デュエルバンドなんてなかった。   作:融合好き

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FGO廃人の作者がメンテナンス中に暇で書いたネタ作品です。突っ込みどころ満載なのは推敲を一切していないから。需要がありそうなら暇な時にでも書きます。


解散! デュエルバンド!

これが果たして苦痛でなかったかと言えば、嘘になる。

 

綺麗に終わらせた物語。未練はあれど、それは当然のことだ。そもそもからしてヒトの一生なんてものは不確定なことだらけで、人生そのものを私のように綺麗に畳める(・・・)ことができるのは、きっと珍しいことなのだろう。

 

それを不幸と取るか幸福と取るかはさておき、だからこそ私はこうしていつまでも戸惑い続けている。

 

「死」によって締め括られた、誰でもない何かの物語。今の私とはまるで異なる歴史を刻んだ、不恰好な伝記本。

 

かつての私は、それで満足したはずだった。どうにも記憶が曖昧だし、身辺整理、なんて言葉で済ませていいのかよくわからないけど、なんとなく、それなりに上手くやったような気がするのだ。そりゃあまあ唐突に死病だの宣告された時は絶望したけれど、今となっては通り魔だの交通事故だのによる外傷で即死しなかっただけ幸せであるとこの私は思っている。当然、このあたりの持論も人それぞれで、一般的には私が不幸な人間であった事実は否定しない。というかこんなに語っておいて何だが、今となってはこんなことはどうでもいい。

 

そう、かつてをどれほど嘆こうと、それは文字通り「終わったこと」なのだ。だから───

 

 

 

「ワールドデュエルカーニバル?」

 

「そうそう。この街全体を巻き込んだ、かなり大掛かりな大会になるみたいだよ?」

 

「ふーん……」

 

「それに優勝者はあのMr.ハートランドが願いを叶えてくれるんだってさ!」

 

 

 

───願い。願いを叶えると来たか。『なんでも願いが叶う』なんて陳腐な文言、正直物凄く胡散臭いのだけど。

 

 

「へぇー?」

 

 

いつもの仮面を貼り付けて、如何にも『私』らしく朗らかに微笑んでみせる。いや、この表現は適切ではない。私はあくまでも私なのだ。疑問を抱く段階など、愛すべき両親からの教育(愛情)という名の洗脳により過ぎ去っている。なら今はそれよりも、目の前のことに思考を割くべきであろう。

 

衣装をある程度整えて、スタッフの彼女へと向き直ってから言葉を紡ぐ。これ自体は無用な問答だが、無意味であるとは思わない。それがどのような結末を辿るにせよ、そうした、という事実そのものが何らかの意味を有するからだ。

 

少なくとも、この私という存在はそれをこれ以上なく体現している。だから私は───

 

 

「さなぎちゃん?」

 

「え───あ、うん。ごめん、ちょっとぼんやりしちゃってたかな?」

 

 

未だ微妙に引っかかる本名を呼ばれたことをきっかけに、ズレていた思考を元へと修正する。

 

───WDC。その単語は、良く覚えている。なにせそれは、この私とかつての私との繋がりを証明する数少ない要素の一つだ。しかし、私はそれを意図して遠ざけていたにも関わらず、まさかこんなところでその言葉に対面することになるなんて流石に予想外ではある。まあ、原作(・・)でもあれだけ大々的にやっていた大会なので、それ自体には不思議はない、けれど。

 

 

「けど、どうして私に?」

 

「え? だってさなぎちゃん。デュエル、凄く強いじゃない。あれだけ強いなら、優勝だって狙えちゃうんじゃないかなって」

 

「いや、そっちじゃなくて…………うん」

 

 

あくまで常識的に意見を返そうとしたが、嫌味になってしまいそうだったので咄嗟に言葉を濁す。

 

自慢になってしまうが、私はこれでも多忙の身だ。おそらく、同年代のアイドルの中で一、二を争うほど人気があると自負しているし、私自身も若輩の身で大任を背負っている立場に恥じぬよう日々精進を重ねている。

