「ガンダム・フレーム、バルバトスか……我らギャラルホルンの伝説として語られた存在が、今や宇宙ネズミに使われるとはな」
「しかしその力は確かな物だ、実際に果たしあったお前ならそれは良く解るのではないか?」
「普通のMSに比べると強いと言わざるを得ないが、勝てない相手ではない」
火星の衛星軌道を飛ぶギャラルホルンの戦艦のブリッジにて、モニターに映し出されたデータを見つめながら話をしあう二人の男、マクギリスとガエリオは先程戦闘を行っていた鉄華団のMSについて話し合っていた。300年前の厄祭戦の末期に活躍した72機のガンダムの名を冠するMS、その内の一機であるバルバトスがいた故に二人はやや驚いていた。
「それで?マクギリス、お前の方で相手をしていた奴は如何なんだ?」
「ああ。これの事か」
データを出力し映し出されたヴァイスリッターを改めてガエリオは目にした。バルバトスにばかり気を取られていた為にヴァイスには余り目を配れていなかった。漸くマジマジと見る事が出来たが、白く滑らかな装甲とその出で立ちはまるで騎士のようにも思えた。
「ほう……中々美しいMSだな」
「私もそう思う。しかしこの乗り手も中々のやり手でな、やや手玉に取られてしまった」
「それでこいつの詳細は。見た事もないタイプだな……」
「見た目からの該当は一切無し、ワンオフの機体かもしれんな。エイハブリアクターのマッチングは今行う所だ」
二人にとっても興味深いヴァイス、その正体を知った時二人はどのような反応をするのだろうか……。
「つまり、今クランク二尉はこの鉄華団で子供達の教師をしていると……?」
「まあそんな所だ、出来る事はその位でな。雪之丞、MS整備のマニュアルだ!」
「おう助かるぜ!んじゃエクセレン、リアクターの調整は任せるぜ」
「任されちゃうわね」
イサリビの格納デッキでは戦闘を終えたMSの修理とリアクターなどの調整などが行われている、そこにはエクセレンの姿もあり、主に一番面倒ともいえるリアクターの調整作業へと入っていく。本当は彼女も疲れている事だろうが、一番その辺りの作業に慣れているのはエクセレン。本人も休みたいとは一切言わずに作業に入っていく。そんな光景を見つめながら、ドックの通路に凭れながらクランクは部下であるアインと話をしていた。アインはクランクが任務に失敗し死んだものとばかり思っており、その仇を取る為に鉄華団に襲いかかったと言っても過言ではない。しかし実際はクランクは生きており、その鉄華団で働いているという。
「お前も戦ったあの白いMS、あれに乗っているあそこの女性がいるだろう。彼女、エクセレン・ブロウニングに決闘で負けてグレイズと身柄を預ける事になった。そして今は先生をやっているんだ」
「そ、そうだったんですか……」
アインの胸中は複雑であった。胸の中にあったのは自分の事を唯一対等に扱ってくれたクランクを殺した鉄華団への怒りと憎しみだったのに、実際はクランクは生きていた。それは嬉しいが……その鉄華団には自分の半分も生きていない子供達ばかりが必死に働いていた。自分は…こんな子供達を殺そうとしていたのかと思えてしまう。
「自分は……どうなるのでしょうか。便宜上捕虜という事になるのでしょうが……」
「そうだな…なあアイン、俺はこのまま鉄華団に残ろうかと思うんだ」
「の、残る!?」
クランクから信じられない言葉が出てきた事に驚愕し大声を上げてしまった。
「何故ですクランク二尉!!?まだ原隊復帰は出来る筈……!」
「いや……俺は戻らない。俺はまだ数日だがこの鉄華団と行動を共にし先生として子供達と触れ合ってきた。幼く罪のない子供達が銃を握る事でしか生きていけないなど……俺はそんな彼らを見捨てて戻る事など出来ないんだ」
そう言われてアインはかつて自分が周囲から自分が半分火星人の血を引いている事から差別され、自分の機体すらまともに整備して貰えなかった事を思い出した。あの時自分は目の前の人に救って貰えたから生きているんだと思う、あの時救ってもらえなかったら如何なっていただろうか……差別に我慢出来ずに火星に戻って不自由な生活を送って居た事だろう。
「だが彼らが生きていくには今は銃を握るしかない、だから鉄華団が大きくなりあの少年達がまともな仕事が出来るようになるまで見守ろうと思う。それが今出来る最善の手だと思う」
「最善の……」
「ああ。アイン、お前は如何する?」
そう問われても困る。先程までギャラルホルンだった筈の自分だが、ハッキリ言って自分も今のギャラルホルンには疑問と不満しかなかった。クランクの仇を取ろうとしたのも自分を救ってくれた恩師の為だからだ。だが今恩師は鉄華団にいる、自分を救ってくれた人がそうするなら……自分も、そうしてみても悪くないかもしれないと思えた。
「ねえクランクさん、ちょっとナノラミネートアーマーの補強のお手伝い上げてくれない?皆宇宙での作業に慣れてないみたいなの」
「ああ解った」
「あっ待ってください!」
通路から離れ、無重力の中ゆっくりとMSへと向かっていくクランクとエクセレンを止めるように声を上げた。二人は器用に回転ながら此方を見る。それに恥ずかしそうに頬を赤くしながら声を高くして言った。
「じ、自分もお手伝いしても良いでしょうか!?こう見えても、グレイズの整備をしっかりとして貰えるまでは自分で全部やっていたので整備は出来ます!!」
「あらっ助かっちゃうわ~。それじゃあお兄さんお願いしても良いかしら?皆~あのお兄さんも手伝ってくれるって~。クランク先生の教え子さんらしいから仲良くね~」
皆のお姉さんの声に少年達は声を上げてその言葉に従ってアインの傍まで接近しては挨拶をしていく、アインはそれに戸惑いつつも挨拶をしつつも手を引かれていく。
「ねえねえクランク先生の教え子?って事はアインさんも先生なの?」
「えっ!?い、いや俺は先生だなんて……!?」
「じゃアイン先生だね!」
「宜しくアイン先生!」
「えっええっ~!!?」
なぜか先生扱いされている事に困惑しつつも、此方を見て暖かな笑みを浮かべているクランクとニヤついているエクセレンを見て思わず助けを請う。
「皆、アイン先生が困っているぞ?さあ仕事に掛かるぞ」
「そうよ~アイン先生のご迷惑にならないようにね~」
「ク、クランク二尉ぃぃぃ~!!!!???」
この後、アインは鉄華団に正式に入り、再びクランクの部下として子供達の先生及び整備班の班長として仕事をする事になったが、如何にも班長や先生と呼ばれるのに慣れないのか呼ばれる度に頬を赤らめ、それをエクセレンにからかわれるのであった。
エクセレン「んっ~鉄華団にも大人が増えて良い感じぃ~♪
からかい甲斐もあって本当に良いよねぇ~。
良い男の頼みって結構聞いてみるとリターン大きいのよね。
そう言えばアイン君って女性経験あるのかしら?
ぬっふふふ、今度はそっち方面で言ってみようかしら!?
次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使