デュエルバンドなんてなかった。   作:融合好き

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思考が無駄に二転三転するのは彼女の悪癖です。変態女しか書けない作者が変態じゃない女性をどうにか取り繕おうとした結果がこれだよ!

しかし、そういう設定とはいえ、こんなにブレッブレの人を主人公にしていいんだろうか…………いや、今更過ぎますね。多分ずっとこの調子で走り抜けると思うのでよろしく。

追記

感想見て気づきましたが、前回のフルアーマードエクシーズの装備先を勘違いしてました。正確にはバハムートシャークの方に装備するみたいです。ですが、漫画初期効果のバハムートシャークに装備しても最終的な結果は変わらないので「あ、間違ってんじゃん」と苦笑して流していただけると幸いです。アニメのテキストを修正ではなく改竄するのはアレなので訂正はしません。よろしくお願いします。


対決! ギャラクシーアイズ!

自分がかつての役割から逸脱し始めてる自覚はあった。

 

当然だ。私の知る原作での『私』は何せ、デュエルそのものをしたことがないのだ。更に言えば、台詞さえも数えるほどしかない。僅かな出番に付随していたギラグやシャークの存在から名前が妙に印象に残っているだけで、私の役目は単なる脇役なのだから。

 

そんな私が原作に関わる。それはとても、烏滸がましいことなのかもしれない。いや、これだけ盛大にやらかしているのだ。もしもこの世界の創造主なんてものがいたとしたら、私の存在はこの上なく目障りなものだろう。

 

しかし、その上で私はここにいることができている。上位存在に消されるわけでもなく、思考の干渉を感じることもなく、私は『私』として矛盾なくここに在り続けている。

 

これは一体、どういうことなのか。私の干渉など、この世界に何の影響も及ぼさないという余裕か。そもそも私が考え過ぎなだけで、この世界の創造主なんて大袈裟な存在はいないのか、それとも───

 

 

(───『私』という存在(キャラクター)が、この世界の一員として認められたのか)

 

 

自惚れであるが、そうであって欲しいと思う。私如きが、とはこれまで幾度も考えてるけど、そうで在りたいと私は考える。だって私は、なんだかんだ言っても、一人の人間としてこの世界で生きているんだから。

 

 

(───だけど)

 

 

だけど、私が本来の『私』ではないことも間違いない。

 

かつての私やこの世界、まして創造主なんて馬鹿げた存在は知らない私でも、それだけはこの世で誰よりも理解している。

 

だからこそ、したがって、故に───

 

 

「貴様が、蝶野さなぎと言う女か?」

 

「…………えっと、貴方は誰かな?」

 

 

ならば当然、私がここに『在る』ことで変わってしまうことも、ある。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「我が名はミザエル。貴様のデュエルの、最後の相手となるものだ」

 

「───」

 

 

───状況を整理しよう。

 

シャークとの死闘よりしばらく、遊馬くんへの指導もそこそこに私にできること、伝えるべきことを告げてから〆て一週間。再び舞い戻って来た私の日々。

 

特に今週は大規模な歌番組に出演する機会もあり、めっきりデュエルに触れる時間も減ってしまい、危うく私が既に遊馬くんと友達になったことすら遠い出来事に感じる、みたいなある意味危険な状態な陥っていたわけなのだが───

 

 

「フッ───どうした、何を惚けている」

 

 

気づいたらこれである。正直、初見ではあまりのことに脳が理解を放棄した。

 

ちなみにここ、事務所のトレーニングスペースです。本当についさっき(5分くらい前)まで仲間のアイドル達と切磋琢磨していた運動場です。そんなところから突如として空間を切り裂いてバリアンさんが現れたんですよ? それは驚くし固まるし惚けるのも自然だと思うんだ。というかこの人、もしかして私が一人になるまで待ってくれたのかな? ぶっちゃけ迷惑だけど地味に優しいんですね。でも(突然来るのは)やめろミザエル。

 

 

(───まさか本当に私生活を妨害してくるなんて…………いや、彼らにそういう気遣いとかあるとは思えないけど…………)

 

 