 

だからこそ単純に、そんな私がそう簡単に私用(大会)で休養を取ってもいいのか、といった疑問であったのだが、私以上に私のスケジュールに詳しいスタッフである彼女の様子を見るに、デュエル第一のこの世界では案外問題にならないのかもしれない。かつての私の感性からすると、なんとも信じがたいものだ。

 

それに、私が強いのは当たり前だ。なにせカードプールがそこらの人とは桁違いだし、だいぶ趣味に走っているとはいえ、私のデッキはかつての中堅デッキのガチ構成。運命力もそこそこあるから毎回理想とまではいかなくても数ターンあればだいたい勝利への道筋は掴める。更にはこの世界はいわゆる魅せる(・・・)デュエルが主流である以上、そんなある意味ではつまらない私のデッキがそうそう負けるはずがないだろう。

 

 

「ほらほら、この端末で申請すれば、すぐにハートピースってのが届くってさ!」

 

「あはは…………うん、考えておくね。でも、とりあえず今はちょっと…………」

 

 

そもそも私は大会そのものがアレなことを知っているし、それ以前に今は仕事の直前だ。スタッフの彼女と駄弁る時間くらいは流石にあっても、悠長に出るかもわからない大会の出場申請をしている暇はない。

 

否。最早私は社会人なのだ。かつての私よりもだいぶ早く社会に出てしまったとはいえ、既に我儘が通じる世界に身を投じていない。確かに私がこの世界でもどれほど通じるのかは興味がある。しかし、私が望んで挑み、成し遂げたこの道、この仕事を、そんな大会なんぞで無為にしていいのだろうか、いやない(反語)

 

───そう、私が目指すべくはアイドルマスター! 決して決闘王ではない!

 

原作なんぞクソくらえ! どうせ私はいわゆる原作では単なる脇役(モブ)! 言うなれば居てもいなくてもいい存在! 誰の邪魔にもならないし、むしろ貴重なファン(※ギラグさん)が一人増えると確約されているだけ素晴らしい人生!

 

いやぁ、アイドルって、いいよね…………。 できればアイマスの世界とかに生まれたかったけど、ないものねだりはできないし、曲がりなりにも成功している身分で贅沢は言わない───って、違う違う。また話が逸れた。

 

気づけば時間もいい感じに潰れていたので、彼女を適当に言いくるめながらスタジオへと衣装が崩れないよう丁寧に歩いていく。残念ながら色よい返事は返せそうにないし、正直割と余計なお世話であったが、まあ、彼女もミーハー気味なだけで普通にいい子だし、おかげで緊張もなく気が紛れたからむしろ嬉しいくらいだ。さて、じゃあ今日も一日頑張ろうかな………!

 

 

───なんてことを考えたのがフラグだったのだろうか。

 

 

あえて経緯は省く。私としては自然体でアイドルに望んでいるから「私」としての問答を推敲してたりはしてないし、そもそもそんな一言一句無駄に思考を割いていたら身が持たないしね。

 

だからこそ、なんだろうか。ほんの少し、僅かな時間の問答。歌が終わって「はーいお疲れ様でしたーいやー調子はどうですかー」ってノリでちょっとだけ司会の人と言葉を交わして。

 

で。

 

 

『そういえば、そろそろデュエルカーニバルが始まりますが───』

 

 

ある意味では当然のように、まずなんにせよデュエルが第一に挙がるこの世界の人物はこんなことを言い出す。

 

そうすればどうなるか。所詮は一アイドルに過ぎない私が売れっ子の芸能人(司会進行役)を落胆させるわけにはいかないので、なればとりあえずとして(・・・・・・・・)色よい返事(出るとは言ってない)を返すしかないわけで───

 

後はまあ、語るまでもない。結果として、私がスタッフの彼女を悲しませることはなくなった。ただそれだけのことだ。本当、人生とは不確定なことばかりである。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

