まず前提として、あの世界でもテーブルデュエルはあります。当然です。別に珍しいわけでもありません。あれだけ世界的なゲームとして描写されてるので、寝る前にちょっとだけやる、みたいな光景はあの世界の家庭ではどこもありふれたものだと思ってます。まあ、それでもディスクを使ってそうなイメージは確かにあるのですが。
ならば何故遊馬は違うのか、と言いますと、それはアニメ初期で散々描写されていた彼の家庭環境に問題があります。
アニメ初期、遊馬は何故かデュエルを禁止されていました。しかも見たところ、それを律儀に彼は守っていたようです。したがって彼にとってのデュエルとは「家ではできない・やらない」ものである、という認識が前提として刷り込まれていることになります。
更に言うなら、周囲の環境もそうです。アニメを見る限り、おそらくナンバーズクラブのみんなと遊馬の家はかなり離れていて、小鳥ちゃんだけがご近所さん、という位置関係になってるはずです。私の勝手なイメージですが、多分、鉄男辺りの家は学校を挟んで正反対にある、みたいな感じだと思っています。
要するに、気軽に小鳥ちゃん以外の家に遊びに行けない、ってことですね。これも遊馬が小鳥ちゃん以外の友達と2人で歩いてる描写が驚くほど少ないので間違いはないかと。多分、みんなで遊ぶ時は待ち合わせでもしてるんじゃないかな。
トドメに小鳥ちゃん。彼女はおそらくデュエルを好みません。というか遊馬が彼女をデュエルに誘う光景がどうしても浮かびません。何故だか2人になると絶対デュエルとは無関係な遊びをしてるイメージしかない。でもどうしてか2人とも幸せそうなのがまた。デュエル馬鹿の遊馬も、完全プライベートで小鳥ちゃんと2人でいる時はデュエルをまるきり忘却してるイメージがあります。
よって、少なくとも遊馬にとって、デュエルとは屋外でやるもの、遊びとして使うもの、であり、家でなんとなくダラダラと楽しむものではないと考えている、と想定できるわけです。
…………なんて言い訳が、後から浮かびました。実はテーブルデュエルが廃れてることにしたのはその場のノリです。だからそういうことにしていてくださいお願いします。
ついでに。禁止制限が当時のものでも、基本的にギャグ以外では禁止カードを使わないので禁止カードの有無がストーリーに影響を及ぼすつもりはありません。
あちこちについた土埃を払いながら歩く。
自身のやったことに対し「不快だ」と思うことはないが、煩わしいのは確かだ。それに、汚れたままでは美意識に欠ける。いと美しきギャラクシーアイズを体現する者として、最低限の身嗜みすら整えないのはあり得ない。
苛立ちからか、心なしか足音も大きく聞こえる。納得がいかない、とはまさにこのことを指すのだろう。
「おのれ…………」
愚痴に近い言葉が、力の入った身体から漏れ出る。昂ぶった精神が、治らずに怒りへと昇華する。向かう先は当然、この結果を引き起こした彼、私の友人にして仲間たる人物、ドルベの所。
「ミザエル、戻ったか───」
「ドルベ。貴様、アレはなんだ?」
少しの時間を経て見つけたドルベに詰め寄り、発言を遮って、最優先の課題を問い詰める。彼からすれば唐突だろうと、そんなことはどうでもいい。
「アレ、とは………?」
「貴様の渡したバリアンズ・スフィア・キューブ───アレは、我が真の姿にも耐えられる、と他ならぬ貴様が言っていたではないか。それがどうだ、タキオンドラゴンの威光にすら屈するようでは話にならんぞ!」
彼を信じて、その言葉を全面的に信頼していたからこそ、裏切られた気分となり口調も厳しいものとなってしまう。ベクターならともあれ、彼の誠実さ、高潔な精神は私も認めていたのだ。彼の予想を超えたエネルギーが発されただけだ、などと推定することは容易で、過ぎたことをこうして詰め寄ったところで惨めなだけなのに、我らの聖戦に水を差されたその怒りは、私の心から冷静さを奪い取っていた。
そんな、ある意味では理不尽な追及にも、ドルベは真剣な態度で受け止め、冷静に自身の過ちを認め、ミザエルに責はない、悪いのは私なのだ、と頭を下げて謝罪をする。
彼の態度に冷や水をかけられた気分となり、ここに来て、ようやく冷静さを取り戻すことができた私は、先の態度を謝罪、悔い改めて彼へと向き直り、かつての本題に入ることとする。
「───それで、あの女について、何かわかったのか?」
「ああ、と言っても、あやつが何者なのかがわかったわけではない。私が感じたのは、やはりあの女のランクアップは我々とは異なるものである、ということだけだ。だが、それで十分なのだろう?」