いや、厳密には私は未成年だからこのトレーニングはあくまで『レッスン』であって仕事じゃないんだけど、あれ? 違うか。私は中卒で既に社会人になってるから───って、違う違うこんなことはどうでもいいや。

 

何しに来たんだろうこの人。いや、ぶっちゃけ簡単に想像できるし間違いなくその通りなんだろうけど、目的ありきとはいえ彼のようなビジュアル系がアイドル事務所(こんなところ)なんかにいるのはガチで冗談としか思えない。というかそうであって欲しい。むしろアイドルになりに来た、とかだったら諸手を挙げて賛同するんだけどなぁ。

 

 

(───どう反応しよう)

 

 

不毛な話題はさておき、いよいよ本題について思考を巡らせる。

 

本題。すなわち私がバリアンに対し、どのようなスタンスで対応するのか、ということ。

 

選択肢はたくさんある。演技力にも自信がある。私は脇役だ。だから何にでもなれる。正直に話したところで謎は解けないし、逆に色々とでっち上げた場合にも暴かれる訳がない。つまりは、私の意思でどうにでもなれる。

 

大前提、人間世界を間接的に滅ぼそうとしているドンさん側につくのは絶対に無いとして、ならば私は、どうすべきなのか。

 

ギャラクシーアイズはともかく、ランクアップは言い訳が効かない。とはいえ、馬鹿正直に理由を語る義理はない。理由を騙る(・・)にしても、さて。

 

 

(───決めた)

 

 

一通り役割を当てはめて、良い感じのムーブができそうなのを思いついたので決め打ち。ぶっつけ本番、失敗はそれすなわち身の危険どころでない大博打ではあるが、アイドルとはそんなもの。数多の期待を背負って飲み込み糧にできるからこそ、私はアイドルとして今も生きているんだから。

 

と、言っても、そもそもこれはそんな大層なものではない。単にいつも通り、アイドルとしての私を貫くだけだ。それに───

 

 

「貴方は───いえ、貴方。もしかして…………」

 

 

なるべく自然に呟いて、意味深に腰に付いたエクストラホルダーからとあるカードを取り出す。事情を知れば白々しいことこの上ないが、事実としてこの子が騒いでるのは本当だし、問題はない、と思う。知らない。

 

 

「貴方は、私を………いや、この子に惹かれてここに来た。

 

なら、貴方は、私と闘う意志があるということ?」

 

「───私がここに来たのではない。ギャラクシーアイズが、ギャラクシーアイズを呼んだのだ。

 

ならば私がここにいるのは必然。真なるギャラクシーアイズ使いとして、私が貴様を見極めてやろう」

 

 

着いて来い、と命令口調で言い放ち、ミザエルと名乗ったバリアン………いや、ミザエルは毅然とした態度を崩さずに表の方へと歩いていく。

 

ドッチボールさながらの会話に引っ掛かりを感じつつも、意図は十分に伝わったので、私は彼に粛々と付き従い、向かった先は近くの河川敷。ほどよく広く、そして人目もあまりない空間。どうやら、本当に場所を変えたかっただけらしい。ならもう少し理解できるよう発言してもらえないものか。まあ、私も人のことを言えないんだけどね。

 

 

「…………」

 

「───フン」

 

 

無人のここ、河の流れる音が微かに響く空間にて、私たちはしばし無言で見つめ合う。

 

ガラにもなく緊張をしているのか、と自嘲しても、全身には不快な冷や汗が後を絶たずに流れ落ち、柔軟さが自慢の肢体はどうにもぎこちない反応を示すばかり。

 

こんなことは────ああ、あの時みたいだ。私がオーディションを受けて、アイドルとしての一歩を踏み出すかの、あの瀬戸際の感覚。今か今かと待ち侘びて、しかしそれがいつまでも来ないで欲しいと思っていた、あの時。

 

すなわちこれは、要するに。この私が彼と同じ、『真のギャラクシーアイズ使い』として相応しいのか。その面接のようなもの。私が(カイト)のところまで至れるのかという、試練だ。

 

そうだ。私はきっと、結果(・・)が出るのが怖いんだ。この子に相応しくないデュエリストだと、他でもない彼に言われることを恐れている。それは私が、このデッキを前世より持ち込んだ時点より、ずっと気に病んでいたことだから───