デュエルを理由にしたら不気味なほど簡単に有給をもぎ取ることができ、少しだけこの世界のことが怖くなりつつも私は久々の休暇を堪能する。

 

しかし、これが休暇かといえばそれはそれで微妙で、どちらかといえば営業に近いサムシングなのかもしれない。

 

何故なら、今私が手に持つは、WDCの参加資格であるハートピース。しかし衣装は事務所の希望で仕事着のまま。更には私のデュエルを撮影するためのスタッフが隠れていると来た。これはあれだ。どう考えてもどっかの番組で「㊙︎映像!」的なノリで映像を使う気満々である。

 

アイドルでなくても、業界人のプライベートは視聴者を釣る格好の餌だ。「あの人が自分達と同じ大会に出ていた」という証拠映像なんて、その手の人にとってはお宝になるのだろう。

 

一応は休暇として来ている身で無遠慮な真似をされるのは業腹だが、アイドルなんてこんなものだし、自由にしているだけでギャラが入るらしいから別にいい。というか既に慣れた。伊達にこの歳でアイドルをやっていないのだ。

 

しかし、となると私は下手なデュエルは出来ない。いや、別にアイドルにデュエルの強さなんて求める人はあんまりいないのだろうが、これでも私は「アイドルデュエリスト」という謳い文句を背負っているのだ。ならば必然、拙いデュエルなど見せたくはないと思うもの。個人としても、立場としても。

 

だが、言うは易し。それは中々に難しい注文でもある。どんなものでも、一方的な展開は周りを白けさせてしまう。これは自惚れであるが、私にとっては確信に近い。そう、つまり、要するに。いい勝負(・・・・)ができそうなデュエリストが、さっきからまるで見つからないのだ。

 

 

「うーん…………」

 

 

珍しく、愚痴に近い声が口から漏れ出る。無論、言葉として成立させるような愚行はしないが、気持ちとしては同様だ。なんの気休めにもならない。

 

実のところ、ついさっき一度は戦ってみたのだ。名前も知れない、おそらくはこのハートランドで一般的な実力を持つであろうデュエリストの一人と。しかし、その結果は圧勝。しかも手札が良かったわけでもないのにまさかの後攻ワンキルという結果。所詮はアイドルとこちらを舐めていたっぽい対戦相手がこちらに恐怖の目を向けてくるとか、そんな見るも無残なそれは当然映像として使えるはずも無く。

 

そして、なまじ初戦がそうだったために私は躊躇をしている。次も、となれば、私はどうすればいいのか、と。

 

 

「…………」

 

 

うん。ちょっと休もう。

 

思考が鬱になりそうだったので、一旦間を置いてクールダウンすることにする。

 

思考が煮詰まった時は、それ以上を考えることは毒だ。そうしなくてはならない時もあるけれど、幸いにも今は(一応)休暇中。少しくらいぼーっとして無為に時間を使っても誰も咎めないだろう。

 

そうと決まれば、付近に付いてたスタッフに事情を話し、しばらくの間一人にしてもらう。そして適当な自販機で買ったジュースを片手に、近くのベンチにでも座ろうとして───

 

不意に、視界が一部闇に包まれる。

 

 

(…………ん?)

 

 

何事かと辺りを見渡せば、片目に付けっ放しで放置していたARヴィジョンが薄暗く不気味なフィールドを映し出しているのが見えた。

 

 

(フィールド魔法?)