「やはりな…………もしや、とは思っていたのだが、違ったか。まあ、あの女のソレは、アストラル世界のソレに近い。故に、可能性は元より低いと考えていた。だが、ならば───」
「何故、蝶野さなぎはバリアンズ・フォースを所有していたのか、だな」
解せないことは、これだ。彼女がアストラル世界に連なるものならば、彼女がバリアンの力の象徴であるあのカードを保有しているのはどう考えてもおかしい。
更に言うなら、ギャラクシーアイズのこともそうだ。バリアン世界に伝わる伝説のモンスター。それをあやつは従えていた。ならば自然、彼女は何らかの形で、バリアン世界との繋がりを持っている、と考えるもの。だが、それは。先の想定をまるごと翻してしまうことになる。だから、解せない。
「………我々バリアンは、本来の姿でなければカオスエクシーズを使用することができない」
「わかっている。だが…………」
「だが、何だ? 貴様はまだ、
「…………」
(───『だが』、か。やはり、未だ、認められぬのだろうな…………)
幾度もなく釘を刺しても、頑固な彼はこれに関して決して譲ることはない。万全の状態ならば、空間転移すら起こせるあやつらがそうしないのはつまりそういうことであり、
私にだって、仲間である彼らの喪失は悲しく思う。だが、我々はバリアン。幽玄に漂う亡者たち。孤高にあらねばならぬもの。その本質を見誤り、己すら保てなくなるようでは話にならんのだ。
疑問はある。しかし、それだけだ。ドルベの考えは、全てが理想論、自身がそう思いたいだけの妄想に過ぎん。最低限の義理を果たした以上、私個人としてはこれ以上の検証に付き合うつもりはないのだ。
まあ、
「なんだぁ? シケた面しやがってよ。またぞろくだらねぇ話でもしてんのか?」
「貴様は───」
「…………ベクター」
『だが』、そうだな。まだ、色々とドルベにも言いたいことはあるが…………。
───まずは突然現れたこの不快な男を、制裁するところから始めるとしよう。
☆☆☆
こんにちは。今日も貴方のお側に特殊召喚! おなじみアイドルデュエリストこと蝶野さなぎです。
久しぶり(初めて)の闘病生活を開けて早1日。怪我をする前の大きな仕事の分と合わせて随分と長めの療養期間を取るように事務所から言われた私ですが、ぶっちゃけ暇です。それもかなり。私自身、プライベートの大半がアイドルなので、ある意味では当然なのだけど。
しかも、怪我も全快した以上、実質的には休暇のはずなのに名目を療養にして最近忙しかった私のために気を利かせてくれてるおかげでレッスンにも行けません。一度様子を見に行ったらスタッフのあの子に超心配されて申し訳なくなりました。無視してレッスンに励む選択肢もなくはなかったんだけど、なんかあの子、私が怪我をしてから反応が過剰と言うか何というか。後で聞いた話だけど、私の療養を引き延ばしたのも彼女の強い要望らしい。
で、馬鹿をやって大怪我をした私をこれほどまでに思ってくれる友人がいる。そのことがとっても嬉しくて、あれこれ不満はあれど感謝の気持ちが大幅に上回り、結局、無理をせずに実家で休みを取ることにした私なのだけど。
「…………暇だなぁ」
早朝に行なっていたボイトレ。リハビリを兼ねた一時間程度のランニング。常日頃から日課としてこなしていたそれが終わり、いざ自分の時間…………となった私は、これまた随分と久々に尋ねた気がする実家の自室にてぼんやりと窓下を眺める。
本日は快晴。遊馬くんが言うなら絶好の決闘日和、とはいえ、それは決してアイドル日和(?)と同じにはならない。人が密集するアイドルのパフォーマンスでは、日差し云々よりも涼しさや湿気の快活さ、つまりは過ごし易さこそが大切なのだから───
「…………練習も、なんかする気が起きないなぁ。駄目なのは、わかってるんだけど」
休日にさえ仕事のことしか浮かばない。典型的なワーカーホリックである。自覚しているだけマシ、と油断してはいけない。起伏のない日々は心を鈍化させ、その潤いを容赦なく奪っていく。永きに渡る闘病生活の最後でかつての私が色々悟って大人しく死を受け入れたのも、多分そういう理由なんだから。
「あー、ダメダメ。せっかく退院
でも、アイドル以外の私…………うっ、頭が」
朝早くから何を考えているんだろう。私は何者なんだろう。そもそもこの世界はかつての私が見ている夢なんじゃないか、などと無駄に哲学的な思考を繰り広げ、どんどんと落ち込んでいく私。
気休めのように勉強机の中央に置いてあったデッキに手を取り、適当にカードを入れ替えてデッキを改築する。ここ最近は新しいカードも生まれてないし、デッキの構築を今更多少改善したところで、むしろ運命力が向上した私には、ピンポイントなメタカードに対抗できなくなる可能性が出てくるからムラのあるカードはあんまり抜きたくはないんだけど。