 

 

「───女。いや、蝶野さなぎ、だったな」

 

「え?」

 

「貴様が何を考えているかは知らん。貴様が何者なのかも、貴様の目的さえ私には興味がない。

 

だが───」

 

 

私の思考を意に返さず、ミザエルは揚々と語る。

 

端整な顔より溢れ出る絶対の自信は、運命力に対して劣等感を抱いてしまうこの私にはあり得ないもので、しかし本来ならこの私が持っているべきだったものだ。

 

 

「貴様がその調子なら───闘うまでもないかもしれんな」

 

「…………発破をかけてくれてありがとう。でも大丈夫。いや───大丈夫じゃなくても、私は」

 

 

私は。

 

私は、違う(・・)

 

私は本来、この世界の人間ではない。

 

 

 

 

でも、だからこそ、このカードは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───絶対に、私だけのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───)

 

 

その時、カチリと脳内で、ナニカが綺麗に噛み合った音がする。

 

不思議なことに、迷走する思考・鈍い肢体とは真逆に、やる気はだんだん、不自然なほどにこれ以上なく満ち溢れてく。

 

これは果たしてどういうことか。先程までの思考の内に、私の心の点火剤となる何かが混ざっていたのか───でもまあ、そんなことはどうでもいい。

 

ごちゃごちゃと意味のないことを考えるのは好きだ。考えることに意味があるし、頭の体操にもなる気がする。それでよく思考が明後日の方向へと行ってしまうのが問題なんだけど…………それもそれで、悪くはないと、今なら思う。

 

偶然だろうとなんだろうと、今は何故だか、すっごい良い気分だ。じゃあこれは、そういうものでいいんじゃないだろうか───

 

 

「じゃあ、始めようか───ミザエル」

 

「ほう───?

 

いいだろう…………バリアンズ・スフィア・キューブ、展開!」

 

 

 

 

 

 

 

───デュエル!!

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

さて。そんなわけで遂に始まってしまった因縁(偽)の対決、なわけだけど………。

 

 

(───うーん。 微 妙 )

 

 

自身に配られた手札、最初に与えられたカードの内容に辟易する。いや、自分がこの場面で理想の流れを生み出せるのなら私は今まで苦労なんてしてないのだが、ここに来てこれはあんまりではないだろうか。

 

悪くはない。悪い手札では断じてない…………んだけど、なんとなく物足りない。なんというか、メインとサブの中間で彷徨っている今の私の立場を暗喩しているような、そんな微妙な引きだ。

 

最近はだいぶ運命力も向上し、いわゆるツモ運が明らかに以前を上回っているとはいえ、私の運気はメインキャラを超えることは多分ない。それが私が無意識のうちに彼等に遠慮しているのか、そもそも私の素質の問題なのかはどうあれ、少なくとも今現在のところはそうなっている。

 

全身全霊を尽くす。これは間違いない。でも、こんな微妙な手札で、私は満足するデュエルができるのだろうか………?

 

 

(───まあ、いいや。今更何を嘆こうとも、今はどうにもならないし)

 

 

「私は手札から、魔法カード《アクセル・ライト》を発動。

 

このカードはこのターン、通常召喚権を放棄することで、デッキにある光属性・レベル4・戦士族のモンスターを特殊召喚できる。

 

この効果で私は、デッキから《光波鏡騎士》を特殊召喚!」

 

 

 

 

 

 

 

《アクセル・ライト》

通常魔法

「アクセル・ライト」は1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン、自分は通常召喚できない。

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。

デッキからレベル4・光属性・戦士族モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

《光波鏡騎士(サイファー・ミラーナイト)》

効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻 0/守 0

「光波鏡騎士」の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:自分の「サイファー」モンスター1体が戦闘で破壊され自分の墓地へ送られた時、

このカードを手札から捨てて発動できる。

自分の手札・フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送り、

その破壊されたモンスターを特殊召喚する。

②:このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。

デッキから「サイファー」カード1枚を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「更に私は、手札から《光波複葉機》を特殊召喚!