 

 

誰か、近くでデュエルをしているのだろうか、と当たりをつけ、何となしにこのフィールド魔法について記憶を漁る。

 

はて、このフィールド魔法はなんだっただろうか。《闇》ではないし、ぱっと見ではあまり馴染みがないフィールドに見える。

 

でも、この私にとっては違う。そうだ…………このフィールドは、確か───

 

 

 

(《エクシーズ・コロッセオ》───)

 

 

 

ゾクリと、背筋が泡立つ。

 

かつての私が、どうしようもなく警鐘を鳴らしている。踏み込んでは駄目だと。これ以上を考えるなと。

 

 

(WDC、エクシーズ・コロッセオ…………遊戯王)

 

 

手に持った缶を無意識に落とす。栄養たっぷりのトマトジュース。血のように赤く、冷たいそれは、まるで何かを暗喩しているかのよう。

 

ガンガン鳴り響く警鐘とは裏腹に、私の足は事態の中心へと駆けていく。

 

まさか、とは思う。とてもでないが、こんな偶然、あまりにも出来過ぎだと思う。しかし、もしもそうだった(・・・・・)として、私がそれを見てしまったのなら───

 

 

 

「行け、ジャイアントキラー!! ファイナルダンス!!」

 

 

 

(……………………)

 

 

 

───私は、たくさんのファンを持つ一人の偶像(アイドル)として、その行為を見過ごせるのだろうか。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぎちゃ───」

 

 

……………………

 

 

 

「──なぎち───」

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

 

「さなぎちゃん!」

 

 

「───っ!?」

 

 

耳元で叫ばれた声で、深く沈んでいた意識が覚醒する。

 

まずい。完全に意識が飛んでいたみたいだ。寝坊した時特有の、瞬時に出てきた膨大な冷や汗が全身に不快感を催す。

 

一体、自分はどうしていた? まさかとは思うが、大切な仕事をすっぽかしてしまって────と脳をフル回転させ…………しかしすぐさま直前の出来事を思い出すことに成功し、安堵と同時、怒り感情がふつふつと湧き上がる。

 

 

「さなぎちゃん! 大丈夫!?」

 

「あ──うん。私は大丈夫。ちょっと疲れていて…………その、ごめんね」

 

「…………本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。ついさっきも休んだばっかりだし、ね」

 

 

嘘だ。体力的にはともかく、精神的な負担は自分でもはっきり自覚できるほどに大きい。しかし、それも当然かもしれない。でも、自分では説明できない感情もあるから、明言することはできない。

 

 

「…………」

 

 

スタッフの彼女が、何か言いたそうな表情でこちらを見ている。取り繕うのは得意だと思っていたのだが、流石に彼女を誤魔化すことはできないか。いや、私の技術を以てなお覆せないほど、私自身が参っているだけかもしれないのだけど。

 

会話する気力もなく再び沈黙し、ぼんやりと虚空を見つめて曖昧なイメージを思い耽っていると、常にない態度の私を心配してか、彼女がやや慌てた様子でかなり強引に切り込む。

 

 

「で、でも、凄いよね! 確かにさなぎちゃんなら、って言ってたけど、まさか本当に決勝トーナメントまで出場しちゃう(・・・・・・・・・・・・・・・・)なんてさ!」

 

「──それはそうだよ」

 

「え?」

 

「あ。いや、なんでも──」

 

 

いや、それとも。

 

 

(───相当、やばいのかな。自分ではあんまり、自覚はないんだけど)

 

 

むしろ、自覚が薄いからこそまずいのかもしれない。ついうっかりであまりに乱雑な発言をしてしまったが、普段ならこんなミスは絶対にしないはずだ。

 

アイドルとは、たとえ仲の良い友人相手であっても、その(・・)姿を見せてはならない。そういう姿(・・・・・)を見せてしまったら、偶像としての私が崩れてしまうから。まして私は、それこそが最大の売りなのに───。

 

 

(──駄目だ。考えるな、私)

 

 

深みにはまりそうな思考を強引に切り捨てて、意識を次へと無理矢理に向ける。

 

次。すなわち私がどうにか滑り込むことに成功した、WDC決勝トーナメント。ここハートランドから選りすぐった8人の猛者達が、互いに鎬を削り合う儀式会場。そして私は、単なる運だが、その栄えある第一試合に選ばれており───

 

 