「…………病院、楽しかったなぁ」
やばい。いよいよ思考があり得ない方向にまで堕ちて来た。この私がよりにもよって病院を楽しいと漏らすなんて、私を構成しているかつての私の全否定である。
でも、本当に、楽しかったのだ。場所こそ最悪も最悪だったけど、その事実を否定することは付き合ってくれた遊馬くん達への侮辱になる。それだけはいけない。だって。
「───ん? 『だって』…………?」
だって、何だと言うのか。わざわざ口に出したが、その続きは咄嗟に浮かばない。
はて、私は何を言おうとしたんだろう、といつものように思考をまた広げようとして…………いつものように紆余曲折しながらも、そう時間も掛からずにその理由について思い当たる。
(───そういえば私、友達とあんな感じで遊んだの初めてかも)
無論、正真正銘初めて、というわけではない。自慢になるが、コミュ力は高い方だし、中卒でも幼稚園・小学・中学と友達は数えられないくらいいた。でも。
「私、中学ではあんまりはっちゃけなかったしなぁ───」
小学生の頃は精神年齢が高過ぎて完全に保護者みたいな扱いされていたし、中学では多少差が和らいだものの、私自身が無駄な小賢しさを発揮して内申とかを稼いでいたおかげで友人とは良くも悪くも浅く広くの付き合いしかしてはいなかった。高校にはそもそも行ってすらないし、未だ小中学の頃の友達も応援に来てくれてそれはそれで嬉しいのだけれども、あんな感じに遠慮なくズケズケモノを言われたのは初めてかもしれない。
(───アンタ、だったかな。邪険だけど、悪くないかも)
多分、私が年上だから観月さんみたいに名前で呼び捨てることに抵抗があるんだと思うけど、それで逆に態度が悪くなるのなら意味がないだろうに、デュエルになるとあれだけ格好良いのに、こういうところだけ子供っぽくて、
「───っと、いけないいけない」
仕事のことから抜け出せたのはいいが、私は何を考えているのだ。アイドルには
恋愛は厳禁。皆の偶像である私は同時に皆の擬似的な恋愛対象にもなり得る。その私が処女性を欠くなど、絶対にあってはならないことだろうに。
「………それに」
彼には、
彼女のことは、入院中に何度も見かけた。何度も話した。何度も何度も何度も毎日のように。当然だ。彼女は他の友達とは違い、本当に誇張なく毎日毎日足繁く病院まで足を運んでいたのだから。あの目を覚えている。あの熱を、あの献身を、あのゾッとするほどの魔法を、私はちゃんと理解している。
観月小鳥。あの少女が
(───何を対抗心なんて燃やしてるんだ、私は。そもそも私は、舞台にすら上がれない脇役だったのに)
だった。過去形だ。今の私は、決して脇役であるとは言い難い。カイトを倒し、トロンを止め、フェイカーの野望を破壊し、ミザエルに目をつけられた。仮に私が舞台から降りたら、まず間違いなくシナリオは大幅な修正を余儀なくされることだろう。つまり、その点に関しては問題は───
「───あああ! 違うっっっ………!!
馬鹿か、私! 何を屁理屈で言い訳してるんだ! ちょっとだけ、ほんの少しだけ遊んで、それで………!」
それで。それは、かつての人生そのものと言えるトラウマを、単純な「楽しさ」で塗り替えるほどに───
「っ───!」
半ば衝動的に、身の薄着のまま、デュエルディスクを手に取り部屋から飛び出す。
ダメだ。これ以上を考えると、望むと、求めると、かつての私が築き上げたこの私という偶像が揺らいでしまう。私はアイドル、皆のものであり、誰か1人のものになんかなれない。なのに。
「お母さん! ちょっと出かけてくる!」
「え、ええ? ああ、うん、いってらっしゃい…………?」
思考のドツボにハマりそうな身体を奮起させ、玄関にあったコートを片手に外に出る。
キャラの意向や状況を無視してシナリオ通りに進めようと奮闘する世界が、その先に待ち受けるであろうイベントを用意していることも分からずに。ただただ、自らの意思で私は、この舞台を掻き回していく。
それが良いことなのか、悪いことなのかは、きっと、終幕の時にでも、分かるのかもしれない。
……………………
…………
……
あてもなくハートランドを彷徨い歩く。かなり広大な開発都市とはいえ、ここは十数年暮らした故郷だ。前世のアドバンテージで勉強をろくにせずとも好成績だった私には時間があったし、それこそ隅々まで散策して泥だらけで帰ったこともある。
故に、どこを歩こうとも迷う心配なんてない。いや、私も
