たわけ、やらかす。
エクセレンが空を切り裂く光を見た時、クリュセの採掘場ではモビルアーマーの存在確認をする為に火星へとやってきたマクギリスを案内するオルガや三日月達がいた。そしてギャラルホルン側の人間としてモビルアーマーの恐ろしさを語りながらその姿を確認しこれを如何するかという議論に入った所だった。火星の空に現れた鉄の塊は空を見上げた三日月に何かを与えた。空から降りて来るそれはMSが大気圏を突破する際に使用する大型のグライダーであった。
『ふっ動くな、マクギリス・ファリド!!』
「この声はイオク・クジャンか、なんという事を……まさかMSで直接来るとは……」
それから降り立ったのはグレイズとその発展型と思われる新型のMS、レギンレイズと呼ばれる物であった。そしてそのレギンレイズから聞こえる声の主はエクセレンがヴィダールから聞き及んだ酷評塗れで能力に乏しい愚か者、イオク・クジャンであった。
『貴様がMAを倒して七星勲章を手にし、セブンスターズ主席の座を狙っている事は分かっている!!ギャラルホルン全軍で対処すべきMAを隠蔽しファリド家のみで対処しようとしている事こそ何よりの証!!』
「どうやら誤解を招いたようだな……。だとしても貴公がMSを持ち出しこうしている事の危険性がどれほどの事が理解しているのだろうな」
『私は貴様の戯言など聞かん!!さあ貴様を拘束させてもらうぞ!!』
一歩、レギンレイズが踏み出すとマクギリスが必死に声を上げて止まれという。だがそれを自分を恐れていると解釈した戯け者は愉悦に浸るような表情で脚を進める。この男、イオクはギャラルホルンなら知っている筈のMAの事に関しての知識が非常に乏しい。ギャラルホルンの兵士なら常識である「モビルアーマーが厄祭戦の原因になった」という歴史を知っていなかった。それゆえかその危険性すら分からないまま近づこうとした時、静かな駆動音が聞こえた。
「っ!」
それに気付くは動物の言葉を理解することが出来るなどの能力を有する悪魔の名を冠するガンダムのパイロット、三日月・オーガス。静かな駆動音が徐々に高まっていくのを身体が本能が感じ取っていた。眠りに付き、300年という時を経て、それに命が灯ってしまった瞬間を三日月だけが理解出来ていた。同時にそれの異常性すら理解していた。それと同時に埋まっている筈のMAから煙が立ちこめた。それは地面を抉るように広がっていき徐々に大きくなっていきながら赤い土を撒き上げた。
「なっ!!?」
『へぇっ!?』
まるで長い時の経て目覚めた厄祭が目覚めの声を上げているかのようだった。声にすら聞こえるような音は空を裂きながらその目覚めを祝福する福音となった。身体を持ち上げ、再開するかのようにMSを発見するとそのまま跳躍しイオク達へと襲い掛かった。純白の機体に根ざすように広がる植物のようなライン、それは標的を見つけたと歓喜するようにイオク達へと自らの刃と爪を差し向ける。
「ハァハァ……ゲホゲホ……」
「だ、大丈夫かよ姉さん!?突然、具合悪いなら医務室付き合うぜ?」
「大丈夫、よシノ君……」
突如として体調を崩しヴァイスから降りたエクセレンに肩を貸すシノ、何が起きたのか分からないがオルガから連絡が入ってきた事が本部に知らされた。MAが目を覚まし最寄の人口密集地、クリュセへと向かっているのでその防衛線を鉄華団とマクギリスとその副官で敷くという事になった。その為に鉄華団の動かせるだけの全てのMSを総動員するという事であった。
「私も直ぐに行くから先にいって頂戴!……MAなんて……鉄華団に掛かれば、お茶の子さいさいよ……!」
「あ、ああそうだな!!四代目流星号の初陣、派手に決めてやるぜ!!」
駆け出してフラウロス改め四代目流星号へと乗り込んだシノは素早く機体を起動させると高機動形態へと変形させ防衛ポイントへと急いでいった。それを見送るエクセレンは必死に身体を起こしヴァイスへと脚を踏み出すが如何にも気分が悪すぎる、だがそれでも行かなければならない。鉄華団の矛となり盾となるという決意の為に一歩踏み出すとキョウスケが肩を掴んだ。
「そんな状態で何処に行く気だ。残れ」
「嫌よ。私は行くわ、あの子達だけに戦わせるなんて絶対に嫌よ」
「不完全な状態で出られると余計にあいつ等に負担をかけるぞ」
