフは1000。効果を使用したゲノムヘリターと銀河眼の光波竜の攻撃力の差は3000。私を3回倒せる数値だ。このままだと───

 

 

(───なーんてね。流石にそれを忘れるほど、私は馬鹿じゃないよ)

 

 

先程の彼に倣うように、内心だけで否定する。

 

初手からかなり予想と外れたが、この展開も大方は許容範囲。

 

彼が最後の伏せを公開した時点で、既に勝利の方程式は完成している。だから後は、出し惜しみをせず全力で仕留める!

 

 

「まだ、終わりじゃないよ!

 

この瞬間、速攻魔法《RUMー光波追撃》を発動!」

 

「───何?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUM-光波追撃(ランクアップマジックーサイファー・パースィート》

速攻魔法

①:自分と相手のLPの差が2000以上ある場合、

自分フィールドの「光波」Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターよりランクが1つ高い「光波」モンスター1体を、

対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターのその召喚成功時、

自分はX素材を使用するそのXモンスターの効果を発動できる。

 

 

 

 

 

 

これこそが、勝利への最後のピース。文字通りの、追撃の一枚。

 

そしてそれは、彼にとっての致命の一撃へと昇華する。

 

 

「そのカードは、さっき───」

 

「このカードの効果により、自分フィールドの光波モンスターをランクアップさせて、一つ上のランクの光波モンスターへと進化させる!

 

私はランク8の銀河眼の光波竜で、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

もう一度、お願い! ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

 

銀河に轟く咆哮と共に、2体目(・・・)の我が切り札がその姿を顕現させる。

 

ナンバーズにも一切引けを取らないその圧倒的な存在感は、ただそこにいるだけで会場の全員の喉を鳴らすだけの威圧を放っていた。

 

そしてそれは、対戦相手であるトロンさんも例外ではなく───彼は一瞬、ほんの僅かな時間だけ鉄仮面の奥の瞳を大きく見開き…………また、普段なら様子へと即座に取り繕って、茶化すように告げた。

 

 

「───はは。あははははは!

 

いやぁ、凄いね。本当に! まさかこんな目まぐるしくモンスターエクシーズを召喚するなんてさ! 正直、脱帽だよ!

 

でも、忘れてはないかい? 僕のゲノムヘリターはこのターン、戦闘するモンスターの攻撃力を奪う効果を持っている。当然だけど、それはその《超銀河眼の光波龍》だって例外じゃない。

 

いくら4500もの攻撃力があっても、ゲノムヘリターをどうにかしなきゃ、さっきと状況はまるで───」

 

「それは、どうかな?」

 

「…………なに?」

 

 

にっこり笑って、私は爽やかに名言を言い放つ。

 

それは、遠回しな勝利宣言。私が微かな道筋を潜り抜け、無事に目的地まで辿り着いたことへの勝鬨だ。

 

 

「《RUMー光波追撃》によってエクシーズ召喚に成功したモンスターは、そのオーバーレイユニットを使用して発動する効果を、召喚時に発動することができる。

 

…………このカードの効果は、さっき説明したよね?」

 

「な…………馬鹿な!?」

 

 

超銀河眼の光波龍が雄叫びを上げると、先程まで迎撃準備にかかっていたゲノムヘリターの姿が一変し、こちらに侍ってトロンさんを見下ろす。

 

これを以て、チェックメイトだ。

 

 

「───今はまだ、バトルフェイズ。

 

私は超銀河眼の光波龍で、トロンくんにダイレクトアタック!

 

殲滅の、アルティメットサイファーストリーム!!」

 

「馬鹿な…………! この僕が、復讐が、アイドル風情なんかに…………!

 

うわぁぁぁぁああああああ!!!」 トロン LP 3400→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───本当に、勝っちゃったよ…………!??!?)

 

 

 

相変わらず何故かARヴィジョンなのに吹き飛ばされるトロンさんと、彼を倒したことによって熱狂するファンに無意識のうちに笑顔を振りまきながらも私は呆然とする。

 

しかしながら、勝って真っ先に感じるのが困惑な辺り、転生者という存在は、実に度し難いなぁ、なんて思うのだった。






ちなみに彼女は当然のように有用なエクストラは三積みです。たとえそれがナンバーズであろうとも。

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