 

このカードは、自分フィールドに光波モンスターが特殊召喚された時、手札から特殊召喚できる。

 

そして更に、《光波翼機》も特殊召喚。このカードは自分フィールドにサイファーモンスターがいる場合、手札から特殊召喚できる。

 

更に更に、光波翼機の効果を発動。このカードをリリースし、自分フィールドのサイファーモンスター全てのレベルを4つ上げる」

 

「…………?」

 

 

アド損なのかそうでもないのかよくわからない私の展開に、端整な顔つきを微妙に歪ませて成り行きを見守るミザエル。

 

でも仕方ないのです。私自身、割と回りくどいことしている自覚はあるんだけど、こんな微妙な手札では少しくらいアド損でもしないと切り札を出せないからね。

 

───このデュエルは、いつものソレとは違い、儀式としての側面が強い。故に前提としてあのカードが無ければ私は、彼の前に立つには相応しくないのだ。

 

 

「そして《光波複葉機》は、自分フィールドの光波モンスター1体のレベルを8に変更する効果がある。

 

よって、これでレベル8のモンスターが2体」

 

「ふむ、なるほどな。───来るか」

 

「私はレベル8となった光波複葉機、光波鏡騎士の2体をオーバーレイ。

 

───闇に輝く銀河よ。今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ!

 

エクシーズ召喚! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

降臨せし、輝ける銀河の眼を持つ竜。私のエース、銀河眼の光波竜。

 

スフィアフィールドを意にも介さず、ここが己の庭だとばかりに光波竜は吼えたてる。いつにも増して響き渡る雄叫びは、世界が違えど自身の同胞が目の前にいることに興奮しているのか。カイトさんの時もそうだったが、銀河眼というのは妙に仲間意識が強いらしい。何故だろうか。知らない。実は興味もなかったりする。

 

 

「───おお。これが」

 

 

しかし当然、私の前に立つミザエルはそうではなかったらしく、召喚エフェクトが収まってすぐに私の光波竜を眺めると、興奮した様子でそのように呟いた。

 

かつての私がフィルター越し(アニメ内)でも見たその顔。だけどそれをこの私が受けることになんとなく違和感を覚えた私は、ついつい彼に対してこのような質問をする。

 

 

「…………ねぇ、ミザエル。貴方はどうして、私の元に来たの?」

 

「む?」

 

「質問が悪かったね。───私が初めて公式の場でこの子を出した時、私の側には他のギャラクシーアイズがいた。

 

彼のソレがなんなのか、私のカードとの繋がりとか、そういうのはわからないけど、全く関係がないとは思わない、思えない。

 

だから、教えて欲しい。貴方はどうして、彼ではなく、私の元へと現れたのかを」

 

 

無意味な問いかけ。彼が答える必要も、その理由すらも見受けられない無謀な言葉。

 

だけど彼は、意外にも素直に、益にもならない私の疑問に答えを返してくれた。

 

 

「───フン。私とて下調べをせずに貴様の元へやって来たわけではない。

 

貴様の言う、カイトとやらのギャラクシーアイズ。僅かだが、我がタキオンドラゴンと同様の気配を感じた」

 

 

───故に。おそらくあのカードは我がタキオンドラゴンのデッドコピー。察するに我々バリアンと契約を結んでいたあのDr.フェイカーが、我々の力の残滓

より生み出したものだろう───

 

 

淀みなく、当然のように彼は告げる。そんなことは当たり前だと、敢えて言うまでもないことであると、吐き捨てるように。

 

───私にとって(メタ視点で)は、完全に誤っているその言葉を。

 

 

「可能性として、もしや、とも考えてはいたが───貴様のそのギャラクシーアイズを見て確信した。

 

貴様のソレは、そやつのソレとは違い、私のタキオンとはまるで異なる気配を感じる───コピーとオリジナル。どちらの優先度が高いかは明白だろう?」

 

「…………えーと」

 

 

違 い ま す。

 

ご高説のところ悪いのですが、私の方がパチモノです。間違いありません。むしろ紛らわしい真似をして本当に申し訳ない。

 

タキオンドラゴンのデッドコピーってのは確かにそうなんだろうけど、だからってオリジナルではないわけじゃないし、頭数に入れられないわけでもないから!