「…………なんだろう、これ」
ランニングに行った時に来たままだった運動服をなんとなく持ってきたコートで隠しつつ、目の前の光景に疑問を抱く。
人の波、こう表現するのが最適だろう。しがない工場街の一角、コンテナが無数に立ち並ぶだけの本当に何もないようなその場所には、どうしてかいつかに見覚えのある制服を着た年若き少年達が、所狭しと無駄に流麗なコンビネーションで何者かをずっと散策しているのだから。
「…………額のあれ、まさか」
ついでに言えば、彼らにはもう一つ共通点がある。言葉として呟いてしまうほど一目でわかる外見的な特徴が。
額に浮かぶ、謎の紋章。否、はっきり言ってしまうとまさしく『バリアンズ・フォース』そのものであるその文様は、操られたように行動する生徒たち全員に等しく見受けられた。
(───入院イベントの後…………なんだっけ。忘れちゃったなぁ。ベクター襲撃じゃなかったかな…………いや、そういえば、遊馬くんが)
最近、アリトと名乗る少年と勝負した、と言っていたはずだ。ギラグとアリト、どっちが先に脱落したかすら覚えていないけど、ベクターに嵌められた彼らが脱落してベクターが代わりに、みたいな流れだったはず。
アニメの方はともかく、アリト戦一戦目については遊馬くんが楽しげに語っていたからよく覚えている。確か、そのきっかけは───
「……………………」
…………まあ、きっかけはどうあれ、時系列的には彼との二戦目以前、ベクターの襲撃前の時期であるのは間違いない。彼らがなんの理由で誰が放ったのかは忘れてしまったが、目的は明白だ。すなわち、彼の持つナンバーズの奪取。及び、アストラルの撃破(?)。
「…………放っては、おけないよね」
何故か、いつのまにか固く握り締めていた手を解し、人混みの隙間を器用に掻き分けて中心部にへと向かう。
如何に密集しようとも、所詮は専門の訓練も受けていない烏合の衆。いくらでも通れる猶予はあるし、人混みに慣れている私ならばこの程度、労力にもなりはしない。
「や、遊馬くん、また会ったね。…………何をしているの?」
「あ、アンタ、ここで何を…………!?」
さほどかからずに見つけた騒動の中心へと降り出て、事態の中央で何故かベクター(真月くん)に羽交い締めされた状態になっていた遊馬くんに声を掛ける。彼の正面にいるのは私のファン筆頭(未確認)であるギラグさん。どうやらこの事態は、彼の策略による騒動のようだ。
そういえば今更だが、炎天下にコートなんて着てるからめっちゃ暑い。表情には出さないけど、化粧とかしていなくて本当に良かった。
「何をって…………散歩かな。君の方こそ、何をやってるの? まさかこれが俗に言うIJIME? 初めて見たかもしれない。
なんてね。経緯はわからないけど、大体の事情は察したよ。良ければ、助太刀しようか?」
「───その必要はねぇぜ!」
「…………ん?」
突如として、快活な声がコンテナ街から響き渡る。
若干事態の把握が遅れて硬直していると、その声の持ち主は今にもIJIMEられそうな(※違う)遊馬くんの真正面へと降り立ち(比喩ではない)、カールのように中途から奇妙に逆立った黒髪をたなびかせ、あっという間に周囲の有象無象を蹴散らして、こちらに向き直ってさわやかに告げた。
「へへっ、間に合ったか」
「お前は、アリト…………?」
「て、てめぇ、アリト、何をしてやがる!」
(───ああ、この場面か。あったなぁ、確かに)
ようやくもようやくだが、朧げな記憶が蘇って来た。この事態を見て浮かぶ感想が「アニメでもあったなぁ」とかふざけたものになる辺り、本当に転生者と言う存在は度し難い。なんで私は本当に、あんな観測世界の記憶を持っているのだろうか。
「───九十九遊馬を、舐めんじゃねぇ!!」
「───お前のやってることは、デュエルじゃねぇ! 消え失せろ!!」
なんてことを考えてる内に、彼らバリアンの話し合い(柔らかい表現)は苛烈し、しかし正しく互いの意見が交錯する真っ当な盛り上がりを見せて、やがて衝突寸前にまで至る。
要はどちらも遊馬くんを警戒して、でもアリトはそれでも敢えて正面から挑みたい、だけどギラグさんはそれを認めない、って感じらしい。朧げな記憶でもそんな感じだったし、間違いはないだろう。…………でも。
「…………ねぇ。ちょっと、いいかな?」
「ああ?」
比較的、こちらの側に立っていて話が通じそうなアリトへと兼ねてよりの疑問を問いかける。アニメの描写から答えは明白でも、これはしっかり聞いておかなければならないことだ。
「君たち、ええと、バリアンはどうして、ナンバーズなんて集めるの?
