鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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天使を狩る者




第29話

「ミカ……」

 

MA迎撃とクリュセへの進行を止める為に防衛線を築いた鉄華団、仮に設置した前線拠点にてMAとの激しい戦闘の状況を得ているオルガは不安でたまらなかった。マクギリスにMAの事を知らせたと同時に送られてきた電子書籍の本、それはギャラルホルンの創設の理由と人類を全滅の危機にまで追いやったMAの危険性について知りされていた。人間を殺すという基本プロトコルに機械とは思えぬ生物のような動きをするという怪物を鉄華団は攻撃している。シノのフラウロスがプルーマとの分断を成功させ現在はキョウスケを中心とした攻撃が行われているとの事。だが自分も行くとミカも飛び出して行ってしまった、じっとしていれらなかったのか。それとも……

 

「バルバトスとずっと戦ってきたからこそ分かるのか、MAのやばさが……」

 

本当は出したくなかったが三日月抜きでMAを止められるかと言われるとどうしても不安が過ぎる。三日月はエクセレンと並んで鉄華団の最高戦力に数えられていた、そんな二人が前線で身体を張って仕掛ける相手への攻撃が鉄華団全員へ発破をかけて更なる攻勢に繋がっていた。様々な意味で重要な立場にいる二人、だがガンダム・フレームに起きたリミッター機能によってバルバトスは出さないと決めたオルガを無理矢理に説得して飛び出した三日月にオルガは不安げな思いを抱いていた。

 

「そ、そんなっ!!?そ、それは事実なんですか!!!?」

 

空を見上げながら思いを募らせていると通信機に張り付いているメリビットが悲鳴のような声を上げた、それに反応して雪之丞とオルガも其方を見つめた。不吉な声に不安が更に募っていく中に追い討ち、青ざめたメリビットの顔が此方を見つめていた。

 

「な、何があったんだ!?」

「そ、それが……」

「おい落ち着け、深呼吸をしろって」

 

雪之丞の言葉に深呼吸をしたメリビットは少し落ち着いたのか、連絡をくれたハッシュの言葉を正確にオルガに伝えた。

 

「エ、エクセレンさんが……やられました……」

「なっ!!!?」

「嘘だろおい!?」

「ヴァイスは大破、回収したくてもそれに怒り狂った三日月君とキョウスケさんの戦いで近づけもしないそうです……!!」

 

 

『―――!!!!!』

 

奇声を上げながらも威嚇するように大口をあけ、敵意を剥き出しにするハシュマル。アルトと戦っている際には見せなかった何かを発散させながら各部にある赤い球体を赤く輝かせながらバルバトスを見つめる。怨敵に遭遇したかのように憎悪を発散させながら。

 

「……おいバルバトス、余計な事やってないで見せろよ。あいつを狩る力を……姉さんを傷つけたあいつを潰す力を……!!!」

 

自然と握り締める手に掛かる力が増していく、硬い筈のレバーが柔らかく感じられてしまうほどに。同時にバルバトスのリミッターが完全に解除されていく、MAを目の当たりにした瞬間から開放された機体出力の制限をパイロットが使用出来るようシステムが変わっていく。今までのバルバトスが悪魔だとしたら今からのバルバトスは真の悪魔、狩人の悪魔となる。混濁して行く赤い瞳がそれを物語るかのように輝きを増していく。赤く濁って行く筈のに輝く、矛盾を孕みながらもそれすら超越して行く。

 

「アルト……お前の力を、俺に貸せ……!あいつを、潰すぞ……!!行くぞ三日月!!」

「行くよ狼の人」

 

同時に出力を最高までに持っていくとハシュマルへと二機は向かっていく。開戦の合図と言わんばかりに放たれたハシュマルのビーム、素早くアルトが前に出るとそのビームを受け止めながらも更に加速していく。ナノラミネートが施された装甲とは言えそれを受けながら逆に押し込めるような出力を誇っているアルトだからこその持ち味を活かしつつどんどん接近して行く。接近するとビームを中断し接近戦に備えようとするハシュマルの脚を掬い上げるようメイスを振るったバルバトス、それでも体勢を崩しながら尾のブレードを伸ばしバルバトスを狙うが普段とは違った速度でそれらを回避していく。

