「はははっこりゃすげぇぞこの機体!!ロディ・フレームとは比べ物にするのも失礼なご機嫌な性能だぜ!」
「ゲシュペンストっつったか!?こんなのが17機か!!最高だな!!」
「ジャスレイさんよぉ、アンタの誘いを受けて正解だったぜ」
「全くだ。これだけの機体があれば歳星に攻め込んで其処を俺達の拠点にすることも出来るぜ!!」
周囲の人間達からの賞賛などの声を盛大に受けながら機嫌よく酒を煽る男、ジャスレイ・ドノミコルス。記憶を漸く取り戻し準備を整えた彼はテイワズから大量の機体を奪いそれを自らの艦隊に詰め込むとそれらを手土産にするように連絡を取っていた大海賊同盟への身を寄せた。
鉄華団のアリアドネの糸の正式利用による仕事受け入れによって裏へのルートを使用しなければ行けない筈の一般的な人々も地球への仕事をする事が以前よりも容易くなっていた。それらが使えない裏ルートも信用度が高く実力も確かなタービンズに依頼するようになっている、それらを襲えれば良いのだが高確率で鉄華団の一部が随伴するので危険が高すぎる。
それらを避ける為に同盟でアリアンロッドの補給船団を襲うとしてもそれらにも鉄華団の護衛が付く事によって火星近海は仕事が出来ない状況になってきている。其処へ救いの手を差し伸べたジャスレイ、彼の手によって現在テイワズのシステムや戦力は軒並みダウンしてしまっており復旧には長い時間が掛かるのは明白。今ならば其処を襲撃する事で歳星の施設や産業を丸ごと手に入れ息を吹き返す事も夢ではない。
「これからテイワズは俺達大同盟、新世代の暗闇団のもんだ!!そして、俺達はもっともっと上へだ!!」
「「「「「おっ~!!!!」」」」」
高らかに宣言するジャスレイに続くかのようにこの大同盟に身を寄せた小規模な海賊団達が声を上げる。鉄華団によって示された阿頼耶識の優位性、それらを有効に使いアリアンロッドに対抗するために組まれた大船団、それが新たな門出を迎えようとしている。これを祝わずして如何するのだろうかという気分なのだろう。アリアンロッドという巨大な鯨が取れずに小さなネズミからの搾取をする時は終わった、これからは自分達の時代が来るのだと自意識過剰気味にそう笑っていた。
「―――っ!?お、おいなんだこの警報は!?」
艦内に響き渡ったアラートに、ジャスレイは慌てて立ち上がった。上物の酒は床にぶちまけられた。
「エイハブウェーブの反応を検知! っ!?た、大変ですこちらに10隻以上の艦艇が接近してきます!!」
「んだとぉ!?」
その報告に酒の余韻など吹き跳んだ、間もなく歳星に着こうと言う時に……自分が再び返咲く時が目の前にまで来ているのに何故それらを逃さねばならないのか。直ぐに第一戦闘配備が敷かれたが、大戦力を手に入れた筈の新世代の暗闇団は立ち向かう事が無駄であるとは理解していなかった。床に撒かれた酒は、まるで噴出す自らの血を暗示するかのように残り香を放ち続ける。
「ラフタさんからです。敵船団を発見、敵艦数27。ジャスレイの旗艦及び船も発見、これより帰還する、以上です!」
「よし全艦に通達、総員第一戦闘配備!各自持ち場に着け!!ラフタさんのゲシュペンスト帰還を確認,各艦との連携を確認後戦闘開始だ!」
『アリアンロッド艦隊了解』
『アサルトウルフズ、承知した』
『おうオルガ、中々様になって来たじゃねえか』
兄貴分からからかいの言葉を受けつつもオルガは鼻の下を擦りながらも指示を飛ばし続ける。やがて戻ってきたラフタ専用のチューンがされているゲシュペンストが見えてくる、元々搭乗していた百里と同様のカスタムが施されているゲシュペンスト。大出力スラスターと、腕部の格納スペースを搭載したゲシュペンストは通常戦闘だけではなく偵察や斥侯としても十分すぎる力を発揮する機体となっている。ラフタがハンマーヘッドに戻るのを確認すると手元のスイッチを押してイサリビとホタルビに通信を開く、団長が使用する専用回線だ。
「鉄華団全員に告げる。これから俺達はテイワズを裏切りやがったケツアゴを潰す、相手は約30隻の大艦隊。こちらはアリアンロッドに名瀬の兄貴にキョウスケの兄さん達の船の数を含めても16隻、半分ぐらいしかない」
普通に考えればこんな戦力差で戦闘を仕掛ける何て狂っているかもしれない、拠点を防衛するのではなく攻め込もうとしている敵に対してこれから攻撃を仕掛けようとしているのだから。仕掛けないのが無難且つ無意味な事。だがしなければならない、確固たる理由がある。
「だがやらねえとならねえ!!あいつらはテイワズを潰そうとしてやがる、だがなお前ら、お前らが別にテイワズを助けようなんて考えなくて良い!!」
それに思わず反応したのは通信士で元テイワズの人間だったらメリビットであった。仮にもテイワズの傘下の企業である鉄華団の団長から出る言葉とはとても思えなかったからだ。だがその次の言葉を聞いて納得しつつ思わず笑ってしまった。
「あのケツアゴは俺達の大切な姉さんを手篭めにしようとしやがった、それがどういう意味になるのか思い知らせる為に戦え!!!いいか、団長命令だあいつをぶっ潰せ!!」
オルガは回線を切ったが聞こえない筈の団員達の声が聞こえてくるような気がした。当たり前だ!!と大声で返している声が、これもエクセレンの人徳というかカリスマというか人気が成せる業なのだろう。古参の団員だけではなく新参の団員達もそれを叫んでいる。厳しい訓練の中に咲く美しい花、それがエクセレンである。彼女が齎す光は活力となって団員たちにやる気と力を与えている、確実に鉄華団内で誰が支持を集めているかと言われたらエクセレンと言われるだろう。メリビットは彼女の人気に呆れるような感心を寄せつつ彼女は結婚出来るのかだろうかと心のどこかで考えるのであった。
「団長さん、通信が入りました。ハンマーヘッドとアセナからです」
「兄貴とキョウスケの兄さんからか?繋いでくれ」
言いたい事は言ったなと思っているオルガは通信を開いてもらうと通信の先からは大爆笑している名瀬とアミダ、小さく笑っているキョウスケ、そして双方のブリッジクルーの笑い声が聞こえてきた。
『オ、オルガ言ってくれるなぁ……ぷくくく……ハハハッ!!!やっぱりお前最高だな!』
『全くそれだから、坊やって、言うのさ……アハハハハ!!』
『フフフ、まあお前たちらしくて安心したさ』
「えっ、えっ?」
『お前さっきの通信、
思わず先程押したスイッチを見るとそれは全く別の通信スイッチであった。オルガ、渾身のウッカリである。幸いな事にアリアンロッド艦隊には聞かれていないようだが……。
『まあ良いさ、さあやろうぜエクセレンに手を出そうとした奴への罰をな』
『ふっ、ああそうだな』
「……止めてください……」
やや締まらないがまもなく一大決戦が始まろうとしていた。
キョウスケ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season
先程のオルガの演説、ではないがあれは正直笑ってしまったな。
だがあれこそ鉄華団らしいとも言えるな、あああいつらにはああいうのがらしいな。
さあ俺もアルトに急ごう、巨人の名を新たに冠したアルトで敵を撃ち貫く!!」