(──あの(・・)カイトさんと闘うん、だよねぇ)

 

 

これぞまさしく運命か。よりにもよって、この私が天城カイトと闘うことになろうとは。

 

私が彼とデュエルすれば、最早嫌な予感どころか、確信を持って厄介な事態になることが確定しているが、くじ運だけは本当にどうしようもない。かといって慣れないデッキを使ってあのカイトさんに勝てると断定できるほど私は強くない…………と、思うから、目的を果たすためにも、どうにか彼を倒さなくてはならないわけで。

 

 

 

 

 

(──まあ、ランク4主体でやれば、なんとかなるかな?)

 

 

 

正直、かなり甘い見通しだなぁとは自分でも思う。けれど、人生なんて所詮はそんなものであるからして。まあ、多分だけど、なんとかなる、はず。

 

 

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

「私は、《光波翼機(サイファー・ウィング)》の効果を発動!

 

このカードをリリースすることで、自分フィールドの【サイファー】モンスターのレベルを4つ上げる!」

 

「これで、レベル8のモンスターが2体…………!」

 

 

無理でした☆

 

いやー、きついきつい。まだ(物語が)序盤だからそこまで強くないんじゃね? なんて理屈まるで通用しなかったよあはははは。や、私も頑張ったんだよ? でもね? やっぱりエクシーズ主体だと割と光子竜が刺さるなぁって、ねぇ?

 

そもそもからして、私と彼では運命力が絶望的なまでに違う。一般人に毛が生えた程度のモブな私では、メインキャラクターであるカイトさんに相対的な運気で敵うはずがないのだ。それでも致命的な事態になっていないのはこっちのカードパワーが圧倒的であるからで、しかしそれも時間の問題といった感じ。

 

いや、初手からギャラクシオンとか勘弁してよ。それも貴方確かアニメでは手札から召喚してたよね(※覚え違い)。なんで私に限ってデッキから出しているの。貴方は手札を節約するような人じゃないでしょうに。

 

カステルで凌いだらパラディオスで返されるし、次のターンにはなんかデッキに戻した光子竜を運命力で素引きしやがりますし、ダベリオンなんて出した日にはどうなるか火を見るよりも明らかだ。

 

…………というか、そもそも私のエクストラがさっきからめっちゃ五月蝿い。早よ出せはよだせハヨダセはーやーくーと騒いでいるもんだから落ち着くことすらできやしない。お前らはそんなに同族が好きか。せめて前世から持ち込んだっぽい私のカードくらいは異次元的反応を見せないで大人しくしてくれないかな。

 

 

「…………私は、レベル8となった《光波翼機》2体をオーバーレイ」

 

「っ───」

 

 

そんなこんなで圧倒的優位に立つはずの彼が、私の言葉に過剰なほど身構える。

 

それは、フォトンの力を使った反動か、私の反撃に対する硬直か、それとも────次に出すモンスターが、どのようなモノかを感じ取っているのか。

 

私の今のライフは2000。フィールドは光波翼機2体だけで手札はなし。対する彼は手札こそないが、ライフは無傷にしてフィールドにはギャラクシオン、パラディオス、光子竜に伏せが1枚という強力な布陣を敷いている。

 

ここから一体、光子竜やパラディオスと相性が悪いエクシーズを出したところで本来ならたかが知れている。しかし、かつての私のカードパワーは、そんな甘い常識を覆すほどに、理不尽の極みであったのだ。そして───

 

 

「───闇に輝く銀河よ。

 

今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ。

 

エクシーズ召喚。ランク8、《銀河眼の光波竜》!!」

 

 

 

 

 

《銀河眼の光波竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

①:1ターンに一度、このカードのX素材を1つ取り除き、

相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。

この効果でコントロールを得ている間、その対象モンスターのカード名は「銀河眼の光波竜」として扱い、

攻撃力はこのカードと同じになり、直接攻撃できず、効果は無効化される。

 

 

 

 

 

 