 

「こいつっ尻尾がしつこいな」

「ならばっ!!」

 

マシンキャノンを連射しながら跳んだアルト、上からの攻撃を仕掛けようとするがハシュマルが片足を深く突き刺す用にするとそれを軸にしもう一方の脚を振り上げ蹴りを繰り出した。だがキョウスケは全く慌てていなかった、寧ろそうするだろうと無意識にそう思えていた。

 

「今だね」

 

ブレードを右腕で弾いたバルバトスはメイスをハシュマルの軸足へと投擲するとそれが間接部に直撃させた。それによって自重を支えていたバランスが狂ってしまい片足をもぶれてしまった。そこへアルトが飛び込みながら右腕のステークを掲げた。ステークがハシュマルの身体の一部へと炸裂する、アルトの推力で更に深く食いこませようとしながらそれに合わせてトリガーを連続で引こうとするがそれを邪魔するかのようにテイルブレードが飛来しアルトを吹き飛ばす。しかしそれでもハシュマルの肩の一部を破壊する事には成功している。

 

「次は、俺……!!」

 

ステークの一撃を受けて各部がスパークを起こしているハシュマルへ飛び込んでいくバルバトスを迎え撃つようにテイルブレードを動かすがそれを蹴り飛ばし渓谷内の岩盤に突き刺すとハシュマルへと飛び乗り先程ステークの一撃で穴があいた部分へ両手を突っ込んだ。

 

「そうだ、もっと教えろ…こいつの倒し方をっ……!!!」

 

傷口を更に広く深く広げていくバルバトスとそれに対して痛みを訴えるかのような動きをするハシュマル、悲鳴のような声と動きは三日月を更に喜ばせる要因にしかならない。こいつ(ハシュマル)エクセレン(姉さん)を傷つけた。殺すにはそれだけで十分過ぎる意味を持つ。そして更に出力を増していくバルバトスは遂にハシュマルの本体から左肩を引き裂いてしまった。

 

「ッ!!」

 

岩盤から引き抜かれたテイルブレードが再び飛来するがそれをあっさりと受け止めると刃部分を脇で挟みこんで固定してしまう。そしてハシュマルの頭部にすら手を伸ばしていく。

 

「三日月そのまま捕まえろ!!」

「うん」

 

距離をとったアルトは最大出力でスラスターを吹かすと圧倒的な推力で機体を飛ばした。同時に『TD』が作動し宙へと浮かび上がりながら構えられたステークが光ながらハシュマルへと向かっていく。

 

「撃ち貫くっっ!!!」

『―――ッッッ!!!!』

 

ヴァイスにすら匹敵する推力からなる機体重量とその運動エネルギーから生まれる一撃は今度こそハシュマルの身体へと突き刺さった。今度こそ味合わせてやろうとキョウスケはトリガーを連続で引いた。アルトのリボルビング・ステーク内のシリンダーには火薬ではなくヴァイスのオクスタンランチャーから開発されたビームによって衝撃派を発生させるカードリッジとなっている、それらが全て炸裂しハシュマルを内部から崩壊させていく。自身に搭載され人間を殺す為の兵器とされているビームが自らの身体へと流れ込み崩壊されていく、それに堪らなくなったのかハシュマルは肩をパージすると身体を回転させて両機を振り来った。そして内蔵されていたスラスターを起動させると浮上し一気に飛びあがろうとする。

 

「逃がすか!この距離でのクレイモア、貰ったぞ!!」

 

アルトの異常すぎる両肩が開放された、そこからは大量に内蔵されたチタン製のベアリング弾を出し惜しみする事無く至近距離から一気に撃ち込んでいく。全身に浴びせられて行くベアリング弾の雨に飛び上がる事も出来ずに落下するハシュマルへと上から飛び上がったバルバトスが襲い掛かった。

 

「死ねよ……!!」

 