「…………は?」
それに、今の私の発言こそデマカセに近いが、嘘は言ってない。ナンバーズを集めれば集めるほど、バリアン世界の神たるドン・サウザンドが復活し、彼らの力にして手駒であったバリアンの戦士たちが存在の危機に陥る。すなわち害になる。
論点が違う詭弁だが、彼のような直感で物事を判断する人物には、その「間違っていない」ことこそがなによりも説得の材料になるのだ。
「(ど、どういうことだ!? ナンバーズが、害にしかならないって………)」
「(でまかせだよでまかせ。つまりは嘘。とりあえずこの場を収めるために言っただけ。彼らは何らかの目的でナンバーズを狙っている。その意思は見る限りかなり強固。だったら話し合いにはその前提を揺るがすしかないでしょう?)」
『(…………ふむ、なるほどな。これが、君の言う「綺麗じゃない」もの、ということか)』
学習早いなぁアストラル!!?! 流石天才、さわりしか話してないのにもう大人の汚さを理解してる!? …………お願いだから忘れて、謝るから。なんかもう、ごめんなさい。
そして同時に、その嘘が解釈違いなだけで真実に近くないわけでもない、とも言わない辺り、大人って存在は実に実に汚いなぁ、なんて他人事のように思う私であった。
でも、なんか有効っぽいので説得(笑)をこのまま続けることにする。弱った子どもに甘言を呟く。これが大人のやり口ですよ遊馬くん。真似しないでね☆
「あのね、ナンバーズはアストラルくん側、つまりはアストラル世界の力なんだよ? そんなもの集めて、対極に位置するバリアン世界に影響がないなんて思わなかったの?」
「そ、それは…………なんでだ?」
「おい。アリト、そいつは敵だぞ。そんな奴の言うことなんて───」
ここで襲撃者、羽根の謎アクセサリをつけたモヒカン巨漢のバリアンの戦士、推定ギラグさんとようやく目が合う。
…………その、なにかな。まさか、こんな時に私に見惚れるなんてないよね?ないよ、ね? そもそも勝手にメタ知識から推定しただけで、彼が私のファンなのかもわからないし…………。
「…………」
「えーと、何、かな?」
「───なんて、めんこいんだ…………」
(───えー…………?)
恋はいつでもハリケーンですかそうですか。私にもちょっと分かりま…………分かりません。
いくらこのアニメがギャグに近い何かだからと言って、こんな場面でもギャグ要素を…………そういえばさらっと命がかかった場面でも時折笑えないギャグによるピンチを定期的に差し込む作品でしたね。主にそこにいるアリトさん一戦目とか(あれは存在とか懸かってなかったけど)。あとはまあ、GXとかで頻出してた気がする。
(───これだけ歪んだ歴史でも、彼はギャグキャラの宿命から逃れられないのか…………)
というか、マジでどうしよう。なんか成り行きとはいえ(一応)制圧が完了してしまったぞ私。どうするんだ私。世界さんは何をどう頑張ったらこの微妙な空気を元の流れに戻せるのだろうか。
…………まあ、いいや、どうでも。いや、ファンが増えたのは嬉しいけど、今はもう、なんかいいや。暑いし、帰ろう。なんで私、コートなんてひっぺがして来ちゃったのかな…………頭でも茹だってたんだろうか。
「って、ちげぇ! ナンバーズがどうとかじゃねぇんだ。俺はただ、九十九遊馬と闘いたいだけだ!」
「なんで?」
「なんでって、そんなのは───」
「どうでもいい? いや、そうじゃないよね?
君は今、君たちの目的を『そんなこと』だと切り捨てた。つまり、少なくとも今の君に遊馬くんと闘う理由はないわけだ。私の真偽はどうあれ、自ら答えを出すかそれを知る人に確認を取るまでは。
確かに人生は何が起こるのかわからない。突如として君のような
「と、通り魔? いや、俺は…………」
「でも、私は彼らの友人だから、明確な危機を未然に防げるのなら、そのために精一杯努力をする。君も、バリアンも、その理由がわからないままに誰かを傷つけているようなら、いずれ必ず後悔をする時が来る。
───アリト、だったね。君は何故、あのバリアンから彼を守ったの? 多少なりとも罪悪感があるんじゃないの? 違う?」
「そ、それは………」
「迷いがあるのなら、私は君に敵対する。誰かを失わないために、何かを失わないために。私は立ち向かう。幸いにも、この世界にはそのための手段がある」
コートをたなびかせ、デュエルディスクを構えてアリトを睨みつける。力の総量も、人種も、価値観だって違う存在であっても、ここが「遊戯王」の世界であるからには、これだけは絶対に平等なのだと信じて。
「…………なぁ、オマエ」
「何かな? バリアン」
「俺はな。多分、オマエの言うことを半分もわかってねぇ。ナンバーズに関しても、ドルベって仲間に『集めてこい』って命令されただけで、あいつがそれをどう使うかなんて興味もなかった」
「…………へぇ?」
「だけどよ───そんなバカな俺だからこそ、オマエが本気で俺と闘うつもりだってのはわかる。その上で、この俺を倒そうとしているのも」
「違うよ。倒そうと、じゃなくて、確定事項。私は、君なんかには負けないから」
「へへっ───いいじゃねぇか」
虚勢でも、これだけは譲れない。負けを前提に挑むなんてナンセンスだ。負けた後のことは、その時になった自分が考えればいい。
遊馬くんやその仲間、ギラグさんが成り行きを見守る中、私達2人は互いに無言で睨み合い、距離を取り、自然とディスクを展開していく。そして───奇しくもその宣言は、意図したように全く同じタイミングで行われた。
「「───デュエル!!」」
☆☆☆
「ここ、バリアンズ・スフィア・キューブの中にいる限り、オマエは絶対に逃げられない。じゃあ、タイマン勝負と行こうじゃねぇか!