冷静に簡潔に事実を突きつけてくるキョウスケにエクセレンは唇を噛んだ、確かにあの光を見てから身体が何か可笑しいのを感じる。精神が何かに襲われるような不快感と圧迫されるような感覚がある。ハッキリ言って今の状態のエクセレンは足手まといになる可能性が非常に高い。だからキョウスケは止める、代わりに自分が出るからお前は大人しくしていろと言うように。
「……なら一緒に行ってくれないかしら。一緒に行って私をフォローしてよ」
「……はぁ……。これ以上の問答は無駄だな、ヴァイスで先行しろ、アルトで追いかける」
「サンキュキョウスケ♪やっぱり貴方とは気があうわね」
折れたように諦めたキョウスケはアルトに乗り込むとエクセレンと共に防衛ポイントへと飛んだ、『TD』を搭載している関係上アルトも飛ぶ事は出来るが機体重量の影響で他の搭載機に比べて飛行高度は非常に低い、がそこを自前の推力で強引に浮かせるという荒業でヴァイスよりも少し遅いペースで済む程度に済ませている。それをモニターで確認するエクセレンはやっぱりあるとは化け物のような機体だと思った。
「さてと……嫌な感じが強くなるわね。あんまりやりたくないけど……しょうがないか」
エクセレンは一時的なオートパイロットに切り替えるとコクピット内の応急セットから注射器を取り出しそれを腕へと突き刺し注射した。その中身は所謂アドレナリン、興奮剤である。精神を高揚させ強引に精神を蝕むそれを払い除ける為の物、応急セットをしまいながらマニュアルに戻すとクリュセへと続く渓谷が見えてきた。
「っ!!!」
同時に襲い掛かってくる強い嫌悪感、だがそれを濃い濃度で注射したアドレナリンが強引に打ち消していく。そしてMAの姿を直視した。周囲に黒い従者であり兵器であり使い捨ての道具であるサブユニット、プルーマを大量に引き連れながら闊歩するそれは酷く異様なものに見えた。そこには渓谷の上から銃弾の雨を降り注がせている鉄華団の獅電とゲシュペンスト、そしてラフタとアジーの獅電も見える。
「あれが、MA……!!」
『エクセレン、こちらは後少しで到着する。落ち着いて行け』
「分かってるわよキョウスケ……!!!」
高揚していながらも思考は冴えている、オクスタンランチャーを構えるヴァイスのレバーにも力が入る。そんな時であった。圧倒的な出力で放たれた一撃が渓谷を抉り取り大量の瓦礫がMAとプルーマへと降り注いで行った。瓦礫の山は次々とプルーマを押し潰して行きながら平然と進み続けていくMAと分断して行く。
『よっしゃあああああっっ!!!見たかお前ら!!これが四代目流星号の破壊力だぜ!!!』
『やったぜシノ!!!そのまま援護射撃頼むぜ!!ガンダム・フレームで近づくとやべぇらしいからな!!』
『分かってるぜ!!オラオラオラ!!!』
その一撃を放ったのは流星号を操るシノであった。自分が此処に至るまでに判明した情報を基に立てられた作戦、MAとプルーマを分断しての各個撃破。だがガンダムはMAに対してリミッターのようなものが発動してしまいまともに動けなくなってしまうとの事、故に接近主体のバルバトスは動けずに待機しているらしい。その為砲撃戦主体の流星号が出張ったという事らしい。
「よし、これなら……!」
見えてきた希望、成功しそうな作戦。だがそこへ飛来した一発の弾丸と共に一機のMSが登場した。それはイオクの乗るレギンレイズであった。
『お、おい何だこいつ!?』
『貴様ら邪魔だどけ!!このMAは私が倒す!!そして、部下の仇は私が取る!!!私を守ってくれた部下の為に!!』
レギンレイズは残った片腕で保持したレールガンを構えるとそのままMAに向けて連射を開始した、だがその殆どはMAに命中せずにプルーマとの分断の為に降り注がせた瓦礫へと命中し爆発し瓦礫を崩していく。これでは何の為に分断したのかも分からなくなってくる、周囲の獅電がレギンレイズを止めようとする中遂にMAの矛先がイオクへと向いた。
『うおおおおおおお!!!部下達の、私の為に、散った!勇者達の仇だぁぁぁぁっっ!!!!』
叫びを上げながら連発される弾丸は全く当たらないどころかプルーマを再合流させようとしている、だがそれを終わらせようとハシュマルが脚を上げ蹴ろうとした時レギンレイズを抱え込んで飛び上がった機体があった。それはヴァイスであった。