 

 

(───参った。主張が妥当過ぎて何も言えない)

 

 

私の視点が反則なだけで、彼にとっての推論は真っ当でこれ以上なくそれらしい仮説だ。というか答えを知ってる私でさえ普通に「なるほど、確かに」とか思ってしまった。いや、これはホントにどうしたものかな?

 

 

(───いや、別にいいんだけどさ。でも、本当に、人生ってものは…………)

 

 

儘ならず、度し難い。どうにもならないことが、あまりにもありふれている。そのどうしようもないことを理解すら及ばない反則で乗り越えたこの私が言うのもあれだけどね!

 

 

「私はカードを1枚…………いや、2枚───ええと、3枚を伏せて、ターンエンド、かな」

 

「フン───私のターン!」

 

 

ビシュィィイ!! とこちらまで風切り音が聞こえそうな勢いで、ミザエルがデッキよりカードを手札へと引き込む。

 

周囲の運気を感じ取るに、彼の調子はほぼ絶好調。ゼアル時の遊馬くんにすら匹敵しかねない膨大なもの。正直、デフォルトでこれとか心が折れそうです。私、ホントに彼に勝てるんだろうか…………。

 

 

「私は《限界龍シュヴァルツシルト》を特殊召喚!

 

このカードは、相手に攻撃力2000を超えるモンスターがいる時、手札から特殊召喚することができる。

 

続いて、マジックカード、《エルゴスフィア》を発動!

 

シュヴァルツシルトがフィールドにいる時、デッキから新たなシュヴァルツシルトを手札に加える。そして、そのまま特殊召喚!」

 

 

 

 

 

《限界竜シュヴァルツシルト》

効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻 2000/守 0

①:相手フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 

《エルゴスフィア》

通常魔法

①:自分フィールド上に「限界竜シュヴァルツシルト」が存在する時に発動できる。

自分のデッキから「限界竜シュヴァルツシルト」1体を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

(───シュヴァルツシルトの専用サポートなんてあったんだ…………)

 

 

私と違い、全く無駄がなくレベル8を揃えたことより、ある意味そっちの方が驚いた。流石アニメ世界。バリアンであろうと、謎すぎるピンポイントなサポートカードは健在らしい。

 

 

(───私も本来なら《光波翼機》とか超ピンポイントな効果だったんだけどねぇ。でも、私は効果を選別しているからなぁ…………)

 

 

至った(・・・)カードは数あれど、それが強いとは限らない。そもそも私が勝手にこの世界に馴染んだソレを『至った』なんて表現をしているだけで、実際には進化でもなんでもない。ただそのカードが、この世界のどこかにいる精霊の現し身として相応しい効果に成ろうとしているだけだ。選別なんて反則ができる私が色々とおかしいだけである。

 

そんなことはさておき、これで彼のフィールドにはレベル8が2体揃った。先程までの私と同じ。だが、おそらく結果はまるで別物になるだろう。何故か、などと言うつもりはない。私と違い、あのカードは唯一無二。そういうものだから、だ。

 

 

「私はレベル8のシュヴァルツシルト2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

宇宙を貫く雄叫びよ。遥かなる時を遡り、銀河の源より甦れ!

 

顕現せよ! そして、我を勝利に導け!

 

《No.107 銀河眼の時空竜》!!」

 

 

 

 

 

 

《No.107 銀河眼の時空竜》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻 3000/守 2500

レベル8モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:1ターンに1度、バトルフェイズ終了時に

このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの効果を無効にし、

その攻撃力・守備力を元々の数値に戻す。

さらにエンドフェイズ時まで、このカードの攻撃力は、

このターンのバトルフェイズ中にお互いのプレイヤーが

効果を発動したカードの枚数×1000ポイントアップする。

③:このカードの②の効果を自分のターンで使用した場合、このカードはもう1度だけ続けて攻撃する事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大な力の渦巻きが、スフィアフィールドを軋ませる感覚がする。

 