俺のターン、ドロー!」
「………………」
絶対に逃げられない(私は例外←しかも実証済み)。
なんて冗談はさておいて、なんかアリトくんと闘うことになってしまった。何故だろう。いや、後悔はしてないけれども、これ色々と大丈夫なんだろうか。シナリオとか息してるのかなぁ?(他人事)
しかしまあ、やっぱり理由を知らないのねアリトくん。まあドルベ以外はそうなんじゃないかなとか思ってたけど、それでナンバーズなんて色々と不確定なものを引き受けるなんてお人好しすぎじゃないですかね。
でも、理由も明らかじゃない暴力は単なる理不尽だ。デュエルは暴力とは違うけれど、存在云々が関わる以上はそれと同義。私のような精神的にアレな人間ならともかくとして、遊馬くんにそれを味わわせるわけには、いかない。
大人として、年上として、そして何より彼の友達として。彼の持つ、シナリオなんかよりも大切な何かを守るために。
「俺は手札から、《BK ヘッドギア》を召喚!」
《BK ヘッドギア》
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1000/守1800
①:このカードは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。
【BK(バーニングナックラー)】。炎属性、戦士族統一のボクサーをテーマにしたカテゴリで、リードブロー(多分後で出してくる)を基本的に壁や殴り役としてサポートしながら中・高火力の安定した下場を作る、みたいなデッキだったはず。
とにかくリードブローが強力で切り札のはずのセスタスを使うと逆に弱くなる、とかそんな悲しい評価を受けていた記憶もある。だけど、容易く三体素材を並べられてカウンターに秀でたようなデッキが厄介でないはずはない。
私のデッキとは割と相性が悪いとはいえ、未だ運命力ではやや及ばない現状。ただでさえ何時か揺り戻しとかが来てもおかしくないのに、私が勝てるのだろうか。さて。まあ、頑張るけどね。
「そして、フィールドにバーニングナックラーが存在する時、手札の《BK スパー》を特殊召喚するぜ!
そして、この2体をオーバーレイ!
エクシーズ召喚! 現れよ!《BK 拘束蛮兵リードブロー》!!」
《BK スパー》
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1400
①:自分フィールド上に「BK」と名のついたモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚した場合、このターン自分はバトルフェイズを行えない。
《BK 拘束蛮兵リードブロー》
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/戦士族/攻2200/守2000
レベル4モンスター×2
①:このカードが戦闘を行う場合、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
このカードはその戦闘では破壊されず、
ダメージステップ終了時に
その攻撃力を800ポイントアップする。
「早速来たね───でも」
「スパーを特殊召喚したターン、俺はバトルフェイズを行えねぇ。だが今はまだ先行、どっちにしろ関係はねぇな。
俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ」
「あ、待って待って。私はリードブローの召喚時、手札の《飛翔するG》の効果を発動するね。
手札のこのカードを、君のフィールドに特殊召喚します」
「はぁ? 俺のフィールドにモンスターを召喚だと?
…………まあいい。改めて俺は、ターンエンドだ」
《飛翔するG》
効果モンスター
星3/地属性/昆虫族/攻 700/守 700
①:相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、
このカードを手札から相手フィールド上に表側守備表示で特殊召喚できる。
②:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードのコントローラーはエクシーズ召喚できない。
(───3枚、ね)
彼は確か、戦闘補助のカウンターを多く積んだビートダウン。そして同時に、戦闘に比重が重く乗った小細工潰しの面倒なデッキだった覚えがある。ボクサーなんだから容易に想像できるとはいえ、なんともまあこちらにとっても厄介なことこの上ない。
そもそも私は、否、あの世界のデュエリストはほぼ大半の人間がカウンター罠が苦手なのだ。特に神シリーズ。あの白髪オヤジに切り札を召喚前に殺されて、涙を飲んだ人物は数知れない。無論、それは私だって例外じゃない。
私のデッキは基本が派手とはいえ、根底にあるのはコントロール奪取という小細工だ。それを潰された私は、単に打点がそこそこ安定したビートダウンにしかならない。すなわち、物足りない。
故に、私が勝つためには───まあ、これから先は、ドローをしてから考えるとしよう。
「じゃあ、私のターン、ドロー」
自身の今ある運命力に任せ、その場の最善を引き当てる………が、引いたのはそこそこ有用なカードでも、完璧とまではいかないもの。つまり私の今の運命力はこの程度。しかし手札はかなり良さげ、ひっさびさに
(───若干、向こうに戸惑いが残っていた………? まあ、わからないけど)
だが、手札のカードがかなり優秀なのは間違いない。勿論、3枚ものカードによって妨害される可能性があるにせよ、ここいらで一つ、ぶちかましてみよう。
「私は手札から、《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《銀河魔術師》をコストにデッキからレベル1のモンスター、《銀河眼の雲篭》を特殊召喚する。
そして更に、飛翔するGを対象に《狂った召喚歯車》を発動。アリトくん、君はデッキから対象のモンスターと同じレベル、種族のモンスターを2体まで特殊召喚できるよ。まあ、あったらの話だけどね」
「…………なるほどな。そのためにわざわざ俺のフィールドに」
《銀河眼の雲篭(ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン)》
効果モンスター
星1/光属性/ドラゴン族/攻 300/守 250
①:このカードをリリースして発動できる。
自分の手札・墓地から「銀河眼の雲篭」以外の
「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。
「銀河眼の雲篭」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
②:このカードが墓地に存在する場合、
自分のメインフェイズ時に自分フィールド上の
「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
墓地のこのカードを選択したモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。
「銀河眼の雲篭」のこの効果はデュエル中に1度しか使用できない。
《銀河魔術師(ギャラクシー・ウィザード)》
効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻 0/守1800
①:このカードをX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。
この時、このカードのレベルはこのカードより4つ高いレベルとして扱う。
②:このカードの①の効果を使用してX召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このX召喚に成功した時、
このカードの攻撃力は2000ポイントダウンする。
《狂った召喚歯車(クレイジー・サモン・ギア)》
通常魔法
①:相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
相手はデッキから選択されたモンスターと同じレベル・種族のモンスター2体を選択して特殊召喚する。
その後、自分の墓地に存在する攻撃力1500以下のモンスターを1体選択し、
そのモンスターと同名のモンスターをデッキ・手札・墓地から全て表側攻撃表示で特殊召喚する。
(───それだけでも、ないんだけどね?)