「あっぶない!!アンタ何やってるのよ!?折角分断したのに邪魔する気なの!?」
『そちらこそ私の邪魔をするな!!これは正義の仇討であるぞ!!』
抱え込んだレギンレイズから聞こえてくる聞くに耐えない言葉に思わずエクセレンは苛立った、こんな奴のせいで自分はこんな気分になっているのか。弟達が危険な目にあっているのかと思うとこいつを今すぐにでも殺したくなってくる。
「すまない遅れた!」
『キョウスケの兄さん!!よかった来てくれたのか!?』
「当然だ。キョウスケ・ナンブ、戦闘を開始する!!」
到着と同時にアルトが最大出力で突っ込んで行く。獅電やゲシュペンストには無い厚すぎるととも言える装甲を武器にしながら突撃していく。ハシュマルは機械とは思えぬ生物顔負けの動きをしながら脚部のクローで切り裂かんと迫りつつも鞭のように撓っている尾の刃をアルトに向けた。
「アルトの装甲を、甘く見るなっ!!!」
それを受け止めつつも無事な姿を見せるアルトに鉄華団の皆が勇気付けられた。必死にハシュマルの動きを止めながらも左腕のマシンキャノンを向け注意を引きながら火線が集中しやすいよう誘導しステークを撃ち込めるタイミングを見計らっている。それを片手間に援護しつつエクセレンは叫んだ。
「何が仇討ちよ自己満足も好い加減にしなさいイオク・クジャン!!!」
『なっ……!?』
「元はと言えば貴方がMAの事を無視してMSで来て覚醒させたせいなのよ!!部下が守ってくれた!?違うわよあんたは部下を殺したのよ!!!」
援護射撃を続けながらエクセレンは叫び続ける、如何してこのような事態になったのかそれを糾弾するように。
『わ、私は……私はただ、部下の仇を……!!!』
「黙りなさいお坊ちゃんが!!!なんで部下はアンタを守ったのよ!!それも考えずに仇を討つ?!命舐めるんじゃ無いわよ!!!!」
『ぁ、ぁぁっ……』
遂に何も言えなくなるイオク、彼も此処まで一方的に強く言われた事も無いのだろうか。吐き気すらしてきたエクセレンは捨ててやろうかと思いながらも彼を救おうと機体を抱いたまま飛行していたが
「っ!!?くっ!!」
『なっなにを!!?』
突然、ヴァイスはレギンレイズを離した。刹那、イオクが見たのは自らの代わりに胸に刃を受けた白騎士であった。
『な、何てことを!?』
刃に突き刺さったままのヴァイスは鞭の様に振るわれる刃のまま振りまわれ渓谷へと叩き付けられた。落下しようとする機体をイオクは咄嗟にレギンレイズをクッションにするかのように受け止めたがヴァイスは肩と胸を大きく抉られていた。
「くっ……私も焼きが回ったかしらね……?」
『な、何故私を庇った!?そんな理由ない筈だろう!!?』
「邪魔だった、から退かしたら、そうなっただけよ……これなら盾にすれば良かったわね……」
額から血を流しながらも機体を動かすエクセレン、まだ機体は動く。ならばする事はあると跳躍しながらナパーム弾を装填するとハシュマルへと発射した。だがそれすら片足立ちで回避しその勢いまま脚部から弾丸を発射するハシュマル、普段なら回避できるはずの攻撃すら今のエクセレンには難しかった。
「エクセレンッッッ!!!!」
ヴァイスの左肩と翼を吹き飛ばすように貫通した鉄芯のようなハシュマルの弾丸はヴァイスを渓谷へと串刺しにしそのまま固定するかのようにしてしまった。その光景に思わずキョウスケが叫んだ、その一撃でヴァイスの機能は停止し動きも静止してしまった。
「くっ……」
エクセレンに駆け寄りたい気持ちを抑えつけながらキョウスケはアルトをハシュマルへと向けた、がその直後その隣に空から降りてきたバルバトスが着地した。本来この場にはいてはならないガンダム・フレーム、オルガの静止すら振り切って出撃した三日月はドスの聞いた声で怒りのままに言葉を口にした。
「おいお前……姉さんにっ何をしている……!!!!」
「三日月、こいつを、潰すぞ!」
「ああ、狼の人……やるよ……!!!」
キョウスケ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season
エクセレンには金を借りている……。
エイハブ・リアクター一基分ほどの金を」