メカメカしい変形と共に顕現したモンスター、ナンバーズ107、ギャラクシーアイズタキオンドラゴン。似たような命名法則に、まるで別物である姿を見せるこれらの竜は、しかしてただ一つ、最大の共通点たる銀河の眼をこれ以上なく煌めかせて、共鳴するように世界へ吼えたてた。

 

 

(───これが『最強のギャラクシーアイズ決戦!!(半ギレ)』ってやつかぁ…………流石に壮観だね)

 

 

などと。

 

茶化しても状況は変わらない。依然として双龍は【光波】が如く干渉し合い…………そう、まるで、互いを求め合うかのように。

 

 

(───なーんてね。流石にそれは、穿った見方すぎるか)

 

 

そも、私。あの子達に性別があるのかすら知らないしね。

 

…………どっかの次元竜みたく、OCG次元で擬人化とかしてたらどうしよう。今更どうにもできないけど。

 

 

「107…………ね。まあ、だいたいの想像はつくからそれはいいや。

 

うん。やっぱり君も、私と同じギャラクシーアイズ使い───それも、私以上にそちらに特化しているみたいだね」

 

「無論だ。タキオンドラゴンは我が生涯の友───いと気高き最強の竜。

 

ならばそれを誇ることに、何の衒いがあるというのか」

 

 

いやない。と無言で続けて、ミザエルはタキオンドラゴン(自慢の竜)を存分に見せびらかす。知っていたとはいえ、こうも堂々とタキオン頼みのデッキだと宣言されるとは。何故だか聞いたこっちが恥ずかしくなって来た。

 

もう、突っ込むのはやめよう。私のためにも。

 

 

「バトルだ!

 

私はタキオンドラゴンで、貴様のギャラクシーアイズを攻撃!

 

殲滅の、タキオンスパイラル!」

 

「攻撃力は互角…………でも、貴方のモンスターにはナンバーズ特有の耐性がある。

 

なら私は、リバースカード、《RUMーデヴォーション・フォース》、発動!

 

攻撃対象となった光波竜をランクアップさせ、新たに召喚したモンスターへと攻撃対象を移し替える!」

 

「むっ………!?」

 

 

予想外のカードに、多少の動揺を示すミザエル。

 

私に対して『何者』云々と言ってたから私がRUMを使うことは知ってたんだろうけど、こうもあっさり当然のように、それも単なるコンバットトリックで平然とランクアップを決行するのは、やはり彼にとっては驚愕に値する出来事、なのかもしれない。

 

 

「私はランク8の光波竜1体で、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 

しかし、そちらの事情など、バリアンなんかを優に凌駕する異端であるこの私には何の関係もない。出来ることは、なんでもやる。彼が張ったこのフィールドもそう。元よりこのゲームはそういう遊戯(なんでもあり)なのだから。

 

 

「闇に輝く銀河よ。とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ!

 

顕現せよ! ランク9、《超銀河眼の光波龍》!

 

───そして、そのまま迎撃!」

 

「ぐっ…………!?」 ミザエル LP 4000→2500

 

 

進化した我が勇士が時空を司る竜を圧倒し、繰り手に浅くはない傷を確と刻み込む。

 

たかが一撃と侮るなかれ。この迎撃は、一時とはいえ彼のタキオンをこちらの光波竜が上回った証だ。特にタキオンを溺愛する彼ならば、この一撃だけでこちらの認識を改めるには十分だろう。

 

 

「貴様───」

 

「残念。この戦闘は私の勝ち。でも───」

 

 

でも、彼の銀河竜が、バリアンの力の結晶が、この程度で終わるはずがない。

 

 

「…………いいだろう。ならば、見せてやる!

 

バトル終了時、私はタキオンドラゴンのモンスター効果を発動!

 

タキオン・トランスミグレイション!」

 

 

 

───その瞬間。世界から、色が消えた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「───銀河眼の時空竜は、1ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドにいる銀河眼の時空竜以外の全てのモンスター効果を無効にし、その攻撃力・守備力を元に戻す!

 

更に、このターンの間、タキオンドラゴンの攻撃力は、このバトル中に効果が発動したカード1枚につき、1000ポイント攻撃力をアップする!