レベルのないエクシーズを対象にできないこのカードを使うため、という目的も勿論あったが、実際の狙いはどちらかと言えばメタ効果の方にある。
エクシーズ召喚できない。この一文に秘められたパワーは、この世界では果たしていかほどの力があるのか。漫画版のアストラルが絶望したこの効果は、スタッフのあの子にやらかして二重の意味(見た目・効果が怖い)で泣かれたという逸話を持っていたりする。まあ、あくまでこれは地雷、一度効けばいい、程度だ。それよりも、今は───
(───それに、やっぱり)
彼は、こちらの展開を積極的に妨害してこない。あるいは、する気がないのかもしれない。向こうの魂胆や理念は不明だけど、納得は行く。彼ならば、と理屈抜きに信じられる。ならば私は、全力でフィールドを整えるまで!
「そして、サモンギアの更なる効果により、墓地の銀河魔術師及び、その同名モンスターをデッキから全て特殊召喚する」
「レベル4のモンスターが3体………!」
「残念。銀河魔術師の効果を発動。
このカードをエクシーズ召喚の素材として扱う場合、このカードのレベルを4つ上げて、更に2体分の素材とすることができる。つまり、レベル8モンスターが2体分かける3になるね」
「まさか、レベル8のモンスターが6体………?」
いや、流石にそれはちょっと………ロマンはあるけど、いくらなんでも実用性が無さすぎるよ…………。
なんて突っ込んでいる場合じゃない。私は私で、精一杯、頑張らないと。
「私はレベル8、2体分となった銀河魔術師をそれぞれオーバーレイ。
2体分のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!
ランク8、我が魂、《銀河眼の光波竜》!…………を、3体で」
「……………………は?」
───ギャオォォォオォオ!!
───グゥォォォオォオオ!!
───ギシャァァァアァア!!
それぞれ銀河魔術師の上空に展開されたエクシーズの召喚エフェクト。それが晴れると私のエースモンスターこと光波竜くんがスフィアフィールド内に所狭しと立ち並ぶ。
なんかつい最近にもおんなじような光景を見たような気はするが気にしない。スフィアフィールド崩壊の可能性も、事前に心構えさえしておけばそう酷いことにはならないはずだ。決して遊馬くんを巻き込んで爆破を起こし、また病院で和気藹々と過ごしたいな、なんて考えてはいない。本当です。
「さて、じゃあ効果処理に入り───」
「いやいやいやいや、待て待て待て。なんだこれ、なんでこんなにギャラクシーアイズがいるんだよ!?」
「え? ……………………さあ?」
「さぁ、じゃなくてだな───」
「いや、話す理由がないし。
えー、では。まず、銀河魔術師の効果によって召喚したモンスターの攻撃力は2000下がります。つまりはみんな1000だね。
そして私は、銀河眼の光波竜くんその1の効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、このターン、リードブローのコントロールを奪い取り、奪ったモンスターの名称をこのカードと同じにする」
「させるか…………!
カウンター罠、《エクシーズ・ブロック》! リードブローのオーバーレイユニットを一つ使って、その発動を、無効にする!」
「なら、2体目の効果。サイファープロジェクション!」
「───っ、カウンター罠《エクシーズ・リフレクト》を発動!