───同時にこれは、彼にとって、絶対にあってはならない存在でもある。

 

 

「ギャラクシーアイズ…………だと───!?」

 

 

今の今までクールな相貌を崩さなかった彼が、驚きからかその眼を精一杯に見開く。

 

だけど、それも当然だろう。かつての私の記憶が確かなら、ギャラクシーアイズとはそれすなわちバリアンの力の一端………とかだった気がする。いや、細かく覚えていないんだよね本当に。だって私、つい先日まで原作云々に関わる気なんてなかったからさ。

 

でもまあ、本来なら人外(カイトさん含む)しか使えないような、貴重なカードであることだけは間違いない。それをこんなアイドル風情………言い換えればただの人間如きがさらっと使ったのなら、それほどの驚愕もわからなくはない。

 

 

「おお! 言われてみれば…………奇遇だね!」

 

 

(───まあ、そんなわけはないけど)

 

 

しかし、ただのアイドルであるこの私に、彼の事情など知る由もなく、考慮する理由もない。たとえこのカードが異常な存在であろうと、実際にあるからには仕方ないのだ。

 

それに、このカードは元々光子竜くんのオマージュ、つまりはパクリモンスター。なら、トラコドンとかドリアードとかマタンゴみたいなノリで使っても問題は…………ありますかそうですか。でも知りません。このカードは誰がなんと言おうと「私のカード」であることは間違いないからね。

 

 

「私は、《銀河眼の光波竜》の効果を発動!

 

このカードは1ターンに一度、オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールをエンドフェイズまで奪い取り、更に奪ったモンスターの名前とステータスをこのカードと同じにする!

 

対象は、《銀河眼の光子竜》!」

 

「なんだと…………!?」

 

 

自重? 知りません。そうして勝てるならともかく、私はあの男と話し合うまでは負けるわけにはいかないのだ。思い入れとか切り札だとか、こうしてフィールドに出した時点で利用される覚悟はして然りなのです。

 

 

「だが!

 

速攻魔法、《銀河爆風》を発動!

 

銀河眼の光子竜の攻撃力を半分にすることで、その効果を無効にする!」

 

 

 

 

 

《銀河爆風》

速攻魔法

①:相手フィールド上に表側表示で存在するカードを2枚まで選択して発動できる。

このターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上の「光子」または「フォトン」と名のついた

モンスター1体の攻撃力を半分にし、選択したカードの効果を無効にする。

 

 

 

 

 

 

「むっ──」

 

 

通る予感があったのに、普通に返すことができるのか。やっぱりそこらのデュエリストとは格が違うな、メインキャラという存在は。

 

でも、甘い。私が諦めずに攻勢に出たのは、ここで仕留める自信があったからだ。

 

まあ、なるべくならこのカードだけは使用を控えたかったけど。うん、流石にね。──いや、今更、か。

 

 

「──このカードは、自分フィールドの【ギャラクシーアイズ】エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することができる。

 

私は、ランク8のサイファードラゴンで、オーバーレイネットワークを再構築」

 

 

宣言と同時、エクストラデッキの中からとあるカードを取り出す。

 

それは、ギャラクシーアイズデッキならばまず一枚は投入して然るべきの、ごく当たり前のカード。そして同時に、光波竜同様にあり得てはならないカード。しかし、それがこの世界でどのように扱われているのかなど、この私にはどうでもいいことだ。

 

 

「───銀河に滾る力。その全身全霊が尽きる時、王者の魂が世界を呪う。

 

エクシーズ召喚! ランク9、《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」

 

 

 

 

 

《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守 0

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドの

「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

このカードはX召喚の素材にできない。

①:このカードがX召喚に成功した時、

自分のデッキからドラゴン族モンスター3種類を1体ずつ墓地へ送って発動できる。

相手はデッキからモンスター3体を除外する。

②:このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。

 

 

 

 

 

 