 

時空を遡り、再び顕現せよ!」

 

 

最早見慣れた色褪せた景色。全ての時が歪み行く世界の中で、タキオンドラゴンのみが気高く吼える。

 

今のこの空間は、タキオンにのみ行動を許可された聖域。如何なプレイヤーと言えど今のタキオンに逆らえば、火傷では済まない怪我を負うことになる。

 

 

「なるほどね───確かに強力な効果だよ。

 

でも、如何に凶悪なスキルも、貴方のバトル終了時、つまりエンドステップに発動されたのなら、幾らでも対処法はある。

 

そもそも、私の光波龍の元々の攻撃力は4500。このターンバトルで発動したカードの枚数はデヴォーションフォースの1枚、すなわち君のギャラクシーアイズの攻撃力は4000止まり。それなら残念だけど、ちょっとだけ足りないねぇ」

 

「───フン」

 

 

愚かな。そのくらい、他ならぬタキオンドラゴンの所持者たるこの私が理解してないとでも思ったか。

 

確かに突然のランクアップ、バトルを介しての進化には面食らった。これは真実だ。しかし、私にすればそんなもの、単なる弱者の小細工に等しい。

 

いや───そうか。そうだった。奴はランクアップこそ使えれど、その肉体は間違いなく人間である、とベクターは言っていた。あやつの言葉を信じるのは業腹だが、実際に相対した感覚では、その見立てが間違っているとも思えない。すなわちこれは、正しく弱者の足掻き、小細工であるわけか。

 

───それならば、こちらも遠慮はすまい。誇り高きバリアンの戦士、強者の義務として、その小細工を真っ向から粉砕せしめようではないか。

 

 

「更に、この効果を使用したタキオンドラゴンは、再び攻撃ができる」

 

「っ、でも…………!」

 

「そして私は、速攻魔法《銀河衝撃》を発動!

 

私の場のギャラクシーアイズがそれ以上の攻撃力を持つモンスターと戦闘を行う場合、デッキの『ギャラクシー』カード1枚を除外することで、その攻撃力を1500ポイントアップさせる!

 

更に! この効果でバトルを行う相手のモンスター効果は無効となり、そのモンスターに適用されているカード効果も無効とする!」

 

 

 

 

 

 

《銀河衝撃(ギャラクシー・ショック)》

速攻魔法

①:自分フィールド上の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を選択し、

その選択したモンスターがその攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターと戦闘を行う時、

自分のデッキから「ギャラクシー」カード1枚をゲームから除外して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力は1500ポイントアップする。

また、選択したモンスターと戦闘を行う相手モンスターの効果と、その相手モンスターに適用されたカードの効果は無効化される。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドルベからの「ギャラクシーアイズを使う奴がDr.フェイカーの開催した大会に参加している」という言葉を受けてあの大会を観始めた私は、奴の超銀河眼の詳細な情報を知り得ていない。

 

だが、それでも記憶には確と残っている。覚え違いでなければ、奴のギャラクシーアイズの効果は大雑把に「コントロール奪取」だ。

 

それに加え、あのモンスターの効果はオーバーレイユニット全てと引き換えに相手モンスターのコントロールを全て奪う、だったと思うが、しかし、それ以外には何もない、というのは甘えだろう。

 

客観的にあの大会を観た限り、あのモンスターの効果は先に述べた起動効果のみで相違はない、そう思う。だが、念には念を。もしや奴のギャラクシーアイズが「このカードを破壊したモンスターのコントロールを奪う」なんて効果を保有していた日には、我が魂たるタキオンドラゴンが私の失態により無様を晒すことになる。故に、過剰であろうと、奴の行動は可能な限り潰させてもらう!

 

 

「私はタキオンドラゴンで、貴様のギャラクシーアイズを攻撃!」

 

「うくっ───」 さなぎ LP 4000→3000

 

 

かつて大会で、「奥の手」とまで公言していたカードを破壊されたからか。

 

今の今まで、真剣な雰囲気ながらも笑顔で固めていた表情を僅かに曇らせて、しかしまるで衝撃を感じてないかの如く身動ぎさえもせずに奴は佇む。

 

その思考は、未だ読めない。いつもヘラヘラとして感情を読ませない人物はといえばあのベクターが第一に浮かぶが、奴はそれとはまた別の意味で他者にその思考を悟らせずにいる。

 

全く───実に面倒だ。対応に悩む人間など、あのベクターのみで充分だと言うのに。ドルベの心配性が、私にも感染ったか?