自分フィールドのモンスターエクシーズが効果の対象になった時、その効果を無効にして破壊、更に相手ライフに800ダメージを与える!」
「だったら、3度目の正直と行こうかな…………!」
「くっ…………!」
《エクシーズ・ブロック》
カウンター罠
①:自分フィールド上のエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手が発動したカードの効果の発動を無効する。
《エクシーズ・リフレクト》
カウンター罠
①:フィールド上のエクシーズモンスターを対象にする
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
その後、相手ライフに800ポイントダメージを与える。
よし、これでひとまず第一関門はクリア。無論、バーニングナックラーの粘り強さを侮るつもりはないけれど、かなり楽になったと見ていいはずだ。
素材がないことや火力の減退も、他ならぬギャラクシーアイズならばいくらでも解決できる。意気揚々と挑んだ彼には悪いが、変に粘られて変なことをされる前に、とっとと片付けてしまうとしよう。
「クラウドラゴンの効果を発動。このカードをリリースすることで、墓地に送られた光波竜を蘇生する。
そして、この子達を更にそれぞれオーバーレイ。ランク9、《銀河眼の光波刃竜》!」
「また、新しいギャラクシーアイズだと………!?」
(───ん? 『また』って、もしかして…………)
彼、もしかして私のことを知らないんだろうか。このカードなら、遊馬くんとの決闘で見せたことがあると思うんだけど、見るからに反応が初見だし。3体並べたことに対して驚いてる、とかだったら流石に演技が達者すぎるから、多分間違いない。まあ、だからと言ってなんだ、ではあるんだけど。
「ブレードドラゴンは、自分フィールドのギャラクシーエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することもできる。
そのまま、私はブレードドラゴンのモンスター効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドのカード1枚を破壊する!
対象は、そのセットカード!」
「ぐっ…………!」
「更に更に、もう一体の効果で飛翔するGを破壊!
そのまま、バトル! 私は1体目のブレードドラゴンで、アリトくんにダイレクトアタック!」
「まだだ!
手札から速攻魔法、《ライトニング・クリンチ》を発動!
3000のライフと引き換えに、このターンのバトルを終了する!」 アリト LP 4000→1000
「え!? …………相手のターンで、手札から速攻魔法?」
《ライトニング・クリンチ》
速攻魔法
相手モンスターの攻撃宣言時、このカードは手札から発動することもできる。
このカードの発動と効果は無効化されない。
①:3000ライフポイントを払って発動できる。
このターンのバトルフェイズを終了する。
②:自分のエンドフェイズ時に発動できる。
墓地のこのカードを手札に加える。
なんたる珍妙なカードを。最近増えた手札から罠より珍しいのではないだろうか。
(───うーん…………)
決まった、と思ってたのに、仕留められなかったかぁ。流石の運命力だと彼を褒めればいいのか、こちらにハンデスがなかったことを恨めばいいのかよくわからないなぁ。いやまあ高望みしすぎかもしれないけど、せっかく高まった運命力をうまく利用できないのはデュエリストとして、ね。
「まさか、このコンボを凌ぐとは…………でも、君のピンチは変わらないよ?」
「へっ、どうかな。バトルが終了したことで、リードブローは俺のフィールドに戻ってくる。今は攻撃力こそオマエのモンスターには及ばねぇが、こいつさえいれば───」
「ああ…………それは、どうかなぁ?」
「───何?」
半信半疑だったけど、これで確信した。彼は私のデュエルを、私が使ったカードをろくに知らない、聞いていない。
それは単に彼がものぐさなだけなのか、刺客として放ったのに要注意人物の情報を与えないドルベを罵ればいいのかよくわからないけど───こちらに好都合であることは、間違いない。
「今のリードブローのカード名は、私の光波竜の効果によって《銀河眼の光波竜》となっている。
よって私は、ランク4のギャラクシーアイズでオーバーレイネットワークを再構築」
「なっ………!?」
「銀河に滾る力。その全身全霊が尽きる時、王者の魂が世界を呪う。
───エクシーズ召喚! ランク9、《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」
「俺の、リードブローを素材に、ギャラクシーアイズのナンバーズだと…………!?」
私の宣言に合わせて、ぼごり、と嫌な音を伴い、虚像たる銀河眼の光波竜の体躯が不自然に揺らぐ。
否、揺らぐという表現は適切ではない。正確には、光波竜の身体は今まさに作り変えられているのだ。
じゅくじゅくと腐り落ち、怨嗟の雄叫びを上げながら、痛みに堪えるように巨大な竜が身動ぐ姿は、まるでこの世の地獄を表しているようで。
そんな異常な光景と、その異様な雰囲気に飲まれているアリトくんを目撃してしまった私は、かつての私が気軽に使っていたあのカードが、果たしてこの世界ではどのような経緯で生まれたのかを密かに思い出すのだった。
→スフィアフィールドが壊れる
→デュエルができない。あるいはカオスエクシーズが使えなくて大幅に弱体化する。
→彼女の最終的な目的は、バリアンの脅威から遊馬を守ること。
→よし、なら、積極的に壊しにいこう!
…………なんて考えるのは、作者が捻くれているからです。ちなみに、またぶち壊すのは面倒というかあんまり中断をしたくないので、今回のデュエルは決着までフィールドが壊れずに持ちこたえたことにしますので悪しからず。
なお、くっそどうでもいいことですが、彼女が無意識にコートを手に取ったのは普段の衣装を隠すため(ジャージを着ていたので無意味)、つまりは自分がアイドルの蝶野さなぎであることを一目ではわからないようにするためです。その理由は…………まあ、察してください。