落下しながら最大出力のスラスターで突進したバルバトスがその手に持ったメイスを全力で叩き付けた。その勢いと速度によって振り抜かれた一撃はハシュマルの頭部を吹き飛ばしながら内部へとめり込んだ。重すぎる一撃は300年間眠りについていた厄祭を永久の眠りへといざなった。全身から光が消え爆散すると同時に鉄華団からは歓声が上がった。

 

「ふぅ……はっお前ら喜ぶのは後だ!!早くエクセレンを!!」

『ハッシュ、ヴァイスを確保!!急いで本部に運ぶ!』

『はっはい三日月さん!』

 

MSの適正試験で優秀な結果を上げたハッシュ。彼にはゲシュペンストが与えられ遊撃班のメンバーの一人として、圧倒的な強さを見せた三日月に憧れたのか彼について行くと決めたのか従順に従っている。そんなハッシュは左肩が完全に消し飛びヴァイスの特徴的だった翼がもげた姿を見てMAの圧倒的な強さを改めて感じつつもそんなものを倒せた三日月の凄さを垣間見た。

 

『…なんて、恐ろしい……』

 

目の前で自分の事など完全に忘れているのか無視されているレギンレイズの中でイオクは唯、MAの恐ろしさに震えていた。そして鉄華団が引き上げた後に自分を探しに来たジュリエッタとヴィダールに連れられて行ったが彼の頭の中には自分を突き飛ばし身代わりに傷ついてしまったヴァイスが離れなかった。

 

 

「んでエクセレンの容態は如何なんだ?おいオルガ、大丈夫」

「あっはい、すいません……」

 

MAとの戦闘の約6時間後。鉄華団の本部へと足を運んできた名瀬はそこでMAの発見と激しい戦闘があった事を聞いた。そしてその戦いであのヴァイスが大破したという話も聞いた。

 

「身体の方は…左腕の骨と鎖骨にヒビが入ってたらしいですがそれはなんとかなったらしいです。今では意識もハッキリしてるらしくて、チビ達に泣きつかれて困ってる所です」

「そっか。それなら良かったじゃねえか。家族が無事でよ、三日月も大丈夫なんだろ?」

「ええっ…!少し片目が見えにくくなったとか言ってましたけど大丈夫みたいです。あいつには今度眼鏡を作るとか考えてます」

 

心の奥底から深い安堵の息を吐いたオルガに名瀬は笑顔で言葉をかけた。エクセレンは大怪我をしていたものの命に別状がある程の事で大事には至らなかった。胸から腹にかけて僅かに傷跡が残ってしまう程度に済んだらしい。

 

「それでMAで出た被害は?」

「獅電が数機中破、ゲシュペンストが一機小破。大半は三日月とキョウスケさんが戦いを引き受けてくれたお陰です」

「流石あの二人って所か…んで歳星には何時来るんだ?」

「ええ、三日後を予定してます」

 

今回のMAでの大きな損害、それはヴァイスとバルバトス、そしてアルトであった。ヴァイスは言うまでもなくMAの攻撃を受け大破してしまったのでそれを含めて改修を行うという事になった。バルバトスとアルトはそこまで深いダメージは負ってはいないものの激しい戦闘によって間接部が異常な磨耗とシステム系が三日月とキョウスケの動きに付いて行けなくなるという事態になってしまいそちらも改修が行われる事となった。

 

「それで整備長がMAも持ってきて欲しいと言ってたので持って行こうと思ってます」

「なるほどあの人、MAのパーツとか技術でまた魔改造する気だな?」

 

様々な話をしている最中だが名瀬は先程とは違った鋭い瞳をした。それに驚いたオルガだが直ぐに合わせるように顔つきを変えた。

 

「今回の一件は親父も高く評価してた、それで俺の所にある連絡が来たんだ。MAの討伐に関係あるかは分からないが月外縁軌道統制統合艦隊のラスタル・エリオンがお前達鉄華団と話がしたいって言って来やがった」

「ア、アリアンロッドが!?」

 

 

「MAの討伐……フフッ矢張り素晴らしいなガンダム……。矢張りその力こそ、アグニカ・カイエルと同族の力だ……」




名瀬「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

目指していた場所


弟分が立派になると自分の事みたいに嬉しくなる。

なあオルガ、これからも頑張れよ」

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