ナンバーズ。この世界における「特別なカード」の1つであり、その筆頭。主人公たる九十九遊馬くんの相棒にしてセコンドたるアストラルの記憶の欠片。

 

私が持ち込んだ(・・・・・)のであろうこのカードはその例に入っていないのだろうけど、確かめたわけではないから実際にはどうなのか。正直、あまり興味はない。

 

 

「ナンバーズ………!?」

 

 

(───違う、んだけどね。でも、聞いてくれないんだろうな)

 

 

残念ながら、私の持つナンバーズはその全てが偽物だ。当たり前のように戦闘耐性は省かれ、ホープくんは自壊し、ホープレイは自壊せず、ライトニングさんなんて漫画の世界から紛れ込んで勝手にランクアップする始末。正直、どう考えてもおかしい。

 

まあ、今出したダークマターを始め、そっちの方が強いカードもたくさんあるから一概には駄目だと否定できずとも、サイファーはどうにかなってるんだからせっかくなら、と考えたことくらいは───おっと。まずいまずい。また思考が逸れてしまった。

 

…………今、彼のフィールドに伏せカードはなく、墓地にあるのはさっきの速攻魔法とフォトンリードフォトンサンクチュアリ、デイブレーカー×2にフォトスラフォトンサークラーだったはず。つまり、彼にこの攻撃を防ぐ術はない。

 

ここで私が本当の一般人ならば、魅せ(・・)を意識して実はまだ一度も効果を使ってない光子竜くんを打ち破ろうとするんだろうけど、卑怯な情報アドバンテージを持つこの私には無効。すなわち、彼はここで終わりだ。

 

ロクに覚えていないが、彼にもなんか崇高な目的があったような気はする。しかし、それとこれ(決闘)とは話が違う。故にそれは、事情を知らない私が考えていいことではない(・・・・・・・・・・・)

 

 

「私は、ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴンのモンスター効果を発動。

 

この子はオーバーレイユニットを1つ使うことでこのターン、モンスターに対して2回まで攻撃することができる」

 

「なっ───!」

 

 

(───ライフ4000って、やっぱり怖いよねぇ。1ターンの油断が、敗北に繋がるんだから)

 

 

アニメでは「尺の都合」で済むルールも、現実となると殊更に重い。特にかつての私(9期以降)が相手なら、当然。

 

その邪悪な双眸を妖しく輝かせるダークマタードラゴンと、状況を察してか若干萎縮しているようにも思えるカイトさんが対となって見える。このままではまずい、どうにかしてハルトを、なんて考えているのかもしれない。でも………。

 

否。改めて考えるまでもなく、私が彼に親しみを感じる必要はない。なにせ実はこの私、彼と挨拶すら交わしていないのです。まあモブなんてそんなものだよねぇ。…………それが現状に繋がっているのだから、笑えないけど。

 

 

「じゃあ、バトル!

 

私はダークマタードラゴンで、ギャラクシオン、パラディオスの順に攻撃!

 

これで、終わりだよ!」

 

 

 

(──まあ、『終わり』じゃないんだろうけどね。

 

これから、どうしようかなぁ…………)

 

 

半ば確信しながらも、攻撃の手を緩める真似はしない。今の私は、アイドルである前に、一人のデュエリストなのだから。

 

 

「馬鹿な………!!

 

うわぁあぁぁぁああああああ!!!」 カイト LP4000→2000→0

 

 

闇の光線に呑まれて爆散していくモンスターに巻き込まれて、彼が会場の端へと盛大に吹き飛ばされていく。

 

そんな彼の姿を見ながら私は、ARヴィジョンなのになんで吹き飛んだんだろう、なんて至極どうでもいい疑問を抱くのであった。





なお、予選にあった謎コースターは謎だったので省いています。決勝トーナメントはゲームを参考に8人でのトーナメント形式。メンバーは物語の中で重要そうな順に決めています。

しかし、久々に遊戯王書いたなぁ…………リンクとか勘弁してよ…………。

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