 

 

「っ───さすが、だね。でも…………」

 

「ほう。貴様は、随分と頑丈なようだな。

 

我がタキオンの一撃を受けてなお、目立ったダメージすら見られぬとは」

 

 

分厚い笑顔に隠された表情、悔しさからこちらを鋭く睨みつけてくる奴に対して、私は素直に賞賛する。

 

タキオンドラゴンの一撃。それは我々バリアンにとってさえ、まともに喰らえばかなりの衝撃となるものだ。それを奴は、人の身で軽々と乗り越えた挙句、逆にその衝撃を与えたタキオンを睨み返している。

 

生意気だ、とは言うまい。奴は先の戦闘で、それだけの力を示した。神聖なるランクアップをあのように気安く使うとは、我々バリアンには考えもつかなかったことだ。しかし、そんな小細工も、この一撃で流石に───

 

 

「さて。それはどうかな?」

 

「───なに?」

 

 

一転。

 

奴の表情が先のより更に腹立たしいヘラヘラしたものに変化し、それに伴って周囲の雰囲気すらも変わっていく。

 

同時に感じる、拭いきれぬ既視感。そうだ、間違いない。この手口は、ベクターのそれと同じ───

 

 

「罠カード、《光波分光》、発動!

 

この戦闘で破壊された超銀河眼の光波龍を、墓地から特殊召喚する!」

 

「チィッ…………!」

 

 

まんまとしてやられたことに加え、心底から気に喰わない男の不快な笑い声が脳裏に浮かび、私は人目も憚らず盛大な舌打ちをする。

 

まだ、せいぜい盤面を戻した程度ではあるが、タキオンを前にしてこのような真似を、

 

 

「更に! この効果で特殊召喚したモンスターと同名のモンスターを、エクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

 

「───な。んだ、と?」

 

 

 

 

 

 

 

《光波分光(サイファー・スペクトラム)》

通常罠

①:自分フィールドのX素材を持っている「光波」Xモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、

その「光波」Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを墓地から特殊召喚する。

その後、その対象のモンスターの同名Xモンスター1体を

エクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

奴の言葉を理解できず、固まる。

 

単語の意味は、当然わかる。だが、それを為した後の結果が理解できない、想像できない。奴は今、(・・・・)なんと言った(・・・・・・)

 

 

(───同名の、モンスターエクシーズ………?)

 

 

「さぁ、かつての次元を経て、この世界にその身を顕せ!

 

ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

「2体目の、ギャラクシーアイズ───!?」

 

 

 

 

 

 

 

───ギャラクシーアイズが2体、揃うとき

 

───大いなる力への、扉が開かれる。

 

 

 

 

 

 

(───まさか…………!)

 

 

あり得ない光景。寸分違わぬ姿形をした【銀河眼】の名を冠する2体のモンスターが立ち並ぶフィールドを間近で見てしまった私の脳裏によぎったのは、誰が伝えたのかさえ定かではない、しかし確かにバリアン世界に逸話として残されてきた、ギャラクシーアイズに関する伝説のことだった。

 




なーんでシャークといいミザエルといい、普通に動かしたら変な勘違いをしちゃうのかなぁ…………特にシャークはなんであんな勘違いをしたし。いや、ナンバーズをある種の絶対視をしてる彼らならそう考えるのが自然だろうと作者が思ったからなんだけどね。





ちなみに、彼女が81話終了時点まで忙しかったのは、原作の流れにあるギラグさんがさなぎちゃんをテレビで見るイベント(仮)に世界さんが精一杯合わせようと必死になっていたから………なんて裏設定があります。それゆえに『偶然にも』前回の学校でギラグさんが『なんとなく』何も遊馬に手出しをしなかったり、とか。まあ、そんな感じです。

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